「待機って、どういう事なのよミサト!」
「そのままよ。現状待機、今情報を集めているから」
本部にとんぼ返りしてパイロットである自分達に降りた命令は、現状待機だった。それを聞いて発令所に突撃敢行するアスカを慌てて追い掛ければ、早速アスカがミサトさんに食って掛かっていた。
「あれロボットですよね。いったい何処の物なんですか?」
「目下不明よ」
主モニターには国連軍のVTOLと戦闘する謎のロボットが映し出されていた。とはいえそれは録画で、自分達が本部に戻る間で既に謎のロボットは国連軍のVTOL部隊を退けて行方を眩ましたとか。国連軍も人的損失を嫌って早々に待避したからこその呆気ない幕引き。相手が使徒でないならば第3新東京市の守りはネルフの役目だと言わんばかりの鮮やかな引き際だ。
こちらもリツコさんに訊ねてみたが似たような返答だ。
モニターから拾えるのは、そのロボットはエヴァの様な人型と異なり、四肢はあるが地面のエサをつつく鳥を思わせる胴長と逆足、マニピュレーターも備えていて火器の運用も想定されている造りだ。それなりの組織力を有する場所でなければ造れないだろう代物であることは充分伺える。少しズレるが、何処と無く00のMSであるアンフを思い出した。
国連軍との戦闘で判明しているのは、大きく前方に伸びる機首の機関砲、推定して100mm。
VTOLのロケット弾を食らってもびくともしない装甲。となれば少なくとも戦闘用兵器であることが伺える。
結局その日に何処の物かも不明のまま、パイロットは本部待機を命じられた。
本部住まいの自分は良いとしても、アスカは当然の様にカンカンである。
「ったく。なんだってこの国はいっつもやることなすことトロ臭いのよ!」
喚くアスカに、同意出来ず仕方がないと思えてしまうのは自分がもう大人としての視点で物事を見てしまう立場になってしまったからだろうか。それこそアスカと同い年の頃ならそんな風に世間を見ていたのだろうか。
アスカをまだまだ子供だと言った加持さんの言葉の意味が解るような歳になってしまったという事なのか。
アスカが喚いている今もミサトさん達大人は情報収集に奔走中だ。だからパイロットは本部待機を命じて体よく発令所から追い出された感じだろう。あのまま自分達が突っ立っていたところで邪魔にしかならないし、なら少しでも休めるようにというミサトさんの配慮もあっただろうか。真相はわからない。察するに後者ではあるけれども、邪魔だったのも多分確かかもしれなかった。本来ならパイロットロッカーに待機していれば良かったのを発令所に乗り込んだのは此方であるわけだし。
その辺を察するにはアスカはまだ情動に身を任せてしまう年頃で、とはいえそれを察していてアスカを止められない自分はほとほと使えないヤツであるからアスカより質が悪い。アスカへの程好い接し方、誰か教えてくれ。
「仕方ないよ。ミサトさん達が悪いワケじゃないんだから」
「…そんなのアンタに言われなくてもわかってるわよ」
ミサトさん達のフォローをしようと言葉を口にすれば、アスカには睨まれる。
「あーあ、ホント、なんもかんも台無し。何処の誰かが判ったらアタシがケチョンケチョンにしてやるっ」
怒りも闘志もメラメラ燃えるアスカを伴いながら、本部内の寄宿ブロックへと案内する。上の街のそこそこ良いホテル住まいのアスカは、本部内の必要ない場所にはてんで土地勘が無い。それを口にすればまた怒るから言わないが、ミサトさんが案内してやってと自分に言った時も案内なんて要らないと言いつつも、此方の歩みに合わせて爪先半分程度遅れて付いて来てる辺り、この辺の土地勘は無いのだろう。
カードキーを通して部屋を開ける。
「はい。今日はここ使って。隣が僕の部屋になってるから何かあったら呼んで」
「別に何かあってもアンタに頼らなくてもなんとかしてやるわよ」
「うん。とりあえずそのまま素泊まり出来るようにはなってるから。それじゃ、おやすみ」
「ふんっ」
差し出したカードキーをひったくって、アスカは扉の向こうに消えた。
「ま、嫌われてる方がまだマシって言うヤツか」
好きの反対は嫌いではなく、無関心だと良く言われている。とはいえ、嫌われてるのを分かっていても関わらないとならないし、関わらなかった結果、旧劇のアスカの有り様を辿らせるくらいならとことん嫌われても構わないと思っている。嫌われるだけでアスカを助けられるなら安い物だろう。
ガードキーを通してドアを開ける。すると漂う家庭的な良い香り。醤油と出汁の香り。今日は素麺かな?
