気がついたら碇シンジだった   作:望夢

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色々あったんで潔く綾波クンには女の子になって貰いました。

男の魂に女の身体、知恵の実と生命の実で完全生命体という事にします。


マグマダイバー

 

「ありがとう、シンジ」

 

「うん? 何が?」

 

「ムサシのコト、助けてくれたでしょ?」

 

「ああ、うん。どういたしまして」

 

 マナが収容されたトライデントのパイロットの見舞いをしたいという事で本部の医務室に向かった。

 

 部外者が居ない方が話しやすいと思って部屋の前で待っていると、見舞いを終えたらしい部屋から出てきたマナに感謝された。

 

 作戦要項からトライデントのパイロットを殺さないで確保する必要があったとはいえ、それを言って彼女の想いを傷つける意味はない。素直にその感謝を受け取った。

 

「やあ、お嬢さん方」

 

「あなたは」

 

「加持さん」

 

「えらくべっぴんさんになったな、シンジ君」

 

「今の僕ならデートに付き合ってくれます?」

 

「君みたいな美人の誘いを断るのは心苦しいな。悪いがこれから仕事なんだ」

 

「彼の身柄…、大丈夫なんですか?」

 

「ムサシをどうするんですか?」

 

 加持さんがわざわざ仕事だと言ったからには何らかの動きをするのだと予想は付く。そして自分たちに声を掛けた意味からその仕事がなんなのかを察する。

 

「然るべき所に保護して貰うのさ。彼と、もう一人のパイロットも保護してある」

 

「ケイタも?」

 

「君の身柄はシンジ君が保護しているから平気だが、彼らはそうじゃない。それに脱走兵でもあるからより扱いも慎重になってるんだ」

 

「そうですか…」

 

「望むなら君の身柄もこっちで面倒見られるよ」

 

「私もですか?」

 

「君たちは生き証人だ。然るべき所に出て闇を裁く権利がある」

 

「私は──」

 

 マナが此方を見る。

 

「マナがしたい様にすれば良いと思うよ」

 

「──傍に居てって、言わないの?」

 

「そうしたいのなら、僕はマナの想いを尊重する」

 

 一緒に居て欲しいと言うのは簡単だ。

 

 ただマナの立場と、迷いの方向を決めてしまうのは良くないことだと思うからマナに決めさせる事を選んだ。

 

「私、行ってくる。行って、終わらせてくる」

 

「わかった。いってらっしゃい、マナ」

 

「うん。いってくるね、シンジ」

 

 互いに視線を交わして一時の別れを済ませる。そこにあるのは再びの再開の約束だった。

 

 加持さんと共に行くマナを見えなくなるまで見送った。

 

「寂しいなら寂しいって、言えば良いじゃない。言えば残ったわよ? あのコ」

 

 いつの間にか居たリリスが意地の悪い笑みを浮かべながらそう言ってきた。

 

「うん。だから言わない。だってマナのやりたいこと引き留めたくなかったから」

 

「素直じゃないわね」

 

「人間素直で万事上手く行くわけじゃないからね」

 

 だからまた会える時まで寂しくても彼女を送り出す。

 

 でもまた直ぐに会える、そんな予感がするから寂しくなんてなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 カヲル君が月に行ってしまってから見るからにシンジ君は元気が無い。

 

「痛ッ」

 

「だ、大丈夫? シンジ君」

 

「へ、平気、平気だってば」

 

「指切ったでしょ。ちょっと見せて。レン、薬箱」

 

「わかったわ」

 

「大丈夫だってば…」

 

 その所為か集中力に乏しい。それで今は包丁で指を切ったらしい。

 

 ちょっと嫌がるシンジ君の手を取って、切った人差し指を口に含む。健康的な鉄の味がする。

 

「も、もう大丈夫だってば…」

 

 視線でそんなことはないと告げる。血が止まらないから少し深く切ったらしい。

 

「持ってきたわ」

 

「んっ…、ありがとう」

 

 薬箱から絆創膏を取り出して、その間に出てきた血をもう一度舐め取って、素早く絆創膏を張る。止血も兼ねて少しキツめに巻く。また2枚の絆創膏を出して、一枚目の端の両側を塞ぐように巻く。これで血は滲んでも漏れるという事はない上に止血も兼ねる一枚目が弛むのも防いでくれる。

 

「はい、おしまい。あとはくっつくまで2、3日様子見」

 

「あ、ありがとう……」

 

「うん。どういたしまして」

 

 わかっててはいても今の自分の見掛けはレイそのもの。同い年の美少女に指を舐めて貰って、ケガの手当てまでされると気恥ずかしいのは同じ男であった身として痛い程理解できる。

