CoCシナリオ「蒼のカテドラル」ログ   作:佐渡山 創

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第12話:エピローグ

目を覚ますと、俺は椅子に座っていた。

 

辺りを見回すと、小さな会議室のような部屋で椅子が設置されており、俺の他にも何人か座っているようだ。

姿を見なくてもわかる。晶さん、刑事さん、メアさん、一ノ瀬さん……それに、俺だ。

 

不意に、目の前の大きなスクリーンに明かりが灯る。映し出されたのは、見覚えのない男性───ではなく、どこかで聞いたことがある声の、女性の姿だった。

 

「やぁ、目が覚めたかな。……高山君は、会うのは初めてか。私は外海。政府でSPをしている者だ」

「外海さん…では、あなたが皆をサポートしてくれたんですね!」

「そいつはお前をクローンと入れ換えようとした女だ、安易に信じるんじゃねーぞ」

「刑事さんは黙ってたほうがいい。外海さんのお陰で助けられたのも事実なんだから」

 

外海さんは俺たちを見回すと、眉根を下げて話し始めた。

 

「私も忙しくて、こんな形で礼を言う羽目になってしまい申し訳ないが…本当にありがとう。」

「そして……君達には青涙病の治療薬を投与しておいた。もう症状は消えているだろう?」

 

言われて気がついた。四肢が動かないとかもないし、目も完全に見えている。

俺は青涙病が悪化し、一時は死の淵をさまよったのだ。今振り替えってみると身の毛もよだつような恐ろしい体験だったが、あまり現実味がない。

 

「治療薬の副作用でしばらく体調に異常があるかも知れない。だが、後遺症は無い事を保証するのでそこは安心して欲しい。また再発してしまった時は、私を頼ってくれ。」

「本当に、ありがとうございました。外海さん」

「……長い間、よく頑張ってくれたな、高山。お疲れ様だ。どうか、皆ゆっくり休んでくれ。それでは、縁があればまた会おう」

 

外海さんがそう言うと、スクリーンの灯りが消えた。スピーカーも、音を発しなくなる。

俺はみんなに向き直ると、改めて頭を下げてお礼を告げた。

 

「皆、本当にありがとう!!俺を命をかけて救ってくれて…うーん、何て言うか…言い表せない気持ちでいっぱいなんだけど、すごく感謝してます」

「…ハッ、あったりめぇーだろ。この天才刑事サンに任せておきゃあ事件解決なんてお茶の子さいさいよ」

 

刑事さんが得意げに言う。この態度も、2日間で慣れたものだ。

 

「この2日間、すごく充実していたな。死の淵をさまようのはもう二度とご免だが、お前達と知り合えて、良かった。よい土産話が出来たぞ」

 

メアさんにもすごく助けられた。俺がクローンと入れ換えられそうになった時、彼女が言ってくれた言葉が今でも耳に残っている。俺は俺自身。なかったことにしてはいけない──うん、すごく心に染みた。

 

「僕も、この事件を通じて皆さんと仲良くなれました。…そういえば、高山君と一ノ瀬さんは同じレストランで働いてるんだったよね?…良ければ、今度皆で行きたいなぁー…なんて」

 

晶さんはみんなと関わるための糸口になってくれた人だ。この人がいなかったら、俺達の関係はギクシャクしたままで、俺は最悪命を落としていたかもしれない……

 

「…いいね、それ。店長に話してみるよ。団体客が来る、って」

 

一ノ瀬さんも、この事件がある前は距離が掴めなかったけれど、今は少し近づいたかも。これからは、上手に接することができる。気がする。

 

「それでいいよね?高山くんも」

「……え、あ…うん!皆来てくれるなら、俺も大歓迎だよ。」

 

 

俺たちは、一連の騒ぎの元凶を排除した。これまで青涙病に罹った人や、桃木さんは戻ってこないかもしれない。クローンの事実が世の中に公表されれば、大荒れするだろう。

それでも、「俺」は。「俺自身」は。今日も生きている。

今は、夏休みだ。

今日も空は、蒼くて高い─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暑っついな…今日何度あるんだろ」

 

俺は、バイト先への道を歩きながら、そんな事を考えていた。

あの事件から、1週間が経っていた。あれから、青涙病について目立った報道はない。国民健康診断も、いつの間にか無くなっていた。

 

今日は、バイト先に晶さんとメアさんと刑事さんが遊びに来る予定だ。あの事件を乗り切った5人として、俺と一ノ瀬さんも今日は特別に参加できる事になっている。

……もっとも、午前中は普通に仕事だけれども。

 

「……着いた着いた。さーてと、今日もウェイターになりますか!」

 

俺は裏口の前で少し伸びをし、赤いフレームの眼鏡に掛け変える。見られてたら恥ずかしかったけれど、誰もいなかったようだ。

ふと、空を見上げると今日も高く、澄んでいた。

俺は、自分の腕に触れる。『自分自身』に感謝しながら、今日も生きてゆこう。その喜びを、噛みしめながら。

 

「おはようございまーす!」

 

 

 俺は挨拶をしてドアノブを回し、通用口の扉をくぐったのだった。

 

 


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