男性Vがコラボするってよ【完結】   作:TrueLight

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【今日も一人で】ゲリラ【麻雀】

「こんヒビキー……うわ、みんな早くない? 暇なの?」

 

コメント

    :は?

    :こんヒビキ―

    :キレそう

    :急に煽るやんw

 

 告知もなしに配信を開始したにも関わらず、いつもの視聴者数とあまり変わらない数のリスナーが訪れ、コメントをくれるではないか。いや、退屈してるんだなって思っちゃうでしょ。

 

「え、休養するんじゃなかったのかって? うーん、まぁそうなんだけどねー……。正直、精神的にダウン入ってたから念の為って感じでね、身体はピンピンしてるのよね。だから大人しくしてても、なんか落ち着かなくてさぁ。せっかくだしあんまやんないゲーム配信しよっ! ってなったんスよ」

 

コメント

    :怪我とかじゃないのね

    :メンタル的なものってのも逆に不安なんだが

    :無理すんな

 

「いつになく優しーねぇ。サンクス! でもマジで大丈夫。むしろこうして配信してる方が落ち着くわ……」

 

 本当に思いつきで開始したので、直前に連絡を入れたボスもあまり乗り気ではなかったけど。俺がこうしてるほうが回復に繋がるといえば、渋々ながらも許可を下すったのである。

 

「やーね、最近はほら、ほかのライバーさんとの絡みも出てきたじゃん? それで気ぃ張ってたとこもあってねぇ。コラボ先のファンの皆さんのこと考えたりね、色々あるんすわ。君らも相手の枠に入ってくれたおかげでね、割といつも通りやれてたんだけどねー」

 

コメント

    :殊勝なヒビキとかキモイなぁ

    :それね

    :コラボ配信じゃなきゃ疲れずやれるってことでおk?

 

「キモイとか言うなよ泣いちゃうだろ。そんでそう! 疲れずやれるってか、むしろテンション上がるね! 配信自体は好きだし! キミらと脳死でボコスカ殴り合うのが楽しいんじゃねーかと思ってね、枠取ったワケよ!」

 

コメント

    :ほーん?

    :ということは!

    :え、リスナーと麻雀すんの?w

 

「そゆことー! 久々に殴り合おうぜぇ!!」

 

コメント

    :マジか!

    :やりたいヒビキ飛ばしたい

    :ヒビキ対リスナー三人打ちってマ?

 

 唐突なリスナー参加型企画に、予想以上に視聴者は盛り上がってくれた。めっちゃ久々だからな……今までにも何度かリスナーを招いてマルチ企画したことはあるが、そのたびに俺がボコボコにされるからレアイベントなのだ! ユラちゃんとの配信も増えてくると、よりこういう機会は無くなってたんでね。俺も久々にみんなでわちゃわちゃしたくなったのだ。こやつらに気を使う必要なんざないからね!

 

「いや三人に狙われて勝てるわけねーだろ! でも、配信は閉じなくて良いよ! 俺の手牌(てふだ)見て振り込む(忖度する)もよし、逆に勝ちに来るもよし! とりあえず楽しもうぜ!!」

 

 今どきはオンラインで簡単に麻雀出来るからね! 俺も強いほうじゃないが、ブラウザやアプリだと色々アシスト機能もあるから、初心者でも最低限ルールを知ってれば上級者に勝てたりもする。運ゲーって言われる原因でもあるけど!

 

「んじゃ準備するねー……と、その間に麻雀分からんの人にも簡単に説明するよ。麻雀とは! ポーカーである!!」

 

コメント

    :草

    :雑にもほどがあるんじゃが

    :ポーカーから知らん人はどうすればいいですか!!

 

「ポーカーから知らん人は知らん! トランプって1から13の数字、んで4つの模様(スート)がありますね? 52種類のカードを使って、5枚の手札に役を作って得点を競うゲーム。麻雀はこれの超絶面倒くさいバージョンね!」

 

コメント

    :言いたいことはわかるが

    :種類はともかくポーカーってもっと数多かったような

    :ルールによりますわな

 

「麻雀はカード、牌の種類こそ34種類と少ないんだけど。手札、手牌に14集めて役を作る必要があるます!」

 

コメント

    :あるます(ドン☆)

    :勢いでテキトーに喋ってるのがよう分かる

    :14の中に役を作れば余っても良いの?

