幻想国防録2021   作:あのぽんづ

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結局原作キャラの登場シーンが当初の想定より少なめになってしまったっ………!
お偉方の会議シーンぶち込ませた脳内幕僚監部の幕僚連中が悪いんだ、私ァ悪くない(苦し紛れ)

それでは本編どうぞ………。


Ep.04 菫子

神奈川県大和市に深見という町がある。

至って普通のこの町だが、数年前ここに私立の進学校が開設して以来、

全国からこの学校に通おうという学生が集まるようになっていた。

そんな水曜日の昼下がり、進学校たる東深見高等学校の敷地に、黒塗りの車がやってきた。

車は駐車場に停まり、そして2人の男が降りてきた。瞭二と聡である。

この2人は時津川が残した情報を頼りに、幻想郷を良く知るらしい重要参考人を探しに来ていた。

宇佐見菫子。現在推定22歳。私立東深見高等学校卒業。現住所及び職業は不明。

オカルト好きの自信家であり周囲の人間を見下す傾向にあったが、

幻想郷と何らかの関わりを持って以降その傲慢さは鳴りを潜めるようになったという。

彼女を調べる大きな理由には『何らかの方法で幻想郷と日本を往来している疑いがある』という、

実に興味深い情報がもたらされていることもあった。

現在この重要参考人について分かっているプロフィールは以上の通りである。

時津川の行方を捜索する意味でも、そして幻想郷を調べ上げる意味でも、

この重要参考人を放置することはできないのがレコンの実情だ。

現状彼らが持っているのはあくまで時津川によってもたらされた情報のみであり、

そこには当然勘違いや記述漏れがあることは言うまでもない。

そこを補完する上でもこの重要参考人の情報は必要だし、

まして彼女がもし幻想郷の内情を時津川よりも詳しく知っていたら、更なる情報が得られる。

そういう点を考慮し、聡と瞭二は実際の聞き取りで、滑川と久住、笹川はネットで、

2つのルートからこの宇佐見菫子なる人物を調べ始めた。

そうして最初に、時津川が手紙に残した彼女の母校たる東深見高校を訪ねたのだ。

進学校というイメージとは裏腹に、実際の雰囲気は普通の公立高校とさして変わらなかった。

車を降りた2人は校舎昇降口まで行き、すぐ脇の事務室にいる受付の事務員に声を掛けた。

 

「すいません、警視庁のもんです。ここの卒業生で宇佐見菫子さんって方いると思うんですが、

その方の進路先とか、あと現住所とか連絡先とか教えて頂けませんか?」

「えっ、はい?」

 

いきなり警察手帳を見せられそう言われた事務員は戸惑う。

無理もない。この事務員は宇佐見菫子なる学生のことなど露ほどにも知らないのだ。

そのことはこの若い事務員の女性の表情から見て取れる。

 

「え、えっと、個人情報になりますので部外者の方にはちょっと………」

「そこォなんとかお願いできませんか?こっちも色々困ってるんですよ」

「そ、そう言われましても………」

 

事務員は困った様子でそう返す。この場合どうすればよいかわからないのだろう。

普通なら無理なものは無理だと言って追い返すのだが、相手は警察官である。

何かしらの事件の捜査なら、一般市民として協力しようとも思ってしまう面もある。

何より、これで後々になって公務執行妨害とかで捕まるのは真っ平御免だろう。

板挟みになっている事務員に、聡はこう言う。

 

「あーわかりました。じゃ校長先生とかその辺の偉い人と話がしたいんですが?」

「あ、はいわかりました。少々お待ちください」

 

聡が譲歩案を出したことで、事務員もてきぱきと動きだす。

こういう重大事案はやはり責任者に聞くに限る。

その後校長と連絡が取れ、校長室へと通されることとなった。

事務員に案内され、2人は校舎内を歩く。

ちょうど休み時間にぶち当たったらしく、廊下には多くの学生達がいた。

近付くと彼らの視線がこちらに向く。その意味するところは様々だ。

好奇心、警戒心、この2つが大半を占めていたと言えよう。

そんな中、歩く瞭二の耳元であの幻覚の少女が囁いた。

 

『どう?高校の校舎入った感想は?若くて可愛いコがたくさんいるね~』

「………」

 

からかう彼女の言葉を無視し、瞭二は聡と事務員についていく。

だがただ黙っているだけではなかった。

 

『ここなら可愛い女の子見放題だよ瞭二さん?

ほら、あの子なんかおっぱい大きいし………あいたっ』

 

瞭二は数多の視線がすべて外れる一瞬で、人目を盗んで彼女の頭に拳骨を落とした。

もし神とやらがいるのならこの一瞬をもたらしてくれたことに最大限感謝しておこう。

 

『もぉー酷いよ瞭二さん!虐待だよ虐待!暴力反対!』

 

涙目になりつつそう抗議する彼女を澄まし顔で無視し、瞭二は進む。

どうせこの幻覚は瞭二にしか見えても聞こえてもいないのだ。これ以上相手する必要もあるまい。

その時、聡が振り向いた。やれやれといった様子で肩をすくめる。

瞭二は失念していた。彼もまた特異な人間なのだ。きっと頭に来た時の曲でも聞いたのだろう。

見えてはいなくても、聞こえてはいるようだった。

そうして瞭二達は校長室へと通される。

ふくよかな腹とキラリと光る頭頂がトレードマークの校長が出迎えた。

 

