気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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少し疲れたというか、ラミエル倒して気抜けでもしたか。連続更新切れてすまん。そしてアンケートの結果によりどんな感じで物語を進めるかを決定。

セカイはぽかぽかの波動に呑み込まれる。

しかし感想返しに一時間掛かる様になってくると嬉しく思うね。もっと感想くれると嬉しさで筆が進むよ!(物乞い


籠城、ココロを通わせて

 

 人類補完委員会は再び緊急招集を行っていた。

 

「第5の使徒殲滅。これは既に語るべきモノはないが」

 

 日本中の電力をかき集める為に消費された物資や人員を経費としてみれば国がまた傾く様な額であるが。その程度で使徒が殲滅されるのならば安いものである。

 

 しかし彼らは使徒殲滅が些細になる程の重大案件を前にしていた。

 

「零号機に続き覚醒したエヴァンゲリオン初号機。パイロットはまたぞろ碇の息子だそうだ」

 

 手元のモニターには背中からATフィールドの翼を生やした初号機が映る。

 

「初号機の覚醒。そしてサードインパクトの発生未遂。碇の監督責任ではないかな?」

 

 続けて初号機の上空に穴が空いた光景が映る。

 

「だがサードインパクトは防がれた──」

 

 零号機が初号機へと手を伸ばし、そして事切れた様に崩れる初号機が映る。

 

「我等の女神の仕業ですかな?」

 

「契約の執行途中の不運な事故、という事か?」

 

 初号機が使徒の砲撃を防ぐ為に背中から翼を生やす様子が映像で流れる。

 

「となれば、碇の息子をエヴァに乗せなければ以後は事故も防げると」

 

「その事だが。今エヴァを動かしている者が碇の息子ではない可能性が出てきた」

 

 映像は変わり、ケイジで固定されている初号機の口から現れる四人の人間が映る。

 

 綾波シンジと紫髪の少女。

 

 そしてサードチルドレンを抱き抱える女性。

 

「彼女が還ってきたか」

 

「だが、そうなればこの綾波シンジと名を変えたサードチルドレンはどういうことなのだ?」

 

「考えられるのは女神が造り出した新しい人間か、或いは彼女の器か」

 

「故にエヴァを覚醒できると?」

 

「サードインパクトが起こりかけたのもそれで説明はつくが……」

 

 紫髪の少女──シオン。

 

 灰の髪の少女──レン。

 

 そして綾波と名を変えたシンジ。

 

 その三者が揃ってモニターに映る。

 

「彼の身柄はどうなっている」

 

「同じだ。彼女らが居るお陰で手も出せん。それどころか監視員すらL.C.L.へと還元される始末だ。これ以上は監視も厳しくなるぞ」

 

 シオンに目を向けられた時、彼らを映していたカメラの映像にオレンジ色の液体が被る。

 

「やむを得ん。しばらくは手を引く他あるまい」

 

「幽閉措置。ということですか?」

 

「エヴァに近寄らせん方が得策かとは思うが」

 

「弐号機も日本へ着く。戦力的には問題はないだろう。鈴も到着予定だ。使徒殲滅スケジュールに狂いはない」

 

 今はなるべくエヴァからシンジを離すしかない。彼らが選べる選択肢はそれだけだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 サードインパクト寸前だった初号機はしかし、サードインパクトを起こすことなく機能を停止させた。

 

 ヤシマ作戦の後片付けで忙しいというのに、委員会からは彼を拘束。幽閉する様に通達があった。

 

 だがこれに猛反発したのが零号機という現在世界トップクラスの戦力で。零号機はレイも乗っていないのに動き出し、仁王立ちで第二芦ノ湖の前に立っている。その中には幽閉施設を物理的に破壊して拉致した彼と、零号機の心であるレン、さらには初号機の心であるだろうシオンという少女も乗っている。しかも頭には光の輪が存在していて、背中からは光の翼を生やしている。初号機と同じ状態であるのならば何時でもサードインパクトを起こせるぞと脅されている気分だった。

 

 零号機へのアクセスは全て遮断されている。

 

 初号機を出して確保しようかとも考えられたが、初号機は停止信号プラグが挿入されているのに全ての信号を拒絶して黙りだ。心が断固拒否しているのなら身体が動くわけが無かった。

 

 零号機はS2機関を搭載していて事実上活動時間は無限。

 

