透明な世界の色   作:吠えろ剣

7 / 7
七話

私が淡島と友達になったのは中学一年生の夏だった。その当時は淡島とはクラスメイトではあったが話したことすらなくて、いつも多く友人達に囲まれてケラケラと笑う彼女の姿を見ていて、きっと波長が合わない奴なんだろうなと思っていた。

 

ただ、ある時、私のクラスで事件が起きた。

 

「香取の体操服がなくなった。誰か見かけた人はいないか?」

 

香取葉子、クラスメイトで性格は悪いけど容姿が可愛いということで、他クラスでも有名な女子だ。多くの男子達が告白しては、容赦ない罵声を浴びせられて玉砕してきたと噂の美少女。

 

そんな彼女の体操服が紛失した。誰もが思った。無くしたのではない。盗まれたのではないかと。

 

漫画やアニメでも見たことのある可愛い女子の縦笛とか衣服を男子が盗む展開。下着どころか全裸、というか臓器や腸内、消化物すらも覗き放題である私からしたら、他人のプライバシーを独占したいという気持ちなんてどうでもよくて、この事件に大した興味は湧かなかった。

 

ただ、一応は事件である。先生は明言はしなかったが、クラスメイト内に犯人がいるだろうと見込んで話を進めていた。そんな時、ある男子生徒が挙手をした。

 

「山田が怪しいと思います。体育の授業が終わったあと、急いで教室に帰って行きました」

 

そう言ったのは後藤だった。スポーツが得意でクラスでは中心的な男子だ。女子達の噂では先日、香取に告白して玉砕したらしいが、ここで見せ場を作って香取へのアピールを狙っているようだった。

 

それに対して山田は勉強も運動もできない根暗で残念な奴だ。もしクラスの中で一人生贄を捧げることをになれば、真っ先に名前が上がる人間だろう。そのくらいに人気がない男子。

 

ただ、私は知っていた。山田は無罪だと。

 

私は体育の授業の後、誰よりも早く教室に戻っており、青ざめた様子で教室に駆け込んできた山田に出会っているから知っている。山田が急いで教室に戻ってきたのは体育の授業中にクソを漏らしたからだ。透視というのは便利な反面、不幸なもので余計なものすらも見えてしまう。

 

山田は急いで教室に駆け込んだものの、一人ではどうしようもなくて困った様子で立ち往生していた。

 

こういう時に機転が回らないで損ばかりする奴というのは見ていてうんざりするが、放置していても可哀想なので「黙って保健室に行け」とアドバイスをしておいた。

 

だから、彼は無罪なのだ。あの瞬間に香取の体操服を盗む余裕などない。ならば、どこにあるのかと。教室にあるもの全てを透視して中身を確認していたのだが、話の流れは悪い方向に進んでいた。

 

山田はクソを漏らしたから保健室に下着を借りに行ってましたとは言えるはずもなく、先生にアリバイを問われても終始沈黙をしていた。

 

一方の後藤は我こそが名探偵と言わんばかりに山田への質問攻めを続けている。くわえて後藤の取り巻き共も同調して山田を責めて、クラスにアンチ山田の空気を作り出していた。

 

そして、犯人が山田に決定されようとした時だった。私は香取の体操服を見つけた。

 

「先生。私、南雲君が自分の鞄に香取さんの体操服を入れていたところを見ました」

 

教室の空気が固まった。

 

南雲は後藤の取り巻きの一人だ。

先生は戸惑っていたが、私が強い目で訴えていたこともあり、ゆっくりと南雲の席に歩み寄った。南雲は顔を真っ青にしていた。

 

もちろん、鞄に入れるところを見たというのは嘘だ。だが、鞄の奥底に隠すように入れられているという現実があり、自らが犯人であると自白せんばかりの青ざめたような顔をしていたので、彼が今日のどこかで盗み入れたというのは真実であろう。

 

先生は南雲の鞄の中を探ると、一枚の体操服を取り出した

 

「あー⁉︎ ソレ、私の体操服‼︎」

 

香取は自らの名前が刺繍された体操服を目にすると指差して言った。これは間違いなく南雲の鞄の中に入っていた。先生は「来い」とだけ言って南雲を連れ出して事件は解決したかと思われたが、それだけでは終わらなかった。

 

「おい、霧島、何してくれてんだよ」

 

その日の放課後、後藤とその取り巻きが絡んできた。

 

「何の話?」

 

「お前のせいで南雲の評判が下がったじゃねぇか。南雲は六頴館の推薦狙ってたんだぞ。これで推薦貰えなくなったらお前のせいだからな」

 