「ただいま」
「あ、…おかえりなさい」
「ただいま。今日の当番はシンジ君だったっけ」
「あ、うん…。そう、だけど」
「うどん?素麺?」
「素麺。外、今日暑かったってニュースやってたから」
「なる。それは楽しみだ」
自分が敢えて缶詰め生活を送っていたのなら、シンジ君は殆ど部屋の外に出ない生活を送っていた。それを悪いとは言わない。何しろそんな生活、前世末期の自分が送っていた生活そのまんまだ。でも自分とシンジ君の徹底的な違いは、寄り添ってくれる友達の有無だろう。
「お風呂先するから、出来たら先食べてて」
「あ、うん。わかった」
シンジ君にそう伝えて、ネルフの制服を脱いでハンガーに掛けて、脱衣場に向かいながらワイシャツを脱ぐ。
洗濯機にそのワイシャツを放り込んだら雑にシャツとパンツと靴下を脱いで風呂場に入ってお湯を捻る。
空調で程好く冷えている身体を温める様に頭からシャワーでお湯を被る。
「やっほー、綾波クン♪」
「マリ!? な、なんでっ」
お湯を被っていたから分からなかった風呂場のドアを開ける音。いつの間にか居たマリが後ろから抱き着いて来る。しかも肌触りからこのネコ娘全裸だ。
「ムフフ。今日もお勤めご苦労サン、お疲れの綾波クンをお姉さんが労ってあげようと思ってさ♪」
「だからってフロに突撃する!? や、ちょっと、どこ触って、んんっ」
「お? ここか? ここがエエのんかぁ~?」
「や、やめろバカマリ、んあっ」
羽交い締めにされながら脇を擽られて、さらには耳元も
「歳上にバカって言う悪いコはオシオキだニャ~♡」
「ちょ、っと、も、揉むなぁ…っ」
身動き出来ないのを良いことに、胸元と臀部を鷲掴みで手を動かすマリを睨み付ける。
「あらあら、そんな凄んでも今の綾波クンカワイイだけだぜ?」
「度が過ぎるとホントにキライになるよ」
「そん時はホラ、気持ちよ~くしてあげるからサ♪」
「はぁ。もう好きにして」
「え?イイの?好きにして!?」
「ちゃうわボケ!」
呆れてものも言えないマリに対しては匙を投げるしかないものの、急に意味もなくこんなことをする様な人間とは思えないし、思いたくない。でなかったらただの痴女か変態だ。
シャワーの勢いを強めながら、マリの顔へ振り向く。アングルからキスでもしてる様にしか映らないだろう。
「で? なんの話?」
「ありゃ、もう真面目な話? もう少しお姉さんと遊ぼうぜ~」
「それ遊んだあと話さないヤツになるからダメ」
だから胸を背中に擦り付けるな。襲うぞネコ娘。
「ま、しゃーない。オカズは貰ったからヨシとするか」
「悲しくなるから激しく止めてちょうだいそれ」
「いーや。綾波クンはオカズあるのに私だけ無いの不公平じゃん」
「不公平言うのコレ?」
とはいえいい加減話が進まないし、誤魔化すのにだって限度が来る。常時監視されてるのも楽じゃないのだ。お互いに。
「今回のヤツ、戦自が絡んでるから気をつけて」
「あのロボット?」
「そ。あと、もし綾波クンに急に近付いて来るような女の子が居たとしたら、それも気を付けた方がいいよ」
「それ、思いっきりそっくりそのまま自分に返ってるよ」
「イヤン、お姉さんは別ですぅ」
伝えることは終わったのか、身体の拘束を解かれて自由になる。
「さて、そんじゃお姉さんはドロンさせていただきますか」
「させると思ってるの?」
「え? ふにゃ!?」
今度はお返しにマリを壁際へ追い詰める。
マリと向かい合って思うことは、レンに並ぶ大きさはあるって事だった。
「僕のこの猛り出した胸の内はどうすれば良いの?」
「あ、いや、まぁ…、はうっ」
ドクンドクンと高鳴る胸の音を伝える様に、胸と胸を合わせる。
「…すっごいね。これは水浴びしても落ち着かなそうかな?」
