男性Vがコラボするってよ【完結】   作:TrueLight

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Vの裏で:コラボしても良いですか? ー夕張ユラー

「……お疲れ様です、夕張ユラです」

『お疲れ様です。今、お時間構いませんか?』

「は、はいっ。大丈夫です」

 

 マネージャーさんから聞かされていた通りの時間に、私はVSプロジェクトの実質トップだという統括マネージャーさんからの電話を取った。用件は間違いなく、私が言い出したヒビキ先輩とのコラボについて。失礼のないようにしなきゃ!

 

 マネージャーさんの話だと、とっても厳しい人みたいだし……。裏では"元帥"なんて呼ばれているみたい。

 

『では早速本題に移りますが。暁さんとコラボがしたいそうですね』

「そ、そうです」

 

『理由を伺っても?』

「え、えと……ヒビキ先輩のことは、その。事務所に入る前から知っていたんです。それでその、尊敬、してます。最近ヒビキ先輩、とっても難しいゲームを配信中にクリアしてたんですけど、私、その動画全部見てて。お祝いに、そのゲームの雑談なんか出来ないかなぁって……その。思ったんですけど……先輩、よくコラボしたいって言ってましたしっ」

 

 電話の向こうから、私が話している間なにも音はしなくて。自分がきちんと喋れているか不安なまま、私は焦りつつもなんとか理由、のようなものを説明し終えた。

 

 すると、ふぅっ、と短く息を吐く音が聞こえて、元帥さんはゆっくりと口を開いた。

 

『……お気持ちは分かりました。たしか夕張さんは、応募の際にも暁さんの配信に言及されていましたね。暁さんの生配信をきっかけにVtuberに興味を持ったと』

 

「そうなんですっ! その、なんていうか、可愛いけどカッコイイと言いますか……ゲームが凄く上手いけど、負けたら子供みたいに悔しがって。最初はただのゲーム好きな人だと思ってたんですけど、視聴者のコメントに真剣に向き合ってくれる、大人っぽいところもあるんですよね! よくプロレスみたいな言い合いしてるんですけど、本当に他人を傷つけるような言葉は使いませんし。知れば知るほど素敵な人でっ」

 

『分かりました、夕張さん。落ち着いてください』

「はっ! すっ、すみません!!」

 

 勢いで語ってしまってから、相手が誰なのかを思い出して私は顔を青褪めさせた。へ、変なコだと思われてないかな……!? うぅ、やっちゃったかも……。

 

『まずはハッキリさせておきますが、コラボの件。これに関しては前向きに計画を進めるつもりです。夕張さんはゲームのクリア記念にと言いましたが、建前としては収益化記念と言うことでコラボする予定です』

「ふぇ?」

 

 思わず変な声を漏らしたけど、元帥さんは気にした様子もなく続ける。

 

『先に暁さんへの認識にズレが無いか確認しておきましょう。夕張さんは、何故暁さんが事あるごとに配信で「コラボがしたい」と言っているか分かりますか?』

「えっ? その……こ、言葉通りの意味じゃないんでしょうか……?」

 

『無いとは言いませんが。理由は主に二つです。一つは自衛のため。ずっとコラボがしたいと言いつつしないライバーが居れば、普通はその理由を考えますよね? 何かしら出来ない理由があるんだろうな、と。 敢えて自分から口にすることによって、暁さんは他のライバーに「コラボNGの相手」として印象付けているんです。それにより、炎上に繋がる火種……女性ライバーからコラボの誘いがそもそも来ないように。それでもコラボを提案してくる人は、はっきり言って想像力に欠けるので、その時点で断りますし』

 

 言外に私が「想像力に欠けてる」って言われてるみたいで心が折れそうになったけど、なんとか疑問を口にする。

 

「な、なんでそこまで……?」

『それが、理由の二つ目にもなるのですが。……夕張さんは、そもそも世間の男性Vに対する印象がどういうものか認識していますか?』

 

