人柱達   作:小豆 涼

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嗚呼、玄弥様

こんにちわ、お凛です!

行き倒れているところを玄弥様に救っていただいてからというもの、不死川様の屋敷に住まわせていただいております!

 

少し前、天羽様の神前式があって、その伝手でカナエ様とお茶会を設けさせていただくことになりました!

実弥様の奥方様である椿様も交えての女子会に、凛はもう楽しみで楽しみで仕方ありません!

 

「どうした凛。そんなに嬉しそうにして」

 

「玄弥様!」

 

「…なあ、いい加減その様ってつけるのやめないか?一時期はくんって呼んでたろ?」

 

「いえ、なりません!私は、玄弥様と呼びたいのです!」

 

何故私が、玄弥様と再び呼び始めたのかというと。

忘れも致しません、あの夜のこと。

 

匡近さんが、そろそろ玄弥様を兄上様と引き合わせると仰った日…。

向かう先は、不死川 実弥様の住まわれる、風柱邸。

私たちの足で歩いて数日程。

鬼が出ることを警戒して、昼間に移動をしておりましたが、私たちは襲われてしまいました。

鬼ではなく、野盗に。

 

本当に恐ろしかった…。

鬼という存在に恐怖していた私たちでしたが、真に恐ろしいのは人間であるとたたきつけられているような気分でした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「おいガキ、後ろの女と金目の物を置いていけば、命だけは助けてやるよ」

 

「は?渡すわけねぇだろ。てめぇこそ怪我したくなかったらさっさと消えろ」

 

相手は腕っぷしに自信のある男たちが十人。

 

「玄弥くん、匡近さんもいるし、戦わない方が…」

 

「凛は隠れてろ。匡近さん、凛を頼む」

 

さすがの私も、いくら玄弥くんでも勝ち目がないと思ってしまいました。

手負いの匡近様に、どうやっても足手まといの私。

 

それに私は十分施しを受けました。

もうこれ以上皆様が傷つくのは見たくありません。

遊郭の時の伊之ちゃんもそうでした。

誰かが、いつも命を張ってくれた。

私が命をかけるのは今なんじゃないかと思ったのです。

 

意を決して、私は前に出ました。

 

「凛ちゃんっ!」

 

匡近さんの静止も振り切って、私は野盗の頭に言葉を投げつけます。

 

「私の命で、この人達に危害を加えないと約束してくれますか?」

 

「やめろ凛!」

 

ごめんなさい、玄弥くん。

 

「はっ。聞き分けのいい嬢ちゃんだぜ。さあ、ガキ!金目の物を出しやがれ!」

 

「きゃっ!」

 

とても強い力で引き寄せられました。

男の人に乱暴されたのはこれが初めてで、普段どれだけ大切に扱われていたかを、私は痛感したのです。

 

「触んじゃねえ!」

 

気が付くと、玄弥くんは拳を振りかぶっていました。

瞬き一つする間に、玄弥くんは三人の野盗を気絶させていました。

 

「逃げろ凛!」

 

「凛ちゃんっ!こっちへ!」

 

玄弥くんが声を張るのと同時に、私の身体は匡近さんに引き寄せられました。

 

それからは早かったです。

あっという間に玄弥くんは、野盗達を無力化したのです。

 

「凛ちゃん、玄弥が普段相手してるのは鬼だぜ。こんな素人の男なんて大したことないさ」

 

そういわれると、普段玄弥くんがどれほど恐ろしい存在と渡り合っているのか。

私はとても悲しい気持ちになりました。

 

「おいっ!凛!」

 

凄い剣幕で玄弥くんが私の名前を呼びます。

 

「げ、玄弥くん…ごめんなさ…「怪我は!?」…えっ?」

 

「怪我無いか!?どこか痛いところとかは?」

 

怒られるんだと覚悟していましたが、そんなことはなくて。

私が怪我をしていないかどうか、心底心配そうな顔でした。

 

「大丈夫…です…」

 

