君色の栄冠   作:フィッシュ

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前半はドラフト、後半はトライアウトです


第21球 ドラフト!

今年もまた、ドラフト会議の日がやってきた。

視聴覚室には大勢の記者が集い、カメラを向けている。

 

「すごい数だな……」

「まぁ何だかんだ2年連続決勝進出だからね」

「それに私達の代って結構注目されてるらしいし」

 

7割打者の金堂に得点圏お化けの山田、そして4番として成長を遂げた青羽がいる。

菊池も注目されてはいたが、彼女は客席の方にいる。

 

「そろそろ始まるぞ、ピシッとしよう」

「はい」

 

ドラフト会議が始まり、まずは優先権を得たパ・リーグの指名から始まる。

 

《第一巡選択希望選手 東京ギガンテス

米原奈緒 外野手 京王義塾高校》

 

「米原か……」

「何球団競合するかな」

「さぁ……けど複数は確実だろうね」

 

その予想通り、10球団が指名した段階で4球団競合となった。

あと2球団、まだ至誠の選手は指名されていない。

 

 

《第一巡選択希望選手 福岡スナイパーズ

喜多司 二塁手 市大藤沢高校》

 

「おっ、喜多が指名されたか」

「野手転向したんだ」

「まあ打者としての方が凄かったし」

 

高校通算37本を誇り、フィールディングも良い二塁手兼投手。

世間からは二刀流を期待されたが、本人は野手専念を選んだ。

 

《第一巡選択希望選手 東京クレモリツ

山田沙也加 三塁手 至誠高校》

 

「わっ、私!?」

「そうだよ、おめでとう!」

「ドラ1おめでとう」

 

会場からは大歓声が飛び交った。

本人は自分が1位指名だとは考えておらず、まだ動揺している。

 

 

「ほら、インタビューだ」

「山田選手! クレモリツからの1位指名ですが、今の心境はどうでしょうか!?」

「えーっと、まだ実感が湧いてないです……けど監督の所属していた球団なので、そこは嬉しいです」

 

東京クレモリツは監督が所属していた球団だ。

今季は96敗という大敗を喫しリーグ最下位となり、打線強化の為に山田を指名した。

 

「プロ一年目の目標はありますか?」

「目標……1年目からレギュラー奪います! それでいつか三冠王です!」

 

この瞬間SNSのクレモリツファンは歓喜した。

今の山田の言葉は、入団を決意したと捉えられてもおかしくない。

当人はそんな意図はなくただ単に目標を言っただけであったが。

 

 

4球団競合した米原の抽選となり、4人の監督が運命のクジを引いた。

手を挙げたのは、福岡スナイパーズの監督。

 

「おー、福岡か」

「柳谷さんと同じところかー」

「またスナイパーズが強くなる……」

 

福岡スナイパーズはここ数年圧倒的な強さを見せつけている。

その分レギュラー争いは熾烈だが、米原の性格なら腐らずやっていけるだろう。

 

 

2巡目の指名はパ・リーグの上位チームから。

 

《第二巡選択希望選手 広島レッドテールズ

古野晶 一塁手 京王義塾高校》

 

「古野ドラ2かー」

「まあ全国は出てないからねぇ」

「けどあれだけの打力があれば、1位で呼ばれると思ってたけど」

 

京王の4番古野は広島に2位指名。

一塁手の後継者が欲しい広島にとって、古野はジャストだった。

 

その後も複数の球団が指名を終わらせていき、パ・リーグ3位の宮城ファルコンズの指名は。

 

《第二巡選択希望選手 宮城ファルコンズ

金堂神奈 一塁手 至誠高校》

 

彼女が指名された瞬間、ファルコンズファンは大盛り上がり。

高校から木製バットを使い7割を打った彼女は、高卒ながらに即戦力になれるとの評価をされていた。

 

 

「金堂選手、宮城ファルコンズからの指名ですが今の心境は?」

「第一に嬉しいですね、こんな高い順位で指名して頂いて」

「ルーキーイヤーの目標は何ですか?」

「まずは開幕一軍を、そして一塁レギュラーを掴み取ります」

 

彼女もまた1年目からのレギュラー奪取を誓った。

宮城は打力に難のある選手が多く、金堂のようなタイプは有難いだろう。

 

 