「どうも、校長の河内(かわち)と申します」

「警視庁の門倉です」

「同じく村崎です」

 

聡達も警察手帳を見せて自己紹介する。

 

「とりあえず、おかけください」

 

河内が椅子を勧めた。断る理由もないのでここは素直に座らせてもらうことにする。

 

「で、我が校の卒業生の進路先などについてでしたか」

「ええ。ちょいとある事件に関わりがあるようでしてね、お話伺えればと」

 

すると河内は苦笑いして答えた。

 

「いやあしかし、そうは言われましてもねえ。

こちらとしても卒業生の個人情報を外部の方にお教えすることは出来ないんです」

「あー、やっぱりそうですか。それじゃ仕方ありませんねえ」

 

聡はにっこり笑ってそう言う。河内も聡が引き下がると思ったのか愛想笑いを続けた。

 

「ご理解いただけましたか」

「ええ、そりゃもうバッチリと。村崎、令状請求しろ」

「了解」

 

聡の台詞の後ろ半分、瞭二への命令を聞いて瞭二は部屋を出て電話をかけるふりをする。

一方の河内は顔色を急変させた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?令状って………!?」

「強制差し押さえ令状と家宅捜索令状ですが?」

 

さも当然とばかりに聡が言い放つ。

 

「校長先生、私にゃ1人親友がいましてね、その息子がここの卒業生なんですよ。

でもね、私も警察官ですから当然犯人をとっ捕まえるために手段は選びませんし、

一々手段選んでたらいざって時取り返しのつかないことになっちまう。

でもここに立ち入り捜査を入れることになるとここの評判は下がっちまうんですよ。

令状が執行されることになったら我々2人だけなんて生ぬるいレベルじゃすまない。

制服着た警官がぞろぞろと2桁は押し寄せて、少なくとも3日は休校していただくことになる。

そうなるとこの学校が容疑者を匿って警察の捜査対象になったって周囲に簡単にバレちまうし、

マスコミだって当然ハイエナの如く嗅ぎつけてくるわけだ。

私だって親友の息子の母校に強制捜査を入れてここの評判をがた落ちさせたかないんですよ。

ですから校長先生。ここは1つご協力頂けませんか?お願いしますよ、殺人事件の捜査なんすよ」

 

聡が噓と事実をない交ぜにして説得にかかる。ダメなら証拠をでっち上げて本職に頼むしかない。

が、そうなる可能性はなさそうだというのが、河内を見た聡の見解だった。

世の中を口とコネだけで渡り歩いてきたであろうことは顎を見ればよく分かる。

そういう人間の発言傾向と同じパターンの顎をしていた。

人間の顎の骨格は青少年期の言動によってある程度形成される形状が変動するのだ。

聡とて特殊作戦群という特殊部隊出身であり、非公式の任務に幾度となく従事した身だ。

まして日本の政治的事情から、他所の特殊部隊よりも厳重に極秘性を徹底しなければならず、

必然的に情報をくれてやる相手は細心の注意を払い選ばねばならない。

そう言った観点から、聡は特殊作戦群にてある程度のプロファイル技術も叩き込まれていた。

 

「で、でもさっき令状を請求しに行ったんじゃ………?」

「令状は発行されても必要なくなれば使わずに破棄できます」

「じゃあ、協力したら強制捜査なんてことには………」

「なりませんし、させません。ご安心を」

 

河内の質問にそう答えると、河内はしばし考え、やがて答えた。

 

「わかりました。ご協力させていただきます」

 

聡は河内の口からこの言葉を引き出すことに成功した。

校長が1度協力すると言った以上、聡と瞭二はいくらでもこの件に関し情報を閲覧できる。

聡は笑みを浮かべ、わざとらしく頭を下げた。

 

「ご協力感謝します」

 

瞭二が戻ってきたのはその頃で、瞭二はその構図を見て何があったのかを察した。

 

 

 

首相官邸地下1階に存在する官邸危機管理センターの対策本部会議室は、

いつもと違い内閣閣僚のお歴々が極秘で集っていた。

さらに防衛省から情報本部長、統合情報部長、画像地理部長、レコン隊長の松岸三佐もいる。

自衛隊からは統合幕僚長と陸海空の幕僚長が出席し、それぞれ2、3人の制服幕僚を従えて、

さらにその隣には情報保全隊司令と情報保全官3名が詰めている。

他にも警察庁や外務省の官僚クラスがちらほらと見受けられた。

彼らは他ならぬ、幻想郷の件について集まっていたのである。

 

「で、幻想郷とやらの件は本当なのか?間違いないのか?」

 

島杉公偉(しますぎ まさひで)内閣総理大臣が眉間にしわを寄せつつそう防衛省組に聞いた。

本来ならいつも通り執務に勤しんでいたいだろう島杉総理だが、そうも言ってられない。

こういう時にこういう会議に出席することもまた仕事のうちだ。

 

「はい。現時点で得られている情報や各省庁の統計を照らし合わせた結果、

日本国内に存在する公算が大であることが判明しております」

 

島杉総理の質問に、画像地理部長の田村(たむら)一等陸佐が答えた。

 

