気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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良い感じですらすら書けたから投稿しちゃうんだぜ。でもナーンかリツコさんのキャラが崩れてそうだけど勘弁してね、勝手にこうなってるから。


不安、詰み上がったあと

 

 EVA初号機起動実験失敗。その事実はリツコを震撼させた。

 

「(何故? シンジ君を受け入れないというの? それとも、戦いから遠ざける為?)」

 

 EVA初号機がパイロットを拒絶する等想定外だった。なにより一度は受け入れた実の息子を拒絶する理由も原因も、リツコには思い当たらなかった。その中で仮説として浮き上がったのは、息子であるシンジを戦いから遠ざける為。

 

 初号機が暴走したのは乗っている息子を守る為。だが、戦闘終了後のシンジのバイタルは危険値を示していた。脳波も微弱。その後の精密検査で脳細胞に異常は無かったが、それでもシンジは一週間眠りつづけた。

 

 パイロットであるシンジとシンクロした事でその事を彼女が知ったとしたら、もう傷つくことの無いように遠ざけるという選択肢も頷けた。

 

 再度起動実験を行いたいものの、制御室に居るスタッフは零号機の起動実験も担当していたから及び腰だ。今回暴走はしなかったものの、次は無いと言い切れない。結局、起動実験は中止。エントリープラグから上がったシンジは心此処に在らずと言った雰囲気だった。

 

「シンジ君、大丈夫?」

 

「え? あ、はい……。大丈夫、です。はい…」

 

 あまりハッキリしない返事に怪訝に思う。まさか精神汚染でも受けたのかとも可能性が過る。

 

「今日はもう休んで良いわ。次の指示は追って連絡します」

 

「はい……。それじゃ、上がります」

 

 とぼとぼと生気の無い背を浮かべて歩いていくシンジの姿を見送る。その姿を心配するという気づかいよりも、込み上げるのは愉悦感だった。

 

 初号機が息子を拒絶したとあの人が知った時はどんな顔を浮かべるのだろうかと考えながら、リツコは報告を上げるために司令執務室へと足を運んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう────。

 

 頭を過るのはそれだけだった。

 

 初号機に乗れないなんて聞いてない。知らない。どうすれば良いのかわからなくなった。

 

 前後不覚でどうやって部屋に戻ったのかすらわからない。プラグスーツも着たままだった。

 

 サキエル戦から一週間半。あと一週間半で第4使徒シャムシエルがやって来るのに──。

 

 戦えない? 戦えないとどうなる? シャムシエル戦の時はまだレイの怪我も治ってない。今の初号機ならレイはシンクロ出来るのだろうか? アスカはまだドイツで実証評価試験中だし。え? なに、詰みじゃん。

 

 ベッドに座って顔を両手で覆いながら思考を巡らせる。

 

 今の自分は物凄く酷い顔をしている事だろう。それこそ精神崩壊したQのシンジ君張りに。

 

 もう一度初号機とシンクロする?

 

 保留。次は最悪暴走する危険があるかもしれない。

 

 初号機はレイに乗って貰って戦って貰う?

 

 保留。怪我をしたレイが何処まで戦えるか判らない。それに貞本エヴァのサキエル戦ではマトモに戦えてなかったし、シャムシエルの光の鞭はさらに難易度が高いだろう。追い詰められて暴走したシンジ君の捨て身の特攻がある意味最適解に思えるが、同じ様な戦いがレイに出来るとは思えない。

 

 零号機に自分が乗って戦う?

 

 保留。TV版でも零号機への機体互換テストで確か零号機とシンジ君はシンクロしたら暴走したはず。

 

 そもそも零号機は現在凍結中だ。今から凍結解除をしてシャムシエル戦に間に合うとは到底思えない。

 

 だからシャムシエル戦はどうあっても初号機で戦わなくてはならない。初号機を自分が動かせないのなら必然的にレイしか戦えるパイロットが居ない。

 

 どうしたら良いんだ。どうすれば良いんだ。

 

 そんな思考が巡り廻る。

 

「こんなの、聞いてないよ……」

 

 絞り出せた言葉はただそれだけだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「初号機がサードチルドレンを受け付けんとはな。どうするつもりだ、碇」

 

 サードチルドレン──シンジが目覚め、本日の起動実験は何事もなく終わるはずだった。しかし蓋を開けてみればとんでもない事実が飛び込んできた。

 

 先の使徒襲来と初号機の暴走により動き始めたシナリオがいきなり頓挫しかねない状況に陥っていた。

 

「問題ない。レイを初号機に乗せて対応する」

 

「レイを初号機に? あまりにも危険ではないか?」

 

 初号機は第二使徒リリスのコピーであり、レイにはリリスの魂が宿っている。初号機にレイを乗せる事は初号機がリリスとして覚醒する危険性を孕んでいる。確かにサードチルドレンが使い物にならなければ緊急措置としてレイを初号機に乗せるシナリオもあるが、危ない橋を渡る必要はない。

 

「アレが使い物にならないならまだしも、今回は初号機の側に問題がある可能性が高いと赤木博士は推測していた」

 

