トライデント追跡調査に動きがあった。
岩盤に激突して擱坐しているトライデント。
状況から見て崖を踏み外してその勢いのままぶつかったらしい。
ネルフの調査班が機体に取り付いて調査しているのを、上空で滞空しながら待機するのは零号機だ。
久し振りの零号機のコックピットはすっかり女の子の香りになっていた。
両肩のロックボルトを固定器具として流用して装着されている追加ユニットの構成は、背部に重力子フローター、両肩の脇にはN2リアクターと歪曲フィールド発生器を内蔵しているジェネレーターユニット。そのジェネレーターユニットから伸びるバインダーには対空レーザーとホーミングレーザー、ロケットノズルを装備する。
一見するとまるで傘の様な見た目になるその装備の名はファイバーユニット。ダンディライアンと合体するインレの上半身を構成するファイバーⅡのプロトタイプである。
エヴァに装備することで、ウィングキャリアーといった大掛かりな輸送手段が無くとも遠隔地に緊急展開を可能としている。
先日の出撃のメンテナンスをするダンディライアンに代わって、今日はファイバーユニットの出番となった。
学校へ行く直前のタイミングでの非常召集。
動き出したトライデントを追尾と確保する為にネルフの現時点最高戦力である零号機F型を出撃させる事になった。さらに緊急展開を必要とする為にファイバーユニットを装備してでの緊急出動となった。
トライデントの追跡を行った結果がこの現状であった。
トライデントの調査現場には戦略自衛隊も加わっていた。
既にパイロットの暴走による脱走兵器だという通達も降りている。
推進器も使わずに浮遊しているファイバーを訝しげに見上げる視線もいくつかある。
岩盤に激突した事で大破と言って差し支えのない様子のトライデントの頭上に浮かぶファイバーを装着した零号機という構図はなんとも嫌味に見える事だろう。
戦略自衛隊が心血を注いだロボット兵器の有り様と対比して空をも作戦行動区域に加えたネルフのエヴァ。
JA改は致し方無いとして、戦自に対しても技術力の違いを見せつける様な構図となってしまっているのだ。
個人的にはそれを狙っていたわけでもない。儘ならない事は時として連続してやって来るものだ。
トライデントの胴体にパイロット用だろうハッチが見受けられる。
眼下でそのハッチを抉じ開ける作業が行われ始めた。
それを横目にファイバーの各種ステータスが問題ない事を確認していく。少々の小競り合いはあったが、歪曲フィールドは悉くトライデントの攻撃を無力化してくれた。
あとは実際に使徒と戦闘してみなければわからない。マトリエルがそうした意味では特殊な能力も持たない使徒としては最適だが、ネルフ停電と時期が被るとすると、すんなり出撃が出来るかどうかの問題となる。ファイバーとダンディライアンのN2リアクターから直接電力供給をしてエヴァを発進させる対応シミュレーションもしているが、正・副・予備の3系統の電源を落とされる大事態だ。その仕掛人は加持さんだが、その背後は日本政府となっている。しかも今回は日本政府から攻撃される材料を作ってしまった辺り本当に儘ならない。
故にN2リアクターを緊急電源として使う案は誰にも話していない。だがあの加持さんがその事に思い至らないはずは無いだろう。日本政府にも既にN2リアクターをネルフが開発し終えた事も出回っているはずだ。
最悪インレ計画も狙われるかもしれないと思うと気が気でない。
ただそれならそうで良い。本命はヴンダーだ。インレ計画はヴンダーの護衛機建造計画に過ぎない。それすらエヴァの全領域対応装備計画案という触れ込みだ。
ヴンダーが建造出来れば移動可能な本部施設として機能し、後顧の憂い無く戦う事が出来る。
トライデントから救出されたのは中学生くらいの男の子だった。
重症という事だが、生きてはいる様だ。
搬送先は戦略自衛隊病院。戦自の兵器に乗っていたのだから当然の事だが。
トライデントの回収作業の支援も含めて零号機は出動している。ファイバーに装備して来たウィンチを降ろして、ワイヤーとフックが固定されるのを見守る。吊り上げて運ぶのは人目に目立つだろうが仕方がない。