「日本国内である証拠はあるのか?」

「情報提供者が付けていた日記があり、そこには天気についての記載がありました。

それを気象庁の記録と照らし合わせたところ、情報提供者が現地入りしていた期間の天気と、

長野県の八ヶ岳付近一帯の気象状態がほぼ一致しました。

さらに同封されていた大まかな地図や現地地質の記述、八ヶ岳一帯の登山経路等から勘案するに、

おそらく横岳東南東及び赤岳東北東方面、あるいは硫黄岳東部方面に所在するものと思われます」

 

田村一佐の報告は説得力を帯びていた。

実際時津川は八ヶ岳付近で救助されているし、それでいて幻想郷は未だに目撃情報がない。

無論結界による隠蔽もあるが、それでも人通りの多い登山道にわざわざ幻想郷を置く理由はない。

となれば登山コースになっていない地域にあるのではないかと画像地理部は踏んだ。

そこでネットなどにある登山コースの画像を取り寄せて精査したところ、

前述の一帯には南牧村から横岳に繋がる道以外に登山道がなく、

かつ時津川の地図には『妖怪の山』なる山も確認されていることからこれらの麓近くと判断され、

画像地理部はこの一帯を睨んでいたのである。

 

「そうか。となると我が国で対応していくことになるわけだが………。

五十嵐(いがらし)本部長、現状幻想郷についてどのぐらいわかっている?」

 

島杉総理が、今度は情報本部長の五十嵐海将に聞いた。

 

「は。現時点において幻想郷についての情報は情報提供者の遺したもののみで、

現在統合情報部幻想課の実働ユニットが調査を進めています。

詳しくは上松(うえまつ)統合情報部長からご報告致します」

 

そう言って五十嵐本部長が上松一等空佐に報告を促した。

 

「ではご報告致します。幻想郷は現在博麗大結界なるもので遮蔽されており、

目視による視認、レーダー等の機器による探知等、あらゆる探知から幻想郷を隠蔽しています。

この境界線に接触しても内部侵入どころか接触を感知することすら不可能で、

結界内の領域に進入する手段及び経路は現時点では不明ですが、

幻想郷の有力者にはこの結界を自在に操作できる者もいるようです。

情報提供者の情報によれば結界の不具合ないし意図的な操作によって外部と接続することも、

一応は可能であるとのことで、それによって日本人相当数が拉致されているようです。

希望者は帰還できるとのことでしたが、それで帰還した拉致被害者は現状確認されておりません。

幻想郷内部では特定未確認害獣、以下妖怪と呼称しますが、これらが主導権を握っており、

現地住人は大半が人里と呼称される居住地にまとまって居住しているか、

一部の妖怪に対抗し得る武装を備えた人間は人里の外での活動もしているとのことです。

また人里には拉致被害者が昨年11月時点で最低3名が保護されていることが判明しております。

妖怪と言ってもいくつもの種類があり全てを把握することは現状不可能でありますが、

その中でも主導権を有する強力な個体と、それ未満の末端個体に類別できるらしく、

拉致被害者の多くはこの末端個体によって殺害、食用に供された後、

遺体が無縁塚という場所に不法に遺棄されているとのことです。

人里は長老がいる他、有力者として上白沢慧音(かみしらさわ けいね)稗田阿求(ひえだの あきゅう)等が挙げられ、

また隣接する命蓮寺には住職の聖白蓮(ひじり びゃくれん)以下数名の関係者が有力者として存在。

いずれも教育、記録、宗教において人里に決定的な影響を与え得る立場にあるとのことです。

人里では自警団があり、警察活動や消防活動を消防団方式で行っています。

幻想郷では非殺傷攻撃を用いて行うスペルカードルールという決闘手段が確立されており、

有力者のほとんどがこのスペルカードルールにおいても極めて強力であるとのことです。

他にもいくつかの記述がありましたが、詳細はお配りした資料の方をご覧ください。

以上は先に五十嵐本部長が述べましたように情報提供者からの情報のみで確認がとれておらず、

幻想課深部情報偵察隊、通称レコンが確認及び更なる調査を行っております。以上です」

 

上松一佐はそう言って説明を終える。残りの部分については説明するまでもないだろう。

この場で残りの無職男性幻想郷食レポ日誌に言及する必要もあるまい。つまりそういうことだ。

もっとも、この内容は閣僚連中をざわつかせるには十分に過ぎた。

探知不能の謎の土地、その結界を操る何者か、幻想郷を跋扈する妖怪という存在、

そしてそれに拉致され、正当な理由なく殺害され喰われる日本国民。

何をどう考えても、日本国にとって敵対する相手であることはこの時点で確定していた。

とはいえそれですぐさま攻撃ということにもならない。

戦後の理想論とGHQの政策に基づく教育のおかげで、この現代日本は外敵に対し実に寛容だ。

例え主権を侵害される行為を日常的にされても確たる有効な対策を打ち出さないし、

拉致問題については最早ポーズだけとなりつつある。

領土問題なぞ酷いもので、昨年には尖閣諸島への公務員常駐を公約に挙げていた総理が、

公約を実行することも、ましてそれを大々的に匂わせることもないまま肺炎でその職を辞した。

かといって外敵行為に対し毅然と対応しようとすれば、各方面から批判が飛んでくる。

現実を顧みず理想論でしかものを見ない輩、思考を停止し公人の失言を狙うことしか頭にない輩、

あらゆる輩がその批判などをしたりするが、大抵がそれに対する現実的な代替案は持ち合わせず、

己が権利を濫用して無責任に喚き散らすこともまた、この国では許される。

こと『安全保障』『戦争』『軍事』『自衛隊』『在日米軍』『海外派遣』『日米安保』が絡めば、

こういう輩の大抵は戦争反対と脊髄反射的に叫ぶのである。

このように、平和ボケどころか平和中毒という持病を持つ現代日本が幻想郷を攻撃することは、

現実的に考えて現状では全く可能性はなかった。

――――現状では、であるが。

 