「はぁ、よかった。ごめんな、頼りなくて」

 

「そんなこと!!」

 

「俺が凛を護るから。もう絶対にあんな無茶しないでくれよ。約束だ」

 

とてもやさしい顔で。

護るなんて言われたのだから。

 

私は…。

 

「玄弥様…!」

 

「えっ?」

 

もう決めました。

この殿方と、添い遂げると。

 

「玄弥様…私は、感動いたしました!一度だけでなく、二度までも命の危機をお救いいただきました!」

 

「…はぁ」

 

「もう、お凛は玄弥様にこの身を捧げます!どんなことでもお申し付けください!」

 

「えっ!いや、そんな…」

 

「愛人でも妾でも妻でも!私は構いません!どうかおそばにおいてください!」

 

「り、凛ちゃん?」

 

優しい方だとはわかっておりました。

それでも、ここまで優しくされては、惚れるなというのも無理なこと。

命の危険を救われて、生存本能が働いたと言われれば否定はできないかもしれません。

 

それでも、私は玄弥様のおそばにいたいと心から思ったのです。

 

「…えらく惚れられたな、玄弥」

 

「…ちょっとついていけない」

 

「ご迷惑…でしょうか?」

 

「そ、そんなことはねえけど」

 

「でしたら!玄弥様のお隣は、このお凛が!この先ずっと一緒です!」

 

うん、いい思い出です。

こうして、無事実弥様の屋敷にたどり着いたのですが、一度三人で話すことがあるといわれて、私は宿で過ごしました。

 

それから、お話はうまく進んだみたいで。

玄弥様の表情はとても明るくて、私もうれしくなりました。

 

さらに柱稽古の間、風柱邸でお稽古をしている隊士様のお世話をさせていただくことに。

実弥様のお稽古はとても厳しいらしく、皆様げっそりしていましたが、負けじと食らいつく玄弥様のお姿はだれよりもきらきらと輝いておりました。

 

「玄弥様~!ご飯ですよ~!」

 

その日も最後の一人になっても気合いだけで実弥様に食らいつく玄弥様に、夕餉の支度ができたとお伝えに行きました。

 

「もうそんな時間か…。行くぞ玄弥」

 

「うん」

 

なんて男前なのかしら…!

玄弥様一筋の私ですが、やはり実弥様も玄弥様の兄上…。

 

似ていらっしゃる!!!

 

ああ、二人が並んでいるだけでお凛は…お凛はっ!

幸せでございます~!

 

「り、凛!?鼻血!鼻血出てるぞ!?大丈夫か?」

 

「…クセの強ぇ女だな」

 

実弥様は、私の醜態にいつも半ば呆れています。

それでもこの恋心を止めることはできません…!

私は玄弥様に愛を誓った身なのですから!!

 

「あら、実弥さん。女の子にそんなこと言ってはダメよ?」

 

「…椿か」

 

「椿様!」

 

そこへ、実弥様がとても御懇意にされている二階堂 椿様が。

この柱稽古の間に度々風柱邸に足を運んでおられます。

 

何でも、料理や家事がてんでだめらしく、匡近様の料理を大変お気に召してことあるごとに食卓を囲む様になりました。

 

「そういえば、匡近さんだけ様を付けないけど、なんでなんだ?」

 

食卓で、私に問いかける玄弥様。

 

「匡近さんはなんというか…その。兄のような親しみやすさがありまして」

 

「おお、それは嬉しいね。別に様だろうがさんだろうが、凛ちゃんの呼びやすいように呼んだらいいよ。俺たちは何も気にしたりしないから」

 

「そういっていただけますと嬉しいです!」

 

「それにしても玄弥くんったら随分好かれてるわね」

 

「いや、それを言ったら椿さんも兄ちゃんに対してそうだろ?」

 

「そうね~私は実弥さん一筋だもの~」

 

「…」

 

「っはっはっは!楽しい食卓だな~」

 

決戦はすぐそこ。

私たちは、それを覚悟しながら思い残すことがないように精一杯明るく過ごしました。

 