意味が分からなかった。そもそも推薦が欲しければ、何の問題も起こさずに大人しく学校生活を送っていれば良い話。それは難しい事ではない。

 

「そんなの自業自得だろ。それよりも部活に行きたいからどいてくれる?」

 

私は鞄を持つと、そのまま教室の扉へ向かおうとした。だけど、後藤達一味は通らせまいと行手を阻んだ。

 

「まだ話は終わってねぇんだよ。きちんと責任とれよ!」

 

いったい、私になんの責任があるんだ。私は心の底から思った。

 

「いったい、私になんの責任があるんだ?」

 

だから言ってみた。すると後藤は邪悪な笑みを浮かべて言った。

 

「南雲の人生を滅茶苦茶にした責任だよ。責任とって俺と付き合えよ」

 

それから後藤は私の腕を掴んだ。その瞬間、全身の肌に悪寒が駆け抜けた。

 

ぶち殺してやろうかと思った。理不尽な因縁を付けてきたと思ったら、女子一人を囲んで暴力だぁ?

 

良いだろう。返り討ちにしてやる。私は後藤の身体を透視した。服の上からだろうが、皮膚の上からだろうが、私は人の急所を確実に捉えることができる。常時会心率100%。私は鳩尾を一突きした。

後藤は床に倒れて悶絶した。

 

「地を這って悶えてろ」

 

私は苦しむ後藤を見下ろして、そう言い捨てると立ち去ろうとした。

 

残りの取り巻き達だが、所詮は強者に群がる連中だ。リーダーが倒されれば霧散するだろう。そう思っていたが、その認識は甘かった。

 

「よくもやりやがったな!」

 

「なっ⁉︎」

 

取り巻きの一人が飛びかかってきたのだ。もしも油断していなければ、このくらいどうとでも対処できただろう。だが、この予想外の一撃に私は強く突き飛ばされて、床に倒れてしまった。

 

「痛っ…!」

 

すごく痛い。透視で痛みがする脚を確認すると、骨には異常はないが、靭帯が損傷していた。いわゆる捻挫だ。

 

ああ、すごく最低な気分だ。らしくもない人助けなんてするべきではなかった。ゴミみたいな奴らから因縁を付けられたうえ、怪我までしてしまった。

 

まぁ、この脚を痛めた状態で男子達に囲まれている状況をピンチと人は呼ぶのだろうが、降参をする気はなかった。ただ、可能な手段が限られているのは事実。どうやってこの状態を切り抜けようか考えている時だった。

 

「ちょっと男子たち‼︎ 何してるの‼︎」

 

聞き慣れた声が教室に響き渡った。その声の主を見ると淡島だった。

 

「なにって、霧島が手を出してきたんだよ」

 

後藤は言った。一応は手加減はしていたけど、まだ痛むらしく取り巻き達の肩を借りながら立っていた。

 

「それ本当なの?」

 

すると淡島は私を見下ろして聞いてきた。

 

「……まあ、そうだな」

 

後藤が嘘を付いている訳ではないので否定はしなかった。

 

それから淡島は私を一瞥すると、再び後藤達の方を見つめた。そして、息を吸うと、大きな声で言った。

 

「はぁ⁉︎ それがなに?男子ならそれくらい我慢しなさいよ‼︎」

 

贔屓ここに極まりだと思った。男子達も予想外の発言に言葉を失っていたが、淡島は構うことなく言葉をついだ。

 

「それよりも、私から見たら完全にイジメなんだけど。女子一人を囲んでリンチしようなんて、アンタ達最高にダサいよ‼︎」

 

そう言われて男子達は押し黙った。

淡島のいる女子達のグループはクラスの中では一番の勢力だった。その中心人物である淡島。その事を分かりきっている後藤達は相手が悪いと思ったのか渋々と引き下がった。

 

そして後藤達の姿が完全に見えなくなったあとだった。

 

「あぁ〜、怖かった〜」

 

淡島は深い溜息を漏らしながら座り込んだ。

その姿はちょっと意外だった。淡島という人間は多くの友人の威光にものを言わせた見栄っ張りな人間だと思っていたが、そうでもなかったらしい。だけど、それ故に解せないと思った。

 

「なんで助けたんだ?一人でも何とかできたのに」

 

まぁ、少し強がりを言った。だが無策だったわけではない。作戦としては教室のガラスを派手に叩き割って、先生でも呼び出そうと考えていた。そして駆けつけた先生に状況を説明して無事に解散とするつもりであったが、淡島は僅かに眉を顰めて言った。

