俺は喧嘩がしたいだけ   作:柔らかい豆腐

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フェイト・なのはVSプレシア

 時の庭園に到着したフェイト、なのは、クロノの三人は岩陰に隠れて様子を窺う。

 入口には多数の魔力で動く人型兵器がおり、誰も入れないようになっていた。

 これについてはフェイトが知っている。

 

「あれは魔導兵器……私より弱いけどかなり強いから面倒だね」

 

「それにあの数、事前に襲撃対策をしていたというわけか。あれらを三人で倒しきるのはわけないだろうが……」

 

 魔導兵器の数は全てで四十。

 フェイト達は三人。

 数の差は圧倒的だが実力が違う。戦えばフェイト達が勝つ。

 しかしタイムロスなるのは確定だ。できるだけ早くプレシアの元へ行き、ジュエルシードを使用される前に倒さなければならない。

 

「プレシアは今すぐジュエルシードを発動できるはずだ。これは謂わば余興に過ぎない。ならばこんなもの真剣に付き合わなくてもいい」

 

「クロノ君?」

 

「二人は先に行け。隙なら僕が作る」

 

「え、な、なんで!? 三人でやった方が早いのに!」

 

 ただでさえ少ない戦力がさらに少なくなってしまう。さすがのフェイトも、一人で四十体の魔導兵器を相手に勝つことは難しい……いや、無理だろう。残念ながらフェイトは集団戦に全く慣れていない。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「問題ない。君達に任せるのは少々不安もあるが、早急にプレシアを捕縛しなければならない以上、戦力を割くなら二人が向かってくれた方がバランス取れるんだ」

 

 三人の中でならクロノが一番強い。フェイトとなのはもそれに議論の余地はないほど明確な差がある。

 強いクロノならもしかすれば倒せるかもしれない。このままうだうだしていられないのなら、作戦に乗ってもいいだろうとフェイトは思う。

 

「分かりました。なのは」

 

「……うん、分かった。クロノ君、絶対大丈夫なんだよね?」

 

「誰に向かって言っている? 僕は執務官クロ――」

 

「行こうなのは!」

 

「なぜいつも僕の名乗りは邪魔されるんだ!」

 

 フェイトが空中へ飛び出す。

 続いてなのは、クロノの二人が空中へ飛び出す。

 魔導兵器はプレシアの本拠地へ入ろうとするフェイトに視線を向け、かつては住んでいたフェイト相手に躊躇なく手を翳す。そこから放たれるのは高エネルギーの魔力弾。

 

 プラズマを帯びた四十の球体がフェイトへと接近し「させるか!」と叫んだクロノの砲撃魔法で全て呑み込まれる。

 

「そのまま突っ込め!」

 

 背後からのクロノの声に応えるように、フェイトと、そこに追いついたなのはは本拠地入口へと一直線に向かう。

 攻撃が来てもクロノがどうにか相殺する。そのおかげで集中して飛行できたので二人は心の中でお礼を告げた。

 

 二人は無事侵入できたが、背後で爆発が起きたことで動きが止まる。だが必死に戦うクロノの気持ちを無駄にしないためにも足を進める。

 

 フェイトはなのはを案内しながらプレシアのいる場所へと向かう。

 途中、恐ろしい程の電撃の余波が来て足が止まるも、収まってからすぐに走り出す。

 

 そして――いつもプレシアのいる部屋へと辿り着き、二人は目を見開く。

 その部屋に倒れている二人をよく知っていたからだ。

 

「アルフ!」

「八神さん!」

 

「……あら、ようやくメインのご到着のようね」

 

 少々息を切らしているプレシアが二人を見やる。

 

「この男は知り合いだったの? でも残念、もう死んだわ。サンダーレイジを連続で喰らって生きていられるはずないもの。そこの使い魔もね」

 

「そ、そんな……アルフ、八神さん……!」

 

 絶望したかのような表情になるフェイト。

 会いたかった使い魔と、助けてくれた男子高校生。死んだと告げられ事実として呑み込めてしまうのは、プレシアの並外れた実力を知っているからだろう。

 

