人柱達   作:小豆 涼

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あと参座描きましたのでもし興味のある方はどうぞ(自己責任でお願いします)

【挿絵表示】


長々と失礼…では、本編どうぞ!


ワシが斬ったのだから、安心せい。

「早いうちに式上げないと、アンタ後悔するよ?こうなったら無理にでも上げちゃいなさいよ」

 

その日、天羽邸でカナエが過ごしているという話を聞きつけ、宇随の嫁であるまきをが足を運んでいた。

 

「そうなんだけどね。参座くんってほら、いろんな人を大切にしてるから、なんだか独占するのは気が引けちゃって…」

 

「何言ってんだい!男なんて、どっかの女に色目使われたらコロっと靡いちまうのさ!あんたほんとに気をつけなよ?あ、天元様は違うけどね」

 

「大丈夫よ。参座くんにそんな度胸ないもの」

 

「…まあ、アンタがそう言うならいいんだけどさ」

 

家主不在のまま、好き勝手談笑する二人。

もうすっかり妻の風格を醸し出すカナエ。

 

まきをはカナエも存外しっかりしているのだと感心した。

 

「ついこの前ね、カナエって呼んでくれたの。待っててくれって言われたの。この人のために生きていこうって思えたの。私は今とても幸せだし、これからもっと幸せになれる気がするの」

 

恥ずかしげもなくそんなことを言うものだから、まきをは聞いているこっちが恥ずかしくなった。

この様子なら心配ないかとまきをは安心した。

 

天元が柱に就任した時。

参座が少しの間警邏を変わってくれた。

 

もちろん一般隊士と分担はしていたが、それでも天元は恩義を感じていた。

 

そしてここ最近の参座の胡蝶騒動。

天元としても、さっさと派手に挙式を挙げてほしかった。

 

あんまり長いことカナエを待たせているので、一体全体どういうことかとまきををカナエのもとに密偵に行かせた。

これが今回まきをが天羽邸を訪れた真相だ。

 

「さて、惚気も聞けたし、アタシは帰ろうかね」

 

「うん。まきをさん、また来てね」

 

「次は須磨と雛鶴もつれてくるよ!」

 

そういって、まきをは天羽邸を後にした。

 

「ただいま、カナエ」

 

そこへ蝶屋敷で休養を終えた無一郎が帰ってきた。

 

「あら!無一郎くん!おかえりなさい」

 

「柱になることになったみたい。それで、この家を出ていくことになったんだ」

 

「…そう。さみしくなるなぁ」

 

「で、荷物をまとめに来た」

 

カナエは息子が旅発つというのは、こういうことかとしんみりしていた。

 

果たして、自分は無一郎に何かしてやれただろうか。

家に帰ってきたら、ただいま。

ご飯を食べるときは、いただきます。

朝起きたら、おはよう。

 

そんなことからも関心がなくなった無一郎に、それをまた教え込んだのはカナエだった。

 

無一郎は、そそくさと荷物をまとめる。

カナエは無一郎の荷造りを手伝う。

 

そして荷造りを終えた無一郎は、玄関口に立つ。

 

カナエは寂しさでむねが張り裂けそうだった。

短い期間だったが、本当の家族のように過ごした。

手のかかる子だったが、それはそれで楽しかった。

 

無一郎が、戸に手をかける。

 

私は君の心を暖めてあげることはできたのだろうか。

そんな不安ばかりが、胸をざわつかせる。

 

「…カナエ。ありがとう、いつか思い出したら伝えに来るよ」

 

覚えていてくれた。

あの日の約束を。

 

良かった。

少しでも、この想いは無一郎に届いていたのだ。

 

「いってきます」

 

「うん、身体に気を付けてね…いつでも帰ってきていいからね…」

 

カナエは、雲の羽織が見えなくなるまで、玄関口に立っていた。

 

 

 

ーーー

 

 

「カナエー。今帰ったぞー」

 

夕刻。

任務で少しばかり遠出していた参座が帰ってきた。

 

「参座くーん!!おかえりなさーい!!!」

 

「おっと。これ、カナエ。そう駆けてきてはきては危なかろう」

 

カナエは、無一郎がいなくなった寂しさを埋めるため、参座の胸に飛び込んだ。

参座がカナエを抱き留めると、カナエは無一郎のことを話した。

 

「ふむ。発ったか。あれはあれで、もう一端の漢じゃて。心配いらぬ、カナエの想いはしっかり持って行っておるだろう」

 