「……呼ばれねぇ」

「まだ二巡目だし平気だと思うよ」

「そうそう、翼が指名漏れとかあり得ないし」

 

高校通算32本、今夏の打率は.381で打点は12。

指名される可能性は十分にあるだろう。

シーガルズ、クレモリツが指名してからの3球団目。

 

《第三巡選択希望選手 北海道フェンサーズ

青羽翼 外野手 至誠高校》

 

全員が呼ばれた瞬間、会場は過去最高の盛り上がりを見せた。

フェンサーズはスター選手を多く指名する球団、青羽もその枠に入っていたのかも知れない。

 

 

「青羽選手! 今の心境をどうぞ!」

「指名されてホッとしています、この中で1番下なのはちょっと不満ですけど」

 

そう言って記者の笑いを誘う青羽。

SNS上では、"顔は怖いが意外とお茶目"と印象付けられた。

 

「1年目の目標を教えてください」

「レギュラー奪います、それと二桁本塁打も」

「あっ……私もそれ言えばよかった」

 

青羽の発言に山田が小声で後悔を呟く。

隣にいた金堂はその反応に笑ってしまう。

 

 

「何笑ってたんだ?」

「いや、沙也加が二桁本塁打の時に私も言えばよかったって……」

「人の会見中に話すなよ……」

「だって本当にそう思ったんだもん」

 

3人は安堵と歓喜が混じった笑顔を浮かべている。

菊池はそれを1人客席で見ていた。

 

(3人ともすごいなー、私も早くプロ行くぞ!)

 

上位指名された3人を見て更に気合が入った菊池。

彼女がトライアウトを受けるのはこの1週間後だ。

 

 

 

「3人ともおめでとー!」

「ありがとう、悠河も頑張れよ」

「悠河ならぜっったい合格出来るからね!」

「楽しんでプレーしてきなよ」

 

ドラフトが終わり4人は集まる。

指名された3人を祝福する菊池と、その菊池を激励する3人。

 

「試験って何やるの?」

「一次が守備とか50m、二次が実戦かな」

「守備と50mとか悠河の本領じゃん! いけるって!」

「合格目指して頑張るぞー!」

 

たった4人だけだったが円陣を組んで声を出す。

顔を上げた彼女達の笑顔は輝いていた。

 

 

 

ドラフト会議から1週間が経ち、独立リーグのトライアウト当日。

150人の受験者が浦和球場に集まった。

その選手を厳しい目で見つめる元プロの首脳陣。

 

(緊張するけど、とにかく楽しむ! 自分らしいプレーを心がけるんだ)

 

菊池は程よい緊張感で球場入りしていた。

一次試験では50m走と60m送球、シートノックにバッティングが行われる。

まずは50m走から始まり、1人1本を走る。

 

(やっぱ速い選手多いな〜、まあ基準さえクリアすれば良いしフォームに気を付けよ)

 

菊池の番がきて他の受験者と共に走り出す。

風を切って走る彼女のタイムは基準値を大きく上回っていた。

 

 

(このタイムなら十分かな、次は60m送球? か)

 

ただ遠くに投げれば良い遠投とは違い、60m先で構えたグラブ目掛け正確に送球出来るかを見るテスト。

 

「103番お願いします」

「はいっ!」

 

菊池の番号は103番、ステップを踏み60m先の選手に向かって投げる。

普段内野で遠投をすることがない彼女、届きはしたが山なりの送球になってしまった。

 

(もうちょっと力入れても平気かな……次は完璧にっと!)

 

今度は低めの弾道の球になり、最低評価は免れた。

しかし肩の弱さは知られてしまった。

 

 

「次はシートノックです、内野は一塁送球とゲッツー、バックホームをそれぞれ2本ずつ行います」

「はいっ」

 

シートノック、菊池の本領が発揮できる場だ。

菊池は派手なプレーよりも堅実な守備を見せ、守備力の高さをアピールした。

 

「ゲッツーいくよ!」

「しゃこーい!」

 

セカンド右方向に打球が打たれる。

それを滑り込みながら逆シングルで捕り、グラブトスでショートに渡す。

 

(やばっ……普通にいつものプレーしちゃった)

 

派手なプレーをしたら怒られるのではないか、菊池はそう考えていた。

しかしこの場は言葉を発する人間すら少ない。

 

