美琴たち3人はゆんゆんの家の中へと案内される。3人はゆんゆんの案内に従ってついていくと、いくつかのドアが配置された廊下を通り抜け、リビングへと入っていった。
「まずはお茶を用意しますので、そこのソファーにお座りになってください」
ゆんゆんがやけに礼儀正しく案内すると、3人はリビングに設置されたソファーに座る。
「このソファー、フッカフカだねぇ! 新品みたい!」
佐天がソファーの率直な感想を述べる。
「そうね、確かに状態はいいみたいね」
「このソファーって、実際いつ買ったものなのですか?」
初春がゆんゆんに対して質問をする。すると、お茶を入れている最中のゆんゆんが台所から返事をする。
「数年前に買って、実家の私の部屋で使っていた物です」
「へえ~、ゆんゆんさんって物持ちがいいんですね」
ここだけの話、ぱっと聞いただけでは「物持ちが良い」程度の話なのだが、ソファーが綺麗な原因が「ゆんゆんしか使わないから」であることに3人が気づくには少し早すぎたようだ。
しばらくすると、奥から3杯の紅茶が用意され、美琴たち3人が座るソファーに併設された机の上に置かれた。
「私はこれから皆さんへ料理を振舞いますので、それまでゆっくりしていってください」
ゆんゆんが3人分のお茶をソファーの前のテーブルに持っていくと、調理の準備を始める。
それにしても、もう夕暮れの刻ということもあって、そろそろこの家の他の住人が帰って来ていてもいい頃なのだが、まだ誰も帰って来ていないようだ。このことに気づいた美琴が、ゆんゆんに率直な質問を投げかける。
「あのさゆんゆん、この家結構広いけど、一緒に他の冒険者仲間とか住んでたりはしないの?」
「いえ、私1人ですよ」
「な、何と贅沢なぁぁ……!」
「す、すごいですね……」
「(そ、そっかぁ……)」
『セレブ』に対する憧れを持つ初春は、広い家を一人だけで独占して使えるゆんゆんに対して非常に輝かしい目を向けていた。佐天も、初春の発言でそう思い込んでしまったのか、『広い家で一人で優雅に暮らす貴族系冒険者』という印象を持ってしまったようだ。
しかし美琴はというと、広い家に一人で住んでいることと、肉屋で得た「ゆんゆんには友達がいない」という情報に整合性がある事に気づいていた。しかし、初春と佐天のあの発言の後にこのことを言い出すのはさすがに憚られたようだ。彼女たちは完全に逆の意味の方だと思っているので言いにくいし、何よりも今日ゆんゆんと出会ったばかりの美琴がいきなり「ゆんゆんはぼっち属性持ちだ」とか言っても信憑性に欠けるだろう。
というわけで、この場では美琴は何も言わずに無言を貫くことにした。
一方でゆんゆんはというと、3人から特に返事が帰ってこない様子を見て、何とも言えない微妙な空気を感じるものの、いつもの事で慣れているのか、何もなかったかのように調理を再開する。
ゆんゆんが調理を再開してしばらく経った頃、美琴を初春はお茶を飲んでゆっくりしていたのだが、見知らぬうちに佐天の姿が見当たらなくなっていた。2人がリビングの周りを見渡すと、佐天が「ガサガサ」と音を立ててリビングの収納庫から何か物を漁っている様子を発見する。
「さ、佐天さん。いきなり何やってるんですか!」
初春が佐天の奇行に対して声をかける。
「やっぱ友達の家に来たらガサ入れかな~って」
((あぁ…………))
「が、ガサ入れって……?」
ゆんゆんが言葉の意味を聞き出そうとするが、佐天は『ガサ入れ』を止めずに続けていた。
そして美琴と初春の方はというと、初春と佐天が美琴と黒子の寮を訪問しに来た時の佐天の行動を思い出し、妙に納得してしまうのと同時に、なぜかやって来る嫌な予感を感じていた。
そしてついに、佐天がアルバムのようなものを発見する。表紙には、可愛い文字で「ゆんゆんの記録」と書かれている。
「あ~! これってもしかしてゆんゆんさんの昔のアルバムだったりします!? 見ていいですか!?」
「あ、あの……」
ここでゆんゆんは、もじもじしながら「見てほしくない」と言いたげな様子でアイコンタクトを取ろうとするのだが、アルバムに夢中の佐天には全く気づいてもらえなかった。
「あれ? ページが開かないよ? ん~、これってもしかして普通のアルバムとは違うのかな…… とりあえずこのボタンを押してみたら……って、開いちゃった!」
本当は、このアルバム(仮)は重要な場面を記録してアルバムのようにまとめて表示する魔道具なのだが、佐天がそれを知る由はなかった。
「ん~、どれどれ~? って、どれもゆんゆんさんしか映ってないじゃないですか! しかもこのシーンチョイス…………っぷぷ!」