 

「どうかした? ちょっとキツい?」

 

 絆創膏の巻かれた人差し指を見るシンジ君に問い掛ける。

 

「な、なんでもないよ。…ただ、なんで君は僕の事をあんな風に心配してくれたのかなって」

 

 シンジ君は自分が心配される意味がわからないと言いたげに問いを返してきた。

 

「家族を心配しない理由がある?」

 

「家族…?」

 

「いつもご飯を作ったり、作ってくれたり、一緒に食べてるだけだけど、それは赤の他人じゃないでしょ?」

 

「それは、…そうなのかな」

 

「だから家族。まぁ、こんな僕と家族だなんてあまり良くないかもしれないけど」

 

 同じ人間になったり、歳上になったかと思えば今度は女の子だ。そんなおかしなヤツと家族だなんて嫌だと言われたらそれまでだ。

 

「そんなこと…、ない、と、思う」

 

 自信なく歯切れの悪いシンジ君のそれは一つの確認だ。自分が家族でも良いのかという。

 

「そっか。…ありがとう」

 

 だから答えは肯定の意を示すこと。

 

「うん…」

 

 ケガをしていない手を取ると、シンジ君も恐る恐る手を握ってくれた。そこから絆を確かめる様に互いの指を絡ませるのに時間は要らなかった。

 

「あ、えっと…」

 

「ん? どうかした?」

 

「名前、シンジって、呼べば良いのかな?」

 

 シンジ君がそんなことを訊いてきた。自分の名前を呼ぶのに抵抗感があるのは理解できる。

 

「呼べそう?」

 

「呼んでみる。君も、僕だから」

 

「ん、ありがとう、シンジ君」

 

「よ、よろしくね、シ、シンジ…」

 

「うん。よろしく」

 

 気恥ずかしいのを誤魔化す様にシンジ君は絡み合う指を弄ぶ。

 

 今なら切り出せると思って、ひとつの話題を口に出した。

 

「あのさ、シンジ君」

 

「な、なに?」

 

「学校、行ってみたりしてみる?」

 

「学校?」

 

「うん。もし良かったら、ね」

 

 切り出したのはシンジ君の復学だ。カヲル君のお陰で随分顔色が良くなった今のシンジ君なら学校にも通えると思ったからだ。あとカヲル君以外の友だちも作って欲しいとも思う。それがトウジとケンスケなのかはシンジ君に任せるけれども。

 

「最初は教室に顔を出してみるだけでも良いから。どうかな?」

 

「……うん。やってみるよ」

 

「うん。偉いよシンジ君は」

 

「偉い、かなぁ」

 

「逃げないで前に進んだんだから偉い偉い」

 

「────……」

 

 褒められ慣れていないから頬を赤くして息を吐くシンジ君がなんとも可愛らしい。これは学校通ったらモテそうだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 第壱中学校2年A組が修学旅行に旅立った。

 

 ネルフの中にあるプール施設を貸し切ってパイロットに開放して貰った。修学旅行に行けなかったパイロットの気を紛らせる為のものだった。

 

 泳げなくてプールに入れないシンジ君は、プールサイドで復学に向けた勉強をして貰っている。科目は理科。ちょうど熱膨張も扱っている範囲なのは運命かなにかなのか。

 

 ただ不仲な自分や、繋がりのなど殆どないシンジ君から熱膨張の事を伝える機会が見出だせない。

 

「どーしたの綾波クン? おっぱいなんて触っちゃって。もしかして欲求不満かにゃ?」

 

「そうじゃないよ」

 

 白のビキニに身を包むマリの言葉に返す。

 

「次の使徒の事を考えてて」

 

「次? あぁ、姫のマグマダイバー」

 

「うん。熱膨張のヒントをどうやって伝えようかなって」

 

「ほうほう。確かに綾波クンもワンコくんも姫とそんな仲良かないもんね」

 

「その場の一生懸命を尽くしてるのに儘ならないのが悲しいところだね」

 

「ならアタシに良い考えがあるにゃん♪」

 

「あ、マリ…」

 

 止める暇も無く、マリはアスカに駆け寄ると、後ろから胸を鷲掴みに行った。当然アスカは怒る。

 

 ただそこからアスカを宥めて、泳いで冷えた身体を暖める為のサウナに向かったのを見て成る程と感心する。

 

 サウナという熱い場所で熱膨張の話題を出せば、アスカなら実戦でも答えに辿り着くだろう。

 

