死の外科医の双子妹の話   作:四季7

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番外編。【4.ファミリー】の日の夜。双子は出ません。ドンキホーテ兄弟の思いをつらつらと。勢いで書いたので消すかもしれませんがとりあえず。


番外編:兄弟と双子

 

 

side.Rosinante

 

 

夜空にぽかりと満月が浮かんでいる。雲ひとつない夜空で、辺りは満月の光で煌々と照らされている。ただ、照らし出されているのは海賊団のアジトやゴミ山なので、なんの風情もへったくれもない。おれはデッキの手すりに乗ってしゃがみこみ、ふうと口から煙草の煙を吐き出した。

 

 

 

「ロシィ」

 

 

 

後ろから本名を呼ばれた。実の兄の、ドフラミンゴだ。面倒だが仕方なく、煙草を咥えて顔だけドフィのほうへ向けた。ドフィはコツコツと静かな足音を立てながらおれに歩み寄る。そして手を伸ばし、おれの煙草を奪い取った。取り返そうとしたが、吸い始めたばかりの煙草はドフィの手でグシャリと揉み消されてしまった。すぐに懐から紙とペンを取り出して苦言を呈す。

 

 

 

【なにしやがる】

 

「怪我人は大人しく寝てろ」

 

 

 

背後から左脇腹あたりを小突かれた。途端に激痛が走り、バランスを崩してゴミ山へ落ちかけたところで、ドフィに腕を引っ張られて引き戻される。そのまま手すりからも引きずり落とされたので、仕方なくおれは手すりに背を預けてデッキに座り込む。「ドジも大概にしろよ」と上でドフィは言ってるが、今のはドジじゃなくてどう考えてもお前のせいだと伝えたい。でも痛みでそれどころではないので、傷がある辺りを手で押さえて息を詰める。痛みが去るのを待ちながら、ぎりぎりと奥歯をかみ締め抗議の意を込めてドフィを睨んだが、ドフィは全く意に介さずニヤニヤしている。しばらくしてやっと痛みが収まった頃、今度はピリピリと肌を刺すような感覚と、息苦しさ。見上げれば、真顔でこちらを見下ろすドフィ。たらりと背筋に汗が流れた。ドフィの野郎から覇王色の覇気が漏れている。寝静まった夜更けに迷惑な奴だな…

 

 

 

【はき めいわく】

 

「フフ…弟にそこまでの怪我を負わせたんだ、苛立つのも当然だろ?しかももう全部片付いてるときた……おれはどこにコレをぶつけりゃいい?」

 

【しるか】

 

 

 

これやったの、あの双子だけどな。心の中だけでそう付け加えながら、溜息を吐く。厳密には、刺したのはローで、ローズは遠くで見ていた、か。覇王色の覇気を収めたドフィはおれの隣に立って手すりに背を預け、月を見上げている。逡巡してから、おれは紙にペンを走らせた。書き終えた紙がドフィの視界に入るように掲げ、ぺらぺらと揺らす。

 

 

 

「あ?」

 

【ふたごにいったこと ほんきか?】

 

「あァ…右腕のことなら、本気だ」

 

【なんでそこまで】

 

「…それはわざわざ聞くことか?」

 

「?」

 

「お前にもわかっただろう?あの双子は、あの頃のおれ達だ」

 

 

これ以上、ドフィにあの双子へ関心をもたせたくない。だが否定したりはぐらかしたりするには、あの双子はドフィに似すぎている。結局答えあぐねて、次の紙に走らせかけたペンを持つ手が止まった。それを肯定とみたドフィは、ほら見ろと言わんばかりに笑って俺の頭に手を置いた。すかさずその手を振り払っても、それを不快に思った様子もなく笑い続けている。

 

 

 

【ふたりともドフィによくにてる】

 

「『おれ達』っつったろ。ローはおれで、ローズはお前だ」

 

 

 

ローズが、おれに?

驚いて見上げると、ドフィと目が合った。

理解できないという顔をしていたのがわかったようで、ドフィは肩を震わせ、心底愉快そうに答えた。

 

 

 

「フフフッ…アイツはあの頃のお前と違って、取り繕うのが上手いからなァ。だがアレはロシィ、ガキの頃のお前とそっくりだぞ」

 

 

 

あの頃のおれは、全てが怖くて、ただ泣いているだけだった。ドフィが父を殺したことが決め手となって、耐えられずに逃げ出した。ローズも、怖がっていると?―――いまいち、ピンと来ない。腑に落ちない様子もドフィには伝わったようだが、それ以上の解説はなく、ただ「似たもん同士仲良くやれよ」と軽口を叩かれた。もうその話題はおれには理解できそうもないので、別のことを問う。

 

 

 

【あくまのみ どうするつもり】

 

「どうもしねェよ。あいつらの運次第だ」

 

【なにかしらを さがす気だろ】

 

「検討はつける。が、特別に探す気はない。これからの取引の中で話が出れば追う。放っておけば3年で死ぬガキどもだ、それくらいの運がなきゃ、未来の右腕にはふさわしくねェよ」

 

 

 

そう言って、ドフィは背を預けていた手すりから身を離した。そのまま歩き出し、早く寝ろとだけ振り返らず言い残して、ドフィは去っていった。

 