「うん。またいつか三人で食卓を囲めることを願いましょう」

 

「そうだの。きっと大丈夫だろうて」

 

それから二人で夕餉を食べた。

そのあと縁側で茶を飲み、無一郎の話をした。

 

一般隊士を逃がし、その命を救ったことが誇らしいだとか。

下弦の参相手にひるまず刀を構えたことに心が震えただとか。

助けを断り、自らの力で鬼を滅したとか。

 

これらは、無一郎を蝶屋敷に送った日。

すぐにカナエに話した事だった。

 

参座はそれをわかって、もう一度話した。

カナエは一度聞いた話だが、初めて聞いた時と同様自分のことのように喜んで聞いている。

 

「あの子は大丈夫だろうて。このワシが鍛え上げた男だからの」

 

しかし、絶対はない。

もう自分の目の届かないところにいる弟子のことを思うと、やはり参座は心配だった。

 

「大丈夫よね。きっとみんなが助けてくれる。そう信じましょう」

 

カナエも同じ思いだ。

二人とも、お互いを安心させるための言葉を紡ぐが、心配が消えないのは同じ。

 

それでも、無一郎の無事を祈り、今日も笑うのだった。

 

ことあるごとに、参座は隠に問いかけた。

 

無一郎の話は聞いておるか?と。

それはそれは強く、多くの鬼を屠ると聞いた。

しかし、人間関係があまりよくないとも聞いた。

 

やれやれと参座は心配するも、何より無一郎の無事が心底嬉しかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

時は回る。

 

ついに、この鬼殺隊の。

ひいては、平安より千年続く運命の歯車が。

 

動き出そうとしていた。

 

藤襲山、最終選別。

 

竈門 炭治郎、我妻 善逸、不死川 玄弥、嘴平 伊之助。

この四人が、今まさに七日間の試練を乗り越えんとしていた。

 

炭治郎は異形の鬼を破り。

善逸は気を失い。

玄弥は鬼食いをして。

伊之助はとにかく山を駆け回った。

 

そうして、この七日間を生き延びたものが、日輪刀になる玉鋼を選ぶ。

 

その日輪刀を待つ間。

これより死地に赴く前の最後の休息の時。

 

参座のもとには、鱗滝の元より鴉が訪れた。

 

中には、炭治郎が最終選別より帰ってきた事。

それと禰豆子の目が覚めたことが書いてあった。

 

では一度、禰豆子の様子を見に行こうと、参座は狭霧山へ行くことを決意した。

 

「では、カナエ。遠方へと向かう。なればしばし家を空けることになろう。少しの間、蝶屋敷で待っていてくれの」

 

この頃にはもうカナエは参座の家に定住していた。

そんな中、参座の元には遠方の地で鬼が出たとお達しがあった。

本来であれば、おそらく鬼舞辻 無惨の行動範囲であろう場所にしか出ない鬼。

 

それが、人の肉と安全な狩場を求めて遠方に出た。

鬼殺隊の中で、最も早く着き、最も早く鬼を狩り、最も早く帰ってこられる参座に白羽の矢が立った。

 

「うん、気を付けていってらっしゃい。必ず帰ってきてね」

 

「うむ。…さて、ではいくかの」

 

この男が死ぬところを想像できない。

それでもカナエの心配がやむことはない。

 

参座の足でも五日。

それから鬼を探して狩る。

 

十日以上、この警邏地区を開けることとなった。

 

他の隊士、柱たちが警邏は任せろと背中を押してくれた。

なれば一刻も早く帰ってくるのが良かろうて。

 

さあいざ行かんと戸を開けたところで、後ろから体重がかかる。

 

「参座くん、絶対に帰ってきてね」

 

「なに、すぐ帰る。ではカナエ、行ってきます」

 

「…うん、行ってらっしゃい」

 

少しの名残惜しさを感じた参座だが、足を進める。

まずは鬼を狩り、その足で炭治郎の元へ向かう。

 

その間、参座によって影響を受けた小芭内の今を語ろう。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

その日、小芭内は甘露寺と街へ出るつもりだった。

参座の家で夕餉をごちそうになってから、考えに考えて練った予定。

 

名付けて、甘露寺満腹計画。

 

人は満腹の時、幸福感が増す。

なればその時こそ贈り物をすれば、受け取ってもらえる可能性が増すのではないか。

 

完璧だ。

胡蝶姉にも意見を聞いておいて本当に良かった。

 

