ガンダムビルドダイバーズRe:RISE Re:Story 作:神の爪牙にして不忠者
月と思っていた場所……静止衛星上。そこでの戦いは、まさに混戦極まる大乱戦状態へとなっていた
無数のヒトツメ、もはやレーダーではその反応の全てを捉えることはできずに意味を成さないため、メインカメラでの情報と、攻撃の接近音を聞いての対応に集中するだけで精一杯だった。おまけに敵の強さはハード級……こんなの、あのアヴァロンですら苦戦必須の難易度ではないかと思う
しかも、ステータスを確認すると勝利条件が記載されていなかった。そういうミッションはあるにはあるけど、そういうのはキチンとミッションを受ける前やミッション途中にヒントとなる部分があるため、わかりやすいにはわかりやすい形で置かれている。だが、この状況ではヒント所ではないし、オマケに確実にこちらを殺しに来ている物量の中、ヒントを探すのなんて不可能の話だ
さらにあの中央の建造物……それが僅かに動き始めているとパルの言葉があった。そこにメイが言葉を続け、これは兵器ではないのかという考察をしていた。確かに、見た目的にもあれは砲塔のようにも見えるが……ならかなり高出力の衛星砲ということになる。それが動いているって……どこかに向けて撃とうとしてる……?
『ッ! クソォッ!! 何をどうすればいいんだよッ!!?』
馬鹿みたいにでかい砲台に、この無限とも言える敵の数、更にはあの強敵のゼルトザーム。おそらくそのどれかがクリアの鍵になるのだろうと思うけど、今だにどれも今ひとつ納得に欠けている。雑魚の殲滅をすればいいのか、あの砲台を破壊すればいいのか、それともゼルトザームを撃破すればいいのか……或いは、全てなのか
『っ。何はともあれ、やることは一つか……ッ!』
接近してくるグレイズ系のアックスを交わして、カウンター気味に此方のアックスで両断する。敵の柔らかさはいつもの感じと同じなので問題なく処理できるが、それが一気に襲いかかってくるのでは話が変わってくる
そうしている間にも、前後左右、上下と六方向からデスアーミー系がメイスを振り回して迫ってくる。こちらへの直撃コースをしていると判断したので、激突する寸前に回避をし、六体をまとめて衝突させる。そこで固まっている奴らにバックパックのブースターに付けてあるガトリングを浴びせることで撃破し、連鎖的に爆破させることで一気に撃墜していく
とにかく、今自分にやれることは、この雑魚の掃討ぐらいしか無かった。あの建造物が巨大な砲台だとしても、アイン・ルナリアンゼにはあれを破壊できるほどの火力が無い。せいぜい誰かの援護に回って雑魚を駆逐していくか、或いはゼルトザームの足止めぐらいしか出来そうなことが無い……こんなことなら、一点集中のロマン砲というか、そういうのを作っておくべきだっただろうか
もし、今あたしが乗っているのがハシュマルだったら、敵の攻撃を防ぎつつ、極太レーザー攻撃であの砲台に僅かでもダメージを与えられたのではないのかと思う……ないものねだりだし、そこについてはあまり深く考えないでおこう
そのまま雑魚の殲滅を続けていると、メイのウォドムポッドの右肩のビーム砲から、高出力のビームが放たれる。おそらく、リミッター解除というか、そういう類のものなのだろう。だが、そんなことをしても、敵をある程度蹴散らすだけだし、砲台にも僅かなダメージを与える程度でしかないというのに
『アレ…止め…ぞ!!』
『メイ…ん!? …イさ…!?』
メイからの通信が聞こえるが、なぜか通信を妨害され始めた。なんでだ? 今まで通信は普通に使えていたのに、なぜ急に今になって妨害を始めたんだ……? メイがあの高出力のビームをなぎ払うように撃ち、それで敵が多く撃破されたことと、砲台に少しのダメージを与えただけで……ん? 砲台にダメージ? それに、メイの通信……あれってまさか
アレを止めるぞ!!
つまり、砲台を破壊することしたのか。それに、今まっすぐ砲台へと一直線に向かっている。さらに、それを妨害するかのように敵の攻撃がメイへと集中している……!
『勝利条件は、砲台の破壊か!』
こっちにそんな火力は無い。だが、メイのあの高出力ビームなら問題なく行けるはず……!!
そんなメイの援護に向かうべく、一気にバーニアを吹かしてメイの後を追う。後ろでは、ヒロトがゼルトザームと交戦を開始し、カザミがなぜか衛星内部へと向かって入っていった。何やってんだよアイツは……!