「あなたのために来たらしいけど……無駄死にね」

 

「そんなことない!」

 

 なのはが叫ぶ。

 悔しそうに歯を食いしばって、睨むような目をプレシアへと向ける。

 

「無駄なんかじゃない……無駄なんかにしない……二人の想いはなくならないもん。フェイトちゃんが大事ってこと、その想いが私達を応援してくれる」

 

「なのは……」

 

 プレシアは「くだらない」と吐き捨てる。

 

「あなたはフェイトのお友達だったかしら。そんな妄言を吐くなんて変わってるのね」

 

「妄言なんかじゃない。もしそうだったらプレシアさん、あなたがアリシアさんに抱く気持ちはどうなるの」

 

「……部外者にとやかく言われたくないわね」

 

 確かになのははプレシアにとって部外者かもしれない。だがフェイトはその強い少女に救われていた。

 よく見れば足は震えている。それでも勇敢に言葉で争う隣の少女のおかげで、フェイトは折れかけた心を強く保てる。

 

「母さん、言っておきたいことがあります」

 

「……何かしら」

 

「アリシア……お姉ちゃん……その人のことはとやかく言いません。あなたが私をどう思っても構いません。……でも、どう思われたいたとしても……私にとってあなたは母さんです。それだけは覚えておいてください」

 

「なぜ、どうして……フェイト、どうしてあなたはそこまで私のことを……」

 

「理由なんて決まっています。私を育ててくれたのは他でもないあなた――母さんだからです」

 

 たとえ鞭で打たれても、人形だと言われても、フェイトにとってプレシアは唯一無二の母親だ。これだけは何があっても変わらない。

 

「……私の娘はアリシアだけよ」

 

「だとしてもいいんです。私の母さんはあなただけですから」

 

「……どうしてあなたは私を惑わせる。もう憎悪と殺意を抱いてもいいでしょう。……もう話すことはないわ、失せなさい」

 

「母さんも一緒に来てください」

 

「管理局に捕まりに行けとでも?」

 

「捕まるのは私もです」

 

 ジュエルシードを巡る事件において主犯はプレシアだが、フェイトやアルフにも共犯としての罪がある。管理局に捕まるのは間違いない。

 

「フェイト、私はね、アルハザードに行くの。管理局に行くのはあなただけよ」

 

「それならなんとしてでも連れていきます。ここで戦って、勝ってみせます」

 

「……やれるものならやってみなさい。出来損ないの人形ごときが私に勝てるのなら」

 

「一人なら無理かもしれません……でも」

 

 フェイトは隣のなのはを一瞥する。

 

「私は今、一人じゃない」

 

「やろうフェイトちゃん!」

 

 プレシアが二人を睨みつける。

 

「来てみなさい、ひよっこ共」

 

 そして三人が体から魔力を溢れさせた。

 まずは初手の魔法攻撃。三人が最も得意とする魔法を使用する。

 

「フォントランサー!」

「アクセルシューター!」

 

「フォトンバレット」

 

 光の槍が、桃色の光線が、紫の光球がぶつかり合う。

 三つのエネルギーが混ざり合い大爆発が起きた。

 

 完全に攻撃は相殺されている。

 この結果にフェイトは驚きを隠せない。なぜなら自分達は二人分の攻撃を撃ち込んだのだ、いかにプレシアが強かろうと二対一の状況で互角だとは思わなかったのだ。

 

「あら……二人がかりでこの程度? これならそこの男の方が強かったかもね」

 

 再びプレシアは「フォトンバレット」を放つ。

 先程はタイミングが合ったために相殺できたが、プレシアの方が速いために先手を取られれば魔法発動の隙がない。フェイト達の選択肢は回避一択だ。

 

 フェイトとなのはは飛翔して紫の光球を避ける。

 

「フォトンランサー!」

 

