『三期生の夕張さんとコラボですか、初耳ですが』
「はい……昨日の生配信を見てたらしくて、コメント欄にそんなことを」
『……コメントで、ということは。ある程度視聴者にも伝わってしまったと?』
「そうです。一応その場では了承せず、考えさせてほしいと返したんですが……」
『そうですか、助かります。……申し訳ありません、すぐにでも頷きたかったでしょうに』
「いやそんなことっ……は、あるんですけど。僕としても、出来る限り事務所に迷惑はかけたくないので……」
G・IMODのソロクリア配信を成し遂げた翌日、俺は事務所のマネージャーに夕張ユラちゃんからコラボの打診があった旨の報告をしていた。使ってるのは通話用のPCフリーソフト。これならメモしながら話せて便利だ。
一期生、三期生ともに専属のマネージャーがついてるVSだけど、俺にはそれが居ない。二期生の担当を予定していた人が三期生についてるんだよね。では相手がどういう立場なのかと言えば、VSプロジェクトの統括マネージャー様だ。つまりVSのボス。
例えば所属のVが何らかの企画を希望した場合、まず相談を受けた担当マネージャーが吟味し、さらに上の統括マネージャーが可否を判断する。でも俺にはそのエスカレーションが無いので、こうして直接お伺いを立てにゃならんのだ。
やり取りの上では向こうの腰が低い気がするけど、それは俺がセルフマネジメントせざるを得ない状況を詫びてのことであり、本来なら直接連絡を取り合えるような間柄じゃない。ぶっちゃけ緊張しますハイ。
『そうですね……ヒビキ君は、まだ収益化こそしていませんがその申請自体は通っています。収益化記念配信のタイミングでコラボしましょうか』
「えっ……いいんですか?」
『はい。貴方はこちらが求める以上に慎重な言動を心がけてくれていますから。それに報いたいという気持ちは我々にもあるのですよ』
「あ、ありがとうございます」
なんかそういうことになった。燃えるのが怖かったからそうしていただけとは言え、清く正しく活動するもんだね!
『打ち合わせや配信日の調整はこちらで行います。さしあたって気になることはありますか?』
「えぇと、そうですね……すでにアーカイブとしてチャンネルに上がってる動画なんですが、権利関係に問題が無いかとか改めて確認をお願いすることは可能でしょうか……?」
『問題ありませんよ、専門のスタッフに話を通しておきます。……事務所への配慮には感謝しますが、もう少し気軽に活動しても良いんですよ?』
差し出がましいとは思ったが収益化にあたっての懸念を話すと、ボスはどこか揶揄うように言ってきた。やべ、生意気言い過ぎただろうか。
「はは……今、事務所に所属している男性Vと言えば僕だけですし。僕の行動が、今後生まれるかもしれない他の男性Vの活動に影響すると思うと、やっぱり色々考えてしまいますね」
『お察しします。ですが、
「きょっ、恐縮です!」
お偉いさんに認められているのは素直に嬉しいが、それはそれで別のプレッシャーがあるぞ……。そんな思いが出てしまったか、裏返った俺の声にボスは電話の向こうでクスクス笑っていた。
『とりあえず、コラボの件は了解しました。諸々スケジュールを組み次第改めて連絡します。そう時間はかからないかと思いますので、その間は生配信はしないようお願いします。コメントでコラボについて言及をされると返しに困るでしょう?』
「ですね、ご連絡いただくまで大人しくしておきます。お気遣い痛み入ります」
多くはないボキャブラリーから小難しい言葉を弄した俺を、やはり可笑しそうに笑ってから、ボスは通話を切る。こうして、なし崩し的にではあったけど、俺の初コラボが決定したのであった。
…………燃えないといいなぁ……。