 籠城の構えで数日が過ぎても何も変わることがなく、私たちは零号機とのにらみ合いを続けた。

 

「どうにかならないもんかしらねぇ…」

 

「どうにかするなら委員会の命令を取り下げさせるしかないわね」

 

 ミサトもヤシマ作戦明けからまともに眠れていないから覇気がない。

 

「シンジ君に説得を頼んでみるとか?」

 

「やってはいるでしょう。でもそれを受け入れたら彼女たちはそれこそ今居る人類を滅ぼしてしまうでしょうね」

 

「まぁ、あんなのを見せられちゃね」

 

 初号機と呼応していた零号機を見ているから、その気になれば零号機もサードインパクトを起こせるだろうとミサトも感じている。初号機が暴れたりしていないことがまだ温情を掛けられていると思ってしまう。或いは彼の説得の賜物なのだろうか。

 

「やれやれ。連中も我が身は可愛いと見える」

 

「あら、副司令」

 

 溜め息を吐きながら冬月副司令が発令所の下段に現れた。

 

「彼女らに伝えてくれ。彼の身柄は自由の身だと」

 

「委員会が承認したのですか?」

 

「何人かメンバーが行方不明になったとかで随分と焦っとったよ」

 

 「女とは恐い生き物だ」と呟く副司令の言葉は背筋に嫌な汗が出るには充分だ。委員会のメンバー行方不明が、今回の事件に無関係であるハズがない。

 

 つまり彼女たちは本当に自分の気分と都合次第で全てを無に帰する事が出来る証明に他ならない。

 

「代わりに1人だけ監視を付けさせる約束だがね」

 

 監視1人を付けるだけで保身を買えるのは安いものだろうが、果たしてその監視はどういった存在なのか。そもそも彼女たちがその監視を受け入れるのか。

 

 いずれにせよ、生命の保証はないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァに監禁中、ナウ。

 

 いや。ねぇ、そのね。確かに幽閉される様なことはしました。エヴァからMAGIにアクセスしてみたら委員会の命令だったのが判った。すると零号機のプラグに一緒に乗っていたハズのシオンが消えた。パシャったワケじゃない。こう、フェストゥムのマスター型みたいに消えたのだ。

 

 時間にするともう3日籠城してるが、空腹を感じないとはどういうことなのか詳しくは考えないものとする。それでも食欲は湧く。人間の三大欲求の一つだから仕方がない。睡眠は出来るけれど食欲と、もう1つの欲は食欲で騙しても、今は騙せない。

 

 あとレン、なんでわたくしのシャツ一枚なんです? 食うぞコラ!

 

 そう意思を見せると演技掛かって見えるわざとらしくシナを作りチラチラと期待する視線を送ってくる。もうこれアレなの? 据え膳ですか?

 

 それでも踏み留まれた自分を誰か褒めて。

 

 いやウ=ス異本じゃないんだからプラグの中でそんなこと出来るか! 外に丸聞こえとか丸見えになったらどうするんだよ!! しかし年齢=童貞を舐めてはいけない。たとえ据え膳でも尻込みして手を出せないから童貞なんだよ!!

 

 ……これでなにかしらレンが誘う様な仕草を見せたら確実にアウトだった。だがその辺レンはまだ知らんらしいのでセーフだった。親心でカバーするのも限度があるのよ…。

 

 そしてまた1日、シオンが帰ってくると、外部音声でリツコさんの声が届いた。

 

『委員会から正式にシンジ君の幽閉解除のお達しが降りたわ。だから出てきてちょうだい』

 

 あのリツコさんが嘘を言うとは思えないから本当の事だろうが、いったいどうして委員会が命令を撤回したのか。

 

 不思議に思うとメチャドヤ顔で胸をふんすと張る紫髪の女の子が居ましたとさ。

 

「邪魔なヤツ、何人か消してきた♪」

 

 末恐ろしい事を笑顔で言いましたよこのヒットウーマン。

 

 人類補完計画を進めているから個の命に固執しないと思ったけれども案外違うのか。人類補完計画以外でパシャるのは無意味だからその為に此方のご機嫌を取るつもりなのか。それでもゼーレ滅べマジでがスローガンの自分からすると無意味だけれども、今ゼーレに消えられるとネルフの資金繰りがエラいことになるから使徒の殲滅までは生かして置くしかない。それとも加持さんに全部ゲロって真実を公にしてゼーレ無しでも使徒と戦える様に世間を味方にするか。