「むぅ………。松岸三佐、君はレコンの隊長だったな」

 

島杉総理はこめかみをおさえつつ、松岸三佐にそう言う。

 

「ええ」

「現状この情報の確証は得られているか?」

「いえ、全く」

 

松岸三佐がそうきっぱりと言い切る。その様子にいつものだらけた様子は見受けられない。

 

「しかし、確認が取れるのも時間の問題かと」

「例の『幻想郷を良く知る人物』か………。本当に話を聞きだせるのか?」

「接触さえできればほぼ間違いなく。担当している隊員は特殊作戦群出身者、

それも()()()()に関しては特殊作戦群の中でも秀でている者です」

 

松岸三佐の言葉に、島杉総理も納得したように数度頷く。

 

「そうか。では引き続き調査に当たってくれ。で、自衛隊だが………」

 

松岸三佐にそう言い、島杉総理は次いで自衛隊組を見た。

そしてため息を1つつき、彼らに聞く。

 

「現状、幻想郷が八ヶ岳近辺にあるとされるわけだが、

もし幻想郷から敵性勢力が出現した場合、自衛隊はどう対応できる?」

 

その質問はつまり『万が一幻想郷側が日本に侵攻してきた場合どうするのか』と言っていた。

いくらこちらが対話から始めようと思っているとはいえ、相手も同じであるとは限らない。

あちらにとって日本を侵略する理由と、それにより生じるデメリットを補って余りあるだけの、

多大なリターンがあるとあちらが判断すれば侵略戦争は起きる。

よく戦争反対と叫ぶ人間がいるが、戦争が起きるか否かにこちらの都合は関係ないのだ。

従ってこちらも、万一に備えた対応策を作り、共有しておく必要があるのは当然と言える。

島杉総理の問いかけに、まず東戸(ひがしど)統合幕僚長が答えた。

 

「は。まず陸自主導で八ヶ岳一帯を迅速に封鎖し、同時に海自護衛艦を駿河湾に展開、

空自は百里の第3飛行隊にスクランブル待機をかけ即応体制をとります。

これらの部隊を東部方面総監を司令官とした臨時の統合任務部隊として編成します。

その後の相手の出方で展開は変わるでしょう」

 

そう言った東戸統合幕僚長の後に続けるのは、児島(こじま)陸上幕僚長だ。

 

「八ヶ岳からの敵集団出現となりますと、基本的に長野県、群馬県、埼玉県、

山梨県に所在する駐屯地から部隊を出動させることになります。

まず松本の第13普通科連隊、新町の第12対戦車中隊、大宮の第32普通科連隊を主幹とし、

遅くとも2、3日以内には北杜市、茅野市、佐久穂町を封鎖し八ヶ岳を包囲。

同時並行で北富士の第1特科隊を始めとした担当地区の野戦特科による火力投入準備を実施、

交戦やその際の火力要求に備え待機させます。

そこから敵集団に対して武装解除を通告、明確な抵抗をしたか、あるいは確答なき場合、

命令次第で接敵、要するに敵集団との戦闘となります。

投入部隊で対抗しきれない場合に備え、近隣地区からの増援及び中央即応連隊の出動、

場合によっては特殊作戦群の投入も視野に入れたバックアッププランを策定します」

 

児島陸上幕僚長がそう報告し、そこに蔵馬(くらま)海上幕僚長と先崎(まっさき)航空幕僚長が続ける。

 

「海自としては横須賀の第6護衛隊を駿河湾に展開、陸自が接敵し、要請があった場合、

護衛艦『きりしま』からトマホーク巡航ミサイルを発射し遠隔支援を行います。

海自としてできるのはそこまでですね」

「百里第3飛行隊のF-2は近接航空支援(CAS)装備、JDAM搭載で爆装させて待機させます。

陸自部隊が接敵した場合即座にスクランブルさせ、現場上空域にて待機、

要請が入り次第、近接航空支援を実施しJDAMによる火力投入を行います。空自からは以上です」

 

各幕僚長からの報告を聞き、島杉総理は方策を咀嚼し脳で整理していく。

彼とて若かりし頃は曲がりなりにもミリオタの端くれを自称した身である。

彼らの提案の意味するところは大体は理解できた。

だからこそ、これが現時点で考え得る極めて基礎的で初歩的な対応策であることもわかっていた。

幻想郷の武装勢力の装備や人数規模、指揮系統がわかればもっと具体的な対策のしようもあるが、

それが不明な以上、これより先に進んだ対策はかえって余計な損害を出す羽目になる。

事実現時点での策定に関しては、特に海上幕僚監部では消極的、否定的な幕僚も多かったと聞く。

それをよくもまとめたものだと島杉総理は内心蔵馬海上幕僚長を評価しつつ、次の質問を飛ばす。

 

「この件は他国、特に米中露の3国には知られていないな?」

 