 白光の槍がプレシアへと向かう。

 貫く勢いであったが、フォトンランサーは紫の障壁に阻まれて霧散する。

 

「効かないわね」

 

「くっ、なのは!」

 

「分かってる!」

 

 一人の力では打ち破れないことを瞬時に悟り、悔しそうに歯を食いしばったフェイトはなのはへ助力を求める。

 威力不足だということはなのはの目からでも分かる。それならまた二人の力を合わせればいいのだ。

 

「プラズマスマッシャー!」

 

「ディバインバスター!」

 

 電撃と、さっきよりも大きな桃色の光線がプレシアへと向かっていく。

 さすがに防ぎきれないと察したのかプレシアが跳んで回避する。

 

(避けた! やっぱりなのはと力を合わせれば母さんにも通用する!)

 

 単純な脚力により十メートル以上跳んだプレシア。

 そんな格上の相手になのはが追撃する。

 

「今がチャンス、ディバイン――」

 

「遅いわ」

 

 桃色の光線が放出される前、エネルギー充填の時点でプレシアはなのはの真横にまで急接近していた。そのままなのはの顔面を鷲掴みにして壁に叩きつける。

 フェイトが「なのは!」と叫ぶと、攻撃の衝撃で部屋の壁一部が勢いよく崩壊する。

 

「かはっ……まだ、まだ……」

 

「くっ、フォトンランサー!」

 

「だから遅いと言っているのよ」

 

 プレシアはなのはを掴んだまま、フォトンランサーを避けるついでになのはで壁を抉るようにして移動する。

 手が離されるとなのはは墜落し、気絶したかのように床に倒れる。

 

「さあ、これでお友達の協力は得られないわね」

 

 静かにフェイトは笑みを浮かべる。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス、疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・プラウゼル」

 

 己の中で最も威力の高い魔法詠唱を始める。

 笑ったことにプレシアは怪訝そうに眉を顰める。それはそうだろう。二人で力を合わせなければまともに攻撃が通らないこの状況で、なのはが倒されたというのに笑うなど気が触れたとしか思えない。

 

 しかしフェイトは知っている。高町なのはという――不屈の精神を持つ少女を。

 

 

 

「これが私の全力……全開……」

 

 

 

 プレシアが目を剥いて後方へ振り向く。

 確かに倒したと思っていた少女が真っすぐな視線を、大きな杖と共にプレシアへと向けていた。

 大きな杖――レイジングハートの先端に桃色の魔力が集まっていく。

 

(気絶していたはずなのに……このガキ!)

 

 挟み撃ちだ。

 フェイトとなのはの挟み撃ち。

 放たれる魔法は当然各々が持つ最強魔法。

 

「フォトンランサーファランクスシフト!」

 

「スターライトブレイカーアアアアアァ!」

 

 大量の白光を放つ槍状エネルギーと、巨大な桃色の光線がプレシアへと向かう。

 

「くっ、私の三分の一も生きていないガキ共が……勝てると思い上がるなあ!」

 

 激昂したプレシアは怒号と共に「フォトンバレット」を、フェイトとなのは両方に向けて放つ。

 今までで一番大きな紫の光球が二つ。それぞれの魔法を打ち砕くために猛進する。やがて三人の魔法同士が激しくぶつかり合う。

 

 とはいえフォトンバレットでは威力不足。

 数秒の拮抗の末。数多の槍に貫かれ、桃色の光線に呑み込まれ、虚しくも光球は爆発を起こして消滅してしまう。

 このままプレシアへと攻撃が通る――かと思われた。

 

 

「――サンダアァーレイジイィ!」

 

 

 紫電を纏う光球が五つ程プレシアの手から生み出された。

 その光球は桃色の光線へと三つ、フェイトの元へと二つが向かう。

 白光の槍と桃色の光線に呑まれた光球は爆発し、内包していた膨大な電気エネルギーが解き放たれる。

 

 眩い光と紫電が部屋全体を、時の庭園にあるテスタロッサ家全体を覆う。

 

