キラ・ヤマトがストライク乗って必死に自分を削りながら戦って誰かを殺してそれでも得られる賞賛になんて意味を見いだせなくてどんどん追い詰められていくのを見て性癖を開発されたやつ絶対多い

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何が不殺だよ!抹殺しろオラァァァ!

 コズミック・イラはどん詰まりの激ヤバ世界である。

 諸兄に詳しい説明はいらないと思うが、遺伝子改良を施された新たなステージの人類であるコーディネーターと、そうではないナチュラルの間でエグ目の戦争がずっと続いてる。

 

 地球は紛争だらけだし残ってる国も地球連合とかいうゴミみたいな組織に従わざるを得なくなったりしてるし、コーディネーターの住むプラントはそうでもない気がして定期的に落ちたり爆発しそうになったりテロリストに侵入されたりしている。

 

 絶対嫌だ。

 こんな世界に生まれたらもう自殺するしかない。

 

 いやマジで無理。

 死ぬ死ぬ死ぬ。

 まああれか、やりたいことやってから死ぬかな。

 

 

 ────そう前世の自分がアニメを見ながら思っていたことを。

 オレは崩壊するヘリオポリスを窓越しに眺めながら思い出した。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 時はコズミック・イラ70年。

 ヤキン・ドゥーエ戦役の終わり際だった。

 沈みゆくジェネシスをモニターに捉え、オレは息を吐く。

 

『……終わったね』

 

 個人通信回線から声が聞こえた。

 蒼い翼を広げ、隣に並んでいるのは我らが主役であるフリーダムガンダム。

 パイロットはもちろんキラ・ヤマトだ。

 

「そうだな。なんとかなった……つってもオレ、戻ったら軍法会議だと思うけどさ」

 

 オレが乗り込んでいるのは改良型I.W.S.P.装備型のストライクガンダム。種死の時代にならないとこれ生産されてないんじゃなかったっけ? と思ったけどなんか試しに一つ造って倉庫に置いてたらしく、エースパイロットの強権を発動してありがたく拝借(カツアゲ)させていただいた。

 

 そう、オレは地球連合軍のパイロットとしてヤキンに参戦していた。

 ストライクを操り、オレとフリーダムの前に浮かんでいたガラクタを蹴飛ばす。

 

『アオイがいなかったら、勝てなかったかもしれない』

「いやあ、勝てたよ。ヤマトだけでも勝てた、それはオレが保証する」

『ふふっ……ありがとう』

 

 ガラクタの名前はプロヴィデンスガンダム。

 武装の半数ほどを喪失しつつ、機体も中破判定ぐらい食らう程度にはズタボロにされたが、キラと二人がかりで倒した。

 キラとクルーゼのタイマン問答? 知らん知らん知らん! もうあいつ的にはやりたいこと全部終わった後のウィニングランじゃん。やっぱ一兵卒だとこいつの野望を挫くとか全然できねーわ。

 

 ジェネシスが沈んだ。

 オレを載せていたドミニオンもさっきシグナルロストした。宇宙にヘルメットが浮いてるか確認しとけば良かったな。

 

『停戦信号だ……』

 

 連合とザフト、両者の艦隊からカラフルな光信号が放たれた。

 戦闘を中断せよとのことらしい。

 

『アオイ……君とは、道が分かたれたと思ったんだ。だけど……こうしてまた、一緒に戦えた』

「ん、ああ。まーな。アークエンジェル珍道中以来か、みんな元気にしてんの?」

『うん。フレイは?』

「ピンピンしてたぜ。私もついていくー! とか抜かしてたけど、今は内地の安全地帯にいるはずだ」

 

 ヘルメットを脱ぎ捨てて、首を振って溜まっていた汗を散らす。

 オレ結構顔がいいし、汗集めたら売れねえかな。売れねえか。ヤマトは買うかもしれんけど。

 

『これからは、また……一緒にいられるんだよね?』

「ん?」

 