 

「うるせぇ! 揚げ足取るんじゃねぇ!! 基本的に14全部使う必要があるよ! ポーカーは同じカード2枚でワンペアになるけど、麻雀は牌3つでひと単位。これを4つと、同じ牌2つでアガリ、ゴールになるよ! ポーカーはゲームから降りなければ同時に手札をオープンするけど、麻雀は先にアガった者勝ち! シビアよね……と、オーケー準備完了!」

 

 説明してる間にゲーム画面、友人と対局するための部屋を建て終える。

 

「んじゃ部屋のID晒すから、入ってきてねー、ほいっ。……って早ぁ!?」

 

コメント

    :一瞬やんけw

    :これはガチ勢の予感

    :久々に良い空元気が見れそうだ

 

 対局部屋の定員は俺を除いて3人なんだが、部屋番号晒した瞬間に埋まった。マジで1秒経ってないと思う。やべぇ、こえぇよ……。い、いやでもしかし、勝つために配信してるんじゃないからね! 楽しく遊びたいだけだからね!

 

「よ、よし。それじゃあ始めるぞー! "ライバー"諸君! 久々に遊ぼうぜぇ!!」

 

コメント

    :がんばえー

    :どうせ叫ぶんだから音量注意って出しとけ

    :手牌晒してるんだから別に勝つ気ないんでそ?

    :振り込み期待かも知れんからなんともw

 

 こうして俺VSリスナーの麻雀対局が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、俺は地獄を味わっていた。

 

「ちょっ……ハァ!? リーのみで数え役満!? なんでそこで待ってんだよ!! 残り一枚だぞ!?」

 

コメント

    :wwwwww

    :これは草。いや草

    :何が起こってんの?

    :リーチっていう初心者向けの点数が低い手札でドラっていうおまけ点が乗りまくった

    :しかもヒビキが捨てた牌からアガったからヒビキだけ点数毟られたw

 

「クソがぁ……返せよ俺の大三元……!」

 

コメント

    :高い役狙おうとするからやぞw

    :手牌見えてんだから捨てるわけないでしょ

    :誰も振り込まなくて草生えますねぇ

 

    :振り込みってなんぞ?

    :麻雀は相手の捨てた牌を奪えるから、わざと相手が欲しそうな牌を捨ててあげる

    :忖度ねw誰もやってくれなかったとww

 

 めちゃくちゃ運が良くて揃いそうだったキレイな役を、安いはずなのにラッキーで高くなったアガリで邪魔され飛ばされたり。あ、持ち点がマイナスになることを飛ぶっていうよ! 他にも色々言い方あるけど! G・Iの元ネタ漫画のキャラ的には"ハコ割れ"とかね!

 

「ねぇ! なんで誰も振り込んでくんないの!? 一回くらい良いじゃん! 字一色(ツーイーソー)だぞ!? お前ら誰か持ってんだろ!! オイ!!」

 

コメント

    :うるせぇww

    :ホントに誰も渡さなくて笑うんだがw

    :麻雀知らんけど強そうなのはわかる

 

    :実際強いし振り込みありなら揃わん訳ないんだけど、他三人がもう降りてるねw

    :降りるってのは自分がアガること考えずに逃げることだぞ!

 

    :解説ニキ感謝

    :ちなみにさっきのダイサンゲンもツーイーソーも役満っていう高得点だよ! 役満は総称であってそういう役がある訳じゃないよ!

 

 マジで! ほんっとうに誰も忖度してくんないんだけど! 役満チャンスがこんなに来ることなんて滅多に無いんだぞ!? タイミング的に野良なら絶対アガれてるのに!!

 

 そうして何度も夢を見せられては、ことごとくライバー共に潰されていく俺の手牌たち。それどころか、必ず俺の捨てた牌からアガろうとするもんだから、絶対こっちが最下位になる。対局の流れ自体は速いから相手もどんどん変わってってるはずなのに、だーれもアガらせてくれねぇ!!