それからすぐのことです。

人柱、天羽様が鬼舞辻 無惨を討ち取ってくれたのは。

 

まず最初に結婚式を挙げられたのは、天羽様とカナエ様でした。

その次が、伊黒様と甘露寺様。

そして、冨岡様としのぶ様。

 

その頃には、匡近さんは寺子屋のお仕事の為に単身で家に戻られました。

椿様たっての願いで、玄弥様と私は風柱邸に残ることに。

 

実弥様は椿様にいったいいつ式を挙げるのかと迫られていました。

 

「お凛」

 

とある日。

私は、珍しく実弥様から声をかけられました。

 

「はい、実弥様。いかがされました?」

 

「あー…いや」

 

とってもバツが悪そうに、実弥様は口を開かれます。

 

「…椿は、俺にはもったいなくねぇか?」

 

私は戦慄致しました。

あれほど厳格な兄の姿を見せられていたのに。

想い人を思うと、自分には勿体ないのでは無いかと葛藤し、弱々しくなってしまうそのお姿。

 

…可愛い!

 

玄弥様も、この様に葛藤されて弱々しくなる事が度々ございました。

あぁ、本当にご兄弟であらせられるのですね…。

そのように面影がありありと映るお姿にお凛は…お凛はっ!

 

「そんなことございません!実弥様は、立派なお方です!なにより椿様がご自分で選ばれたのです!ほかでもない、実弥様を!」

 

「…そうは言ってもなぁ。あいつは元々いいとこのお嬢様だぜ?俺らみたいな下町育ちじゃあ釣り合わねぇんじゃ…」

 

「身分がなんですか!椿様は、実弥様を愛しておられるのです!実弥様しか答えることが出来ないのです!」

 

「…よくそんな恥ずかしい台詞でかでかと言えるなぁ」

 

「恥ずかしいのはどっちですか!男ならバシッと俺についてこいくらいいったらどうなんですか!」

 

ぎょっとした実弥様のお顔は忘れることは無いでしょう。

観念したのか、実弥様はブツブツ言いながらお部屋へ戻っていきました。

 

実弥様が椿様に求婚したのは、それから数日後のことです。

 

椿様からはとても感謝していただいたのですが、正直あのままでも根負けして実弥様はご結婚されていたと思います。

 

それからというもの。

何故か実弥様に苦手意識を持たれてしまったのか、いつも面と向かってお話をする時、実弥様は少し青ざめています。

椿様はいい薬だと言われていますが、どうなのでしょう?

 

玄弥様と実弥様の喧嘩の時はよく呼ばれます。

実弥様は私を見るなり口を噤んで、お部屋に戻られていくのです。

このままではいけないと、1度実弥様を捕まえてお話をすると。

 

「お前と椿には口では勝てそうもない」

 

と仰っておられました。

 

「凛がいると兄ちゃんが突っかかってこないから楽だ」

 

これは玄弥様の言葉です。

正直私は、言い争うお二人も愛しく思うのですが…。

仕方ありません。

 

それから、椿様のすこぶる機嫌の良い日々が続きました。

 

 

 

ーーー

 

 

そうして本日。

やっとカナエ様のご都合がついてお茶会をする事となりました。

 

場所はなんと、黒蜜亭です。

伊黒様と蜜璃様は、ご結婚されてからお食事処をご経営されました。

揚げ物主体ですが、甘味もとてもおいしくていわゆる《スイーツ》というものが名物でした。

 

よく晴れた明朝、私と椿様は準備をして玄関口におりました。

 

「椿、気を付けて行ってくるんだぞ」

 

「はい、実弥さん。ありがとう」

 

「凛も気を付けてな。椿さんがいるから心配ないと思うけど」

 

「はい!玄弥様!」

 

休日ということもあり、お二人はまだ寝ぼけ目で行ってらっしゃいを言ってくれました。

 

「いい天気ね、お凛」

 