 フリーダムはビームライフルを喪失していた。

 過負荷から火花を散らす左腕をだらんと下げて、右手に握ったままだったサーベルを腰元に戻そうとする。

 

『紹介したい人がいるんだ。たくさん、たくさんいる。親友や、僕を助けてくれた恩人が。また会って欲しい人も。みんな君とフレイを心配してた……』

「ふーん。サーベルをしまうのはやめとけよ」

『え?』

 

 オレはヘルメットを脱ぎ捨てたまま、長ったらしい赤い前髪をかき上げた。

 それから操縦桿に手を戻し──瞬時に振り向き、フリーダムにビームライフルを向ける。

 

『……ッ!? アオイ、何をっ』

「始めようぜ──最後の殺し合いを」

 

 トリガーを引いた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 オレがヘリオポリスにてヤマトと出会ったとき、彼はまあなんとも陰気なツラをしていた。

 当時はまだ前世の記憶が蘇っておらず、放っておくことはできないっていう正義感と、あと顔がかっこいいからよく絡むようになった。

 自分だけが知っているクラスで実は可愛い女の子、みたいなあれだ。

 

「アオイは、モビルスーツを動かせるんだね」

「ん? ああ、ここ来る前に、地球で乗ったことがあるんだよ」

 

 ゼミの休み時間。

 学食で二人で飯を食いながら、ヤマトは興味深そうにオレを見た。

 

「どんな感じなのかな。実際に乗ってみるのって」

「作業用ならお前も動かしたことあるだろ?」

「少しだけ。でもOSが硬くてあんまり動けなかった」

「お前、反射神経とかすごいもんな。モヤシなのに」

 

 からかいの言葉を投げると、彼は頬を赤くした。

 

「そ、それは仕方ないじゃないか! 先生の手伝いとかたくさん押しつけられて……! 時間があれば、僕だって身体を鍛えるぐらいするよ!」

「本当かよ~? 頭脳労働担当って感じがするぞ、まあオレは肉体労働専門みたいなところがあるけどさ」

「じゃあ、僕とアオイで役割分担すればいいじゃないか」

 

 プロポーズか何かか?

 思わず飲んでいた水を噴き出しそうになって、なんとかこらえた。

 ……野郎。人の気も知らずによ。

 

「まあ、別に。実際それが一番効率的ではありそうだよな」

「うん……情けないよね。僕、男なのに」

「女でこんなにガサツなオレも大概だと思うけどな?」

 

 中身を飲み干して、紙コップをぐしゃりと握り潰す。

 なんだかんだで、サイみたいな陽キャ相手でも、オレはキャラが陰陽というより独自だから、一目置かれていた。そんなオレがヤマトにずっと構ってることに、そこそこそういう噂もあった。

 そしてそれはきっと、ヤマト本人にも届いていたのだと思う。

 

「……アオイ。今度、ご飯行こうって話があったじゃん」

「ん? ああ、週末だよな。ゼミ発表お疲れ様会だろ?」

 

 オレとキラが二人で行った発表は概ね高評価だった。

 そのお祝い会だ。

 

「ぼ、僕がお店とか決めても、いいかな」

「え……」

 

 口調こそどもっていたが、瞳には決然とした光が宿っていた。

 

「その、大事な話があるって言うか……」

「そ、そうか。ほう、へえ、ふうん」

 

 いやもうこんなの告白に決まってるじゃん。

 おいおいおいおい。男女とさげすまれ、さげすんできた連中を全員拳で黙らせてきたオレにか?

 マジ? マジで?