新御殿場駐屯地にトライデントは運び込む事となった。
急ぎの旅でもない上に、大破して折れ曲がっているトライデントを揺らすワケにもいかないので、反重力推進だけでゆっくりと丁寧に運ぶ。風に吹かれない様にATフィールドで円柱形に零号機ごとトライデントを保護する。
これも折角だからデータを取る為だった。ワイヤーから吊り降ろす機体の保護。サンダルフォン戦に役立てられないかというそんな考えからだった。
トライデントの回収後、ネルフ本部に戻るとリツコさんがトライデントのパイロットを見に行くというので同行する事にした。
リツコさんが他人に興味を持っているのも珍しい。トライデントという戦略自衛隊秘蔵のロボットのパイロットに興味があるのか。しかし良く脱走したパイロットにお目通りが叶ったなと思う。
「例のパイロットのカルテを見たけれど、中々面白い事がわかったわよ?」
「面白いことですか? いったいどんな?」
「あのトライデントという兵器の欠陥。激突した衝撃で打撲やら骨折やらで酷かったけれど、彼らの身体に相当の負担が掛かっていた痕跡を見つけたわ。おそらく、コックピットの居住性は最悪でしょうね。いったい何人のパイロットを使い潰したのか、想像したくないわね」
「どういう負担が掛かっていたんですか?」
「内臓をやられる程のシェイカー機能付きロボットってとこかしら。機体胴体はリアクターや冷却器に占有されていて、パイロットを乗せる余裕が機首にしかなかった様ね。放射能汚染の危険も考慮すれば合理的ではあるけれど、問題はコックピットの居住性を確立出来なかったという事ね」
「そんなモノに子供を乗せるなんて…」
「私たちが言えた義理じゃないでしょうけど、エヴァの完成と運用、そして使徒殲滅の戦果と実績はこうした他の組織の歪んだ成果を生み出す結果に繋がったのでしょうね。とはいえ、それにあなたが責任を感じる事も無いわ。そもそも、全人類の生命を背負っているあなたが背負う必要も無いことよ。これは大人の話ですもの」
「……はい」
確かにそんなことまで背負う必要も無いし、背負えと言われても自分は身の周りの事で精一杯だ。
しかしアスカの事も一緒だ。自分のしてきた事で預かり知らぬところで不都合が沸いて出てしまっている事に思わないところが無いワケがない。
かといって、使徒は倒さなければならない相手で、そんな相手を倒した後の事で誰かに不都合やら不幸が降り掛かるなんて考えられるワケがない。
だからリツコさんは気にするなという。気に留めてもどうしようもない事だと。
ただそれでも、あんな痛々しい姿を見てしまうと、ココロが疼いた。
◇◇◇◇◇
「あれは…」
戦略自衛隊病院から出ようとすると、人目を気にして廊下を行くマナの姿を見つけた。
「なにしてるの? 霧島さん」
「きゃっ!? …なんだぁ、綾波センセーか。驚かさないでよぉ」
こちらの姿を見て胸を撫で下ろすマナ。どう見ても様子が変だ。
申し訳無くリツコさんを振り向くと、行ってらっしゃいと言うように手を振って送り出してくれた。廊下を去っていくリツコさんを見送って、マナに振り返る。
「どうしてこの病院に?」
「……私の友だちが運び込まれたって聞いたんです」
花束を抱くマナの様子から、誰かを見舞うのだったのだろうと思い当たるが、ならばどうして人目を気にしていたのかの説明がつかない。
「トライデントのパイロット」
「っ!?」
その言葉を口にすると、マナの肩が跳ねた。そして、何もかもを諦めた様な表情で自分に向き合って来る。
「なにもかも、お見通しだったんですね…」
「僕が知っているのはマナが戦自のスパイだって事だけ。今日この病院に運び込まれた急患でマナの友だちって考えたら中学生くらいの男の子だったトライデントのパイロットくらい。知ってる事はそんなに無いよ」
「そうですか……」
マナの言葉は消え入りそうに小さかった。
「センセ?」
「この前も言ったけど、僕はマナの為なら出来る事をしてあげたい。僕は、マナの味方だから」
「センセ…」
そんなマナを見てられなくて、マナの手を握ってそう口にしていた。
「中々堂が入った告白じゃないか、シンジ君」