こいつらが介入してハッピーエンドになった試しがないからな、島杉総理は口の中でそう続けた。

現時点では中国やロシアはもちろん、例え同盟国たるアメリカであっても情報は漏らせない。

下手をすれば在日米軍を動かすことになり、それが中国を刺激する結果にもなり得る。

ただでさえ尖閣諸島を巡り関係がまた悪化し始めたのだ、ここで余計な刺激を与えたくはない。

 

「はい。今のところ防諜を徹底し、関係各所には箝口令を敷いて漏洩を防止しております。

また第1情報保全室の警戒レベルを2段階引き上げ、担当各員に警戒を徹底させておりますので、

少なくとも防衛省内からの漏洩の危険は可能な限り減殺しております」

 

情報保全隊司令の来栖(くるす)陸将補がいち早く報告する。

それに続くように、外務省アジア大洋州局の椎名(しいな)局長と北米局の松葉(まつば)局長、

そして欧州局の浦島(うらしま)局長が報告を挙げていく。

 

「中国や韓国等からは今のところそういった問い合わせは来ておりません」

「北米局も同じく。おそらく感付かれてはいないかと」

「欧州局は本件との関連は不明ですがロシアで不穏な未確認情報を得ています。

詳細は不明ですが、ウスリースクのGRU特殊任務部隊(スペツナズ)の1個支隊に動きがあるとのことです」

 

浦島局長の報告に、上松一佐が補足をした。

 

「その件に関しては後程外事動態課で確認させます」

「わかった。ともあれ今後の方針だが………」

 

島杉総理は集まっている面々を見回し、告げる。

 

「ひとまず当面は当初の方針通り、まずは情報収集と交渉による平和的解決を目指す。

平和的解決が不可能と判断されれば、自衛隊を投入する、それで行こう」

 

島杉総理の言葉に、反論する者はいなかった。

こうして極秘の会議は、実質ただの報告会に終わったのだった。

とはいえこんなことも珍しくはない。現場や省庁クラスで対処できることは各個で対応するし、

それで判断できないレベルの事項を議題の俎上に挙げて検討するのがこの場での会議である。

そういう意味ではただの報告会で済んでいるだけ、今はまだ状況的にマシと言えた。

 

 

 

東深見高校から宇佐見菫子に関する資料一式のコピーを提出してもらい、

瞭二達は早速、現在の菫子の進学先だという新京都大学へ向かった。

私立の大学である新京都大学は学力レベルこそ高いものの、

就職に関してはあまり強くはなく、どちらかというと研究者向きな色が強かった。

この大学は法学部、素粒子物理学部、航空宇宙物理学部、精神物理学部の4学部を有し、

法学部除く3学部全てが『物理学』と名称にあるが、その分野は多岐にわたっており、

中には世間一般に物理学とは結び付きづらいものまで学ぶことができるらしい。

で、菫子は現在この精神物理学部に4年生として在籍していることがわかっていた。

流石に現住所まではわからなかったので、まずは大学の学生課に問い合わせる。

幸い事務員も学長も物わかりがよく協力的だったので、住所を聞き出すのは容易だった。

そうして瞭二と聡は、あるボロ臭く、怪しげな近寄りがたい一軒家の前に来ていた。

塀にはひびが入り、表札はついていたのだろうが大破して字も読めない。

何より酷いのが、塀や家の外壁におびただしい数の、謎の札が貼られていたことである。

いきなりインターホンを押す気も失せたので、瞭二達は近所の方に話を聞いた。

こういう時、やはり頼りになるのが井戸端会議という地場の情報網である。

 

「あそこの人?ああ、あの大学生の子ね。凄い変な人よぉ。

都市伝説がどうとか超能力がどうとかって言ってるけど、オバサンちょっとわかんないわぁ」

「そういえばあそこの子、あまり外に出てきたところ見たことないのよねぇ」

「しかも変な音が聞こえたりするし。もしかしてお化けと同居でもしてるのかしら」

「やぁねえ、そんなことあるわけないじゃない。ねぇ?」

 

と、ご近所のご婦人2人から聞き出したが、その後数十分を代償として差し出すことになった。

情報はタダではない。それは井戸端会議においても同様である。

そうして聞き込みに2時間ほどかけた後、瞭二達はようやく菫子宅のインターホンを鳴らした。

しかし応答がない。瞭二達は敷地に入り、玄関口に設けられたもう1つのインターホンを鳴らす。

それでも応答がない。すると聡はあろうことかインターホンを数十回連打した。

 

『………はーいただいまー』

 

と、インターホンからではなく家の中から声が聞こえる。

少し間を開けて、縁の赤い眼鏡をかけた女子大生が眠そうな顔で出てきた。

 

「どちら様ですか?」

 

訝しみつつその女子大生、宇佐見菫子はそう聞く。その顔からは機嫌の悪さが伺えた。

 

「うーん………平日の、晴れやかな天気の昼下がり」

「は?」

 

いきなり謎の発言をしだした聡に、菫子は眉を顰めた。瞭二も何言ってるんだという顔でいる。

が、聡はお構いなしに続けた。

 

「そしてこのボロ臭い謎の一軒家」

「はぁ………?」

「そしてこの小生意気そうな小娘」

「………」

 

玄関を閉めようかと思った菫子を、次の言葉が思いとどまらせた。

 