 

「じゃ、じゃあ、あれか。楽しみにしとく。うん。オシャレとかした方が、いいやつか?」

「そ、そうだね。うん。僕もそうする……」

「あの黒いビラビラだらけのジャケットだけはやめろよ」

「えっ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、ヤマトは狼狽えた。

 あれを着てきたら告白断るかもしれんからな……

 

 まあそんな冗談はさておいて、オレは人生初の出来事に胸を膨らませ(いや十分すぎるほどにもう膨らんでいるが)ていた。

 今思えば前世の朧気な記憶でも完全に喪女だったので、もしあの段階で思い出してたら歓びは二倍だったろう。限りなく無限に近い歓びだったし二倍したら無限を突破してたと思うわ。

 

 週末は来なかった。

 オレとヤマトがディナーを食べるはずだった店はヘリオポリスごと崩れ去り、宇宙の藻屑になった。

 

 ストライクガンダムを操り、アークエンジェルに帰還を果たしたヤマトは、縋るようにオレを見た。

 だけどもうオレは、彼がスーパーコーディネーターであること、これから激動の物語の中心となっていくことを思い出していて。

 

 何よりも。

 彼に相応しいヒロインがいることも知ってしまっていた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 完全に不意を打ったハズなんだけど、当然のようにフリーダムに反応された。

 具体的にはライフルの銃身を蹴り飛ばされた。緑色の光条があらぬ方向へ飛んでいく。

 んなもん予想済みだ!

 

「ヤマトおおおおっ!!」

 

 改良型I.W.S.P.から引き抜いたビームサーベルを叩きつける。

 本来はない装備だが、過剰な装備を排する代わりに導入した。これがないとガンダム名乗っちゃ駄目だろ。

 

『アオイ、何を!?』

 

 二段構えの不意打ち。しかしその場でくるんと後方宙返りを描き、フリーダムにはかすりもしない。

 こいつ本当にバケモンかよ。

 そのまま青の翼が花開くように展開し、後ろへと下がっていく。

 

「逃がすかよ!」

 

 ビームライフルを連射しながらフリーダムに追いすがる。

 基礎速度が段違いすぎて全然追いつけねえけど、気合いでなんとかこう、なんとかなれ! 全然なんともならん……

 Nジャマーキャンセラーを搭載したフリーダムは、ストライクなんかとは違って半永久的な核動力機関による絶大な出力を獲得している。

 はっきりいって機体性能を鑑みればお話にならないのだ。

 

「だけどなァァ────ッ!!」

 

 オレはずっと、ずうっとこの日を夢見ていた。

 種死でシンは、ヤマトのシミュレーション相手に訓練を行い、そして結果として撃破まで到達した。

 同じことができるとは思わない。オレとシン・アスカなんて資質で比べたら勝負にならない、こっちは虫けら以下だ。

 

 だけどな、オレには絶対的なアドバンテージがある。

 ヤマトの人格を理解しきっているという余りにも反則的なアドがな。

 

「オレはずっと、ずっとこうしたかった! お前と殺し合いたかったんだよヤマト!」

『何……を……ッ!?』

 

 回避先を読む。

 フリーダム越しにヤマトの思考が透けて見える。左か。

 ライフルの銃口を微かに逸らして放つ。吸い込まれるようにしてフリーダムがビームの射線上に現れ、左足を撃ち抜かれた。

 

『ぐうっ……! ア、オイ。やめてくれ……!』

「やめねえよ! ヤキンでたあくさん人が死んだよなあ! 今からレースすんだよレース! 負けた方が連中の仲間入りだァ!」

 

 絶えずライフルを撃ち続ける。

 プロヴィデンスとの戦闘でオレとフリーダムはどちらも盾を喪失していた。つまりは回避しつつ当てるしかない状態で、反撃しないのはもう死ぬしかないってことだ。

 

「ヤマト! 反撃しろ! オレと殺し合えよ! なあおい殺し合おうぜって言ってんだよなあ!! ヤアアアマトオオオオッ!!」

 

 鋭く素早い機動で回避し、時に直撃コースは右手のサーベルで弾く。

 流麗な機動を描くフリーダム相手に、オレは歯をむき出しにして笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 アークエンジェルの甲板に佇み、一面の砂漠を見渡す。

 見事に地球に落っこちた。

 いやー久しぶりだわこの汚え空気。

 