(トライアウトだから当たり前なんだろうけど、やりづら〜)

 

至誠であれば大きな声が飛び交う中、ノックを受けるのが普通だった。

今はどんなプレーをしても声一つ聞こえない。

それはプレーをする選手達に緊張感を与える。

 

 

「最後はバッティングを行います、1人1分半! 番号順に打席に入ってください」

 

菊池は遅めの番号なので、素振りをしながら待っていた。すると近付いて声を掛けてくる女性が。

 

「菊池選手、先程は華麗な守備でしたね」

「ありがとうございます! けど派手なプレーってしちゃいけないのかなーって……」

「そんな事はありません、高校生であんな綺麗なグラブトスを出来るのはアピールポイントですよ」

「まあ……監督にしごかれたので」

 

菊池は元から派手なプレーを好んでいたが、グラブトスは出来なかった。

高校入学してから、監督が菊池の守備力を上げようと最初に覚えさせたのがグラブトスだった。

 

 

「灰原さんね……結構厳しいでしょ」

「結構キツいですね、けど優しいので」

「……変わったんですね」

「へっ?」

 

こっちの話です、と謝って他の話に移る彼女。

彼女はクレモリツで監督と同期だった選手だ。

 

「103番、お願いします」

「はーい!」

 

木製バットを持ち打席で構える菊池。

バッティングピッチャーの投げる球を、次々と打ち返していく。

 

(これはちょっと無理っと……)

 

難しい球は見送って打てそうな球だけ振る。

好球必打が出来ているのが分かるバッティングだった。

 

「ラスト!」

「はいっ! ……っと、よしよし」

 

最後は外野フェンスに直撃する良い打球だった。

限られた時間の中で、菊池は最大限のアピールが出来た。

 

 

 

野手全員のバッティングが終わり、少しの時間が空いた。そして遂に迎えた一次試験の合格者発表。

1番から順番に呼ばれていくが、脱落者がどんどんと出ている。

 

「103番!」

「! やった……」

 

菊池は無事一次試験を突破した。

最終的には投手24名、捕手8名、内野が各ポジション2〜4名、外野も各ポジション2〜4名の、計71名が二次試験へと駒を進めた。

 

(半分も落ちるんだ……そしてこの中からドラフトに掛かるのは、例年20人前後……)

 

狭き門ではあるが、菊池はそこに挑戦しようとしているのだ。

実戦前にシートノックが再度行われ、捕手の二塁送球タイムの計測などが行われた。

 

 

「最後は実戦テストを行います、カウントは1-1、投手野手共に3人の相手と対戦します」

 

まず菊池はセカンドの守備につく。

投手は緊張している様子で、コントロールはバラバラ。

 

「打たせていいよ! 思いっきり投げちゃえ!」

 

いつものノリで菊池は声を出し投手を励ます。

その声で緊張がほぐれたのか投手は別人のような球を投げ始めた。

2人続けて三振を取ったが、最後の打者にはピッチャー返しを打たれる。

 

「任せて! よっ……と」

 

菊池はセンターに抜けそうな打球を、飛び込んでキャッチ。

そのまますぐ起き上がって一塁に送球しアウトを取る。

 

「ナイスー」

「ナイスセカン!」

「イージーイージー!」

 

 

菊池はその後も安定した守備を見せつつ、打撃でも3打席に立ち1安打1四球と良い結果を残した。

 

「お疲れ様」

「お疲れ様です!」

「良い動きをしていたね、目を奪われてしまったよ」

「へへっ、ありがとうございます!」

 

その後も複数の人が菊池に声をかける。

やはりあの守備が注目を集めたのだろう。

 

「菊池さんはどこの球団に行きたいとかはあるの?」

「特には……けどセカンドが不足してるとこに行きたいですね」

「1年目からレギュラーの座が欲しい?」

「です! それですぐプロ目指すんです!」

 

独立リーグはあくまでプロへの架け橋、長居する場所ではない。

その為菊池のスタンスは正しいものだ。

 

 

「なるほど……2週間後に合格者が発表されるから、HPを見てね」

「はいっ! 今日はありがとうございましたっ!」

 

こうして菊池のトライアウト挑戦は終わった。

2週間後に彼女の命運が決まる。


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