「確かに、先日は問題なくシンクロしていたのならば今回がダメだという理由は機体側かパイロット側にしかあるまいが、サードチルドレンが無意識で初号機を拒絶したとも限らんぞ」

 

「アレにそこまでの気概が要る事が出来るとは思えん。今はエヴァに乗ることがヤツが此処に居られる理由だ。その役目を放棄するとも思えん」

 

 冷静に分析する様に息子の事を評する父親の不器用さに溜め息が出そうになる冬月だったが、それとこれとは別として、レイを乗せるとしても現状の怪我を負っている彼女が満足に戦えるとは思えない。最悪また初号機の暴走に賭けるか。いや、それはあまりにも博打が過ぎる。最悪その場でサードインパクトが起きる危険性が無いとは言い切れない。

 

「零号機の凍結解除は出来んか? 或いはドイツから弐号機を呼び出すか」

 

「今は痛くもない懐を探られるのは気に食わん。零号機を凍結解除、レイを零号機に乗せるか、それとも零号機にアレを乗せるかだな」

 

 なにしろまだ第3の使徒を倒したばかりだ。コレから先第17使徒までの14体の使徒を倒さなければならないのだ。

 

「ダミーシステムもまだ理論段階ともなれば、今居るパイロットに頑張って貰わなければならんか」

 

「いずれにせよ、保険は必要だ。冬月、直ちに零号機凍結解除の打診と硬化ベークライトの破砕作業を始める。それと、レイと初号機のシンクロテストもだ」

 

「全ては使徒を倒してからか……」

 

 次なる使徒はそう遠くない内にやって来ると死海文書には書かれている。ならば次なる使徒への備えは出来得る限り整えなければならないのも確かだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「学校……、ですか?」

 

「ええ。いつまでも地下に缶詰めじゃ、息が詰まるでしょ? 気分転換も兼ねて行ってらっしゃいな」

 

 リツコさんのデスクに呼び出された自分に告げられたのは、学校への転校の話だった。

 

 エヴァに乗れない。そんな衝撃的な事実を受け入れられなくてこの数日マトモに眠れてない自分に降って湧いたそんな話を喜べる程の余裕は無かった。

 

「学校というコミュニティーで築かれる友好関係と言うものは貴重よ?」

 

「それは……」

 

 わからなくもない。シンジ君には友達と呼べる相手は居なかった。だが、自分には少なくとも学生時代には居た。大人になってからは殆ど連絡も取れなくなって久しいものの、それでも友達という存在が学校生活に彩りを添えてくれていた事は確かだった。

 

 ただ絶賛エヴァに乗れない事実に打ちのめされている自分は、とてもじゃないが学校なんて行ける様な状態じゃない。

 

「エヴァに乗れないことを気にしているのでしょうけど、今は考えても仕方がないわ。だったら少しでも建設的な生活を送る方が有益よ?」

 

 そうリツコさんは言うが。自分にとってはエヴァに乗れないなんて死活問題を放置して勉強に行ける程能天気でもないし、時間もあと一週間しか残されて居ないのだ。現状の打破に学校なんて関係ないのだから、学校へ行くなんて無駄な時間を浪費している暇さえ惜しい。

 

「……今、碇司令の命令で零号機の凍結が解除されているわ」

 

「…零号機?」

 

 リツコさんからそんなことを伝えられて、素直に首を傾げられた。零号機の凍結解除はもう少し先の事では無かったか?

 

「その零号機なら、或いはシンジ君も乗れるかもしれないわ」

 

「ホントですか!?」

 

「え、えぇ、おそらくだけれど……」

 

 エヴァの第一人者であるリツコさんにそんな可能性を示唆されれば希望が持てる。感極まって思わず身体を乗り出してしまう。そうすると対面に座っていたリツコさんの顔に自分の顔を付き合わせる事になる。ほんのりと頬を朱くするリツコさん。いやごめんなさい、近すぎましたね。30と言われてもそう感じさせないキレイな顔だと思ったのはナイショである。

 

「少しは元気になったみたいね。それで、どう? 学校も行く気になってくれたかしら?」

 

 学校──それを聞いて思うのは、トウジの事だ。

 

 サキエル戦は全く変わること無く消化されているということは、暴走した初号機とサキエルの戦闘に巻き込まれて妹が怪我を負っているはず。シンジが学校でエヴァのパイロットであることを明かさなければ殴られないとは思うのだけれど、なんというか、自分がやったことじゃないのに気が引ける。ただ学校についてリツコさんが話してくれているということは転入届けとかの書類関連はリツコさんがやってくれているのかもしれないし、こうして話しているけれどこの人は結構忙しい人なのは間違いない。もしかしたらそんな事務処理は他の担当者が居るかもしれないと考えるのは穿ち過ぎ? それともリツコさんがやってくれたと思うのは考え過ぎ?