 知識通り、地球への降下のため、地球連合軍の第八艦隊は散った。

 フレイが泣き叫び、ヤマトに八つ当たりするのも見てた。

 正直まあこれ気持ちは分かっちゃうしな。平常心は保てねえよ。だからといってヤマトはたまったものじゃないだろうけどさ。

 

 そんなことを考えながら、砂っぽい空気に顔をしかめていた時。

 

「……アオイ」

「あ?」

 

 名前を呼ばれた。

 振り向くとヤマトが死人みたいな表情で突っ立っていた。

 あれ? この辺でやめてよねしてなかったっけ、要するにフレイと寝てなかったっけ?

 

「なんだよ、眠りが浅かったのか?」

 

 ヤマトは渋面を作って首を横に振る。

 

「僕は……何も守れなかった……」

「…………」

 

 あっ、フレイとフラグ立ってねえのかこれ……

 ヤマトはふらふらとした足取りで近づいてくる。思わず両手を広げた。磁石同士が引き寄せ合うみたいに、半分ずつ互いの意思で、ヤマトは鼻先をオレの肩に埋めていた。

 

「僕は……僕は……!」

「……………………」

 

 ヤマトの悲痛な声を聞いて、何も言えなくなる。

 砂漠を照らす月は、オレと彼の一つに溶け合った影も、冷たく照らし上げていた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

『殺し合いたかった!? どうしてそんな!』

 

 通信越しの悲鳴。

 至上のスイーツを食べた時みたいな笑みが浮かんでしまう。

 そうだ。ヤキンの終わり際だっていうのに、今ヤマトの思考は全部オレのことで染まってるんだ。それがたまらなく気分を高揚させる。

 

「お前は、フリーダムは敵MSを撃墜しない! 戦闘力を奪うだけだろ!」

 

 停戦信号を見て動きを止めているMS群。

 その中を、オレのストライクとフリーダムは稲妻の如く疾走していた。

 

「そんな退屈なヒーローごっこやってるぐらいなら! オレと一緒に本当の殺し合いをしようっつってんだ!」

『殺し合う意味なんて……! 一緒に僕と戦ってくれていたはずだ!』

「ぜェェェンぶ前座なんだよ! この瞬間のためのなァ!!」

 

 事実だ。喉が張り裂けるような叫び。狂喜に声が彩られている。

 ヘリオポリスの残骸を眺めながら、種の記憶を思い出した瞬間から。

 この日のために、オレは生きていた。MSの操縦技術を学び、ストライクを授与されるほどのエースになり、ブルコスとかいうどうでもいい組織の命令を時には無視し、時には守り。

 

「殺しに来いよ、ヤマトォッ!! じゃなきゃオレがお前を殺すぞ! なあこういうのがいやだったんだろ? お互いの命どっちかが消えるかもしれないってのがいやなんだろ? だから武装や四肢を破壊するだけに留めた! だけどそんな考えがオレに通用すると思ってんじゃねえぞッ!!」

『ぐっ……!』

 

 フリーダムが腰部のレールガンを展開する。バラエーナだと殺してしまうという判断か。

 放たれた弾丸を大回りに回避、しようとした。同じく機動先を読んだ砲撃に、ビームライフルが直撃する。

 

「ははははは! 流石だなあ!」

 

 通り過ぎざま、慌てているダガーを蹴り飛ばし、ビームライフルを奪う。

 もう片方の手にビームサーベルを握って距離を詰める。

 

『やめてくれ、アオイ……!』

 

 斬撃が空ぶった。

 回避機動からそのままフリーダムが蹴りを叩き込んでくる。衝撃に息が詰まる。

 だが、操縦桿はしっかり動かした。ストライクの片腕が、フリーダムの残った右足を掴んでいる。

 

「捕まえたぞ……!」

『ッ!? しまッ──』

 

