奇術師のヒーローアカデミア   作:ビット

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 ちょっとだけ続くかも

 ※作中のヒソカによる点数付けは、あくまで「僕のヒーローアカデミア」基準です

 


2話

 紙の擦れる音だけが耳に届く。体高の高い異形型でも通れるように設計された大きなドアを開けると、十数人の生徒と目が合った。

 

 「おはよう♦︎」

 

 トランプをシャッフルしていた手を止め、片手をあげながらそう挨拶をした。何名かの生徒が軽く会釈をし、何名かの生徒がおはよう、と返事をしてくれる。無反応の者もいた。

 

 席につくと、教室には微妙な雰囲気が漂う。皆どうやら距離感を掴みかねているようで、僕もそれは同じだった。無言でトランプタワーを組み立て始めると、僕のすぐ後に来た眼鏡の生徒とくすんだ金髪の生徒が何やら言い合いを始めた。しかし無視をして組み立てに集中する。

 

 このトランプタワーの組み立ては僕の趣味ともいえるものだった。原作序盤でヒソカはよくトランプタワーを作っては壊しを繰り返していた描写があったのでこれも個性の影響だろう。鋭敏な感覚をフルに活用できるこれは、ヒソカなりの暇つぶしとして中々に優秀だったのかもしれない。

 

 騒がしくなってきた教室で一人黙々と作業をしていると、ふとやたらと薄い気配を感じた。入り口を見ると先程言い合いをしていた眼鏡の生徒と、ほか二人の生徒が話し合っていた。

 

 しかし気配は彼らのものではなかった。ならどこの誰だと彼らの足下へ視線を向けると、寝袋に入った無精髭のおじさんがこちらを見つめていた。

 

 「75点……♠︎」

 

 ボソッと口から出たそれを、僕はヒソカスカウターと呼んでいた。一定以上の実力者と出会うと、脳が勝手に強さに応じた点数を付け出し、あまつさえそれを口に出さずにはいられないのだ。

 

 ちなみに75点は結構な高得点である。つまり無精髭の彼もかなりの実力者だということだ。

 

 「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。此処はヒーロー科だぞ」

 

 ウィダーゼリーを飲み干しながらそう告げる男は、寝袋から出ながらゆらりと立ち上がった。長い髪はボサボサで、首に包帯のようなものを巻きつけている。

 

 「静かになるのに8秒もかかりました。君たちは合理的でないね。1ーA担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 「こちらこそよろしく♠︎」

 

 呆気にとられて黙りこくっている教室の中で、僕の返事はいやに響いた。僕たちの担任だと言う相澤先生はこちらをじろりと半目で流し見た後、学校指定のジャージを着てグラウンドへ来いと生徒全員に告げる。どうやらガイダンスも何もなしに個性把握テストなるものを行うらしい。

 

 素早く準備を終えた僕は、女子が教室から出るのを待ってから着替えを始める。

 

 個性把握テスト、楽しみだ。僕の身体がそう言っていた。

 

 

 

 

 

 着替え終わりグラウンドに出たあと、相澤先生による個性把握テストの説明が始まった。内容はその名の通り、個性使用が許可された身体能力テストだ。

 

 「入試一位は喪蝋か。お前中学の時のハンドボール投げの記録いくつだ」

 

 「110メートル♠︎」

 

 少しだけ目を見開く相澤先生。ヒソカの身体能力があれば、個性なしでもこのぐらい余裕だ。

 

 「なら個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。せいぜい派手にやれ」

 

 念を込めて普通に投げようと思っていたが、何でもやっていい、という言葉に引っかかり少し考える。相澤先生は派手にやれとも言った。これは生徒への見本の意も込められているのだろう。

 

 わかりやすく個性を使い、かつ大記録を出すことが求められている。なら、こうだろう。

 

 右手の人差し指からバンジー・ガムを発動し、渡されたハンドボールにくっつけた。そのまま片手でピンク色のオーラを振り回し、ハンマー投げの要領で思いっきり投げる。

 

 強化した身体能力に遠心力とゴムのしなりが加わったボールは鋭い音をたてながら飛んでいく。暫くすると先生の持っていた機械から高く短い通知音が鳴り、結果が表示された。

 

 「890メートル」

 

 「おおっ」

 

 大記録に盛り上がる生徒たち。面倒臭そうな表情を浮かべていた相澤先生だったが、とある生徒の楽しそう、という言葉を聞いて目の色が変わる。

 

 「楽しそう、か……雄英での3年間、そんな浮ついた気持ちで過ごすつもりか?」

 

 薄ら笑いを浮かべながら言葉を続ける相澤先生。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分とする」

 

 張り詰める空気。相澤先生から放たれるプレッシャーに充てられたのか、うめき声まで聞こえてきた。

 

 「生徒の如何は教師の自由。ようこそ、ここがヒーローアカデミアだ」

 

 

 

 

 

 「喪蝋、2秒69」

 

 こんなものか、と心の中で呟きながら歩く。激しい無呼吸運動を行った直後でも、この身体は息の一つもみださずにピンピンしていた。この調子なら一位を取れそうだ。

 

 「アンタ凄いね、ヒソカ」

 「ああ、響香じゃないか♠︎」

 

 入試の時に仲良くなった響香が話しかけてきた。最初に教室に入ってきた時に姿を見ていたので、彼女が受かっていることに特別驚きはしなかった。というか、もし気付いていなかったとしても驚きはしなかっただろう。何やら確信めいた直感が、彼女は絶対に受かっていると僕に訴えてきていたから。