とにかく、後ろの事は後回しとして、自分はメイの元へと一気に近づく
『メイ! 援護するぞ!』
『リ…ンか! 頼…!』
近くだからか、妨害されててもある程度は会話は出来た。そのままメイへと殺到してくる敵をなぎ払い、叩き落としていく。機動性はウォドムポッドの高速飛行形態よりもこちらの方が早いため、すぐに追いつき近くを並走する
『この砲台を破壊するのか!?』
『あ…。今のま…動き続…れば、砲身…星の方…と向く。お…らく、先……の会話か…推察す…ば、…の砲身…向…先は……!』
『ま、まさか!?』
セグリへと、向けている……!? しかも、こんな馬鹿デカい奴の砲撃って……どれくらいの規模だ? SEEDのジェネシス? OOのソレスタルビーイング? AGEのフォトンブラスターキャノン? 宇宙世紀の、コロニーレーザー……? どれをとってもやばいし、そんなモノを打たれたら、流石にバリアで守られているセグリだろうとも、一撃で消滅してしまうのでは……?
[ビー!! ビー!!]
『『!?』』
そんな不安をよそに、突然の警報音が鳴った直後、後ろでヒロトが戦っていたはずのゼルトザームが、メイのすぐ目の前まで迫っていた
『ぐあっ!?』
『メイ!』
ウォドムに対し異形の右腕によるアッパーを繰り出し、こちらの進撃を阻んだ。さらに追撃と言わんばかりに、比較的脆い脚部に向けて蹴りを放つ
『させるか!』
だが、その前にメイを突き飛ばし、代わりに自分がその攻撃を食らう。幸い硬いところに当たったおかげか、こちらのダメージは少なかった
『リア…!!』
『ッ、行け! メイ!』
妨害はまだ続いているが、まだこちらの声は通じているはず。それに通じてくれたのか、メイは砲台へと向かって飛び去っていった。それを追うように、こいつも動き出そうとして
『行かせるかッ!』
背後からアックスで叩き割ろうと突撃し、確実に当たる距離で振り下ろす。だが、それを後ろに目がついているのかと思える反応で対処され、巨大なランスで防がれる。恐ろしい程の反応速度で、今までのヒトツメとは思えないほどの動きに動揺するが……
『ッ……なんつう……なッ!?』
『……』
コクピットのディスプレイに、ゼルトザームのパイロットの姿が写りこんだ。接触回線によるモノで、こうなると否応にも相手の映像が出せるようになってしまう。だが、その姿を見て……色は違うし、変な仮面を被ってはいるけど、確信した
『あんた……やっぱりシドさんなのか!?』
『……』
一度会っただけだけど、あの時の活躍は記憶に残っていたし、スレでのやり取りをへてその姿をきちんと思い出すことができたその姿と……酷似していた。間違いなく、こいつはあの、無双のシドだ
『おい! なんでこんなところにいるんだ!? どうして俺たちと戦う!? このミッションは一体何なんだ!? 知っていることがあるのなら教えてくれ!! シドさん!!』
『……』
『ッ!? なにか答えてよッ!! ねぇどうしたのよッ!? ねぇッ!!』
鍔迫り合いで膠着したまま、シドに何度も問いかける。だが、彼は無言を貫くままで、一切こちらの問いかけに反応しない。まるで、こちらの言葉が聞こえていないかのような態度に、こちらの言葉を聞いて口元すら微塵も動かない姿に、一種の恐怖を感じた。何よ、一体何なんなのよこれ……!?
そのままつばぜり合いから相手が一気に力を上げて振り払い、こちらへと振り向き様にランスの横薙ぎを繰り出す
『ッ!?』
その横薙ぎは、ランスの巨大さもあって躱すことができないと判断し、アックスを肘に当てて盾にするようにして防御する
『ぐあぁッ!!』
だが、流石に耐え切れなかったようで、そのまま吹き飛ばされる。更に盾にした腕がイカれて、アックスも吹き飛び、もう使い物にならなくなった。肩の機関銃はまだ生きているし問題なく使えるのでいいが、片手分のアックスとパイルバンカー、それにスクリューパンチがまるごと使えなくなったのは痛い
こちらのダメージを直ぐに確認し終え、ゼルトザームの方へと向き合うが、こちらに追いついたヒロトが相手していた。メイの元へと行こうとしたのを、どうやら防いでくれたようだ。その様子に、一安心をする
そのまま砲台の方へと向くと、その動きが止まっていた。トラブルかと思ったが、背後を見ると、惑星へと砲身が向いていた。すでに、照準が定まったと言わんばかりの様相である……
『衛星の砲台が……の方…、セグリ…狙って…ますッ!』
『ッ……ヤバい!』
パルもその状況を確認したのか、聞こえる範囲内で声高に通信を発する。妨害で聞き取りにくい部分はあったが、それでもある程度は察することができた。ゼルトザームの相手をしようとしたが、このままではこれが発射してしまう可能性があるし、それに今ヒロトが相手をしている。援護すべきか迷ったが、今はあの砲台を止めることが先決と判断し、ヒロトに任せることにする