「そうだね。マリの所為なんだから責任取ってよ」
「ワタシの所為か、なら、仕方ないよねぇ」
マリが両手を此方の頬に添えて顔を近付けてくる。
当然逃げ場もないから自分の唇は導かれるままにマリの唇と合わさった。
ぽちゃんと、水の滴る音が耳に伝わった。
◇◇◇◇◇
琥珀色の海、生命の海、あらゆる命の
「へぇ。ここがガフの部屋の中ってヤツかぁ」
「いや待ってよ」
馬乗りになる私が押し倒す綾波クンは額に腕を当てていた。なんか犯し終えたあとみたいでムラっとクる。
彼の考えることがすべてわかる。
何処からが自分で、何処までも自分ではない曖昧な世界でひとつに融ける。
「こりゃもうココロのセックスだねェ」
「いやセックス言わないこんなの」
「イイやセックスでしょ。こんなぐずぐずに絡み合ってちゃ」
自分が自分でありながら、綾波クンでもある感覚。強固な自我を持っていなければ不意に融けてしまいそうな曖昧で危険な、甘美な感覚。
「でもやっぱ、身体があってキモチイイ方が綾波クンも好きだよね」
「ノーコメントにしとく」
「にゃるほど。じゃあお爺ちゃんたちに綾波クンの正体チクったろー」
「なっ、それは卑怯でしょ!」
「え~、全然卑怯でもヘチマでもありませんもんねぇ~だ」
互いにひとつだから互いが互いの事をイヤでも知ってしまう。
私の失恋とか、その後のワタシの歩みだとかも全部。
ただ代わりに私は綾波クンのすべてを知る。
「でも嬉しいなぁ。綾波クンそんなにワタシのこと好きだったんだ」
「好きとかと違うと思うんですけど」
いろんな事を知っている綾波クンは、結果から逆算して原因の仮説を立てるのはこの世界の誰よりもきっと早い。綾波クンの知識をすべて受け取った私でも、それを捏ね繰り回す知恵がない。それは『エヴァンゲリオン』という作品に20年以上も付き合っていた綾波クンだからこそだ。とはいえ、こっちもモノホンのエヴァと14年付き合っている本業だ。知識を捏ねるのはお得意様ってね。
「だって私と綾波クンが互いを知りたいって思ったからこうなったワケじゃん? これってもう相思相愛っしょ」
つまりそれは、ひとつになっても良いと互いに思ったから起きたこと。セックスしたいって思ったら自我境界線を超えてしまう。ヒトではなくなった対価は、ヒトとしてヒトを愛せなくなってしまったコト。
「それでも、俺自身、自分でその時の最善を尽くした結果だから後悔なんてないししたくない。それはレン達を傷つけるコトだから」
こんな時にまでお兄ちゃんしなくても良いのにって思いながら、綾波クンを抱き締める。
「ま、マリ?」
「なぁに? かわいくて、美人で、胸もおっきい良いオンナのおっぱいぱふぱふだぞ? そのまま甘えちゃえよ」
自我境界線を保つのはそんなに難しいコトじゃない。少なくとも欠けたワンコくんのデストルドーとアンチ・ATフィールドで行われたATフィールドの崩壊じゃない。
互いにリビドーに溢れているし、このガフの部屋もリリスのモノじゃない。ましてやアダムのモノでもない。零号機と初号機、どちらもリリスからコピーしたエヴァの魂とひとつになった綾波クンは擬似的なリリスとも言える存在だった。そして、アダムの仔である使徒とも融合する事で、生命の実と知恵の実を併せ持つ完全生命へと覚醒し、その器として13号機が創造された。
この場所は綾波クンが持つ魂の還る部屋そのものだから、綾波クンがリビドーに溢れている限り、この場で魂だけの存在となっても、自己を保つのは難しい事じゃないとはそういうコトだ。まぁ、綾波クンに嫌われたらその限りじゃない。そもそもそんな相手と綾波クンがこの場所に来れる様にするにはそれこそ綾波クンを依り代に、綾波クンのガフの部屋を外側から開かないと無理だろうけど。
