俺は喧嘩がしたいだけ   作:柔らかい豆腐

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 前回の喧嘩相手。

ヒュンケル「やれるだけのことはやった……。ヒムも救った……。これならもう、叱られないですよね……先生……」

ヒム「おうお前ら! 戦士ヒュンケルの最期は漫画ダイの大冒険30巻。さらば! 闘いの日々よの巻を見てくれよな! 俺は生きるぜ、ヒュンケル……! え? 俺ってばこの小説に出てねえの? ていうか俺と会う前にヒュンケルが死んでるじゃねえか!」


乱入の白、介入の茶

 風矢がフェイトにジュエルシードを渡そうとしたとき、突如として現れた白い魔法少女。その正体は風矢もすでに会っている「高町なのは」だ。その肩にはフェレットであるユーノも乗っている。

 なのはは旅館にて睡眠をとっていたので、ヒュンケルの一件に参加しようとしても出遅れてしまった。結果、決着はすでについており、ジュエルシードは勝者であるフェイトに渡ろうとしている。しかしなのはとしてはいただけない展開である。

 

 元々ジュエルシードはユーノが発掘したロストロギア。それは危険すぎるがゆえに管理局と呼ばれる組織に保管してもらおうと、ユーノは一人で集めていた。なのはもそれに協力している以上、フェイトという第三者に渡ってしまうのはよくないことなのだ。

 

「……なのはなの、ヤップル」

 

「八神さんダメだよ、ジュエルシードをファイトちゃんに渡さないで! ……って怪我してるの大丈夫ですか!?」

 

「えっと、もしかしなくてもヤップルって僕のことですよね……。もう諦めてますけど、ユーノです」

 

「また、あなた……?」

 

 フェイトとなのはは一度会っていた。ジュエルシードを求める者同士、いつか会うことは運命だったのだろう。

 初対面でいきなりファイトと呼ばれたので、フェイトはなのはを風矢の関係者であると理解している。もしかすれば風矢も自分の敵に回るのではと思っていたが、あっさりジュエルシードを渡そうとしてくれたのでその疑念はもうない。

 

 しかし問題は高町なのはという少女の強さにあった。実戦経験は少ないのは見て分かるし、力任せの戦い方であったので対処は簡単だった。……だが、化け物クラスの砲撃魔法である「スターライトブレイカー」を喰らってしまったのだ。

 それは一種のトラウマに近くなっている。ゆえにフェイトとアルフは旅館にて高町という名前を聞いて逃げたのだ。

 

「つってもなあ、これは喧嘩して勝ち取ったファイトの……あれ? 別にファイトが手に入れたわけじゃない?」

 

「八神さん、ジュエルシードをこちらに渡してください。それはしかるべき場所へと移すべき危険な代物なんです。全ては発掘した僕が責任を持って集めなければいけないんです」

 

「八神さん、後から来て図々しいけど、お願いします!」

 

 なのはは頭を下げるが、そこにフェイト達が言葉をぶつける。

 

「本当に図々しい。そのジュエルシードは私とアルフ、そして八神さんで勝ち取った物……よって手に入れる権利は私にある」

 

「そうだそうだ! 部外者は引っ込んでな! そうじゃなきゃ、ガブッといくよ……!」

 

 頭を上げたなのはと、睨むようにしているフェイトの視線がバチバチとぶつかり合う。それを見ていた風矢が後頭部をポリポリと掻きながら呟く。

 

「しょうがねえなあ」

 

 その言葉は明らかになのはに渡そうとしている感じであった。なのは達は喜び、フェイト達はどうしてというような目を向けている。

 

「よしっ、そんじゃあ喧嘩して勝った方が手に入れるってことでいいな」

 

 ……今度は風矢以外の全員がどうしてそうなるのという呆れた目をする。

 

「でも」

「これが」

「一番」

「分かりやすいってわけだね」

 