「そしてそこに前触れもなく訪ねてくるような、背広を着た公務員」

「公務員………?」

 

聡が自分達を指して言ったその言葉に、菫子はその表情に警戒心を走らせた。

 

「て、言えばどういう素性のモンか見当つくんじゃないの、宇佐見菫子さん?」

 

そう挑戦的に、聡は菫子を笑顔で睨み言った。菫子はやはり慎重に聞く。

 

「………刑事さんが何の用ですか?」

 

その言葉を聞くや否や、内心ニヤリとほくそ笑んだ聡はこう切り出した。

 

「いやなに、ちょっとした事件の裏取り捜査さ。この辺りの人に聞いて回ってるんでね」

 

その言葉に合わせて、瞭二も内ポケットからメモ帳とペンを取り出した。

 

「そんなに時間取らせないからさ、いくつか質問に答えてよ」

「はぁ………そうですか。じゃあ手短に」

 

菫子はそう承諾したのを確認し、聡は至って普通の質問から入っていく。

 

「先週木曜日の午後21時から22時、この近くで変な人見なかった?」

「見てませんね」

「変な音聞いたりは?」

「何も」

「最近お隣さんの様子がおかしかったりとかは?」

「知りませんよ、全然話さないし」

「幻想郷って知ってる?」

「知りま………えっ?」

 

さりげなく放り投げられた質問に、菫子は数瞬遅れて驚く。

何故この変な刑事が幻想郷を知っているのだ。菫子は警戒せずにいられない。

そしてそれは聡には手に取るように分かった。ホルンの五度の響きが鳴り止まない。

 

「何?知ってるの?知らないの?」

「知りませんよ、何ですそれ?」

「あっそう、知らんのね」

 

聡もそれ以上追求することはなかった。下手につついて面倒事になったら困るのはこっちだ。

それは瞭二もまた心得ていたから、特に何かを言うことはない。

 

「んじゃ、質問は終わりです。ご協力あざっした」

「いえ、それじゃ」

 

平静を装い、菫子はそそくさと家の中に引っ込んだ。

その仕草だけなら、常人なら特に不審に思わないだろう。演技にしてはよくできている。

が、相手は職務上の都合からその手の演技に目の肥えた特戦群隊員と、

上司に振り回され続けたせいで人の機嫌の変化に妙に目ざとくなった中即連隊員である。

僅かな違いから嘘を見抜くし、聡は曲で聞き取るし、不意を突かれた時の反応が致命的だった。

とりあえず敷地から出て、振り向いて再び菫子宅を眺める。

やはり何度見ても怪しい家にしか見えない。人を寄せ付けないための工夫なら大成功だろう。

 

「どう思う?」

「明らかに動揺してましたね、彼女」

「あそこまであからさまに驚くとは思わなかったがな」

 

聡は苦笑交じりにそう言う。

菫子も天才的な成績を収めていることから相当の頭脳を有していることは疑いようはないが、

所詮彼女はただの一般人であり女子大生であって、その手の訓練を受けたわけではないから、

やはり本職のスパイのように、本当に知らないかのように振舞うには無理があった。

 

「しかしどうします?あのままでは幻想郷について口を開くとは思えません」

「だろうな。話す気があるならあの場で話してるだろうし」

 

どうすっかなー、聡はそう頭を掻く。そうしてため息1つつき、瞭二に言った。

 

「とりあえず近所の法務局行ってあの家の登記謄本あたるか」

「了」

 

一先ずの目的地を決めて2人はその家の前を後にした。

 

 

 

一方の菫子は、玄関を閉めた上に鍵までかけて、扉にもたれかかる。

 

「ちょっと、ちょっとちょっと、何であんな変な刑事が幻想郷の名前知ってるのよ………!?」

 

菫子は当然に焦った。本来ならその名前すら世間に知られていないはずだ。

もっとも菫子自身がSNSにそれとなく幻想郷の画像を投稿したことは数度かある。

が、幻想郷というその名前自体を出したことは1度としてないはずだ。

ということはつまり、相手は何らかの別の形で幻想郷を知ったということになる。

 

「とにかく、レイムッチには伝えとくかなぁ」

 

菫子はそう呟いて、高校時代の制服に着替えてトレードマークの帽子とマントを着用し、

そしてポケットにいつも使っている道具類一式を突っ込み、ベッドに突っ伏す。

菫子は紆余曲折あって、今では夢の中でのみ幻想郷への立ち入りを許されているのだ。

高校時代の制服は、今や幻想郷に行くための制服となっていた。こっちの方がしっくりくる。

しかし心当たりのある方も多いかと思うが、寝ようと強く意識するとかえって寝れないものだ。

そのラグに苛立つ。どこぞの早撃ちが上手い眼鏡少年のような早寝が出来ればよかったと思う。

結局幻想郷に行くのに、1時間半を費やしてしまった。

 

 

 