「それは……その。良い目で見られてないってことは知ってるんですけど……」

『詳細はご存知ないようですね。では説明しておきましょうか……直結厨、という単語に聞き覚えは? 主にネットゲームで使われたスラングです』

 

「す、すみません……」

『構いませんよ。これは主に、異性へ過剰に接近する行為の総称です。例えばゲームとは、基本的に男女の出会いの場ではありませんよね? にも関わらずチャットなどで住所を聞きだして実際に会おうと言ってきたりだとか。端的に言えば性的な繋がりが目的の迷惑行為です。あくまで極端な例になりますが』

 

「な、なるほど?」

 

 難しい言い回しでちょっと混乱してきたけど、何となくは分かった、ような気がする。うん。

 

『話を戻しますと、とある事務所でデビュー予定だった男性Vが、いわゆる直結厨だったのです。以後"男"と呼びますが……男が女性ライバーの配信で高額なスーパーチャットを投げる行為が散見され、そのコメントが総じてオフコラボを思わせるような内容でした。その件については当然、いたる所で炎上騒ぎになります。稼働を開始したばかりの当人のSNSには批判が殺到し、また当人が不用意に反論したことで加速。まさに火に油を注ぐ言動を取り続けたのです』

 

「う、うわぁ……」

『また、男に言い寄られていた女性ライバーも被害を受けました。その男がどういうコメントをして、ライバーがどう返したのか、という切り抜き動画が多数投稿サイトにアップされ、悪い意味で注目を集めたのです。生配信では常にファンではない、興味本位のユーザーが迷惑コメントを寄せるようになりました』

 

「そんなことが……」

『今では沈静化を見せていますが、未だにVtuberファンの間では男性Vに対するヘイトが燻っています。そして、それは常に暁さんの動向を窺っているのです。暁さんは自身が炎上の原因にならないよう、引いてはコラボ相手の女性ライバーに被害が及ばないよう、そもそも"コラボをしない"というスタンスを貫いてきたのです』

 

「…………」

 なんて言えばいいのか、分からなかった。いつもコラボがしたいと。一人でプレイするマルチ用ゲームは寂しいと言っていたヒビキ先輩。その気持ちは絶対に嘘じゃないし、それをよくコメントでイジられているのも見てきた。私が先輩に憧れたように……先輩もきっと、誰かに憧れて。ワイワイ集まって動画配信をするVtuberって存在を、素敵なものだと思って応募したハズなんだ。なのに……事務所と、周りのことを常に意識して。その上でリスナーを楽しませるような配信を、たった一人で続けてきた。そんなの、あんまりだよ……。

 

『……あまり気落ちしないことです。冷たく聞こえるかも知れませんが、これはヒビ……ん、んん! 暁さんが自ら決めたことですから。話をまとめますが、暁さんは自身の立場を守るため。同時に、他の女性ライバーの立場を守るために、いわゆるボッチ芸を続けているのです』

「そう、なんですね……」

 

 知らなかったことが、悲しく思えた。でも……そんなヒビキ先輩が、やっぱり素敵な人なんだとより実感できて、同時に嬉しさと……そんな先輩に憧れてこの世界に足を踏み入れたことが、心底誇らしく思えてくる。

 

 もっと言うなら、元帥さんがなんで私に、この話をしてくれたのかも。なんとなく、分かったような気がした。

 

「……それで、私は……ヒビキ先輩とコラボするために。何をすれば良いですか?」

 

 私が望んだような、ただヒビキ先輩の配信にお邪魔して。ゲーム配信の思い出を語り合いながら、クリアをお祝いする。それをそのまま通せば、ヒビキ先輩が築いてきたものを踏みにじることになる。きっと。

 

『……察しが良くて助かります。夕張さんには――』

 

 私ができるだけ真剣な声で問いかけると、電話の向こうで元帥さんは笑ったような気がした。そして――。

 

『暁さんの、ガチ恋勢になっていただきます』

「――ふぇ?」

 

 そんな、突飛なことを言ってきたのだった。

 


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