「にしても。ホントに綾波クンより私の方が歳上ってのはなんか安心というか、めっちゃソソるというか」
「今までの空気全部台無しだよコノヤロウ」
「オコっちゃやーよ、それに私オンナだしヤロウじゃないしぃ」
「そういう事じゃない」
「まぁまぁ。でもとりあえず今回のコト、それとなく知ってるなら心配要らないかな?」
「それとなくだから完璧じゃないし。やれるだけのコトはするけどさ」
そうやってキミは何もかもを背負ってしまおうとする。そうしないと不幸がやってくる事を知っているから。
「これも何かの縁だ。キミの荷物、半分背負わせて貰うよ」
「それは…」
綾波クンは申し訳なさそうにする。そうやって周りを気にするキミは立派だけれども、お姉さんの前ならそんな肩肘張らなくってもいいんだぞ。
「あとキミを嫁に貰う」
「なんで嫁!?」
「いやー、ユイ先輩にお伺い立てなくて済むって気楽でイイねー」
「いやだからなんで嫁になるの」
「キミ、根っからのお姫さま体質だから」
「ワケわかんない」
自分から行くことに臆病で、誰かが連れ出してくれるのを待っているのに、これと決めた事には頑固に突き進むって所がお姫さま体質だからだよ。
「とりあえず、外出たら素っ裸なのは勘弁して」
「そのままナマの本番もヤっちゃう?」
「やらんわ!」
そんでからかうとプリっと怒るところもお姫さまみたいでカワイイ。
我の強い
あっちもこっちも、見守ってあげなくちゃダメだなぁ。
ぽちゃんと水滴が水面に滴り落ちる様な音と共に五感が返ってくる。第7ケイジ。そこに収まる巨人の胸からは、量子的に繋がる綾波クンの心臓の鼓動を届けてくれる。
「服、持ってきたわ」
「ありがとう、レン」
「ワタシはアナタ、アナタはワタシ。アナタのコトなら、ワタシがしてあげたいだけ」
そしてケイジのアンビリカルブリッジには綾波クンとワタシの分の服を持ったレンちゃんが待っていた。
「おうおう、愛されてますねぇこのこのォ♪」
「レンは特別だよ」
「ありゃりゃ、狼狽えもせず惚気自慢ですか手厳しい」
それも仕方がない。綾波クンにとってレンちゃんは自分の事を無条件で肯定してくれる存在同士なのだから。互いに互いを肯定しあう相互補完の関係。
「うわっ。なんだよマリ」
「別にぃ。ちょっと妬けちゃうなぁって。やっぱさ、このままセックスしよ?」
「ムードも脈略もなんも無さすぎて突発的し過ぎない?」
「女の子は気分屋なのさ」
好きな男の子振り向かせたくて必死な女の子みたいで我ながらどうなのかと思いつつ、あの空間で感じていたひとつになる陶酔感をまた味わいたい。
「そう。アナタもひとつになりたいのね」
「およ?」
「え、ちょっと、レン」
綾波クンを挟む様にレンちゃんの腕が回ってくる。
「温かい。ヒトのままひとつに繋がりたい。ワタシはワタシ、アナタはアナタ、アナタはワタシ。だからアナタとひとつになりたい」
「レン待って、ここじゃマズいから」
「どうして?」
「あー、さすがにワタシもここでおっぱじめるのは上級者過ぎて気が引けちゃうかにゃ~」
なにしろケイジの中。13号機は艤装作業中。今は夜だけれどもお構いなしに作業員は24時間交代制でぶっ通し作業中。さすがにそんな中ではハジメられないなぁ。
「まったく、シンジ君。慎みという文字を今度辞書で調べてこの娘に教えてあげなさい」
「あ、リツコさん」
白衣を着こなすパツキンのE計画担当責任者リっちゃんが綾波クンを咎めながらやって来た。
「監視モニターの前でいきなり融けるのは止めなさい。こっちも気が気でなかったわ」
「あはは、ごめんなさい」
保護者代わりで姉代わり、そんでもって今もって憧れの