幻想郷にやってきた菫子は、まず真っ先に()()()()()ある場所に向かう。

聡も瞭二も知らないことがある。それは彼女がいわゆる『超能力者』であることだ。

この点もまた、菫子の自尊心を増大させた原因だろう。

が、それは幻想郷においてさしたるアドバンテージにはなり得ないし、実際ならなかった。

だからこそ、幻想郷は今現在この形で存続しているのだと言ってもいい。

菫子は過去に1度、博麗大結界の破壊を試みたことがある。

が、その際に現地住人に制止、拘束され、それまた紆余曲折あり口外無用を条件に解放された。

傲慢さが鳴りを潜めたのはそれ以来だろう。

故にここだけでは菫子は他者と対等な、少なくとも大きな差はない状態にあったとも言える。

そんな菫子が向かった先は『博麗神社』。幻想郷と外の世界の境界にある場所である。

菫子が慌てる理由はひとえに、『公的機関が幻想郷をどうしようとするかわからないから』だ。

彼らは幻想郷の住人達の強さを知らないし、また幻想郷を蹂躙すればどうなるかも知らない。

そしてそれが現実になったら幻想郷も日本も大変なことになる。

途中で出てくる妖怪達を弾幕でいなし、博麗神社へ急ぐ。

スペルカードルールという遊びのような決闘のような、そんなルールは彼女も心得ていた。

とはいえ幻想郷の妖怪相手に手間取らないこともない。結局かなりの時間足止めを食らった。

そうして慌てた様子ですっ飛んで来た菫子を、そこに住む巫女、博麗霊夢も見つけた。

 

「レイムッチ!」

「ちょっと何よ?また外の話?」

 

縁側で茶を飲んで休んでいたところにいきなりやってきた菫子に、霊夢は面倒くさそうに聞く。

実を言うと、先ほど守矢神社の東風谷早苗にも休憩を邪魔されたのもある。

菫子は度々外のことを話すが、正直、霊夢は外の世界に取り立てて興味があるわけでもなかった。

勿論楽して賽銭を集める方法があるなら知りたいが、今の霊夢は特段困窮しているわけでもない。

そんなことよりこの休憩時間を台無しにした責任をどう取ってもらおうかとぼんやり思っている。

そんな霊夢とは対照に、菫子は焦りつつも聞いた。

 

「最近外来人を外の世界に帰したりした!?」

「ええ、まあ。そりゃ希望者がいたし」

「何人!?」

 

菫子のただならぬ様子に、とりあえず霊夢は記憶を掘り返す。

 

「直近1年で言うと2人かしらねえ。1人があのーえっと、なんて病気だっけ?」

「認知症?」

「あー、そうそう認知症、それかかってたおじいさんね」

「もう1人は?」

「冒険家だっていう怪しげなおっさんだったわね。時津川とか言ったかしら?」

 

時津川、その名前を菫子は知っていた。

2年ほど前、オカルト愛好家達のちょっとしたイベントが京都府内のとあるバーであったのが、

その時に会った1人が時津川定義という自称冒険家の男だ。

最初は『妖怪達の楽園は存在するか』という話で、存在するとの意見が一致し意気投合したが、

幻想郷の住人とは仲良くやっていた菫子に対し、時津川は『妖怪は危険だ』という意見を述べ、

そこから口論となり結局喧嘩別れとなった覚えがある。

なるほど、そこから漏れたのか。菫子は1人納得した。

認知症のおじいさんの方は菫子も1度会ったことがあるが、かなり進行しているらしく、

あの様子では幻想郷のことを認識しているかどうかも怪しかった。

つまり時津川が情報を漏らしたのだ、そう結論付けた次の瞬間、意識が暗転しそうになる。

どうやら外の世界の体が何かしらの刺激を受けたらしい。例えばインターホンが鳴ったとか。

 

「何よ、聞くだけ聞いておいて何がしたかったわけ?」

「いや違うんだって、これは………あーもう、後で話す!そんじゃ!」

 

霊夢にそう投げつけるかのように台詞を吐いて、菫子は意識を外の世界に戻すことにした。

 

 

 

「ちっくしょー何よこんな忙しい時に!」

 

インターホンの音を聞いて飛び起き、そう愚痴をこぼして着替えてから、菫子は扉を開ける。

さっさと済ませてさっさと戻って、そしていち早くベッドに潜り幻想郷に行こう。

と思ったが、そうは問屋が卸さないし、問屋が卸しても裁判所が認めることはないだろう。

何故ならば、扉を開けた先にいたのは――。

 

「京都地方裁判所の倉岡(くらおか)と言います。

この家の債権者からの抵当権妨害排除請求に基づき、これの強制執行を行います」

 

そこにいたのは、令状を持った京都地裁の裁判所執行官だったからだ。

そして執行官の後ろには数十名の裁判所職員と市役所職員、京都府警の制服警官がいる。

いきなりのことに菫子も理解が追い付かない。

 

「宇佐見菫子さん、ですっけ?おたくここ誰の家かわかって住んでる?」

「そ、そりゃ私のですよ」

「なんで?」

「え?いや、そりゃなんでって………」

 

答えるより先に、倉岡執行官が口を開いた。

 

「この家の登記にはさ、住んでる人は町田(まちた)さんって人になってんだけどさ?」

 

その言葉で、菫子は京都に来た日のことを思い出す。

アパートを借りる費用をケチって、夜逃げした男性の家を勝手に借りたのだ。

高校時代、世の中には消滅時効とかいうのがあり、3年間空き家に住んで生活していると、

その家の所有権を得ることができるとかいう噂を聞いた。

自身が会長を務める『秘封俱楽部』の活動予算を得るためにもその噂を頼り、

家賃を削減する目的で彼女はこの家に住み着いたのだ。

 

「で、でも確か消滅時効ってありましたよね、ホラ3年したら無効ってやつ!」

「は?あー、それね」

 