「誰!?」
「加持さん」
そんな自分達に声を掛けて来たのは加持さんだった。
「どうしたんです? こんなところで」
加持さんの仕事の持ち場的に此処に居るのも不思議である。
「なに、今回のロボット騒動の件で少し呼ばれただけさ。人の造ったものだけに色々と面倒でね」
やれやれと肩を竦める加持さん。エヴァに対して戦略自衛隊の脱走ロボットが攻撃をした。その事実だけでも一大不祥事なのは言うまでもない。
「みんな、私の所為かもしれない…」
「どういうこと?」
「待った。今これ以上この場に留まるのは危険だ。そして、俺もさっきの事は聞かなかった事にする。シンジ君、彼女を頼んだ。そして君も、これ以上この病院に近づくな」
加持さんの真面目な雰囲気によろしくない空気を感じ取る。加持さんに頷いて、マナの手を離さないように握る。
同じ戦略自衛隊なのにマナがこそこそとしていた理由と、さっきの言葉から重い事情を抱えているのは察しがつく。
「ネルフ権限における要人保護権に則り、彼女を保護します」
「綾波シンジ特務三佐の要請を受理。さ、早くこの病院から出るんだ」
「はい。行くよ、マナ」
「え、あ、えっと、了解?」
状況が読み込めていないというマナの手を引いて病院を出る。
去り際加持さんから渡された車のキーと小さなメモを頼りに、駐車場の車を見つけて乗り込む。ミニクーパーとは、かわいい趣味をしていらっしゃる。
「ねぇ、綾波センセーって結構偉い人だったの?」
「まぁ、最近なったばっかりだけどね」
非常時に措ける措置として、自分はパイロットの統括者の1人として三佐相当──つまりは少佐クラスの権限が与えられる。ミサトさんも一尉から三佐の昇進が決まっているのは冬月先生から下りてきた情報だ。
乱用は厳として慎むモノだが、今回は身の危険を感じた為に敢えてネルフ本部司令部付きの三佐として身分的に振る舞う宣言をした。
こうなったら怪しい車が追ってきても下手な手出しは出来ない、と思いたい。
「さっきの、自分の所為だって話。どうしてトライデントの事件に、霧島さんが絡んで来るの?」
「それは、ネルフの人間として知りたいんですか?」
「学校の先生として、というわけでもない。僕個人として、霧島さんのコト、放っておけないから」
「……なら、話せません」
「霧島さん……」
「優しく、しないで。優しくされたら私、センセーに甘えちゃう」
「甘えたって別に」
「なら、エヴァのコックピットがどうなってるとか話してくれるの? くれないでしょ! 機密なんだもの、そんな同情ひとつで話せる内容なんですか!?」
涙を溢れさせながら叫ぶマナ。マナの任務。自分に近付いた理由。トライデントの欠陥を知ったから察した。
「確かにエヴァの機密は簡単に教えられない事が多い。でもマナの任務を達成させてあげられる技術を僕は持ってる。その技術は僕の管轄だから教えてあげられる」
「なにを言ってるんですか。軍事機密はそんな簡単に伝えて良いものじゃないんですよ?」
「でもそれでマナの悩みがひとつ減って、トライデントという人類の力がひとつ完成するのなら、僕は惜しいだなんて思わない」
「センセー…なんで……」
「好きって言ってくれたことが嬉しかったから」
マナだったから助けたい、というのも何処かにはあるのかもしれない。少なくとも何も知らない他人よりはマナに対して知っている事はいくつかあった。
でも実際にマナと少ないながらも話して、触れ合って。助けたいって思ったのはウソじゃない。
「だから助けたい。マナのこと」
「……チョロすぎるよ。センセー」
「そうかな…。そうだとしても仕方がないよ。コレが僕なんだから」
キスされて、好きだと言われただけで此処まで気を許して動いてしまうなんて確かに客観的にはチョロいヤツなのかもしれないけれど、それで目の前の女の子を助けられるなら、チョロくても構わないって思ってる時点で多分自分はバカの部類だろう。
◇◇◇◇◇
ネルフに到着して向かった先は冬月先生の所だった。
「綾波シンジ、入ります」
「ああ。ご苦労だったな、綾波特務三佐。報告は聞いているよ」