アルバム(仮)の中身はというと、ゆんゆんが1人オセロをしていたり、1人パーティーをしてたり、何か禍々しい魔法陣に向かって魔法を唱えるゆんゆんだったりが写っていた。あまりに滑稽に見えてしまったのか、佐天はついうっかり笑ってしまった。
「へー、見せて見せて。……って、何この写真……」
美琴はこれらの写真に対するコメントに困ってしまったのか、何とも言えない微妙な顔をする。それもそのはず、これでゆんゆんの『ぼっち属性』が確定してしまったのだ。下手にこの状況で慰めようとすると佐天さんみたいにうっかりやらかしてしまうかもしれないので、この場でもこれ以上は言わないことにした。
「どんな写真なのですか~? って、あれ? すごく寂しそうな顔をしてますね……」
初春はついうっかり、これらの写真が意味する真実を突いた発言をしてしまった。ちなみに事前情報がないので、本人にはその自覚はないのだが……
そして、佐天が 友人たち3人の発言や様子から 「何かがおかしい」と感じ、ゆんゆんの方を確認してみたのだが、それはそれは真っ赤な顔をして恥ずかしそうにしているいるゆんゆんが居たのであった。
ここで、自分がパンドラの箱を開けてしまったことにようやく気付いてしまう。
「あっ、これってもしかして、開けてはいけなかったやつだったりして……」
3人とも無言を貫いているが、その様子が逆に「はい、そうです」と言わんばかりの空気を醸し出していた。
「す、すみませんでしたぁぁ!!!」
佐天が大覇星祭の『シャドウメタル探し』の時と同じように、自分の『やらかし』に対して深々と頭を下げて土下座する。
「と、ともだちだから、き、気にしないで……」
こうして、ゆんゆん初(?)の複数人お泊り会兼、美琴たち初の異世界で過ごす夜が始まったのであった……
* *
最初は佐天がパンドラの箱を開けてしまって大変なことになってしまったが、その後はなんだかんだでお互いに楽しい時間を過ごすことができた。
夕食でゆんゆんが「お祝いだ」ということで豚の丸焼きを焼いてきた事にはさすがに3人とも驚いてしまったが、味はとても美味しかったので大満足であった。
とはいえ、ゆんゆんが「ジャイアントトードの分のお金がすっからかんに……」とか言ってたのは聞かなかったことにしよう。
それからも、4人でトランプをして遊んだり、一緒に風呂に入ってはしゃいだりした。それにしてもこの家の設備って、一人で使うには広すぎるような気がするような……。
そういえばゆんゆんから聞いた話によると、この世界には私たち以外にも日本から転生してきた人たちがいて、その人たちがこの世界に伝えていった物が残っているらしい。このトランプも、かつて日本からの転生者が紅魔の里に残していった物らしい。とはいえ、遊び方までは本来のものが残っている訳ではないようで、どうやら途中でルールが変わっていったみたいだ。なので、最初はお互いに戸惑っていたが、徐々にこの世界の方のルールに慣れていった。
そして、そろそろ就寝時刻が迫っている。特に何時何分に寝ないといけないと決まっているわけではないが、もう夜も遅いのでそろそろ眠くなってきた。ちなみに、なぜか個室もベッドも家に余っているものがいくつかあったということで、借りさせてもらっている。なので、この回想も余っている個室のうちの1つでの出来事である。
「まあ、最初はどうなることやらと思ったけど、意外と何とかなったわね。初春さんや佐天さんとも再起できたし、このままこの世界で暮らしていくのも悪くはないかもね」
「って、あれ? そういえば黒子とはまだ再開していないような……」
御坂美琴は黒子とまだ再開していない事に疑問を感じたものの、あれこれと考えているうちにそのまま眠りについてしまった。
翌日。そろそろ日の出が差し迫った頃だろうか、外は薄っすらと明るくなってきている。御坂美琴は、ベッドの中に何かが居るような感触を受けて目を覚ます。
「ん~~、何だろう?」
目覚めてベッドの方に目をやると、布団が妙に膨らんでいる。この時点では何が起きたのかさっぱりと理解できなかった美琴であったが、ある要因がきっかけで納得してしまう。
そう、ベッドの中から何度も嗅いだことのある懐かしい匂いを感じるのだ。
もしかしてと思い、ベッドの中を確認してみると……
「お、お姉さまぁ~~! ついにお目覚めになられたのですね!(ハァハァ) 」
ベッドの中には、発情して顔を真っ赤にした黒子が居た。
本来であれば黒子との再会を純粋に喜ぶべきなのだが、まずはこのあからさまな迷惑行為を諌めなければならない。物理的に。
「な、なに勝手に人の寝床に潜り込んでんのよ!」
バチバチバチッ!