 

「うわぁ…。初めて話したけど、予想通り孤高なクールキャラなんだね。素直に助けてくれてありがとって言えば良いのに」

 

言われてみればそうであった。私は人生の問題の殆どを一人で解決してきたが、それゆえに忘れていた。

 

「それもそうだな。助かったよ淡島。ありがとう」

 

すると淡島は何故だか顔を赤面させて顔を伏せた。

きちんとお礼を言ったはずなのだが変な事を言っただろうか。疑問に思いながら淡島を見つめていると、変なことを呟いていた。

 

「ヤバい。ちょっと惚れそうになった。胸がキュンキュンした。霧島さん罪深すぎ」

 

うん、変なのは淡島の頭のようだった。ただ、掘り下げると面倒なことになりそうなので、それをスルーして帰ろうとした。だが、淡島は私の手をぎゅっと掴んで言った。

 

「ちょっと待って。もう少しお話ししない?私、霧島さんと仲良くなりたいの!」

 

「なんで?」

 

「だって、霧島さんかっこいいじゃん!」

 

淡島は目を輝かせて言った。

 

「私がかっこいいだって?」

 

私は酷い冗談だと思った。淡島と私はクラスメイトだけど、普段の関わりなんてなく、これが初対面みたいなものだった。お互いに知らないことだらけ。それなのに何をもってカッコいいと言うのか。

だけど淡島は私が否定するよりも前に早口で言った。

 

「そう!霧島さんはカッコいいよ!運動神経抜群だし、周りの意見に流されないで自分を貫き通しているし、今日の事件だって、みんなが山田君を犯人に決めつけていたのに、それを名探偵みたいに解決しちゃって。だから、私も霧島さんみたいにかっこいいことをしたいと思ったの‼︎」

 

かっこいいことか。果たして自分の能力に過信して、怪我をした私にその言葉が見合うのかは疑問であるが、一先ずは淡島のどうしても本心を伝えたいという必死な気持ちは理解した。だから、私もありのままの言葉で返した。

 

「そう。淡島さんもカッコよかったよ。いつも取り巻きだらけの一人では何もできない根性なしだと思っていたけど見直した」

 

「なにそれ!私の元のイメージ悪すぎない?あ、でも、今はそうじゃないんだ!嬉しいー‼︎」

 

気分の移り変わりが激しい奴だと思った。

まぁ、話はこれくらいで良いだろう。

 

「じゃあ、私、行くから」

 

いざ、部室へ。ではなくて保健室だ。脚を捻挫したのだ。すごく痛いし、アイツらには医療費を請求してやろうかと思っていた。だけど、淡島はまたしても呼び止めた。

 

「待って!お友達の握手をしよう!」

 

そして淡島は手を差し出した。なんで中学生になってまで幼稚園児みたいな事をしなければいけないのか。私はそう思ったのだが、表情に出ていたらしい。

 

「もしかして私と握手するの嫌?」

 

淡島は今にも身を投げて死んでしまいそうなくらい悲しそうな顔を浮かべて言った。

 

「いやではないけど…恥ずかしくないのか?」

 

すると淡島は首を傾けて不思議そうな顔をした。

ああ、なるほど。淡島の周りに人が集まる理由が何となくであるが分かった。淡島は裏表がないくらい素直で直情的な人間なのだ。加えてこの人懐っこさ。

私は仕方なく右手を差し出した。淡島はそれを握ると上下に大きく振った。

 

「これで友達だね。澄子ちゃん!」

 

澄子ちゃん、いきなり詰め寄ってきたと思ったが、これが淡島なりの友達の呼び方なのだろう。

ただ、目をキラキラと輝かせて私の返答を待っているあたり…。

 

「…これ、私も下の名前で呼ぶ流れなのか?」

 

「もちこーす‼︎」

 

淡島は満面の笑みを浮かべて言った。まぁ、友人になったのだから、呼び名に親しみを込めたい気持ちは理解できる。だけど、これには致命的な問題があった。

 

「私、淡島の下の名前、知らないんだけど」

 

「えぇ‼︎ 一緒のクラスなのに‼︎ 」

 

淡島は驚いていたが、一緒のクラスだからといって律儀に下の名前まで覚えている方が珍しいと思った。だけど、淡島にとって既に私は親しい人間ということらしい。淡島は偉そうに言った。

 

「仕方がないなー、澄子ちゃんは。私の名前は淡島静。静寂の静と書いてシズカだよ」

 