だからお姫さまなんだよ、綾波クンは。
必要なのは恋を教えてくれる王子サマってね。
◇◇◇◇◇
マリからの忠告を受けて、第壱中学校を調べたら転校生としてその名を見つけた。
霧島マナ。
自分がマナについて知っていることはそれほど多くはない。エヴァの情報を探りに来た戦略自衛隊のスパイであること。
あとはシンジ君に近付いたのは良いけれど、そのまま惚れ込んじゃったという所か。
その他細かいことはわからない。マナに関しては情報はSS頼りか育成計画の方になるし。この世界だと育成計画の方の知識は役に立たないし。
「そうか。あれがトライデントか…」
マナの名前から芋づる式で思い出した戦略自衛隊のロボットの名前。
判ってしまえばあとは早い。
MAGIを使えるネルフから隠しきれる機密情報は紙媒体かインターネットと回線が独立してる端末を使うしかないが、大型機動兵器の資料管理を紙媒体でやれるものならやってみろってところだ。エヴァの極一部の資料だけでもデスクが埋まる分量なので先ず無理だ。
ならネット回線から独立した端末か?
そんな資料を引っ張り出すのに七面倒臭い仕様でやってられるか。MAGIでさえネット回線に繋がっているし、エヴァ関連の資料もMAGIのデータベースにあるのだ。だからセキュリティコードさえどうにかしてしまえば侵入可能なネット回線に繋がっているデータベースにそうした情報が収まっているのは何処の組織も同じなのだ。なまじっか組織が大きければ管理するデータも多いワケでそうするしかない。
そうなれば強いのはMAGIだ。セキュリティコードの解析は朝メシ前のスーパーコンピューター様々である。
マナの確認も兼ねて教育実習生として復帰する朝の出勤時間の合間に、エヴァとリンクしてる事を良いことに13号機経由でMAGIにアクセスして戦略自衛隊のデータベースを覗いて、トライデントの情報を集める。
陸上軽巡洋艦トライデント。
戦略自衛隊のロボット兵器計画のもとに試作された。6基の背部スラスターにより地上滑走、ハイドロジェットにより水上滑走・水中行動が可能。
コックピットは機首にあり、居住性の劣悪さから操縦に際して肉体に損傷を負わせる欠陥あり。
ネルフが対使徒迎撃用としてエヴァを造った様に、使徒の存在と死海文書の内容は国連や国の上層部は知るところにある。トライデントもそうした対使徒迎撃用兵器として造られた経緯を持っていた。
ただ操縦するのにパイロットがケガを負う居住性ってどういうモノなんだと疑問を抱かざるを得ない。何故最も揺れ動くだろう機首にコックピットがあるのか。リアクターの位置関係故なのか。だとすれば設計段階で欠陥がありそうなモノだと思いつつ、半月振りの第壱中学校の門を跨ぐ。
ネルフの任務による休職だと既に説明は通達済みなのでお咎めもない。職員会議を挟んで転校生としてある女生徒を紹介される。
「霧島マナです、よろしくお願いします!」
「うん。よろしく。僕は綾波シンジ、教育実習生だからそう畏まらなくても良いよ」
「そう? でも良かった。担任の生徒も優しそうだし、こんなイケメンな教育実習生の先生も居るクラスに転校出来て」
「クラスのみんなも馴染み易い子が多いから楽しみにしててよ」
「はーい! あ、ちなみになんですけど、この制服、似合ってますか?」
そう言って1回転くるっと回って制服を見せつけてくるマナ。マナもかわいい女の子で歳はシンジ君たちと同じ14歳だから制服が似合わないワケがない。
「うん。かわいくて似合ってるよ」
「うんうん、でしょでしょ? 私カワイイですから制服も似合っちゃいますよね!」
マナ程可愛ければ確かに自分に自信が持てるだろうけど、今のやり取りでちょっとナルシストの気があるんじゃないかと分析する。