 ぐいと引き寄せる。

 ストライクとフリーダムの頭部が超至近距離で、ツインアイの視線を交わした。

 イーゲルシュテルンが自動で発砲する。当然半永久的なPS装甲に弾かれるが、構わない。

 

「ヤマトぉぉおオオオオオオオオオオオッ!!」

「……ッ! アオイ────────!!」

 

 全身全霊をかけて。

 ビームサーベルの刀身を、叩きつける。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 海を眺めていた。

 水平線の上を飛ぶカモメたちを、ぼーっと見つめていた。

 

「アオイ、スカイグラスパーの整備は?」

「ん、ああ。終わってるよ」

 

 背後から声をかけられ振り向く。

 すっかりアークエンジェルのエースパイロットとして貫禄が出てきたキラが、苦笑していた。

 

「本当に? 整備士さんが探してたよ。サボったんでしょ」

「……はいはい」

 

 ああ。

 こいつ……どんな顔してるのか、分かってんのかな。

 

「それと、こないだはご苦労様。Gタイプを一機ついに撃墜したな」

「……!」

「ブリッツだったか」

 

 時が来たというわけだ。

 次の交戦で、キラは連合を離れることになる。

 オレは……離れるつもりはない。既にMSパイロットとしての打診ももらえる程度には、乗りこなせるようになったんだ。

 

「ああ。ヤマト……ごめんな。お前に押しつけて」

 

 彼の瞳を見つめながら、そう言った。

 アークエンジェルクルーたちからの賞賛の声を、どんな気持ちで聞いていたのだろうかと。

 考えたくもない思考がぐるぐると渦巻いていた。

 

 嫌だ、と思う。

 オレの目的は記憶を取り戻した瞬間に決まったのだ。

 そこに迷いを挟みたくはない。

 

「アオイ……そんな、僕は」

「お前に押しつけた。ごめん」

 

 ヤマトの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。

 しばらく呆然としていた彼は、やがて俯いて、肩を震わせ始めた。

 

 まあ気にすんなよ。

 そろそろ、イージスの自爆に巻き込まれて。

 プラントに運ばれて。

 それで、ラクスと出会って、新たなる剣を手に入れるんだ。

 

 誇らしい道筋じゃないか、と思った。

 けれど。

 

 自分の心の中で、何かが軋む嫌な音を立てていた。

 

 オレは無理にそれを聞かなかったことにした。

 

 そうすることしか、できなかった。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 サーベルを振り抜いた。

 空を切った。

 

『…………ぇ』

 

 コックピットのモニターが火花と煙を噴き上げた。

 思わず顔を手で庇うが、飛び散った鉄の破片に頬を切られる。

 

「……はは。さすがすぎる」

 

 反射的な一閃だった。

 フリーダムは手に持っていたサーベルを咄嗟にオンにして、そのままストライクの胸の上部に突き立てていた。

 インパルスは顔で受け止めてたけど、オレは、ああいう、うまいこと、できなかったなあ。

 

『ち、が』

「……ヤマト。お前の勝ちだ。まあ、勝てるとは、思ってなかったけど」

 

 言葉を発しようとして、いやに身体が鈍かった。

 そこで気づく。コックピットの小規模な爆発で、腹部にもいくつか鋭い鉄片が突き刺さっていた。

 こぷ、と粘性のある血が口元からこぼれる。

 

 

『いや、だ、そんな……ぼくは……』

 

 

 やっとだ。やっと望み通りになった。

 火花を散らすモニターが、音を立てて切れていく。

 機体が限界を迎えつつあった。

 

 

『ひぐっ……う、えっ』

 

 

 あーあ。

 泣いてるでやんの。

 

 

『アオ、イ……僕は……僕は君を……』

 

 

 超気持ちいいなこれ。

 あのキラ・ヤマトが、直接オレをぶっ殺したんだ。

 こんな名誉があるかよ。

 

 

 ああ、視界がぼやけていく。

 

 なんで、殺されたかったのか。

 

 