 

「こんのゴミカス共がぁ……!」

 

コメント

    :過去イチ口悪いけど愉悦でしか無いw

    :ヒビキカワイソーww

    :草生えてますよ

夕張ユラ:初心者ですが、頑張ってみます!

 

「えっ」

 

コメント

    :えっ

    :ww

    :ユラたそ?

    :マジで!?

 

 プレイヤーが立ち代わる間に俺が憎悪に身を焦がしていると、ちらりと見慣れた名前がコメント欄に流れ。そして、新たにリスナー枠が埋まると、そこには……!

 

「ひ、ひっひっひさん!!」

 

 なんと、同期のひっひっひすみまんふっふっふさんが現れたじゃないか! こいつは同期のよしみで振り込んでくれるに違いねぇ!! まだ二回目のコラボだけど! っつーかよくその名前で登録出来たね! プレイヤーシンボル的にもつい今登録したばっかっぽいし!

 

コメント

    :これはアツい

    :コメント欄にはユラちゃん、参加したのはひっひっひ。妙だな……?

    :お前のようなカンの良いガキは嫌いだよ

    :コメント打った瞬間体調わるなったんやろなw

 

 しかし、麻雀ってのは非情である。配牌(最初に配られる手札)でおおよそ結果が決まってしまうことも多い。ひっひっひさんの忖度チャンスが来る以前に、俺はどんどん点数を失ってしまう。っつーか俺からばっかりアガんじゃねぇって言ったろコラァ!! そんな早いと安牌(捨ててもアガられない牌)分かんねえんだよ!!

 

「ぐぅ、ラス親で残り100点……。頼むぞ……!!」

 

コメント

    :よく生きてんなコイツ

    :100点とか初めて見たわww

    :ひっひっひさんここまで空気

 

 これは瀕死のピンチだが、親というのはアガり続ける限り継続できる、ずっと俺のターン状態! 文字通りラストの親が俺なので、ここで逆転できればその時点で俺の勝ちだ……!

 

「見てろてめぇら、ここで逆転して全員飛ばしてやっからよぉ……って九蓮宝燈(チュウレンポウトウ)一向聴(イーシャンテン)!?」

 

コメント

    :やばすぎw

    :チートですか?

    :ちゅうなんて?

 

    :九蓮宝燈、上がったら死ぬとすら言われる役満

    :イーシャンテンってのは、あと2牌でアガれるよってことね

    :ヒビキお前、死ぬのか……?

 

「すごいすごい! えっ、ちょっとマジで頼む! あと一個は頑張って引くから! ここだけ!! ここだけ振り込んでくれお願い!!」

 

 俺の懇願に対し、参加リスナーは明らかに俺が欲しくないところを捨てていく。これは俺が聴牌(テンパイ)(あと1牌でアガれる状態)したときに、最後の牌をくれてやろうということだろう。そのために持っておこう、と。きっとそうだ、そう思わせてくれ……!

 

 俺は山から引いた牌を捨てていき、そして……!

 

「て、テンパった……!」

 

コメント

    :他が持っているのかどうかですよ

    :慌てる方のテンパったじゃないよ! テンパイしてるってことだよ! 慌てる方の元ネタではあるよ!

    :解説ニキ頑張ってんなww

 

    :なかなか出ないな

    :みんな持ってないんじゃね?

    :全部自引きはさらにアツいぞw

 

 時間的にも最後の状況に、視聴者も固唾を飲んで見守っている。参加リスナーが捨てた牌はどう見ても自分がアガることを放棄しているので、間違いなく全員仲間だと思っていい。

 

 どんどん手番が進んでいき、そしてついに状況が動いた……!

 

「えっ……?」

 

コメント

    :え

    :え

    :あれ?

    :ひっひっひさん……?

夕張ユラ:あれ?

 

 立直(リーチ)。プレイヤーの一人であるひっひっひさんが、立直……!

 

コメント

    :さっきリーのみとか言ってたやつ? これマズイの?