倉岡執行官はにっこり満面の笑顔で無慈悲に告げた。

 

「それね、改正されて5年になってるし、そもそもここじゃ適用できねえんだわ。

取得時効ならまだわかるけど、それも10年経たないと成立しないし。

何よりさ、ここ抵当入ってんだわ。んで、外の札のせいで抵当価値下げまくってんだわ。

でもって、債権者が抵当権を実行するにあたって、邪魔だから出てけってわけ。わかる?」

 

倉岡執行官の言葉に、菫子は顔を青くする。まさかここで法律なんぞに邪魔されるとは。

本来、妨害排除請求権は効力を有しない。

抵当権が非占有担保権であり、第三者に主張できるものでないためだ。

しかしながら例外的にこれが認められる場合がある。

大まかにその要件として、占拠者により抵当価値が著しく低下し、

かつそれによって土地、建物が競売にかけられない状態であれば、この効力が認められる。

実際平成11年の判例で最高裁判所がその妨害排除請求権を代位行使していた。

ついでに言えば、夜逃げした町田とやらは2年前に居所を特定されて借金返済の催促を受け、

その数週間後に自己破産している。

従って本来菫子が消滅時効として頼るべき債権の消滅時効もこの場合は援用できない。

 

「そういうわけなんで、すぐに荷物まとめて出てってね。あ、抵抗なんかしちゃダメだよ?

ここにお巡りさんいっぱいいるから、抵抗したら公務執行妨害でとっ捕まるからね」

 

そう言われては、さしもの超能力者菫子も対抗のしようがない。

ここで対抗すれば晴れて犯罪者である。そうなるのはあまりよろしくない。

何より前科があるというだけで自分より凡庸な連中に見下されるのは自尊心が許さなかった。

 

「………わかりました、ちょっと荷物まとめてくるんで待っててもらえます?」

「うん。いいよ」

 

倉岡執行官の承諾も取り付け、菫子は扉を閉める。

そしてすぐさま、見られては不味いものを旅行カバンに放り込もうとした。

見られて不味いもの、具体的に言うと、3Dプリンターで作った特製の拳銃である。

実包を撃つことができ、人を殺傷できるレベルのものだ。それも複数個。

棚から全て引っ張り出してカバンに入れようとした時、横から手が伸びて菫子の腕を掴んだ。

いきなりのことに、菫子は思わずそちらを見た。

そこにいたのは、前に幻想郷のことを聞きに来た、あの変な刑事2人だった。

 

「何持ってんのかな?」

 

にこやかな笑顔で眼鏡の刑事がそう聞いてくる。それとは対照的に、腕を握る力は強かった。

菫子はこの時、直感的にこの刑事があの執行官を差し向けたことを察した。

そして自分がこの刑事に負けたということも、この時肌では悟っていた。

が、生憎とここまで追い詰められてその程度で諦めるような性根はしていない。

咄嗟に念動力(サイコキネシス)を使い、相手を突き飛ばそうとする。拳銃を見られた以上捕まるのは同じだ。

だがその前に聡の右ストレートが菫子の腹に深々と叩き込まれた。

聡もまた、危険を察知したのだ。その方法が曲であれ直感であれ、実戦で得た経験であれ。

一瞬のうちに駆け巡り、激しく騒ぎ立てる痛覚に、菫子は床に倒れる。

 

「何考えてんだか知らんが、調子乗ってんじゃないよガキが。経験値が違うんだよ経験値が」

 

聡の嘲笑うような声が、痛みによって朦朧とする中聞こえる。

意識を手放したのと同時に、瞭二は菫子の両手に手錠をかけた。

 

「京都地方法務局と京都地裁には、感謝しないとな」

 

聡はそう呟く。今回の摘発は裁判所と協議の上で協働することとなっていた。

裁判所側の目的は土地建物の差し押さえ、聡と瞭二の目的は菫子の身柄、利害は一致している。

家への立ち入りも、かつての住人と債権者の双方から同意を得た上だ。

瞭二が玄関を開け、菫子を家から引きずり出す。

その後にカバンを持って続いた聡が、倉岡執行官に言った。

 

「じゃ、やっちゃってくださいな」

 

倉岡執行官にそう言うと、聡と瞭二は菫子を車に突っ込み、

そして菫子の拳銃類を全てまとめてトランクに放り込んで、市ヶ谷まで帰っていった。

 

「そいじゃー、ちゃちゃっと済ませますかー。20時32分、執行」

 

聡達が帰ったのを見計らい、倉岡執行官の合図で職員達が家になだれ込む。

翌朝、この物件は普通のきれいな一軒家の状態で京都地裁の競売物件となった。




菫子さんってアレ個人的には法律とか興味なさそうなイメージ(偏見)。
でも知らないと損するのは自分。それが法律。
最近の日本国民はとかく法を知らなさすぎるって何人か偉い(?)先生が言ってるし。

あとお気付きの方もいらっしゃるかも知れませんが、今回からレコン要員は地の文では松岸三佐と聡と瞭二はそのまま、他の要員は姓だけ記載(久住とか笹川とか)にしようと思います。
階級入れると文字数圧迫するんすよねぇ。
偉い人とかモブキャラとかなら階級つけようと思いますが、それ以外のネームドは階級外します。
ご理解の程よろしくお願いいたします。

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