 その日の午後、浅間山の火口でまだサナギの状態と思われる使徒の存在を確認。これを捕獲する為にネルフ権限による特別宣言A-17は発令された。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 浅間山に現地入りしたのは、局地戦用D型装備の弐号機と、B型装備の初号機という旧劇そのままの陣容だった。

 

 今回はダンディライアンもファイバーも、その艦載機としてダウンサイジングされたMark.04Aたちも整備の為にお休みだ。

 

 初号機の中で作業を見守る。

 

 アスカは潜水服の様な見た目のD型装備の弐号機を嫌そうに見ていたが、それでも文句を言わずにエヴァに乗った。

 

 使徒を倒す。絶対倒す。必ず倒す。と言わんばかりの気迫だった。しかしそれはエヴァのパイロットであることに拘り、そこにしか居場所がないと思い込む危うさも同居していた。

 

 エヴァよりも数倍巨大な14式大型架橋自走車が設置され、先ずはレーザーを火口に撃ち込み、進入路を確保する。続けて弐号機が発進位置に着くと、ミサトさんの号令で弐号機は火口に降りていく。

 

 溶岩内に入るときのおふざけもなし。それほどアスカに余裕がないのか、自分とはそんな軽口を言う間柄でもないから言わないのか。後者であることを願うだけだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 マグマの中は視界はゼロ。モニターを切り替えても良くなったとは言い難い。

 

 装備の関係から抜擢された弐号機。そのパイロットのアタシが務めるのは使徒の捕獲。

 

 殲滅でないことに不満を感じなかったと言えば嘘だ。弐号機のみっともない姿に作戦に不満を抱いたけれども、だからといって降りるなんて言える筈もない。

 

 完全無敵のフォースさまのお陰で、日本に来てから何も成果を上げられていない。

 

 弐号機が、アタシが要らないなんて言われないように、どんな仕事でも我慢して引き受けてやる。

 

 だから今回、アタシと弐号機にしか出来ない任務だという事に優越感を感じても、あのバカは変わらずへらへらしていた。それが頭にクる。同じ性別になったのだって、この前のクソガキの事だってムカつくのに。

 

「っ!?」

 

 機体からイヤな音が響く。第二循環パイプに亀裂。その上プログナイフを固定するベルトも外れた。

 

 背中を冷や汗が流れる。本当に大丈夫なのか?

 

 わざわざダサい潜水服みたいな弐号機に、風船みたいに膨れたプラグスーツを着てやってるのに、外圧でぺしゃんこだなんて死にかたしたら、死んでも死にきれない。

 

「なに考えてるのよ…、アタシは…っ」

 

 そんな笑われる死にかたをしても、あのバカは泣いて悲しむんだろうって確信がある。しかもそれを嬉しいだなんて思う自分の思考を疑う。

 

『アスカ、大丈夫?』

 

「アンタに心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ」

 

 通信であのバカの声が聞こえる。

 

 そうだ。アタシはそんなヤワな人間じゃない。いつも一人で乗り越えてきたんだ。今回も、そのひとつに過ぎない。

 

 限界深度を超えての作戦続行…。人が乗っているから作戦続行を躊躇う声もあったけど、ここまで来て手ぶらで帰れるわけがない。

 

「居た…!」

 

 モニターに映る影。何かの卵のような楕円形のそれはまさしく使徒の卵だ。

 

 相対速度を合わせて、電磁柵を展開。

 

「電磁膜展開、問題なし。目標捕獲しました」

 

『ナイス、アスカ!』

 

 通信の向こうで安堵の息が漏れるのが響いてくる。

 

「捕獲作業終了。これより浮上します」

 

 使徒を捕まえたまま、弐号機を吊るしているケーブルが巻き上げられて浮上を開始する。

 

『さすがだね、アスカ』

 

「ハン、この程度目を瞑ってても出来たわよ」

 

 実際少なからず恐怖を感じていたし、大役を勤めるプレッシャーもあった。けれども、あのバカの声を聞いたらそんな事頭から吹き飛んで、アイツに弱味なんか見せてやるもんかと気合いが入り直る。

 

 だからその変化に気付くのも早かった。

 

「何よこれ!?」

 

 電磁柵の中の使徒が卵から姿を変えていく。

 

『不味いわ、羽化を始めたのよ。計算より早すぎるわ』

 

『キャッチャーは!?』

 

『とても保ちません!!』

 

『捕獲中止、キャッチャーを破棄!』

 

 使徒キャッチャーを言われるまでもなく破棄。電磁膜を突き破って暴れる使徒の手から間一髪で逃れる。

 