個人的には、他にも問いかけたい事はいくらでもあったが、あの様子では何も答えてくれそうにないと思った。気さくな人で、軽い冗談も言うし、親しみやすい人だったから、そんな人があのような無機質な機械のような姿になっていることに、更なる疑問が沸いてくる
運営に買われてミッションのボス役になるのなら、おそらく悪役ロール的な事をするだろうし、いくら演技指定されようとも、あんなことを言えばなにかしら反応を示すだろうと思う。そういったこともなく、あんなアンドロイドのような態度に変わってしまったのが、すごく怖かった
そんな恐怖感を感じつつも、今やるべきは砲台の破壊か、もしくはその発射阻止。破壊は今のメンバーの誰の火力を見ても不可能なので、せめて何かしらで発射を阻止しなければならない。先行するメイの元へと向かい、その援護を行う
『メイ!!』
デスアーミーとドートレスの弾幕を飛び交い、砲台の内部へと向かおうとするメイを確認した。何を狙っているのかはわからないけど、メイを狙おうとするヤツを排除するためにブースターを最大出力で噴射させ、その全てを片方しか無くなったアックスで加速の勢いを含めた突進で両断していく
そのまま砲台の正面へとたどり着いたメイは、ウォドムポッドの中からモビルドールとなって外へと躍り出る。そのままウォドムポッドは砲身の中を進んでいくのを見て、メイの狙いを確信する。アイツ、どうやらウォドムをまるごと爆弾として砲身内部で爆破するつもりのようだった
『だったらぁ!!』
自分も、メイに倣うようにバックパックのブースターと、足の追加スラスターを切り離し、そのままウォドムと並べるところまで飛翔させる。それを二人で並んで手に持つビームピストルと肩の機関銃で誘爆させる
『ッ!』
『よしッ!』
大きく爆発したウォドムとブースターにスラスター。それらの爆発が砲身内部で起きた。これならば、流石に破壊は無理でも、発射するための部分はダメージを負って使えなくなるはずだと……そう確信し、爆煙が晴れていった先には……
『くっ!』
『嘘だろ……!?』
あろう事か、全くの無傷……いや、一部部分的には歪んでいるようには見えるが、それでも発射には支障をきたしそうにない感じだった。これって、俺とメイがやったことは無駄だったのか? それに、もうこっちはブースターとスラスターを無くし、機動性が完全に死んでいる。今この状況で襲われでもしたら、もう落ちかねない。今度こそ終わったかと、そう思った時
『退いてください!!』
背後で、巨大な砲台……確か、ヴァルキランダーの宇宙空間用追加装甲であるアヴァランチユニットを一つのキャノン砲として合体させて構える、パルの姿があった
『『パル!?』』
『僕がやりますッ!!』
やるって……まさか、アレに対して打つってのか、アレを!? まさかここに来て、とんでもない隠し球を見せるパルに度肝を抜かれたが……でもあれほどの粒子を充填させ、しかもそれが三つの砲口全てに集中している所から、おそらくその威力は凄まじいモノのはず。おそらく、OOのセラヴィーのGNビッグバズーカレベルか、それ以上はありそうだ
これなら、もしかしたら行けるかも……!!
『やっちゃえッ!! パルぅーーッ!!!』
『いっけぇぇーーーッ!!! アヴァランチッ!! レックスバスタァァーーーッ!!!!!』
パルの渾身の叫びと共に、三つの光が放たれる。それは一つ一つが凄まじいほどの熱量と光量を持っていて、更にそれが一つとなって更なる巨大な光の柱となって進んでゆく。その威力、もはや戦艦の主砲クラスかと思うほど強大なもので、射線上にいた敵を全て飲み込んでも減衰することなく、砲身の内部へと殺到していく
そして確信する。この威力なら、発射機構を破壊することも可能だと。そうすれば、このミッションはクリアになるはず……!
〔発射〕
砲身の奥、その中央に光が集まり、レーザーが放たれる。それはパルの渾身の一撃すら超えるほどの光の奔流で、それと一度ぶつかったアヴァランチレックスバスターは拮抗することもなく呑まれてしまい、今までの俺たちの努力はなんだったのかとあざ笑うかのように……砲身から、コロニーレーザーを思わせるほどの巨大なレーザーが放たれた
『『『!!?』』』
その衝撃で、敵が何体か爆破される。そして、カメラで捉えている視界が真っ白に染まり……強い衝撃と共に、その場から吹き飛ばされた
最後にカメラが捕らえたのは……僅かに、ほんの数センチ程度ではあるが、衛星砲が放ったレーザーが、僅かにズレた映像だった…