おそらくは加持さんの方から連絡が行ったのだろう。加持さんが何処の味方かはわからないけれども、今回の件は此方の味方として動いてくれた様だ。
「そちらの彼女が、例の娘かな?」
冬月先生の視線が連れて来たマナを向く。
「はい。要人保護権の行使で、彼女の身柄を保護しました。詳細は後程上げますが、彼女の証言からトライデント開発過程において非人道的なテストが繰り返されていた事が判明しました。また戦略自衛隊隊員による不当な暴力に端を発し、今回の事件へと発展した事実が判明しました」
ネルフに到着するまでの間でマナが話してくれたのは、今回の事件の経緯だった。
トライデント開発においては幾人ものマナと同世代の子供たちがいたらしい。ただトライデントの劣悪な操縦性からひとり、またひとりと身体を壊してリタイアしていく中で最終的にマナと他2人の男の子が残ったらしい。さらには大人たちから暴力も振るわれていたという事だ。よって子供たちは完成したトライデントで逃亡を謀った。
マナが自分の所為だと言ったのは、トライデントで逃げ出そうというのを最初に言ったのは彼女であったかららしい。
「彼女の証言だけではその事実を立証するのにはまだ弱いな」
「はい。ですので残るトライデントのパイロットの確保がこの件を決着させる為の鍵であると思われます」
「そうなるだろうな。そして、それを裏付ける様に戦略自衛隊から彼女の身柄を寄越す様通達が来ておるよ」
「彼女の身柄はネルフ権限に則り私の保護下にあります。そして彼女の証言が事実であるのならばなおのこと身柄を引き渡すわけにはいきません」
「戦略自衛隊と事を構えるメリットが我々ネルフには無いわけだが?」
「先の事実から戦略自衛隊の非道を暴き、直轄である日本政府にも貸しを作ることが出来ると愚考致します」
冬月先生の揺さぶりに負けない様に無い頭から言葉を搾り出す。個人の感情で組織を動かすことは叶わない。メリットとデメリット、損得勘定という天秤で得をするという方に傾けさせなければならないのだから。
「辛いが、まぁ、合格としてあげよう。実際、戦略自衛隊と日本政府に貸しを作ることが出来る材料は充分なメリットとなる」
「ありがとうございます、冬月副司令」
「構わんよ。さてお嬢さん、そういうわけで君の身柄は綾波特務三佐の管轄となる。少しの間不自由となるが我慢してくれ」
「い、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うむ。礼儀のしっかりしているところは好感が持てる。困った事があれば綾波特務三佐を頼りなさい。あとは此方の仕事だ、下がって構わんよ」
「はい。では失礼します」
「し、失礼します」
マナと並んで執務室を辞する旨を口にすると、冬月先生は微笑みで送り出してくれた。
「ぷっはぁぁぁ、き、緊張したぁ。綾波センセー良く平気だったね」
「普段の優しい冬月先生を知ってるからね。今は副司令と三佐の立場で接する必要があったから堅苦しい雰囲気になっちゃったけど」
自販機コーナーで休憩する事にすると、マナは肩から力を抜いて大きく一息吐いた。
オレンジジュースを2本買って片方をマナに手渡す。
「ありがとう。でも頼もしかったな、センセ。もっと好きになっちゃいそう」
「あんな話を聞いちゃったら余計マナの事放っておけないよ」
「センセー優しすぎ。そんなんじゃ色んな人に簡単に騙されちゃうよ?」
「僕だってちゃんと良いかダメかって判断してるよ」
「じゃあなんで私は良かったの? 最初からスパイだってわかってたんでしょ?」
「実際に会ったマナが助けて欲しそうな目をしてたから」
「私そんな目してた?」
「僕にはそう見えたってだけ」
そんな風に誤魔化しておく。実際にマナについて知っていることは少なかったけれども、シンジ君に惚れちゃったっていう覚えていた情報から悪い娘じゃないだろうなと勝手に思っていただけだ。
「だ~れだ?」
「それ隠す気ないでしょ」
目隠しをしないであすなろ抱きをしてくるマリにそう返した。
「綾波クン、まーたオンナのコ囲うつもり?」
「人聞きの悪いこといわないでよ」
別にそんなことしてるワケじゃないし、してるつもりもない。
