『あら、鬼ごっこは終わりかしら? ならカードを渡してもらうわよ……!
「なんの!
こっちのスペル斬りを読んでの連続
『くっ……お願い!』
「なっ、なにぃ!?」
俺からスペル攻撃の
「まさかそう来るとはな……!」
『アンタに出来てアタシに出来ない道理はないわ! ……まだ練習中だけど』
コメント
:キリちゃんかっこいー! ¥10000
:スペル斬りなんてここ二人以外見たことないんだけどw
:変態のせいでキリちゃんも変態に……
:とりあえずヒビキは燃やそう(名案)
「楽しくなってきたじゃあないかッ! ここからが本番だ!
『
『随分躊躇なく割りに来るじゃない……!』
「別にこちらはカードに困っていないのだ、そちらの指定カードが割れようが構わんよ」
カードを奪うことで逆転を狙う大島さんは、俺のカードを破壊するより奪う方が賢明だ。破壊するだけじゃ俺の点数が減るだけで向こうが増える訳じゃないからね。逆に俺は奪うよりも破壊したい。指定ポケットカードを互いのバインダーで行き来させるより、総数を減らして守り続けたほうが仕事が早いと思われる。PVPってのは一度作った有利を維持し続けるのが肝要だ。
『時間もないし、一気に行くわよ!
「望むところだ! 来い!!
ところでスペルカードにはランクやカード化限度枚数、それに応じた入手難度が設定されているわけだが、攻撃呪文は防御呪文に比べるとレアである。なもんで、攻撃系より防御系が手持ちに多くなりがち。だからスペル斬りと数の多い防御系で身を固められる俺が一見有利だ。しかし、大島さんの所持していた移動系呪文の枚数は俺のそれを遥かに上回る。マサドラで購入したパックに偏りがあったのでなければ同等に攻撃呪文も手に入れているだろうし、勝負は拮抗していると言えるだろう。
大島さんが俺の指定ポケットカードを狙い撃つのが先か、攻撃呪文の枚数が尽きるのが先か。あるいは俺がスペル攻撃を受けてカードを奪取されるか、はたまた時間切れか。勝負はいずれかによって決着する……!
コメント
:画面のスペルエフェクト凄いww
:どっちも立ち回りヤベーな
:なんか走り回ってるけど意味あるの?
:もちろんある
:ヒビキは簡単にスペル斬ってるように見えるけど、マ〇クラの剣振るタイミングがズレないようにポジション調整してるし
:はえー
:キリちゃんもヒビキが攻撃範囲外に行かないように追いながらスペル当てる隙探ってるっぽい
:近距離攻撃の範囲って20マスだったなそういや
剣でスペルを弾き、本命を当てられまいとこちらも攻撃呪文で牽制する。指定ポケットに干渉してくるスペルは防御呪文を使って確実に守り、あわよくば空撃ちさせようと範囲ギリギリを走り回る。
対して大島さんもスペル斬り対策のフリーポケット攻撃呪文を織り交ぜつつ、レアリティの高い
20マスという距離を維持しつつバンバン呪文を飛ばしまくる俺と大島さんに、リスナーの盛り上がりもピークを見せていた。大島さんを応援するチャット、動画投稿サイト全体でもほぼ見ない高度なスペルバトルの内容を寸評する原作ファン、難しいインベントリ操作に興奮するマ〇クラ勢。
アイテムスロット9枠はキーボードの数字キー1~9にそれぞれ対応しており、例えば8を押せば即座にスロット右から二番目が選択される。俺も大島さんもそれを利用してスペルカードを使いまくってるので、そりゃあ見応えがあるだろう。枠の呪文使い切ったら隙を見計らって補充もせにゃならんしな!
『
「
度重なる呪文の応酬、こちらはスペル斬りもありと忙しい戦況の中、呪文カードの中では比較的レアリティの高い
思わず動揺してしまい、追撃に対する防御が間に合わず俺はその攻撃を受け入れた。戦闘中ゆえにインベントリをちゃんと確認はしてないが、俺の指定ポケットから"アドリブブック"が大島さんのフリーポケットに渡ったはずだ。まずいな……。
まずいんだが……ちらりとPC画面右下の時計に目を向ければ、数字はそろそろ規定時間の四時間に差し掛かる。この一枚が渡っただけなら多分まだ俺が点数で勝ってるので、むしろ油断せず大島さんに視線を向ける。追い付いてない、なんてのは向こうが一番分かってるはずだ。何かしてくるに決まってる。
「やってくれるなァ……! だがまだだッ! そうだろ……? 見せてみろ大島キリ! お前の本気を!!」
『ふふ、ここで挑発するのがアンタよね……。残り時間はあとほんの少し、ちょっとは油断してくれてもいいんじゃない?』
「前回はそれで痛い目を見たからなァ……燃えたし」
コメント
:ボソッと情けないこと言うなし
:確かにマ〇クラのアバターは燃えたな
:まだなんかしてくれるのか
:操作早すぎてキリちゃんの手持ちスペルすら分かんない問題
:分からん方がおもろいやろw
『いいわ、見せてあげるッ! これがアタシの切り札よ!』
高らかに言って大島さんは、何らかのアイテムを俺の方向に放り投げた。放物線を描いて地面に落ちたそれは、俺の足元へコロコロ転がって目を変え続ける。
そう――目だ。それには、いくつかの目があった。
「リスキーダイス……!」
『そして出目は当然大吉よ!』
「チッ、
不穏な気配を感じた俺は、二種類の防御呪文で身を守る。同種のスペルは効果が重複しないので同じ防御呪文を同時に二回使うのは無意味だが、この二つは重ね掛け出来るので二発は耐える。スペル斬り含め三回だ、さぁ来い……!