美琴が黒子に電撃を放つと、黒子はいつものようにむしろ喜んでいる様子を見せる。
「お、お姉さまの厳しい愛も、私にとってはご褒美ですのよ~~、あぅ! そ、そろそろお止めになって……、あぅ!!」
「まずはあんたのその変態感情を止めなさいよね!」
「あぅ!!」
何発もの電撃を受けた黒子は、体をその名の通り真っ黒こげにして地面に横たわってしまった。電撃の衝撃のせいだろうか、体がぴくぴくと動いている。
「はあ……、せっかく黒子と再会できたと思ったら、いきなりあんな事をしてくるなんて、台無しだわ」
美琴が寝室の中で捨て台詞を吐くと、その場を立ち去っていった。
* *
美琴たちにゆんゆん、そして今日この世界にやって来た黒子の5人は、朝ごはんとして、ゆんゆんが大盤振る舞いした昨日の夕食の残りを食べている。
勿論、話題は美琴が朝起きたらいつの間にか居たという黒子のことについてだ。初春が早速議題に出す。
「あの……、白井さん? なぜ私たちがここに居ると分かったのですか?」
「 私、いきなり魔法陣に囲まれて別の世界に飛ばされたと思ったら、そこは何と、お姉さまがお眠りになられている部屋でしたの! 何という幸運! さすがの女神様ですわ! 私の事がよ~くお分かりだったのかしら!」
「「「………………」」」
「あら? 何だか反応が微妙ですわね?」
それもそう、黒子以外の3人は転生時に多大なる苦労を背負ったのだ。微妙な空気になるのも仕方がない。
「私なんか、スタート地点が何もない草原だったんだからね? いきなりロビンソン・クルーソーになるかと思ったわ」
「私だって、転生してきたらいきなり街の花屋の花瓶の中だったんですからね? 抜け出すのに大変だったんですよ?」
「私も、転生してきたらいきなり金庫室の中だったから、盗賊扱いされて大変だったんですよ?」
「皆さん大変な苦労をなされましたのね……。でも、初春のは何だか子供みたいで可愛いですわね……ぷっ」
「わ、笑わないでください白井さん!」
「こ、これは失礼。『親しき中にも礼儀あり』ですわね」
「人をからかっておいて急にためになるような事を言わないでください……」
ちなみにゆんゆんはというと、勿論『転生』の話題についていくことは出来ないので、ただただ話を聞いているだけであった。
しかし、話に一区切りがついた所で勇気を出して割って話しかける。
「あの~、白井さんって、要するにダクネスさんみたいな感じですか?」
ゆんゆんが例えを使ってまとめようとするが、残念ながら『ダクネス』にまだ出会っていない彼女たちには通じない例えであった。
そういう所だぞ? ゆんゆん。
「んー、『ダクネスさん』がどんな人かは知らないけど、そうなのかもしれないわね」
美琴が、荒波を立てないよう当たり障りない返しをする。
「へ~、『ダクネス』さんってどんな人なんだろうな~」
「とは言っても、どうせ白井さんみたいに変な人なんでしょうね」
初春が唐突の腹黒発言を吐き出すと、それを聞いた黒子が動揺する。
「変な人呼ばわりしないでくださいまし! これでもれっきとした『風紀委員』ですのよ!」
「初春が言いたいのはそういうことじゃないと思いますけど……」
「ま、まあいいですわ。それよりも皆さん、今日はこの後何をするご予定ですの?」
「そうね、今日は冒険者ギルドで冒険者登録するつもりよ」
「……冒険者?」
「ええ。転生してきた時に女神に魔王を討伐するように言われたでしょ? この世界には『冒険者』というシステムがあって、魔王を倒すにはそれを利用するのが一番早いそうよ」
「なるほど、そういう訳ですのね。とりあえず了解ですの」
「あっ、そうだ。ゆんゆん、黒子が来たからもう1000エリス貸してくれない?」
ゆんゆんが奥から財布を取り出し、追加で1000エリスを取り出す
「は、はい、どうぞ……」
美琴がゆんゆんから1000エリスを受け取ると、4人は支度を済ませ、冒険者ギルドへと出発していった。
あとがき
そういえば、今ちょうどとあるIFでこのすばコラボやってるんですよね。
一通りストーリーは読んだんですけど、やっぱりカオスですね(誉め言葉)
あと、公式でも初春とゆんゆんの声優ネタは使うのねw
(2020/10/3追記)
話のキリが悪かったので、元々6話にあった部分の一部をこちらに移しました。
初めて読んでくださった方にはあまり関係ありませんが、一度読んでくださった方で混乱してしまうといけませんのでご報告した次第です。