 

 なんというか、少しだけホッと出来る情報を渡されたからか、フル回転していた思考が余計な方面に流れ始めた。

 

「何時にするかはシンジ君に任せるわ。今は自分を休ませることが最優先ね」

 

「え、えぇ、はい……」

 

 エヴァに乗れるかもしれないと言われたからか、急に眠気がドッと押し寄せてきた。初号機の起動実験から今日まで3日、マトモに眠れていなかったからだろう。

 

「ぁっ、あれ…?」

 

 椅子から立ち上がろうとしたら、立ち上がれなくて腰を落としてしまう。

 

「心配性なのは結構だけれども、自己管理はちゃんとしなくてはダメよ? あなたはエヴァのパイロットなのだから」

 

「は、はい。すみません……」

 

 「動けるようになるまで少し仮眠しなさい」とリツコさんに言われて、イスに座って瞳を閉じれば速攻で意識がストンと落ちた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 椅子から立ち上がろうとして立てなかったシンジ君をそのまま寝かせてしまった。背骨や腰に負担が掛かるでしょうけど、あのまま帰して部屋までたどり着く前に通路で寝てたなんてオチになるよりかは良いでしょう。

 

「なにをそんなに思い詰めているんでしょうね、この子は」

 

 初号機の起動実験のあとマトモに眠れていないのは監視カメラの映像でわかっている。なにやらぶつぶつと呟いていたけれど、声が小さすぎて音声は拾えていない。ただ目元の隈からして明らかに寝不足であるのは見て取れる。

 

 初号機に乗れなかったことがこの世の終わりのような顔をしていた彼。零号機に乗れる可能性があると伝えると僅かな希望に縋るような真っ直ぐな瞳を眼前で向けられて不覚にも恥を晒してしまった。間近で見ると案外愛らしい顔なのね、彼。

 

 今も何処か安心したように安らかに眠っている。あの様子だとこの数日マトモに寝付けて居なかったのが此処に来て懸念事項が解決しそうということで張り詰めていた糸が切れてしまったのね。

 

「エヴァに乗ることが、自分の所在を確かめられる唯一の方法……。そうなるのには些か早すぎるとは思うけれど」

 

 シンジ君の様な性格であれば先の使徒戦からエヴァに対して苦手意識を持ってもおかしくはない。しかし実際は初号機の起動実験の時もすんなりと乗ることを受け入れてくれたし、今も零号機へと乗れるかもしれないと知るとその事で生気を取り戻しもする。

 

 ヒトはロジックでは計れないとは言うけれど、予測とは少し違う予想外の反応を見せるシンジ君を少し不思議に思う。何がどう不思議に思うのかはわからない。報告書で知る限りの彼と、今の彼は違いが無いように思えるけれども、他人に対するスタンスが少し違うようにも思えてくる。

 

 内向的で他人と一定の距離を保ち、深く関わろうとしないはずのシンジ君。それは今もあまり変わらない。通路で行き違う職員に挨拶されれば返す程度で積極的に絡みに行かないし、自発的に挨拶はしない。されたから返す程度の一般的な表面だけの付き合いに見える。それでも心を許している相手には素直に自分を曝け出している傾向がある。その相手が今のところ関わる機会が多い自分一人ではあるのだけれども。

 

 それに少し優越感を感じている自分が居る。対面に座っているシンジ君は努めて此方の顔を見ているけれど、気を抜くと度々視線が胸元や組んでいる足元に行くのは健全な思春期の男の子として当然の事かもしれないし、それがまだそんな歳の子にそんな視線を向けられていると思うと悪い気はしない。自分を女だと、そんなことまで意識する。いいえ、あの人の子だからそう思うのだろうか。

 

 シンジ君が初号機とシンクロ出来ないと報告した時のあの人のサングラスに隠された瞳が僅かに見開かれていたのは今思い出しても良い気分になれる。シンジ君が初号機に乗れないのならあの人のシナリオは破綻する。それでもレイを乗せてシナリオを続けるらしいけれども、果たして何処まで修正が利くだろうか。

 

 取り敢えず、今はシンジ君の転入届けを書き上げてしまうのが先ね。学校の事で意識を割いたということは行きたくはないと言うことで、他人の言うことには大人しく従うのがシンジ君の処世術であるのだから、学校に行けと言われれば行くでしょう。ネルフに優秀な家庭教師は居るけれど、学校生活でなければ育めないものがある。

 

 彼を追い詰めて贄とするのがシナリオでも、喪うものがなければ育めないものがある。

 

 それでも得難いものがあるはずだと矛盾した事を考えるのは少しこの子に絆されているのだろうか。

 

「どうなるのかしらね、この先……」

 

 兎も角こんな早くに番狂わせ的にシナリオは歪んでしまったのだから、ある意味博打の様な楽しみもある。

 

 頬に手を添えて撫でてあげると擽ったがって身を捩る。ちょっと猫っぽい。

 

「さて。仕事に戻りましょうか」

 

 意外と触り心地の良かった肌を惜しみながら、若さの差という浮上した思考を追いやる様にデスクに向かった。

 

 シンジ君の転入。レイと初号機の起動実験。零号機の凍結解除工事。シンジ君と零号機の起動実験。考えただけでやることが目白押しだ。

 

 

 

つづく。


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