「はぁ……はあっ……!」

 

 光と紫電が収まると立っている者は一人になっていた。

 プレシアがただ一人、その部屋で立っていた。もちろん無事とは言えない程ダメージを受けている。服はボロボロになっており、体のあちこちから血が滴っている。

 

 魔法は殺傷設定をオンオフ可能で、フェイトとなのはの二人は非殺傷設定。それでもプレシアが放つ魔法との爆発はエネルギー同士の衝突で起きたものなので設定は関係ない。三人は確実にダメージを負うのだ。

 

「……かあ、さん」

 

 倒れているフェイトは手を伸ばす。

 届かないのは分かっている。攻撃ももはやできないだろう。

 

 なのはは完全にダウンしており壁にもたれかかったまま動かない。

 残されているプレシアを止めるための戦力はこの部屋でフェイト一人だ。たとえ一人でもフェイトは諦めるわけにいかない。

 

「ごふっ……!」

 

 プレシアが吐血した。

 少なくない鮮血が床に吐き散らされた。

 

「くふっ……ふふ……あは……あははは……フェイト、これで決着はついたわねえ。お友達も、あなたも、もう戦えない。これで誰にも私の邪魔をされることはないわ……」

 

 爆発によりダメージを負いすぎた部屋の扉が灰になっていく。

 扉が全て灰になったとき、一人の少年がそこから現れる。

 

「酷い有様だ。二人には荷が重かったか」

 

「あなたは……管理局の人間ね。虫けらがまだいたわけか」

 

 クロノ・ハラオウンが部屋に入ってくる。

 忌々しそうにプレシアが見やり、フェイトは希望に縋るかのような目を向ける。

 

「そうだ、悪いが時間もないので早速ご同行願おうか。管理局の船を襲撃した罪。フェイトを使い違法にジュエルシードを回収しようとした罪。フェイトへの暴行罪。お前には数えきれないほどの罪がある。もうかなり消耗しているようだし抵抗はオススメしないぞ」

 

「ふっ、そうね、消耗しすぎたわ……予想外に強かったものでね」

 

 風矢が、アルフが、なのはが、フェイトが、プレシア一人へと挑んだのだ。消耗して当然だろう。これでまだ立っていられる方が化け物染みている。

 

 

「こんなはずじゃなかったか?」

 

 

 クロノは一歩踏み出す。

 足元の風矢を一瞥し、また他の者も一人ずつ一瞥する。

 

 

「予想外な連中もいるようだがよくやってくれたようだ。……プレシア・テスタロッサ、お前の気持ちは分からなくもない。世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ! ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ。こんなはずじゃない現実から逃げるか、立ち向かうかは個人の自由だ。だけど自分の勝手な悲しみに、無関係の人間を巻き込んでいい権利はどこの誰にもありはしない!」

 

 

 また一歩、クロノが足を進める。

 プレシアは何も返さないが目を見開いていた。

 

 

「お前は僕が連行し罪を償わせる。お前のせいで悲しんだ人達に、牢屋の中で少しでも謝罪するんだな。いくぞ、お前を捕まえる者の名をよく聞いておけ。僕の名は――クロぼがばっ!?」

 

 クロノは頬を裏拳で殴られて吹き飛ぶ。

 その光景をプレシアとフェイトは信じられないような目で見ている。

 

 

 

「――悪いなクロノ、ここは俺に譲れ」

 

 

 

 攻撃した男は今まで倒れ伏していたはずの、プレシアもフェイトも死んだのだと思っていた男だった。

 

 

「こいつはもう……俺の喧嘩だ」

 

 

 ぴくぴくとクロノは陸に打ち上げられた魚のように痙攣して倒れている。

 その醜態に目すら向けずに男――八神風矢はプレシアを獰猛な目で睨む。

 

 

「さぁ、喧嘩……第二ラウンドだぜ、プレシア」

 

 

 笑みを浮かべて風矢は宣言した。

 

 

 









 風矢……わくわく

 クロノ……ぴくぴく


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