 しかし勝負をして勝者が手に入れるというのは古来からある解決手段だ。自然界でも当たり前のようなごく普通のやり方である。

 四人はその方法で納得したので、それぞれが身構える。

 

「おお、それじゃかかってこいよ」

 

 そして四人は肩をがくりと落とす。

 

「え、えっと……どうして八神さんが戦う気になってるの?」

「そうだよ、アンタ別に戦う意味ないだろ!」

 

「あ? 何言ってんだ? そこに喧嘩があるなら普通交ざるよな?」

 

「「「「交ざらないよ!」」」」

 

 ここにきて四人の心が一つになってきた。全く嬉しくないだろう一つのなり方だ。

 

「とにかく俺もやるぞ、俺に勝ったらジュエルミートはお前らにやるよ」

 

「で、でも、怪我してるし戦わない方がいいんじゃ……」

 

「こんな怪我は大したことねえよ、お前らと喧嘩できる楽しさに比べればなあ!」

 

「や、やばい、こいつ本気だよ。本物のバカだよ……。肩ちょっと抉られてるのに……」

 

 肩が少し抉られているというのに笑顔で叫ぶ風矢に、アルフは引き気味になっている。

 常識的に考えて風矢はおかしい。常識に縛られないのが風矢なのだ。

 

「さあて、そんじゃあ行くぜ――」

 

「なにしてんや兄貴いいいいい!」

 

 そしてそんな風矢を常識にとどめようとして苦労する妹が、車椅子を全力で動かしてきていた。

 

「ん? はやてぶっ!?」

 

 車椅子で、全力での突進を腹部に喰らった風矢は腹を押さえて両膝をつく。壁のような腹筋に激突したが、はやてはなんとか車椅子を転倒させずに持ちこたえる。

 

「は、はやて……なにを……」

 

「いま何時やと思っとるんや! どこほっつき歩いとったかと思えば、妹と同い年くらいの女の子とコスプレ大会か! 喧嘩ばっかりの兄貴だからこういうことは頭にないと思っとったのに!」

 

「コ、コスプレ? いや違う、はやて、俺はこれから最高の――」

 

「いいから部屋へ戻る! なのはちゃんとフェイトちゃんにもこんな恰好させて、アホなんか!? そんで二人もなんでそんな恰好してんねん!」

 

 はやての怒りの矛先が、理不尽に別方向へと向かう。

 

「「えっと、これからジュエルシードをかけた決闘を……」」

 

「やかましいわ! ジュエルミートだかなんだか知らんけどな、こんな夜遅くにすることやないやろ! なのはちゃんの方は親御さんが心配しとるやろうし。というかフェイトちゃんの方は保護者のアルフさんが止めなあかんやろ!」

 

「「「……ご、ごめんなさい」」」

 

 あまりの迫力と勢いに押し負けてなのは達が謝ることになってしまった。唯一ユーノだけはフェレットになっているおかげで免れたが、風矢でさえ勢いだけでなら超えている少女に恐れに似た感情を抱く。

 

「さ、兄貴。さっさと部屋戻るで! 血のりなんかつけてコスプレ大会舐めとる兄貴には、私がたっぷりと本物のコスプレの極意を教えたるよ!」

 

「……あ、いや……ああ、分かった」

 

 喧嘩をしてばかりだが、血を流したところなどほとんど見たことがない。はやてはそのせいで本物の血だとは考えずに、肩を怪我した風矢の手を取って旅館へと戻ろうとする。

 

「でもその前に渡さねえとな。ほれ、お前らにやるよ」

 

 風矢がはやてに引っ張られて戻る前に、懐からジュエルシードをなのはとフェイトの()()に投げた。

 投げられたジュエルシードを地面に落とさないように、なんとか二人はキャッチする。

 

「わりいが今回は引き分けだ。お前らに一つずつやるよ。それじゃあ俺は旅館に戻んぜ、はやてが怒ってるからな」

 