レイともアスカとも違う雰囲気のマナは実際シンジ君はどんな感じで接したのかは気になるところだけど、シンジ君は今も本部でカヲシン真っ最中でまだ学校復帰は難しいからマナと会えるのもまだまだ先の話だろう。
「わたくし、霧島マナは綾波センセーにこの制服を見せるために本日朝6時に起床して参りましたぁ♪」
「はは。元気な子は僕は好きだよ。それじゃ、遅れない内に教室に行こっか」
「はーい! でもセンセ、女の子にそんな簡単にスキって言っちゃダメですよ? 思春期の女の子はそんな甘ぁい言葉にヨワヨワなんです。私も、ドキッってしちゃいましたもん」
「そう? 僕なんかの言葉でそう思ってくれたのは嬉しいな。うん、気をつけるよ。ありがとう霧島さん」
マリともまたちょっとキャラの違う、でも快活で明るそうな彼女が本編にも居てくれたらシンジ君の学校生活はより楽しかったんだろうなと思いを馳せながら教室へ向かう。
既にHRは根府川先生がやっていて下さっている。自分は先に入ってクラスのみんなに顔を見せて復帰を伝えたあとにメインディッシュのマナを手招きする。
綾波三姉妹にアスカも居て、さらに2人にも劣らない美少女の登場にクラスの男子が色めき立つ。思春期の男子はバカなので許してやってくれクラスの女子のみんな。
色めく男子と、それを冷たく見据える女子の光景に苦笑いを浮かべながら授業が始まり、あっという間にお昼だ。
「はい、アスカ。お弁当」
「…置いといて」
「うん」
持ってきたお弁当箱をアスカの机の上に置く。
「シンジぃ、おなかすいたぁ~」
「はいはい。今いきますよー」
教室の出口ではシオンが待ちきれないと声を上げていた。傍にはレンとレイもお弁当箱の入った手さげ袋を持って待っている。ちなみにシオンが紫、レイは青、レンはオレンジ、アスカのは赤で安直だけど各エヴァのカラーリングから色を拾ってきた。
「復帰早々オカンせなならんとは、センセも大変っすなぁ」
「兄妹とはいえ綾波三姉妹と食卓を囲めるとは羨ましいぃぃ」
「好きでやってることだから良いんだよ。あとケンスケ、体育の着替え写真はさすがに危ないから止めときなさい。ね?」
「ア、ハイ、ワカリマシタ」
「ケンスケ、お前も懲りひんやっちゃなぁ」
とりあえずケンスケの盗撮写真に釘を刺しておく。際どいのもあるけど、綾波シスターズもターゲティングするなら話は別よ。彼女たちの盗撮写真で儲けたいならこの自分を倒して貰ってからじゃないと。
「あっ、綾波センセーも屋上行くの? 私も行っても良い? すぐ購買で買ってくるから!」
そう言い残して、ダッシュでマナは行ってしまう。戦略自衛隊のスパイだけあってそのダッシュ力は同年代の子の何倍も洗礼されていた。
とりあえず屋上に上がると、屋上の踊り場には先客が居た。
「マリ? なんでここに居るの」
「なんでって。アタシの表向きの仕事、もう忘れちゃったの?」
「あぁ、そういえばそうだった」
そういえば委員会からの監視役でしたものね、マリさんも。
「うぅ~」
顔を近づけて囁くように告げてくるマリ。そんなマリから自分を引き離そうと腕を引っ張るのはシオンだった。シオンはマリの事も目の敵にしていた。
「あれ? 綾波センセー、その子誰ですか? この学校の制服じゃないし」
「んにゃ? アタシ? 綾波クンの旦那サンよ! うにゃんっ」
「変なウソを言うなウソを」
「イタタ、だからってチョップは無いでしょ。この頭脳明晰なマリさんの脳細胞が億単位でピンクになったらどうすんのさぁ」
「そのままピンクレディーにでもなっちゃえ」
「確かにちょいと馴れ馴れしいよね綾波クン」
「渚のシンドバッド? あとマリに言われたくない」