ドフィの気配が完全に消えたのを見計らって、細く長く息を漏らす。実の兄とはいえ、おれの敵であり、潜入先の親玉だ。あいつの傍では少しも気が抜けない。いなくなったのをいいことに、新しい煙草に火をつけた。肺いっぱいに煙を吸い込み、ふうと吐き出しながら、昼間のことに思いを馳せる。

 

双子がドフィに正式なファミリー入りを許可されたあの時。誰にやられたと問うドフィに、おれは【てき】とだけ答えた。バラされると思っていたらしい双子のあまりの驚き様は、そのせいでドフィにバレるのではないかとおれが冷や冷やするくらいだった。

 

おれが庇ったことに、ローは明らかに困惑した様子だった。でも、その目にはおれを刺した時のような敵意は感じられなかった。真意が読めずにどうしたらいいのか分からないのだろう。そんなおれに対して、おそらくローはしばらく距離を置くはずだ。だが、問題はもう片方…ローズのほうだ。ベビー5に手を取られて退室するギリギリまで、ローズは敵意と憎悪の目でおれを見ていた。初対面の頃からそんな感じだったが、ローの陰に隠れて見える程度だったそれが、苛烈さを増している。天敵と見なされたんだろう。彼女がどんな行動をするか……正直、予測がつかない。ドフィは、ローズが幼い頃のおれと同じだと言うが、全くの正反対だとおれは思う。むしろあの苛烈さは、ドフィにそっくりだ。ローと同じか、もしかするとロー以上に。

 

吐き出した煙をぼんやりと目で追えば、空に浮かぶ月に辿り着いた。そういえば、あの双子も満月みたいな目だったな。同じような色なのに、双子とは全く違う輝きに、目を細める。…フレバンスの悲劇がなければ、あの双子の目もあれのようにきれいに輝いていたんだろうか。たらればの話に意味がないことなんて、おれ自身がよくわかっていることだ。それでも、悲劇を背負うには幼すぎる双子に、同情するのを止めることはできなかった。あの頃のおれ達には、周りに助けてくれる人間なんてひとりもいなかった。だが、あの双子は違う。おれが、どうにかしなければ。そう決意を固めて、短くなった煙草を消した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

side.Doflamingo

 

 

 

ワインのボトルを手に取り、栓を開ける。窓際に置いたテーブルの上にあったグラスにワインを注ごうとして、その横にある本に目が止まった。数日前に読み終えた、フレバンスの本。フレバンスの歴史や風土、珀鉛産業について書かれたものだ。

 

それによると、フレバンスは国の興りの頃から珀鉛が関わっていたらしい。だからフレバンスの歴史は、珀鉛産業の発達と共に語られている。――今となっては、始まりから破滅の道を歩んでいたことになるのだから、なんとも皮肉な話だ。本来背負う必要のない業を背負わされ、迫害された双子。破壊だけを望む荒んだ目。迫り来る死を恐れず、残り少ない生を全て破壊に捧げんとするその恨みの深さ。気に入らない理由がないだろう?

 

初めこそ、2人とも幼い頃のおれだと思った。だが今は違う。あの双子は、幼い頃のおれ達だ。昨日の昼間のあれから、ローズへの印象が変わった。

 

噂程度の話を真に受けたジョーラやマッハバイスが騒ぎ立て、何も知らない他の連中に動揺が広がったとき、初めて双子の反応に違いが見えた。ローの目に宿ったのは怒りで、ローズの目に宿ったのは恐怖だ。あまりにも情けないジョーラ達を叱責したことで、ローズの目が変わる。食堂を出るまで、そしてファミリー入りを正式に認めたときの食い入るようにこちらを見る目。縋り付くようようなその目。いつもなら鬱陶しく感じるものだが、不思議とローズのはそう思わない。それに、既視感があった。それが何かすぐには分からず、しばらく考えて、やっと思い出した。泣いておれの後ろについてきていたロシィだ。――ああ、ローズは取り繕うのが上手いだけで、本当は怖くて、助けてほしいのか。

 

ふ、と笑みがこぼれた。グラスに注ぐのをやめ、ワインボトルを持ち上げて中身を一気に煽る。窓の外の夜空には、満月が浮かんでいた。それが、ローズの助けを乞う目と重なって、ますます気分が良くなった。

 

おれ達は途中ではぐれ、十数年の時を経て再会した。だが、あの双子は違う。国を出た時は別々だったらしいが、幸いにもすぐに再会できた。おれ達とは違う運命を辿る、おれ達に似た双子。そんな存在を、そばに置かないはずがない。右腕として育てると決めたのは、おれ達ができなかったことをこの双子が見せてくれるに違いない、という期待があるからだ。果たして死ぬのが先か、それとも運を引き寄せて3年という余命を乗り越え、化けるのか。これからが楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

【4.5兄弟と双子】終

 

 

 

 

 






ドンキホーテ・ロシナンテ
兄の思考はやはり理解不能。誰がおれに似てるって?
双子のことが心配。似ているからこそ、兄と同じ道に行ってはいけないと思っている。



ドンキホーテ・ドフラミンゴ
ローはおれ、ローズはお前。そっくりじゃねェか。
双子に自分達兄弟を重ねて見ている。もしもあの時、ロシナンテと離れなければ。それを見たいという思いもあって、双子を引き取った。


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