淡島はニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。そして、その態度はなんかウザかった。だから、こちらも親しみを込めて意趣返しをした。

 

「そうか。それじゃあ、またな。淡島」

 

「お願い。偉そうにした事は謝るから下の名前で呼んで!」

 

まぁ、長い長い回想ではあったが、要するに私は淡島の出会いを鮮明に覚えているほど、彼女のことを気に入っていた。だからこそ彼女の言葉を無視できない。

 

『澄子ちゃんはどうするの?』

 

彼女の言葉が脳裏に蘇る。ああ、分かってるよ。そんなことで逃げ回っているのは私らしくないと言いたいのだろう。だからこそ今日の私はテレポーターを使わずにランク戦のロビーまで行く事にした。

 

別に長らくサボっていたわけではないのに、誰かと会うのが少し憂鬱だった。できるならヤクザの人ーー淡島曰く弓場さん、モジャモジャチンピラーー淡島曰く影浦先輩、目つき悪いスーツーー淡島曰く二宮さん、には会いたくない。対戦ならともかく、それ以外での面会は避けたかった。

 

ただ、私が歩いていると、ランク戦のロビーへ続く廊下に一人の男が立ち塞がっていた。

 

なんだかゲームで見たことがある光景だ。

 

これはあと一歩くらい進んだら強制イベントが始まるパターン、もしくは「目が合ったな。ポケモンバトルしようぜ」と有無も言わさずに戦闘が開始されるパターンだと思った。私は回れ右をしたが、

 

「ちょっと待てよ。お前だろ。二宮をボコボコにしたスーパールーキーって」

 

手遅れだった。既に奴の射程範囲内、強制イベントは始まっていた。

 

「そうですけど、何か?」

 

「お前すごく強いんだろ。だからさ、俺とバトろうぜ!」

 

何がだからなのかは理解できないが、まぁ断る理由はなかった。それに私はこの男には彼等ほどの恐怖を抱かなかった。何というか、背は高いけど子供みたいな人だと思った。この人は、小学生が友達を蝉取りに誘う感覚で声をかけてきたのだろう。

 

「まぁ、良いですよ。私は45番に入りますけど、貴方は何番に入ります?」

 

「1番だ。ルールは五本勝負で良いな?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

そうしてブースに入ったのだが、私は彼の個人ポイントを目にして正直引いた。

 

42893ポイント…。

 

これまで戦ってきた対戦相手の中で一番高かった二宮さんと数万違うんですけど。この人何百回ランク戦やってんだよ。

 

撤回しよう。奴は無邪気な小学生などではなかった。ボーダー廃人だ。己の人生の全てをボーダーに捧げてしまったタイプの人間だ。もはやボーダーなしでは生きられない人なのだろう。まさに一芸特化。

 

だが、そういう人は嫌いではない。寧ろ、好きだ。だから、全力で相手をする事にした。

 

一戦目、彼は私のテレポーター殺法に対処できず、背後から両断された。彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、二戦目にはワクワクとした笑みを浮かべていた。そして二戦目も何度か弧月を打ち合わせたのち、背後から斬り刻んだ。

 

そして三戦目にしてテレポーターで背後に移動して、袈裟斬りを喰らわせようとした。だが彼は寸前で回避した。影浦先輩程の反射速度ではないが、それでも読まれている。というか、どこに移動して攻撃を仕掛けたとしても一撃で仕留められない手堅さが生まれてきた。

 

もう慣れてきたらしい。経験の違いか。適応能力が高い人だと思った。そして幾度か弧月を打ち合わせて、旋空で腕をぶった斬られながらも、相手の腕と脚を斬り落として勝利した。

 

「お前は剣術を誰に習ったんだ?」

 

そして三戦目を終えた頃だった。男がブースの内線を通して話しかけてきた。

 

一戦目と二戦目と予想を超えた、かなり濃密な試合をしたので、一息つくために時間が欲しかった。だから普段はこういったコミュニケーションには応じないのだが、今回ばかりは彼の強さに敬意を称して特別に答えた。

 

「我流ですよ」

 

昔からそうなのだが、常人の観察と私の観察ではまず情報量が違う。私の透視は相手の血の流れや筋肉の収縮などを目にしながら、私自身もそれらの動きを確かめることができる。天性の才能と常人ではなし得ない観察。それが我流の剣術の開発を可能としていた。

 

「それじゃあテレポーターは? 普通はそんな便利な使い方できねぇだろ」

 

「企業秘密です。まぁ、知っても真似はできませんけど」

 