『さぁ喰らいなさい!
「んな! そんなバカなッ!?」
大島さんが呪文を発動すると、彼女からスペルエフェクトは飛んでこず。逆に俺の身体からエフェクトが彼女に向かっていった。そして、大島さんが次いで使った
「まさかここでリスキーダイスからの
『ふふん♪ アツいでしょっ?』
コメント
:原作再現キターーーー!!
:あれ、防御は?
:レヴィは攻撃スペルじゃないから防御スペルじゃ防げない
コメントでも解説してくれてるリスナーがいるが、その通り。
さらに直前のリスキーダイス併用により、その効果が適用されていればほぼ間違いなく指定ポケットカードが奪われただろう。"手乗り人魚"が向こうに渡っていればゲームセットだ。
「ランクBのスペルを二種類も持っているとはさすがに思わなかったな……フッ。やるじゃないか……」
『アンタも予想以上に手強かったわ! でもま、今回はアタシが一歩先を行ったわねっ』
互いの健闘を称えながらも眼下にマサドラが見えると、俺は身体の緊張を解いた。うん、大島さんが
バシュゥっとマサドラの入り口に降り立ち、示し合わせたように街の入り口をくぐった。外でリザルト確認してるとどこから投石されるか分からんからね。
『さぁ! 結果は決まってるけど点数の確認よ!! ここで持ち点の多い方が文句なしの勝者!! いいわねっ!!』
「心得ているとも! ではしばしお待ちいただこう」
コメント
:キリちゃんおめー! ¥2000
:おめ! ¥250
:めっちゃ盛り上がったなぁ
:G・I動画増えるといいね
:この配信アーカイブ布教すんだよ!
:まさかヒビキに勝つとは ¥10000
悔しさを感じつつも原作再現で
……うん? あれ、"手乗り人魚"あるな……。宝石系もちょっとだけ残ってるし……。呪文の端数含めて88点だ。大幅に減ってるように見えるが、ちまちま当てられた
「俺様は88だったぞ。貴様はどうだ? 大島キリよ」
『…………ょ』
「……? なに? おい、よく聞こえない! 繰り返せ! ……くそっ! 通信妨害か……!」
コメント
:本部の罠やめろww
:唐突な防〇軍で草
:キリちゃんどしたの?
『なんでよーーーーっ!?』
「うっっっっっさ!!」
コメント
:鼓膜ないなった
:あれ、音消えた?
:だから替えを用意しろとあれほど
:ヒビキはおまいう案件なんだがw
『奪ったカードが"アドリブブック"と"レインボーダイヤ"しかない! えっ? 合計……84点!? アタシの負け!?』
「……あー、うん? あぁ、なるほど。そういうことかぁ」
大島さんの手持ちカードと点数を聞いて、俺は納得してしまった。俺も彼女も、リスキーダイスと徴収のコンボがどういう結果になるか間違った予想をしていたのだ。
『なによなるほどって! どういうこと!?』
「まぁ、順に説明しよう。まずお互いの手持ちの少なさ。これはしかたないな、あれだけ攻撃呪文撃ちまくってれば、防御しようがスペル斬りしようが指定ポケットカードは割れてく」
『それは良いのよ! なんでそっちのクリア条件の"手乗り人魚"じゃなくて、フリーに入ってた"レインボーダイヤ"がこっち来てんの!?』
「その二種類のカード、それぞれランク言ってみ?」
『へっ!? ………………ぁ』
コメント
:どういうことだってばよ
:なるほどね、リスキーダイスはちゃんと仕事してんのね
:分かりやすく説明してw
「このMODのゴールって指定ポケット9種の収集だからさ、そこに関係しないカードは極論必要ないんだよ。だから、リスキーダイスからの徴収コンボで獲得できるカードの中にクリア条件カードが無い場合、相手のクリア条件かとかを無視して、とりあえずランクの高いカードを奪う判定になるんだ。多分だけど」
『……そもそも、ランクとかクリア条件のカードごとの点数ってアタシが決めたルールだし……。換金なんかを考えても、相手の指定ポケットから入手しやすい低ランクカード奪うより、高ランクカード奪ったほうが
コメント
:ダイスの幸不幸はMOD側が判断するって話かw
:人魚はBでダイヤがAだから高い方取ったのね
:キリちゃん;;
「まぁそういうことなんで……俺のッ! 勝ちだぁああああ!!」
『きぃーーーーーーーーっ!!』
コメント
:鼓膜破壊再来
:うっさいw
:ダイヤじゃなくて人魚だったらギリ勝ってたね
:キリちゃん負けちゃったかー……
ということで、ラッキーなことに俺の勝利! その後は発狂する大島さんを宥めつつ、コメントの反応を見ながら例によってロールプレイ。前回同様に大島さんを煽りながらも次回配信を匂わせておくと、それなりに好感触のチャットが流れた。
SNSの反応次第ではコラボしない可能性もあるので明言は避けたが、大島さんのテンション的には再戦不可避である。問題ありそうなら都度打ち合わせやな……。
「おっと……」
配信を終え、通話ソフトを切り。PCの前を離れた俺は少しふらついてしまった。イカンな、コラボで四時間なんて初めてだったもんだから、思ったよりも疲れてしまったようだ。
「ちょっと横になるか……」
飯もこれからなんだが気怠さに抗えず、スマホ片手にベッドに横になる。リスナーの反応をSNSで確認しないと……。と考えながら枕に頭を乗せ。
気が付けば……いや、どちらかと言えば気が付くことが出来ずに。俺はSNSアプリを開くことすら叶わず、そのまま夢の世界へ旅立った。