    :多分マズイ

    :いや別に大丈夫でしょ。アガらなければいい

 

    :ひっひっひさんが引いた牌全部捨てれば一緒だよな?

    :いや駄目だw ひっひっひさんビギナーシンボルだw

    :あっww

 

「……一応、俺から説明しよう。リーチってのはもう一手でアガれる状態なワケだが、相手に振り込みたいなら捨てることも一応出来る。俺が待ってる牌は一種類だから、状況的にはあまり変わってない。けど……このブラウザゲーだと、ビギナーシンボルってその時点で設定を弄ってないんだよ。んで、初期設定から完全に触ってない場合……手牌が揃ったプレイヤーは自動的にリーチして、他の人がアガり牌を捨てたり、自分で引いたら勝手にアガる。つまり……俺はひっひっひさんがアガる前にアガらなくちゃいけない……!!」

 

コメント

    :ww

    :ひっひっひさんェ……

    :???初心者ですが、頑張ってみます!

夕張ユラ:ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!

 

 説明してる間にも時間は過ぎるので引いたいらない牌をとっとと捨てる。が……。

 

「OH……」

 

コメント

    :終わったww

    :キレイな手だなぁ

    :しっかり両面待ちで草草の草

    :捨て牌からは考えられんほどしっかりした手ですねw

夕張ユラ:すみません違うんですなんか勝手に

 

「うるせぇもう寝る!! ふんだ見てろよ、明日こそボコボコにしてやっからなぁ!!」

 

コメント

    :明日もやるんかいww

    :ちゃんと養生しろよ ¥10000

    :体調整えてからボコられに来いよな!

 

夕張ユラ:もっと勉強してきます……

    :結局フテ寝かい

    :次は手牌隠せよww

 

 こうして終始騒がしいまま配信を閉じ、俺はベッドに身を投げだした。

 

「はぁ~……めっちゃ良い配牌だったのになぁ……」

 

 手牌さらしても、二~三回リスナー入れ替えれば一人くらい気遣いのできる視聴者が来てくれると思っていたのに。あそこまでボコボコにしてくれるとは……! いや前からそうだったけど!!

 

「……ふっ。ふふ……」

 

 でもまぁ……楽しかったなぁ。久々にコメントの反応を警戒せず、純粋に思ったままの言葉で配信ができた気がする。その内容が結局罵詈雑言の嵐だったのが一見さんお断り過ぎるが、俺がリスナーと楽しむためにゲリラって形を取ったんだ、これくらいは許してもらおう。

 

 Vtuberは……楽しい。動画を面白く編集して投稿するのも、コラボ配信するのも楽しいんだ。でも……そればかりじゃない。辛いこと、落ち込むことだってたくさんある。それに俺は、蓋をしてきた。自分は楽しいことをしてるんだ、弱音なんて吐けない。

 

 これから後輩も出来るし、より一層反応を警戒して、俺みたいな負担をかけないようにサポートしないと……そんなことを考えて、俺はやっと自覚したんだ。

 

 俺みたいな負担(・・・・・・・)。俺には、負担がかかっていたのだと。ある種の自己暗示をしていたんだ。そんなことは無い、俺は俺のやるべきことを楽しんでやってるんだ、ってな。

 

 そんで結局、事務所に……ボスに心配をかけた。面倒をかけた。リスナーを不安にさせてしまった。だから、開き直ることにした。

 

 うるせぇ! 俺は俺の楽しいようにやる! 俺と、俺をここまで見てくれた人たちだけに恥じない活動をする! そう、開き直ろうと。

 

 もちろんすぐには行かないだろう。結局はよその反応を警戒したりだとか、望まれてもいないフォローをしてしまいそうになることはあるだろう。でも、それはそれで良い。俺には支えてくれる人がいる、その度にそれを忘れなければ、きっと俺はやっていけるはずだ。

 

「……よし、明日はボコボコにしてやろう!」

 

 その言葉とともに俺はベッドから跳ね起きて、しっかり食事を取り。最近はあまり追えていなかった、VSの推しである先輩の配信を見て笑った。

 


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