 そう──オレは。

 

 

「ヤマ、ト────」

『……ッ! アオイ! アオイ!? まだ、まだ意識があるなら脱出を! 早く脱出してくれ! 僕は、僕は君を殺したくなんて! 僕は君のことが──!』

 

 フリーダムがスラスターを炸裂させ一気に距離を詰めてくる。

 伸ばされたその右手を目視し、オレは鼻で笑った。

 

 

 

 

 

「ヤマト────お前を、愛してる」

『……ぇ』

 

 

 

 

 

 伸ばされた右手を、残っていた左足で蹴り飛ばす。

 大きく横に吹き飛ばされたフリーダムが、慌てて体勢を立て直す。

 バチ、と一層ひどく火花が散った。

 

 

 ああそうだ。

 フリーダムに乗ってからのお前に殺されるのは、お前にとっての唯一になれるってことだ。

 そんな大役を、クルーゼごときに譲ってたまるかよ。

 

 

 ヤマトの中に、唯一の存在として刻まれたい。

 どうせ死ぬなら、オレのことを二度と忘れられないようにしたい。

 フレイ・アルスターの残留思念が彼を導いたように、オレの最後の怨念が永久に刻まれて欲しい。

 

 

 こんな世界で、二人で幸せになるなんて無理に決まってる。

 そしてヤマトは、ずっと戦い続けるのだ。覚悟はできていると言える彼は、戦えてしまうのだ。

 

 

 オレにはできない。

 だけど、オレは……ヤマトに、忘れて欲しくはないと思った。

 

 

 機体が火花を散らす。

 爆発まで一刻の余裕もないだろう。

 

 

 ストライク、ごめんなあ、オレの自殺に付き合わせて。

 でもまあ、最先端と戦えて楽しかったろ?

 

 

『アオイ!!』

 

 

 びくんと肩が跳ねるほど、鋭い叫びだった。

 ヤマトの声。

 オレは強ばった身体から力を抜いて、へにゃと笑う。

 

 

 ああそうだ、最後に言いたい言葉は決めてたんだ。

 

 

 

「ヤマト。何度でも、花を植えていけよ。そのたびにオレを思い出せ────」

 

 

 

 最後ぐらい、ちょっとは前世知識ありきでモノ言っとかないとな?

 こちらに再度近づこうとするフリーダムを最後に、視界が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 オーブ軍を含んだ地球連合軍と、ザフト所属ミネルバが戦っていた。

 海をミサイルやビームが穿つ。MSが爆発していく、生命の価値が軽い戦場。

 

 ミネルバ艦長が、陽電子砲であるタンホイザーの使用──を、許可しようとした刹那。

 声が響いた。

 

 

 

『戦闘域に存在する全てのMSに通達します』

 

 

 

 戦場に舞い降りるは、かつての大戦を終わらせた蒼い翼──では、なく。

 

 

 

『こちらはあらゆる国家・軍隊に所属しない私設武装隊、アークエンジェル部隊です』

 

 

 大天使の名を冠する母艦を後方に控えさせ。

 

 

 そのモビルスーツは、()()()()()()()()()()を広げる。

 

 

『我々はこれより、あらゆる戦闘行動を行う機体・戦艦を、撃滅します』

 

 

 その名はガンダム。

 フリーダムガンダムを修復・独自改修した、連合とザフトの技術を強引に混ぜ合わせたキメラモビルスーツ。

 

 

『これは勧告ではありません、宣言です』

 

 

 型式番号は改め、ZGMF-X10Z。

 

 

 フリーダムガンダム・エグゼキューション。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 かつて恋していた少女の返り血に染めた翼をはためかせ。

 

 自分がアオを背負うことに耐えきれないまま。

 

 もう散り、枯れ果ててしまったはずの一輪の花を守るために。

 

 

 

 キラ・ヤマトは自分の意思で、戦場に舞い降りた。

 

 

 












BADEND99『あんなに一緒だったのに』


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