小芭内はにやりと笑い、甘露寺に文を出した。

返事は快諾。

 

今日の警邏を休むために、不眠不休で鬼を狩った。

 

準備はできた。

あと数分で、甘露寺との待ち合わせ場所につく。

 

もう、見える

 

そこには天女がいた。

街の中心、時計台の前。

 

人々が行きかうその真ん中に。

 

己が想い人を見た。

今日も可憐だ。

 

「待たせたな、甘露寺」

 

小芭内は努めて冷静に声をかける。

そして甘露寺はこちらに視線を向ける。

 

「伊黒さん!私も今来たところよ!」

 

ああ、死ぬなら、今だろう。

小芭内は、その太陽のような笑顔を見て、天に召される居心地だった。

 

「それは良かった。さて、甘露寺は揚げ物が好きだったろう。この先に、揚げ物のうまいそば処がある。早速行こうか」

 

小芭内は、甘露寺と文通している。

好きな食べ物もそれとなく探りを入れていて、完璧だった。

 

「あら、いらっしゃい!奥の席へどうぞ!」

 

軽快なおばちゃんに席へ案内される二人。

 

「俺はかつ丼で。甘露寺は?」

 

小芭内は、品書きを甘露寺に渡す。

それを受け取ると、考え込む。

 

おそらく、自分が大食いであることに気を揉んでいるのだろう。

この日のために用意した言葉を、小芭内はかけてやる。

 

「甘露寺、参座から君の体質については聞いている。俺の前でたとえどれほどの量の飯を食っても、俺は全く気にしない」

 

参座には、身体が透けて見える。

なれば、甘露寺の筋肉量も見えていた。

 

あの日の夕餉の時、参座は甘露寺の体質について、小芭内に助言していた。

 

「伊黒さん…!ありがとう!」

 

甘露寺は、心底感動していた。

小芭内は文通でもとてもやさしかったし、面と向かって話してもそうだった。

だから、この体質についても、食べる飯の量も、きっと理解してくれると思っていた。

 

それでも、これを好奇の目で見られていた甘露寺は、心配だった。

 

だからこそ、こうして向こうから理解しているという意を示してくれるのは、本当に気が楽になった。

 

「すいませーん!注文いいですかー!」

 

甘露寺が声を張っておばちゃんを呼ぶ。

はいはいと言って、伝票をもってくる。

 

「ヒレカツ丼と、かつ丼と、それと唐揚げに、天丼!そばは冷で三人前!あと豚丼もください!」

 

おばちゃんはさすがに思考が停止した。

そして、冷やかしかと訝しんだ。

 

「お嬢ちゃん、もしかしてそれ、一人で食べるのかい?本当に?」

 

「この子は特殊な体質なんだ。食える。なにも冷やかしに来たわけではない。すまないが、出してくれないか?」

 

「…そういうことなら、わかったよ。こっちは金を払ってくれれば文句はないしね。で、あんちゃんは何にするんだい?」

 

「俺はかつ丼で」

 

小芭内は、甘露寺に文句をつけるおばちゃんに文句の一つでも行ってやろうかと思ったが、それは目の前の甘露寺が一番望まないと、こらえた。

 

「伊黒さん、本当にありがとう…」

 

「気にするな。飯くらい楽しくくいたいだろう?」

 

それから厨房の旦那が素っ頓狂な声を上げて、少し時間をくれと頼んできた。

甘露寺はにこにこしながら、旦那にいいですよという。

 

「私ね、伊黒さん。こんな風に優しくされたことあんまりなくて…。みんな、私が女だから、優しくしてくれたけど、男の方よりも力があって沢山食べるって知られると、みんな途端に冷たくなったの。だから、ありのままの私に優しくしてくれる伊黒さんの気遣い、とってもうれしいな…」

 

やはり、俺は今日死ぬ。

小芭内はそう確信した。

 

それから、たまにカナエが遊びに来るだとか。

蝶屋敷のしのぶと仲がいいとか。

杏寿郎が自分のことを本当に誇らしく思ってくれているとか。

 

甘露寺は終始ニコニコしながら話した。

 

「はい!まずはかつ丼二つ、お待ち!」

 

ここでさらに甘露寺の表情が明るくなる。

 

「わあ!おいしそう!ね、伊黒さんっいただきましょう?」

 

「ああ、うまそうだな。食べようか」

 

そういって、小芭内は口の包帯を取った。

 

しまった。

完全に油断していた。

 