 

 「きみの個性だとこのテストは苦戦しそうだね♣︎」

 

 「ほんとだよ。どうしよっかなぁ」

 

 腕を組んで思案する響香から目を逸らし、テストを受けている生徒の方を観察する。氷の個性と爆発の個性が、見た目の派手さも相まってかなり目立っていた。

 

 ふと爆発の彼がこちらを睨みつけていることに気がつく。とりあえず笑いながら手を振ると、舌打ちをしたあとにそっぽを向かれてしまった。どうやら嫌われてしまったらしい。

 

 そのままテストは続き、ハンドボール投げまで進んだ。ここまでの種目は全部一位だ。最初のとは別でハンドボール投げをやらせてもらい、記録を950メートルまで伸ばすことに成功した。

 

 これも一位かな、と思っていると、他の女子が記録無限を出した。物を浮かせる個性で、あれくらいの大きさならずっと浮かせていられるらしい。だから記録無限。面白い個性だ。

 

 「負けちゃった♥」

 

 「今まで全部一位だったのにね」

 

 笑いながら半目でこちらを見てくる響香。かくいう彼女は、イヤホンジャックをうまく使って上体起こしや立ち幅跳びでいい記録を出していた。これなら最下位の心配はなさそうだ。

 

 「……アイツ、まだいい記録出せてないけど。相澤先生、本当に除籍するつもりなのかな」

 

 「心配?♦︎」

 

 「いや、別に」

 

 言葉とは裏腹に、彼女の表情には少し憂いが見えた。まだ個性を使っていない緑色の癖っ毛の彼に少しだけ同情にも近い感情を抱いているようだった。

 

 彼は一度投げ終わった後で、相澤先生から何やら注意を受けているようだった。内容までは聞こえてこなかったが、どうやら使おうとした個性を先生の個性によって消されたらしい。何か事情があるのだろう。

 

 「彼なら大丈夫さ♦︎」

 

 

 「?知り合いとか?」

 

 不思議そうに少し首を傾げる響香に違うと返事をする。更に不思議そうな顔をする彼女に向けて、僕は笑いながらこう言った。

 

 「勘さ」

 

 僕の勘はよく当たるんだ。

 

 大きな炸裂音と共に、癖っ毛の彼が投げたボールは遥か遠くへ飛んでいく。記録は705メートル以上。全体で見ても五位に食い込む、文句なしの大記録だ。

 

 どうやら先ほどの個性の使用で指が折れてしまったようで、痛そうに指を押さえている。しかしその痛みを堪えながら、無理矢理に作った笑顔でテストの続行を告げる彼にーー僕の身体が急激に反応を示した。

 

 今日一上がる口角。ツカツカと早足で癖っ毛の彼の元へと歩み寄り、僕は声を掛ける。

 

 「やあ♠︎」

 

 「へ!?なに!?だれ!?」

 

 「ボクは喪蝋密架♥︎ヒソカって呼んでくれよ♦︎さっきの、凄かったね♣︎」

 

 「あ、う、うん、ありがとう、喪蝋くん。僕は緑谷出久」

 

 引き気味の緑谷ーーいや、出久を見つめながらニヤニヤとした笑みを浮かべる。僕の今の身長は179cmで、緑谷よりも10cm近く高い。必然的に見下ろすような格好になっている。いきなりそんな男からニヤニヤしながら声を掛けられた彼としては些か以上に困惑していることだろう。

 

 「ボク達は相性いいよ♥︎性格が正反対で惹かれあう、とっても仲良しになれるかも♠︎」

 

 「そ、そうかな……」

 

 やはり引き気味にそう答える緑谷は、しかし少しだけ笑っていた。

 

 

 

 

 

 その後も順当に試験を終え、ハンドボール投げ以外の種目では一位を獲った。持久走でバイクに乗る女子生徒には驚かされたが、念で強化されたわけでもないバイクなら僕の方が速い。

 

 改めて自分の肉体の規格外さを噛み締めていると、相澤先生が結果を空中に投影していた。

 

 「ちなみに除籍はウソな」

 

 投影と同時に笑いながらそう述べる先生。

 

 「君たちの全力を引き出す為の合理的虚偽」

 

 一部の生徒から絶叫が上がった。主に最下位の出久から。バイク女子は当たり前ですわと呆れたように溢し、響香は少しホッとした様子を見せていた。

 

 「やっぱアンタが一位?凄いじゃん、おめでとう」

 

 「ありがとう♠︎でも個性の相性がよかっただけさ♥︎」

 

 今回の授業は、身体能力に優れた僕に圧倒的に有利な条件だった。パワーだけでなく瞬発力も強化できるのだから、寧ろこれで負ける方が難しい。

 

 「喪蝋、お前すげーな!どんな個性なんだよ?」

 

 「私にも教えて下さいまし!今回は一位を明け渡してしまいましたが、つぎはこうはいきませんわ!」

 

 「つかお前ら仲良いな、同中?」

 

 耳郎と話していると、赤髪の男と、明るい金髪に黒メッシュの男、バイク女子が話しかけてくる。その他の生徒とも話をしながら、僕はそれぞれの個性について話しつつクラスメイト達と一緒にグラウンドから移動し始めた。

 

 雄英高校、次はどんな試練が待っているのか。楽しみだ……♠︎

 

 


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