「なるほど。つまりは副作用ってことか」

 

「ええ。まぁ、そんなところです」

 

男は見事に言い合てた。まぁ、でもここまで派手に活躍すれば、いずれは研究されて、その結論に辿り着くだろうとは思っていた。

 

ちなみに現状もっとも有効な対策は槍使いの人がしてきた戦法ーーテレポーターで背後を取られないように常に動き回りながら攻撃する戦い方だ。流石の私もちょこちょこと動き回る相手にテレポータは使いづらい。そうして私の得意な戦闘のリズムを崩されて、隙を突かれるのが、主な敗因だった。

 

「それで一先ずは私が勝ちましたけど、まだ続けますか?」

 

「当たり前だ。勝つまでやる。それまでへばるんじゃねぇぞ」

 

それから3時間くらいしたところで勝負は終わった。

 

ただ、流石の私も三時間も続けて戦うと疲れてしまった。実力者相手に連戦は楽しいけど、精神と集中力をかなり消耗する。

そしてクタクタな様子でブースから出ると、満足そうな顔を浮かべた男が立っていた。

 

「いや、楽しかったな。付き合ってくれたお礼にうどんを奢ってやるよ」

 

何故、そこでうどん一択なのかは知らないが、今は昼過ぎ。お腹も減っていたので付き合うことにした。

 

ボーダーの食堂にて私はさっきまで斬ったり斬り刻まれたりしていた相手と相席してうどんを食べていた。

 

その時に男は言った。

 

「そういえば、お前はチーム戦に興味はないのか?」

 

チームランク戦、B級以上の隊員は小隊を組んで、年に幾度か集団で戦っているらしい。

 

「そういうのもあるみたいですね」

 

私はそう言うと麺を啜った。ここの食堂のうどんは値段の割にはかなり美味しい。流石はボーダー。隊員の訓練だけではなく、隊員の胃袋まで掴んでくるとは恐れ入った。

 

そして、チーム戦についてだが、今のところは参加を躊躇っていた。

 

「なんだよ。あまり興味なさそうだな。楽しいんだぜチーム戦。個人戦では味わえない戦術とか面白みがある。お前も参加してみろよ。勝ち進めばA級に昇格できるし、昇格すれば固定給貰えるぞー。それにトリガーの改造だってできる」

 

「へぇー、そうなんですか」

 

男はチーム戦の特典を列挙して勧誘してきたが、私はあまり気が乗らなかった。だから、無難にーー

 

「まぁ、考えておきますね」

 

と言った。しかし、私は直ぐに言葉選びを間違えたと思った。

 

「そうか!考えてくれるのか!よしよし‼︎」

 

男は嬉々とした表情をして言った。この男は建前をそのまま受け取った。

 

「まぁ、部隊に入るのも良し!部隊を作るのも良し!どっちにしろ、お前がチーム戦に参加してくれたら面白いことになりそうだ。だからA級になるのを楽しみに待ってるぜ‼︎」

 

そう言ったのち、男は防衛任務があるからと立ち去った。

 

そして私は、まだ昼であるが帰ることにした。今日は疲れた。帰ったら野菜ジュースを飲んで、寝ることにしよう。

 

ただ、男の話を聞いてふと思った。

 

チーム戦ーー確かに魅力的な訓練だ。参加してみたい気持ちもなくはなかった。だけど、私には知られたくない秘密がある。私の副作用ーー透視能力だ。

 

そして誰かと部隊を組んで戦うということは、その能力を知られることになるだろう。それは嫌だけど、チーム戦はしてみたい。

 

んー、能力を知られることなく部隊を組む方法はあるのだろうか。ここは京介に聞いてみることにした。バイト中だったら、悪いのでメールだ。しかし、送信するとすぐに電話がかかってきた。

 

「なんだ、バイトじゃなかったのか?」

 

私は電話に出ると言った。

 

「今日はフリーだ。それよりも、また変わった要望だな」

 

「あぁ、それについて話たくてな。今どこにいる?」

 

もし本部にいるのなら会って話そうと思っていた。

 

「玉狛支部にいる」

 

「へぇー、たまこまかー」

 

「どこだが知らないだろう?」

 

「うん。それで今から会えそうか?無理ならどこか時間が空いている時に予約を入れたいんだけど」

 

「そうだな。ちょっと待ってろ」

 

そして、電話の向こうで誰かと会話しているのだろう。何やら話声が聞こえた後、京介は言った。

 

「お前が良ければ、いまから玉狛に来ないか。実はお前に会いたいって人がいるんだ」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。