 

「レイも待ってるだろうし、降りるか」

 

「「イヤ」」

 

「大丈夫だから。リツコさん、無意味な嘘言わない人だから」

 

「「イヤ」」

 

 幽閉されてから零号機が壁壊して、エントリープラグに軟禁されてから色々と説得を試みてもイヤの一点張りだった。

 

 身体は離れ離れでも心は繋がっていると安心していたけれど、検査と称して離されて、そのまま幽閉だったから今のレンとシオンはヒトを信じる事が出来ないのだろう。

 

 さて困った。この二人をどうにか出来る存在が自分の他に誰が居る。いや、居ないな。

 

「あんまりワガママ言ってると、レイにだって迷惑掛かるよ?」

 

「別に。知らないもん」

 

「…………」

 

 シオンは知らん振りだが、レイと一緒に初号機を止めてくれたレンは思うところがある様だ。

 

「……何処へも、行かない?」

 

「…あぁ。何処にも行かない」

 

 真っ直ぐレンの赤い瞳と見つめ合う。すると1つ目を閉じたレンは零号機を操ってネルフ本部へと歩き出した。

 

「ヤダヤダ!! 私はシンジと1つが良いのっ」

 

 情緒が豊かな代わりにシオンは割りと駄々っ子な傾向にある。

 

『シンジ君! 彼女を大人しくさせて、初号機のケイジが壊れるわ!』

 

 そんな焦ったリツコさんの声が聞こえてくる。故に慌ててシオンを止めるために声を掛ける。

 

「だから初号機動かしちゃダメだって!」

 

「イヤぁ!! シンジと1つじゃないとヤなのっ」

 

 そんなシオンを大人しくさせる方法は簡単には思い付かない。情緒豊かだけれど感情的なシオン。それを煩わしいとは思わない。彼女は彼女なりに自分の安否を心配し、そして自分を肯定してくれる。1つになりたいとは相手を受け入れる事だ。それは自身の価値を肯定される事である。

 

 どうすれば良いか考えていたところに声を掛けたのはレンだった。

 

「ワタシも、ひとつになりたい。でも、ひとつになると感じられなくなる。だからひとつになるけれど、ひとつにならない。ATフィールドをひとつにしても、ひとつにならない。それがワタシの答え」

 

 そう、レンはそれを弁えている。ちゃんと我慢が出来る。だから綾波シスターズだと一番中身が大人なのだろう。

 

「私はシンジと1つが良い!!」

 

 逆に情緒豊かだからこそ感情的で歯止めが利かないのがシオンなのだろう。

 

 本当はラミエルの砲撃を耐える為だったのに、サードインパクトを起こす直前だった。1つになりかけていたから解る。

 

 シオンは一度与えられて、そして奪われたからこうにも1つになろうとするのだ。

 

 ユイさんの存在で満たされていたシオンは、しかしシンジがやって来ると追い出されてしまった。だからこんなに拗れている。ユイさんホント頼みますよ。

 

 それを知ってしまうと、あまり無下には出来なくなってしまう。

 

「シオン……」

 

「あぅ……」

 

 だから先ずは落ち着ける為にシオンを抱き締める。

 

「大丈夫。ちゃんと一緒に居るから。約束したでしょ?」

 

 頭を撫でてやりながら諭す様に紡ぐ。

 

「でも、人間は違う。約束、守らない…」

 

「そんなことない。守ってくれるよ」

 

 サードインパクトを起こしかけただけでも重罪だろうから問答無用で殺されるとも思っていただけに幽閉は命があるだけ優しい方だろう。

 

「これ以上迷惑を掛けたら、それこそ一緒に居られなくなっちゃう」

 

「だから、私と1つになろう? 私と1つになれば、シンジはもう何処にも行かなくて済むの」

 

「違うよシオン。それは違う」

 

 初号機の中に居れば永遠になれる。でもそれはヒトと触れ合う事も無くなってしまう。

 

 確かに自分はヒトと触れ合うことが苦手だ。けれども、それでも、他人が居ることの温かさを手放すことが出来ないんだ。

 

 こうしてシオンと触れ合い、レンと触れ合い、レイと触れ合い。

 

 リツコさんやミサトさんも、少しずつ誰かと触れ合う事を怖がらずにやって行けていると思い始めて来た。

 