「That's right♪ ご褒美は~、お姉さんのアツ~いキッスでどう?」
「あとにしてね」
「っしゃオラァ! 言質取ってやったぜマイハニー!!」
「とりあえず脳内真っピンクマリの事は気にしないで。色々事情があるんだ」
「そ、そうですか」
我が道を行く様な暴走ネコ娘にマナも苦笑いを浮かべながら屋上へと出る。
「わぁぁぁ、ステキ! キレイな山、湖も!」
「盆地だからねココは。周りは山に囲まれてるから都会なのに自然の豊かさが味わえる良いところだよ」
レジャーシートを敷いて座れば胡座の足の中に当然の様にシオンが座り、左右にレンとレイが腰を据えた。
「綾波センセーって、もしかして生徒に手ぇ出しちゃってる系?」
「違う違う。レンもレイもシオンも家族なんだよ」
「あ~む、むふぅ、むぐむぐ」
シオンに卵焼きを食べさせながら何も知らないマナに綾波家であることを説明する。
「え~、私とはあんなに組んず解れつぐずぐずに融け合ったのにぃ?」
「ユイさんにマリが年下趣味に目覚めたってゲロって良い?」
「ちょま! それだけはご勘弁おくんなましよ~」
「なんか楽しそうですね、綾波センセ」
「まぁ。こんな日常がいつまでも続いて欲しいっていうのは切実に思うことだね」
実際、マリのお陰で自分の日常に今までには無かった彩りが増えたのは確かだった。
その時、懐の携帯が鳴った。
「はい、綾波です」
『シンジ君かい? 実はEVAが必要になる案件が出てきて』
電話の相手は日向さんだ。まぁ、エヴァが必要になるとなればミサトさんが必要だと判断して此方に話が来るなら窓口は日向さんになるのも自然な事だ。
「了解、これから本部に戻ります。レイやアスカはそのまま授業を受けさせても良いですか?」
『ちょっと待ってくれ、今葛城さんに確認するよ──うん、2人はそのまま授業受けさせてて構わないってさ』
「了解しました」
携帯を切って楽しげに身体を揺らすシオンの頭を撫でる。
「レン、一緒に来て」
「ええ」
「えーっ!? なんでなんでなんで!? 行くなら私でしょー!!」
「13号機はまだ動かせないからね」
初号機はイヤだというシオン。ならお留守番して貰わなければならないのは仕方がない。13号機はまだ拘束具の換装作業中で出られない、よってお鉢が回るのは弐号機か零号機だ。そしてこちらに連絡が来た以上、自分が零号機での出撃とあらば連れていくのはレンで決まりだ。
「……なら、古いので我慢する」
「ワタシはいい。いつでもアナタと一緒だから」
渋々と言った体で初号機で我慢するというシオン。レンはどちらでも構わないという。末っ子根性逞しいシオンの我が儘っぷりにレンはいつも我慢する偉い長女を頑張っていてくれる。
「よし。なら行こっかシオン」
「わーい! やったーっ」
「マリはどうする?」
「13号機で出ないなら本部待機かにゃ~」
「わかった。レン、レイ、悪いけどあとお願い」
「ええ」
「いってらっしゃい」
「うん。いってくる」
レンとレイに後片付けを頼んで、最後に声を掛けるのは1人だけ状況的に部外者のマナだった。
「そういうことでちょっと早退する事になっちゃったんだ。午後の授業、ちゃんと受けてね」
「え、あ、うん。綾波センセ、エヴァのパイロットなんだもんね」
「うん。じゃあ、いってくるから」
一緒に出撃だとテンションMAXのシオンを背負って、マリを伴って駐車場に向かって乗り込むのは黒の初代インスパイア。給料で買った愛車である。この車種なのはちょうどエヴァをリアタイで見てた時のウチの愛車がコレだったから思い出の品ってヤツである。
助手席にシオンを放り込んで、マリが後部座席に座ったのを確認してアクセル全開。ネルフ本部へと直行した。
つづく。