「はい、椿様!」

 

乗合場まで歩いて、馬車に乗り込みました。

 

「ふふっ。私は幸せ者だわ。実弥さんみたいな素敵な旦那様と同時に、可愛い弟と妹が一緒にできるんだもの」

 

「私は、玄弥様に娶っていただけるのでしょうか?」

 

「…まぁっ!お凛ったら意外と鈍いのね~。二人を見てればもう夫婦みたいに見えるわよ?何も心配いらないわ。私より料理も家事もできるじゃない」

 

「うぅ…!椿様~!!」

 

ああ、なんて素敵なお姉さまなんでしょう。

お凛は、椿様が大好きです!

それから馬車は順調に走り、街の喧騒が聞こえていました。

時計塔の近くに、黒蜜亭は暖簾を構えています。

 

「あっ!椿~!お凛~!」

 

「「カナエさん(様)」」

 

入口の前にはちょうど、カナエ様としのぶ様がいらっしゃいました。

二人とも紫色が主体の着物に身を包んでおられます。

本当によくお似合いで、道行く男の人は胡蝶様姉妹に目線を吸い寄せられていますね。

 

「カナエさん、しのぶさん。お久しぶりです」

 

「お久しぶりです、椿さん。凛ちゃんも久しぶり」

 

「カナエ様!しのぶ様!お久しぶりでございます!」

 

相変わらずカナエ様もしのぶ様もお美しいです…!

それに椿様も相まって、ここにいる三人は絶世の美女たち。

お凛はもう、女の身でありながら鼻血が出そうでございます…!

 

「あ、みんなもう集まってたんだ~。早いですね~」

 

そして極めつけは、この可憐な真菰さん。

私は抱き着きそうな衝動をこらえております。

 

「真菰ちゃん、久しぶり~」

 

カナエ様は迷わず真菰さんを胸に収めました。

ああ、うらやましい!!

どちらもうらやましい!

その間に入りたいっ!

 

「皆さんそろったことですし、お店に入りましょう」

 

しのぶ様先導のもと、黒蜜亭へと入りました。

今日は私たちのために貸し切りにしてくださったそうで、普段はがやがやと繁盛されている店内は、静まり返っておりました。

奥のほうで伊黒様ご夫婦が和気あいあいと談笑されています。

 

「…俺は席を外そう。上にいるから何かあったらすぐに呼んでくれ」

 

「うん、ありがとう小芭内さん」

 

今日は女子会ということで、伊黒様はお席を外してくださいました。

 

「みんな久しぶり~!元気だった?」

 

蜜璃様が加わり、ついに楽しいお茶会が始まりました!

伊黒様と蜜璃様がご用意してくれたすいーつは本当においしくて…!

お凛のほっぺは黒蜜亭に置いてきましたっ!

女子会は滞りなく進み、それぞれが旦那様の惚気話で大盛り上がりで楽しかったです!

どんな会話をしたのかは、乙女の秘密…です!

 

帰り際、真菰さんが雪虎さまとご結婚されるという話をして顔を真っ赤にして足早にお帰りになられたのが何ともほほえましかったですね。

 

「楽しかったわね~お凛」

 

「はい!皆さん本当に美しくて!!お凛は見ているだけで幸せでした!」

 

「ふふっ。お凛だって綺麗よ?」

 

「もったいないお言葉です…」

 

椿様はわたくしのことをお褒めくださいます…。

あぁ…好き。

 

さて、屋敷に帰るころにはすでに日は落ちている頃でしょうか?

私たちは屋敷につくまでさらっといろんな話をしていました。

 

こんな幸せが続けばいい……そう思っていたのですが、鬼がいない今、この幸せもきっと続いていくことでしょう!

椿様も実弥様とご結婚され、子宝に恵まれ…!

そうしたら家族がもっともっと増えて、幸せがもっともっと溢れるに違いありません!

 

そして私も、いつか玄弥様と…!

 

嗚呼、玄弥様…!

 

 

 

 

 

 


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