 だからシオンにも外へと目を向けて欲しい。今は自分1人だけが彼女の心の中に居るだけだろう。でもそれだけじゃないセカイを知って欲しいから彼女を連れ出したのだから。

 

「要らない。私は、シンジ以外なんて要らない…」

 

「今はまだ、難しいとは思うけど」

 

 それでも首を振るシオン。こんなにも必要とされていると悪い気はしないと思う時点で自分もあまり彼女の事を言えないと思う。

 

「だから、一緒に行こう?」

 

 零号機がケイジに固定され、エントリープラグが排出される。

 

 シオンからの返事はない。セカイを否定する様に抱き着いて目を背けている。本当に手の掛かる駄々っ子だ。それでも彼女を見放すことも、放り出す事もしない。

 

 ちゃんと抱き締めて立ち上がる。落ちないようにシオンは首に腕を回してきた。首もとに彼女の顔を押し付けられる。全力で今は外を見るつもりが無いらしい。

 

 それでも外へと連れ出して、4日振りに外に出る。

 

 アンビリカルブリッジの上でリツコさんが待っていた。

 

「本部施設破壊とエヴァの私的占有。普通に考えたら厳罰ものね」

 

「覚悟は出来ています」

 

 子の責任は親の責任。自分達の関係は簡単には言い表せることはできないが、それでも人間社会における責任者は自分である。だから2人の不祥事は自分が責任を持つ義務がある。

 

「ごめんなさい。壊したことは謝ります。だから彼と離れ離れにはしないでください」

 

 レンがリツコさんに頭を下げて謝罪していた。謝られるとはリツコさんも思っていなかったからか驚いている様子だった。というか自分も驚いた。

 

 自らの非を認めて謝るという子供の成長を目の当たりにした親の気分だった。

 

「そうね。また離れ離れにして暴れられても敵わないから、あなたたちを引き離す事はしないことを約束するわ。だけど、彼の身柄を自由にする代わりに監視役を1人だけ付けさせて貰うわ」

 

「……あいつらみんな潰しておくべきだった…」

 

 リツコさんの言葉を聞いたシオンが耳元で自分だけに聞こえる声で呟いたおっかない言葉は聞かなかった事にする。

 

「それでも本部施設の破壊の件があるから、自宅謹慎を言い渡します。反省文の代わりとして、地上の第5使徒の遺骸の撤去工事を手伝って貰うわ」

 

「わかりました」

 

 零号機はS2機関を搭載していてある程度メンテナンスフリーになっているからこうして作業建機代わりに使ってやる事が出来る。ちなみに初号機は表向きはまだ電源が要る為にこの様な仕事に駆り出すことは出来ない。エヴァを動かすだけでもかなりの多大な電力が必要なのだ。

 

 宿舎の部屋に帰ってくると、レイが待っていた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい…」

 

 読んでいた本を畳んでテトテトと小走りで寄って来たレイは、しかし此方の両手がシオンを抱える為に塞がっているのが判るとシュンと残念そうにする。

 

「シオン、一回降りて」

 

「ヤ!」

 

 そう言うとシオンは此方の首に回していた腕を寄り強く引き締めた。こりゃ梃子でも動かんと思って、仕方がないからベッドに腰掛ける。シオンを膝の上に乗せれば手が空く。空いた手でレイを手招きすると、レイもまたテトテトと早足で寄ってきて、空いた手を両手で包み込む。

 

「きゃーっ、キャハハ、ぅん、やん!」

 

「言うこと聞かない悪い子はオシオキだぁ~!」

 

 そのままベッドに背中から倒れ込んで空いてる手でシオンの身体を擽ってやる。もうベッドの上だから落ちることもないから好き放題に擽る。

 

 逃げようとしてもガッチリ腕でホールドしているから逃げられない。ちょうど腕を極めている所から指先がシオンの脇の下を擽れるのだ。

 

 シオンと遊んでる合間、レイは握り締めた手をふにふにと握ったり自分の頬に当てたり、横になって頭の上に乗せたりと彼女なりに自由にしていた。

 

 その間、レンはいつの間にか膝枕をしてくれた。なんかホント良い匂いとか温かさに包まれて溶けそう。しかし物理的に融けるのはNGだ。

 

 こんな風にしていればみんな普通の女の子であるから、それが何かを間違えればサードインパクトのトリガーであるだなんて普通は信じられんよなぁ。

 