「え? センセー、あんなに私のこと好きって言ってくれたのに…」
「あー、いーけないんだいけないんだ。せーんせいに言ってやろー」
突然見放された様にショックを受けた様子を見せて泣き崩れるマナと、それを見て此方を指差して批難するマリ。
「冬月先生が困るからやめようね? マナも嘘泣きで僕を陥れてどうするつもり?」
ただあまりの突拍子もなさにマナのそれが演技だっていうのはいくらなんでも判るし、それで騙せる程自分はバカじゃないしチョロくもない。……でもマジだったらどうしようと思ってる辺りやっぱり騙され易いチョロいヤツなのかもしれない。
「だって、たぶんその人が一番強敵そうなんだもん」
「お、良いカンしてるぅ。そうだにゃ~、綾波クンはそう簡単に渡すワケにはいかない真希波お姉さんにゃ~」
「僕はマリのなんなのさ」
「え? お嫁さんだけど?」
スラリとなんの考慮もなく自然と放たれた言葉をそのまま受け取っても良いものかと考える。融けあってからマリは時折自分を嫁扱いしてくる。
それで良いのか悪いのかわからないものの、そう言われる事が自分を大事にされている様に感じて、心地好さを感じている自分はチョロいという事に言い逃れが出来る材料が見当たらない。
「綾波センセーって、頼もしいけどカワイイんだね」
「お、そこが判るのは中々解ってるねぇ」
「何処が、何が」
「お嫁さんって言われて満更でもなくてワタシの腕にすっぽり収まってる所とか」
「ネコみたいですよねぇ」
「本質はワンコだよ綾波クンも」
「解った。具体的に言わなくて良いから」
マリに甘えている、それを改めて言葉にされると恥ずかしさが沸いて出る。自分のすべてを知るマリに余計な墓穴を掘られる前に降参の意思を告げるしかなかった。
◇◇◇◇◇
「はじめまして、霧島マナです!」
「い、碇シンジです。よ、よろしく…」
「うん。よろしくね、碇君!」
本来あるべきであっただろう出逢いは紆余曲折を経てネルフ本部寄宿舎の中で行われていた。
マナみたいな明るい娘が、シンジ君には必要だろうと思って引き合わせてみた。結果良い調子のスタートだろう。
「にしても、綾波センセーと碇君ってそっくりなんだね」
「親戚だからね。似る事もある、と言いたいけれど、マナって僕の事どんな風に聞いてる?」
「えーっと、綾波センセーは元々碇シンジ君だったとか?」
「上にはそれで出回ってるのか」
綾波シンジは元々は碇シンジだったということで上層部には情報として出回っている事に、現状をどう説明するのかという難しさに頭を悩ませる。
それこそエヴァの秘密に触れないとならない関係であるからだ。
「僕も元々碇シンジだった。けれども綾波シンジとして生きることにした。だから僕は綾波シンジで、碇シンジは彼の方だって覚えておいてくれれば良いかな」
「それって、エヴァの秘密に関係あるってこと?」
「ある。だから話せる事も少ないんだ。ごめんね」
「わかった。まぁ、碇君は碇君で、センセーはセンセーって覚えるから良いよ」
「ありがとう、マナ」
「えへへ~、どういたしまして」
身を乗り出して微笑むマナ。ふと身体に誰かがしがみつく。
「シンジは渡さない…」
それはシオンだった。う~っと唸るシオンの頭を撫でてやる。それでもあまりご機嫌はよろしくならない。
「センセーモテモテだね」
「まぁ、悪い気はしないよね」
シオンの反対側にマナが抱き着いてくる。
「マナ?」
「私も、センセー…、シンジのコト、好きになっちゃった」
「マナ……。あうっ」
「私も忘れちゃダメだよ? 綾波クン」
「ま、マリまで…」
背中に抱き着いて来たのはマリだった。
「わたしも、ぽかぽかしたい。1人は、寒い…」
「レイ…」
そして胸に寄り添って来るのはレイだった。
「そう。みんなと居ると温かい。1人ではないことを知る。アナタはワタシ、ワタシはアナタ。アナタの想いはワタシのココロ」
優し気に微笑んで此方を見るレンに助けは期待出来ず、シンジ君は既にカヲル君とカヲシン空間で台所に立ち、此方は眼中に無い。
温かい通り越して少し熱いでもないけれど、それ以上に、好かれていることに嬉しさと幸せを感じる自分は易いヤツだなと思うしかなかった。
つづく。