寝ずの鬼殺で、完全に忘れていた。

腹も減っていたし、昼餉は外で済まそうと思ってしまったのが間違いだった。

 

口を…見られた。

 

小芭内の表情は固まる。

まき直さねば。

 

しかし、身体が動いてくれない。

 

すると、頬に体温を感じた。

 

「私はね、伊黒さん。そんなことで、伊黒さんのこと嫌いになったりしないよ?」

 

どれだけ救われたことか。

その言葉で、どれだけ生きる活力が湧いたことか。

 

この日を、小芭内は一生涯忘れることはないだろう。

 

「さ!食べましょ!二人でおいしいものを食べたら、もっとおいしくなると思うの!」

 

「ありがとう、甘露寺。いただこうか」

 

人生で一番うまい飯だった。

想い人と食う飯は、こんなにもうまいのか。

 

これをほぼ毎日食ってる参座を思うと、羨ましくなった。

 

「はい!ヒレカツ丼と、そば!お待ち!」

 

どしどしと料理が来た。

それを、うまいうまいと甘露寺が平らげる。

 

一面が料理で埋め尽くされた。

 

「ああーん、しあわせ~」

 

甘露寺の頬はだらしなく緩みっぱなしだった。

小芭内は、それを今生忘れまいと記憶に焼き付けていく。

 

全てを平らげるまで、さほど時間はかからなかった。

 

「いやあ、参ったよお嬢ちゃん!最初は冷やかしかと思ったけど、ほんといい食べっぷりだったね!」

 

「ほんとにおいしかったです!また来てもいいですか!」

 

「そりゃよかった!いつでもおいで!たあんと食わしてやるからね!」

 

甘露寺の表情ははち切れんばかりの笑顔だった。

小芭内は、気のいいおばちゃんと、俺あれほどの料理を大至急作った旦那に感謝していた。

 

「ここは俺が出す。おばちゃん、お勘定」

 

「はいよ!太っ腹だね、あんちゃん!」

 

「え、いやそれは悪いわよ伊黒さん…!ほとんど私が食べたのに…」

 

「何言ってんだい嬢ちゃん、男がかっこつけるって言ってんだから、黙ってたててあげな!」

 

「そういうことだ。なにも気にするな。俺が好きでしてることだからな」

 

甘露寺は申し訳なく思いながらも、うれしかった。

うぬぼれかもしれないが、自分だからここまでしてくれるのではないかと。

 

他でもない、甘露寺 蜜璃という人間のためにここまでしてくれているのではないかと。

そう思うと、心臓が強く脈打った。

 

ご馳走様といい、店を後にした二人。

甘露寺は夜の警邏があるため、ここで解散という流れ。

 

ここで、小芭内が自らが持ってきた巾着を開ける。

 

中から出てきたのは、長い緑の縞々靴下。

 

「甘露寺。君に似合うと思って。受け取ってくれるか?」

 

こんなにうれしい贈り物は初めてだった。

 

「…いいの?こんなにたくさんいろんなものをもらってもいいの?」

 

「俺が、送りたいんだ。受け取ってくれ」

 

甘露寺は、その贈り物を両手で受け取った。

 

「ありがとう、伊黒さん…」

 

「それじゃあ、俺は行く。甘露寺、気を付けるんだぞ」

 

小芭内としては、一刻も早くこの場を離れないと叫びだしてしまいそうだった。

 

「ねえ、伊黒さん…もう少し…話していかない?」

 

想い人にそういわれては、断るわけにはいかなかった。

そうして、街を少しばかり歩いた。

 

自分は今、甘露寺と並んで歩いている。

もしかすると、この先。

ずっと甘露寺と一緒にいられるのではないか。

 

己の過去は、参座が斬った。

なれば、ここにいるのは。

 

ただの伊黒 小芭内と、ただの甘露寺 蜜璃なのだ。

 

それから次はどんなものを食べたいだとか。

どこの景色を見てみたいとか。

 

次について二人で語らった。

 

小芭内は次があることに嬉しさを覚えた。

それは、甘露寺とて同じだった。

 

小芭内と、蜜璃。

 

二人のこの先は、また別の機会に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はおばみつおおめでしたね

感想でおばみつ好きだーといってくれた方いまして、個人的にもおばみつ好きなので、つい書いちまいました…。

そして誰にも何も言われてないのにイラストを描くという奇行に走った私でした。

感想、評価お待ちしてます~。

今回もご愛読ありがとうございました!

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