『作戦変更! 使徒殲滅を最優先! 弐号機は撤収作業をしつつ、戦闘準備!』

 

「了解っ。さぁ、待ってたわよ、この時を!」

 

 プログナイフにアームを伸ばす。けれどもそこにナイフは無い。

 

「しまった! ナイフは落としちゃってたんだわ。っ!? 正面!? バラスト放出!!」

 

 バラストを排除する事で使徒との正面衝突は避けられた。

 

「速いっ」

 

 しかも視界が悪すぎて早々に使徒の姿をロストした。その上やたらと熱くてスーツもベッタリしててキモチワルイ。もう最低だ。

 

『アスカ、今の内に初号機のナイフを落とすわ、受け取って!』

 

「了解」

 

 武器が無いんじゃ戦えない。癪だけども背に腹はかえられない。

 

「ヤバっ、早くしなさいよバカフォース!!」

 

 モニターに使徒の影が向かってくるのが見える。アタシはあのバカに少しでも早くする様に怒鳴り上げていた。

 

『ナイフ到達まであと40』

 

『使徒、急速接近中!!』

 

「いやあー、来ないでってばぁ!! てか早く来なさいよー!! もー! 遅いー!!」

 

 使徒が衝突する前にナイフを掴めた。鞘が爆砕ボルトで抜かれて、ナイフの切っ先は襲い掛かる使徒の腕に突き立てられる。

 

「っ、しまった!」

 

 ただならばと空いている腕で使徒は弐号機の左足を掴んできた。しかもこの溶岩の中で口を開いて、弐号機の頭のヘルメットに噛み付いて来た。

 

『左足損傷!!』

 

「耐熱処置!」

 

 防護服の左足が使徒によって剥ぎ取られる。耐熱処置を施しても気休めだ。

 

「こン、ちくしょぉぉぉぉっっ!!!!」

 

 痛みと熱さを怒りに変えて、ナイフを振り下ろす。でもそれを嘲笑う様に使徒の身体は傷つきもしない。

 

『高温高圧、これだけの極限状態に耐えてるのよ、プログナイフじゃダメだわ』

 

『では、どうすれば!?』

 

『アスカ、熱膨張を使うんだ!』

 

「熱膨張…、っ、ひとつ貸しにしておいてやるわよ!!」

 

 思い出したのはあのネコメガネとのサウナでの我慢比べ。水風呂に入った時に憎たらしく無駄にデカい胸を強調して、熱けりゃ大きくなるし冷ますと縮むと言っていたのを。

 

「うりゃあああ!!!!」

 

 左腕の循環パイプをナイフで切断して、ちょうどお誂え向きに開いている使徒の口に左腕を捩じ込む。

 

「冷却液の圧力をすべて3番にまわしてっ、早く!!」

 

 間髪入れないで冷却液の洗礼を受けた使徒が苦しむように踠き暴れだした。

 

「でええええいっ」

 

 使徒にトドメと言わんばかりにプログナイフを突き立てる。急激に冷やされて脆くなった使徒にナイフが突き刺さる。

 

「はっ!?」

 

 使徒が力を失ったのを感じると同時に、使徒の最後の悪足掻きの様に、弐号機を吊るす冷却パイプとケーブルが引き裂かれた。

 

 使徒はボロボロと肉体を崩壊させて沈んで行ったが、この分じゃアタシと弐号機も同じ運命なのがイヤでもわかってしまった。

 

「せっかく殺ったのに……。やだな、ここまでなの……」

 

 皮一枚で繋がっていたケーブルも千切れて、弐号機が落ちる。千切れたケーブルを、アタシは見上げるだけだった。

 

「くっ」

 ただその時、衝撃が襲って何事かと思えば──。

 

「バカフォース……なんで…」

 

 千切れたケーブルを腕に巻き付けて、弐号機を掴む初号機がそこに居た。

 

「うっ、眩しっ!?」

 

 眩しいのは太陽の光だった。

 

 マグマを押し退けるのはATフィールド。

 

『アスカ、大丈夫!? アスカ!!』

 

「……うるさいわね。聞こえてるわよ」

 

 声も変わってるのに、調子だけは何も変わらないあのバカに、込み上げる安堵を悟られないように突っぱねる様に返す。

 

「なんで、そんなムチャしたのよ」

 

 初号機の装甲は所々熔けていた。ATフィールドがあるのに自分を守ることに使わなかったのかこのバカは。

 

『だって。アスカに間に合わないんじゃないかって』

 

「バッカじゃないの、その方がアンタも清々するでしょ」

 

『そんなことない。アスカが無事で良かった』

 