「なに?」

 

「いや、なんでもない」

 

 レンの顔を見上げていたからレンがそう返してきた。けれどもただボーっと見上げていたから特に何というのは無い。

 

 シオンを抱えていた腕を上げると、レンはその腕を掴んで、手を頬に添える。3人とも手触りが一緒で肌触りだけだと判別はとても難しい。ただ手を握る力は3人とも違う。

 

 レンは柔らかくて、シオンは引っ張るように、レイは離さないように強く。それぞれが彼女達が自分へと求めるものを表している様だ。

 

 手を離したからか、シオンの腕の力が強まった。グッと引き締まる腕は自分を離さないと物語っている様だった。

 

 レイは、頭を撫でるのを止めようとすると、その手を掴まれてまた頭に乗せて撫でろと催促される。こんな風になるなんて思わなかった。

 

 レンは、一番余裕がある様に見えて、それはただ我慢しているだけだと判る。

 

 シオンとレイが寝ついてしまったのを見計らって脱出すると、今まで静かだったレンが動き出す。

 

 1人でお風呂に入りたがらないレンと一緒にお風呂に入って、頭から足まで全部洗ってやる。

 

 浴槽に入るのも一緒。今まで我慢していたレンが一転攻勢で甘え始める。抱き着き魔であるレンを受け止め、身体の柔らかさを堪能させて貰う。なんかもう親心とか言っていられる余裕が無いけれど、甘えるように顔を首もとに押し付けて擦り寄ってくる可愛らしさにギリギリで踏み留まる。擦り寄ってくる度に彼女の実りの良い胸が胸板でカタチを変えていても──。この滾りはどうしてしまえば良いんですかね?

 

「ワタシと、ひとつになりたいの?」

 

「うえ!? や、いや、そんなこと」

 

「ダメ…?」

 

 何故か悲し気に首を傾げるレン。

 

 いや、ダメではないのだろうが。いやでもお風呂だって監視されてるだろうし。そもそもレンとはそんなことをしなくてもひとつである感覚はあるし。

 

「ヒトがひとつになる行為。生命を育む行為。ワタシは、アナタとひとつになりたい……」

 

 頬を朱くしているのは、湯船のお湯の所為ではないだろう。

 

「……止まらない、かもしれないよ」

 

 そもそもこんな極上の美少女を前に今まで我慢していたのだって、今のぬるま湯の様な心地好さを壊したくなかったからだ。

 

 レンを抱いてしまったら、彼女へ向ける心も変わってしまう。親愛を通り越した愛情を向けてしまって、彼女に拒絶されるのが恐いから、心地好い今の関係で居たかったんだ。

 

「ワタシはアナタ。アナタはワタシ。でも、ワタシはアナタとひとつになりたい。これはなに? ワタシはワタシのココロがわからない」

 

「それは、きっと、愛…、じゃないかな」

 

「愛──。相手を求め、親しむココロ。大事なモノとして慕うココロ。ワタシはアナタを愛しているのね」

 

 彼女が顔を近づけて、唇を合わせてきた。

 

「口づけも、愛情。アナタとひとつになりたいワタシのココロも、愛情。アナタはワタシのココロ」

 

「……好きって、言うと、レンはどう思う…」

 

「好き──。相手を好く言葉。異性を愛する言葉。アナタはワタシを愛してくれる?」

 

 小首を傾げる彼女の頬に手を添えて、今度は自分から勇気を出して近づける。すると受け入れる様に彼女は瞳を閉じた。

 

 その柔らかい唇を奪って、言葉を紡ぐ。

 

「もちろん。…俺があげられる愛情を、君にあげる。俺は、レンが好きだよ」

 

「っぅ──」

 

 レンが好きだと、そう心を込める。ATフィールドを操る様になって、本当の心の込めかたが、伝え方がわかった様な気がする。

 

 耳まで朱くするレンなんてはじめて見た気がする。

 

「ねぇ、顔見せてよ、レン」

 

「い、イヤ…」

 

「どうして?」

 

「恥ずかしい…」

 

 心に沸き上がる慈しみは、親心ではない。顔を見ようとする意地の悪さは、彼女を1人の女として見ているんだ。

 

 頬に添えた手で彼女の顔を上げると、潤んだ瞳を携えて朱くなった愛らしい顔があった。

 

 

 

 

つづく。


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