 一つはヒュンケルが持っていたもの。もう一つは飛影が持っていたものだ。

 風矢はヒュンケルの方をなのはに、飛影の方をフェイトに与えた。後者をフェイトに与えたのは、飛影がフェイトから盗んだのだと会話から気付いていたからだ。

 そうして風矢は早くするよう急かすはやてに連れられて、二人で旅館に戻っていった。

 

 

 

 残されたなのは達とフェイト達はお互いを見やる。

 

「……す、すごい子だったの」

 

「やっぱり妹なんだ……」

 

 勝負して勝った方が手に入れる。そんなことをしようとしていた空気が完全に霧散しており、これからどうしたものかと二人は悩む。

 そしてしばらく悩んでいたなのはがユーノに目を向けて、変身を解除して浴衣姿に戻る。

 

「ユーノ君、帰ろ」

 

「え? ど、どうして? ジュエルシードを取り戻すんじゃ」

 

「……今回はファイトちゃんが頑張ったの。だから私が横取りしているみたいなんだもん。ジュエルシードをかけて勝負するのは、また次の機会にしようよ」

 

「ま、まあ、なのはがそれでいいならいいけど……」

 

 去る者追わず。フェイトは戦う意思がなくなったなのはを必要以上に追うことはしなかった。

 フェイトもまた、ジュエルシードをかけて勝負するときはいずれ来ると確信している。アルフがなのはの去り際に攻撃しようとしたのを手で制す。

 

「待って」

 

 しかし唯一ここで言っておかなければいけないことがある。

 

「え、どうしたの? もしかして……勝負するつもりなの?」

 

「それはいい。でもこれだけは言っておきたい」

 

 ここで訂正しておかなければ、また訂正できないで終わる。放置してしまえば時間が積み重なり、どんどん言いづらくなる。なのでこのことだけはここで言っておかねばとフェイトは強く思う。

 

「私の名前はフェイト。フェイト・テスタロッサ。……ファイトじゃない」

 

「……え? あ、あああ!」

 

 正しい名前。なのはは一度目に会ったときに名乗っているのだが、フェイトは自己紹介するつもりもなかった。しかし名乗っていないのにファイトと間違った名前で呼ばれ続ける、それだけは勘弁してほしかった。

 

 ファイトという名前は風矢からなのはが聞いた名前だ。普段から「なのは」のことを「なのはなの」と呼んだり、一緒にいる「ユーノ」のことを今夜は「ヤキソバ」や「ヤップル」と呼んでいる。そんな風矢が告げた名前が正しいはずがない。なのははようやくそのことに気がついた。

 

「ご、ごめんなさい! 八神さんの教えてくれた名前が正しいはずなかったの! ずっと、間違えて呼んでた。こんなことじゃ仲良くなんてなれるはずなかったの……」

 

「勘違いしないで、仲良くする気なんてこれっぽっちもない。私にとっても、あなたにとっても、お互いは敵同士……それでいい」

 

「そんなの、悲しいよ……」

 

「なんとでも言うといい。でもまた会うことはあると思う。そのときはまた喧嘩しよう……高町なのはなの」

 

「うん! ……え?」

 

 自然に流れるように言われたが、違和感があったことでなのはは首を傾げる。

 

「あ、あの、私の名前は高町なのは――」

「なの」

 

「ち、違うの! な、の、は!」

「なの」

 

「私は高町――」

「なのはなの」

 

 

「あああああ! 私の名前は高町なのはああああ!」

 

「分かったよ、なのはああああ。また会おうね」

 

「もうそれならいっそ、なのはなのでいいよおおお!」

 

 ちょっとしたイタズラをしたフェイトは薄く笑みを零し、アルフと一緒に旅館に飛んでいった。

 残されたなのはの絶叫は旅館にまで届いているとは、本人は絶対に知ることのないことだ。

 




なのは「高町なのは、なの」

ユーノ「いくよなのはなの! あ、僕まで言っちゃった」

フェイト「なのはなの……ふっ」

アルフ「……もう止めたげなよ」

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