 バツが悪くなって、それ以上アタシは何も言うことはなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 アスカを無事に助けられたのは良かった。ただ、見ているだけなのは心臓に悪かった。

 

 どうにかして、どうにかならないかと散々考えたけれども、アスカを信じて任せる事を決断した。それがアスカの為になると自分に言い聞かせた。

 

 手出しをしなかったお陰で使徒殲滅は変わらずに行われて、サンダルフォンが殲滅された時にケーブルが切れたためだろう、弐号機をモニター不能になった瞬間には駆け出していた。多分シンジ君も同じように駆け出していたから初号機は弐号機を助けに行くのに間に合ったんだろう。やっぱりシンジ君は男の子だなぁ。

 

 弐号機と初号機は回収されて、パイロットの自分たちは近くの温泉でひとっ風呂浴びる事になった。

 

「ちょっと、どっち行くのよ」

 

「え? でも、あっ」

 

「アンタ今身体はオンナでしょ。さっさと来なさい」

 

「あ、わ、う、うん」

 

 一緒に入るのは嫌だろうと思って、しかもネルフ貸し切りだから良いかなと思って男風呂に向かおうとしたらアスカに引き留められた。

 

「ちょ、何も見えないよぉ」

 

「アンタバカ? 中身は男なんだから見せるわけないでしょ」

 

 脱衣所で手拭いで目隠しをされて前も後ろもわからなくされてしまった。

 

「ホラ脱がすからじっとしてなさいよ」

 

「あ、うん」

 

 そのまま服を脱がされてもう一枚手拭いを渡されると、手を引っ張られた。

 

「あ、アスカ…?」

 

「気を付けないと、スッ転ぶわよ」

 

「う、うん」

 

 あのアスカが手を引いてくれている。ちょっと感動してたりする。

 

 そのままシャワー台まで連れていかれて、木の椅子に座らされた。杉か檜かは不明。そのまま頭から脚まで隅々まで洗われて、露天風呂に浸かる。

 

「今日のこと、一応感謝はしてあげる。……最後、どうしようもなかったから。だから貸しにしとく」

 

「洗ってくれたからもう良いのに」

 

「それは熱膨張の事でチャラよ」

 

「わかった。なら、待ってるよ」

 

「ふん。すぐに返してやるから待ってなさいよ」

 

 本当ならアスカと入るのはミサトさんだったはずだけれど、悪いことをしちゃったかなと思いながら、少しだけアスカと近づけた風呂は心地が良かった。

 

「うひゃー、すっご、良い温泉~ってカンジ」

 

「クワワワ!」

 

「ホント、ペンペンもはしゃいじゃってる」

 

「……かわいい」

 

 風呂場に入ってきたのはマリとミサトさん、ペンペンを抱えたレイと、リリス、レン、シオンの綾波シスターズ。静かな露天風呂は一気に騒がしくなった。

 

「ちょっと、静かに入ってきなさいよネコメガネ!」

 

「いやん、おこっちゃやーよ姫。それにしても目隠しプレイなんてマニアックですなぁ。つーか、マジエロい」

 

「違うわよ! コイツ中身は男なんだからアタシの柔肌見ようなんて100万年早いのよ!」

 

「つまり100万年経ったら見せてくれるんだ。姫ったら大胆~♪」

 

「うっさい!見せるわけないってことの暗喩だってわかるでしょうがっ」

 

「自分から騒がしくしてるのに騒ぐなって、頭バカなのかしら?」

 

「ンだとこのクソガキぃ!」

 

「きゃー、こわ~い」

 

 アスカで戯れるマリと、そんなアスカを煽ったリリス。

 

「あ…」

 

「きゃーー!! なに見てんのよエッチぃ!!」

 

「ぶはっ」

 

 リリスが自分の目隠しするタオルを取ると、目の前には裸のアスカが居て、悲鳴を上げながらアスカに引っ叩かれた。

 

「大丈夫、もう大丈夫よ」

 

「アイツ、ムカつく」

 

「なに、この胸のもやもや」

 

 引っ叩かれた先にはレンが居て、レンの胸に顔が収まる。シオンが怒りを露に、レイは表情を見ないとわからないがよろしくはなさそうだ。

 

「はいはい、騒がしいのはその辺にして、ゆっくりと浸かりましょ」

 

 ミサトさんの掛け声で取り敢えず事態を収める。アスカはマリが、リリスとシオンは自分が宥めた。ちなみにレイのもやもやは残念がるような感じだった。はて何故に?

 

 女三人寄れば姦しいとはこの事かとちょっと体験した露天風呂だった。

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 


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