注)作者の原作知識は最新の単行本までであり、ジャンプ本誌の方は追いかけてないので矛盾が生じるかも
――― 私が『悪魔』という名称を初めて耳にしたのはいつであっただろうか?
人間を害し、『デビルハンター』と呼ばれる悪魔殺しのプロフェッショナル達から駆除される対象である彼らの話題が出てこない日は無い。
日本、いや世界中の大部分の人々にとって悪魔は恐るべき存在であり、不運にも出会ったのなら余程の幸運の持ち主でなければ死の運命からは逃れられないだろう。
私が何故いきなり悪魔の話題を持ち出したのかと問われれば、仕事柄としか答えられない。現に私はデビルハンターを職業としており、実の兄と共にこの仕事を初めてそれなりに月日が経つ。
このデビルハンターという仕事は『民間』と『公安』の2つに大きく区別でき、私は公安の方のデビルハンターであるのだ。
公安は有給が多く福利厚生が良いという特徴があり一見優良な職場なのだが、それらを打ち消して有り余る程の短所がある。それは殉職率の高さであり、いくら実力があってもまともな人間はほぼ死ぬ。
既に私の同期はそのほとんどが殉職するか辞めるかしており、来年には残り少ない彼らの数は更に減っている事だろう。
何故そのような頭おかしい職場に身を置いているのかと言われればまず私、『早川タイヨウ』の生い立ちから話さなければならない。
私は所謂転生者という者であり、現在暮らしている世界とは別の日本で死んだ後こちらに飛ばされた。と言っても前世の記憶はほぼ無く、覚えている事はロクでも無い死に方をしたくらいである。
いつ自身が転生者なのだと気づいたのかは曖昧なのだが、5、6歳の頃だと思う。
当時私は兄、両親と共に4人で暮らしていた。優しい両親と顔は良いのに無愛想なのが玉にキズな兄と田舎で暮らしていた日々は特に特筆する事は無かったものの、そこには確かにささやかな幸せがあった事を覚えている。
そんな幸せが無惨に壊されたのは、雪の積もった寒い日であった。
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素朴な部屋でベットに横たわり、頭に冷えピタなるものを張り付け、熱が出ているのか頬が赤くなっている少年の両端に、彼の両親と思われる男女が密着している。
「『これがボクの住んでいる所さ』都会のネズミは言いました」
少年の両親は絵本の読み聞かせをしているようだ。
「その家のなんと大きかった事でしょう都会のネズミの家族は‥‥」
そこまで言いかけた所で物語は遮られる。
「父さん!外でキャッチボールしてよ!」
帽子をかぶり、グローブをはめた少年が男性に言う。寝ている少年よりひと回り体の大きい彼は、この少年の兄である。
「タイヨウの具合が良くないんだ。一人で出来る遊びをしなさい」
そう男性が返答したのが気に入らなかったのだろう。口を尖らせて言い返す。
「そんなのいつもだろ!タイヨウが元気な時なんてないじゃん!」
彼からしてみれば、体の弱い弟に両親が付きっきりという状況が面白くないのは当然であった。彼も兄とはいえ、まだまだ親に甘えたい年頃である。
そんな彼にタイヨウは、嬉しそうに頬を緩めながら言う。
「じゃあ俺とキャッチボールしようよ!」
タイヨウは飛び上がる様に立ち上がった後、ベットの下から
生まれつき体の弱かった彼を心配した両親から体は大丈夫かと聞かれるものの、タイヨウは「今日くらい平気だよ」と答え、兄と共に外に出て行く。
兄の方は迷惑そうにしていたものの、どこか嬉しそうにしており、そんな兄弟の姿を見た両親は大変微笑ましそうに笑っていた。
――とある家族のささやかな幸せが、ここにはあった
―――後に彼はこの時の行動を仲間に語る
『グローブを手に取ったあの時から、私の運命は決まっていたんだ』
その後、世間を恐怖に陥れた『銃の悪魔』の襲撃事件が起きる。
早川家はその全てを更地にされ、中にいた両親は勿論死亡。早川タイヨウとその兄――早川アキは外で遊んでいたため間一髪の所で難を逃れた。
突然の両親の死は幼い兄弟――特に弟のタイヨウには重過ぎると周囲の人間は思っていたのだが、以外にも先に立ち直ったのはタイヨウの方であった。
その後兄弟は誓う。
必ず『銃の悪魔』を殺すと。
数年後、公安に二人の新人デビルハンターが着任する。
この二人は兄弟であり、『最強のデビルハンター』と名高い岸辺の指導を受けていたため両名とも戦闘力のみを見るのならば優秀の部類に入っていた。
そんな彼らの着任後は特に躓く事無く順調に戦果を挙げていき、周囲の同僚達に名を知らしめていく様になる。
―――一人は兄である早川アキ
そしてもう一人は、本来デビルハンターにすら成ることなくその命を散らしていた筈の男――早川タイヨウである。
デビルハンター東京本部の廊下を1人歩く男がいる。
男は黒髪、長身に服の上からでも分かる程の筋肉質な肉体といった一見スポーツ選手か何かと思う風貌であるものの、背中に差した刀の存在がその考えを打ち消す。
勿論男の正体はスポーツ選手では無い。彼の名は早川タイヨウ、職業はデビルハンターである。
そんな彼に背後から近づく女性が―――
「やあ早川タイヨウ君、君に話があるんだ」
「何でしょうか?マキマさん」
タイヨウから『マキマ』と呼ばれた女性はその美しい顔を少しだけ微笑んでいるような表情にして答える。
「ああ、実はね―――」
その後、公安に実験的部隊である対魔特異4課が設立される。早川兄弟は共にその部隊に所属し、後に頭のネジが飛んだ後輩を迎え入れる事になるのだが、それはまた別の話。
拙い小説ですが見てくれてありがとうございます