ダンジョンで縁を結ぶのは間違っているだろうか   作:事故ナギ

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「罠だ!これは罠だ!」




COOPERATION︰女教皇(The High Priestess)

入院2日目の朝、ネムレスの病室へドカドカと足音が接近し、その勢いのままドアが開け放たれた。

 

「うぉぉおおおおおん!!!ネムレスくうううううん!!!!」

 

「病室ではお静かに、神様。怖い聖女がすっ飛んでくるよ」

 

ネムレスの忠告にキュッと居住まいを正したヘスティアは、それくらい心配だったんだぜと声を落とした。

 

廊下の方から白衣の悪魔が殺到してこないかとチラチラと確認しながら後ろ手でドアをそっと閉めたヘスティアはベッドの傍らにあるロッキングチェアに腰掛けた。

 

「ごめん。心配かけた」

 

「ううん、無事ならそれでいいんだ。ベル君もネムレス君と同じようにモンスターと戦ってたから、余計心配になっちゃってね」

 

「ベルが?」

 

ネムレスと時を同じくしてベルもシルバーバックという名のモンスターとしのぎを削っていた。

何故かヘスティアを執拗に付け狙うモンスターとダイダロス通りで繰り広げられたチェイスを語るヘスティアの顔はニヘラァ……と弛緩していたがベルのトドメを刺すシーンで顔の筋肉を引き締める。

 

「そうだ。さっき言ったステイタスの更新でベル君が魔法を発現させたんだ」

 

「ふーん、どんな魔法?」

 

「……【ペルソナ】」

 

「ペルソナ……!?」

 

今のところ自分しか持ちえないと思っていた力の発現にネムレスは驚きを見せる。

ヘスティアはベルが目覚めたペルソナについて本人の話も交えつつ詳細に話していく。

 

「アルゴノゥト……確か、ベルとベルのおじいさんが好きなやつだったっけ」

 

「そうなのかい?ボクはそのあたりニブいからなんとも。そうだ、次は君の活躍を君の口から聞かせて欲しいな。人伝には聞いたけど……君の【ペルソナ】も使えるようになったんだろう?」

 

話のターンはネムレスに回った。

ヘスティアもアミッドからいくらか事情は聞いているようで、スムーズに受け答えが進んでいく。

話の進行は順風満帆だがヘスティアの顔は曇り空のままだった。

 

「顔が怖いですよ」

 

「険しくなってたかい?今後の君たちのことを考えると、ちょっとね」

 

努めて笑顔を作ったヘスティアだがその心中は穏やかではない。

 

レベル1がダンジョンにて冒険することはままあることだ。そうでなくては誰もレベル2への扉をたたく事はできないからだ。

 

二人の活躍そのものは誇るべきだし、自分を助けてくれたベル君に「今回のはやめておけばよかったね」などと心無い言葉をヘスティアが言えるわけがない。

そもそも言うつもりなんてさらさらなかったが。

 

しかし自分の眷属たちはやりすぎた。

そのレベルに反して活躍しすぎてしまった。

 

神は良くも悪くも気まぐれで、赤子のように好奇心旺盛。ついでに娯楽に飢えており、誰も彼もが自己中心的な輩だ。

 

(そんな奴らが二人を狙ってきたらどうする?)

 

間接的なアプローチから彼らを守ることはヘスティアにもできるが、直接的な手段を講じた場合が問題だ。

 

「ペルソナはダンジョン以外では使わない方が良さそうかな」

 

「最終的な判断は君達に任せる。だけど極力そうしてくれている方がボクとしては安心かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、神様。また借金が増えた。だけど──」

 

ヘスティアはイスからおもむろに腰を上げる。

事も無げにそう告げたネムレスの両肩に彼女華奢な手がすっと置かれた。

 

二の句を遮られたネムレスは俯いた彼女の表情を窺うことはできない。

しかし次に起こることは誰がどう見ても一択しかありえなかった。

 

「か、神様?」

 

「どーしてだい!!というか一番大切なことを何で一番最初に言わないんだ君は!?」

 

「どうでもいいことかなって」

 

「良くないよ!全く良くないよぉ!由々しき事態だよもう!!」

 

ガクガクと肩を揺さぶられながら神様は何に怒っているんだろうかとネムレスは考えるも点でわからなかった。

 

「もう二億抱えてるし誤差では?」

 

「バカーッ!誰が払うと思ってるんだボクだぞボク!!君は『黄昏の羽根』を出してくれたけどそれとコレとは別問題だ!あぁもう、もうもうもーう!背に腹はかえられない……今からウラノスに土下座してくる!」

 

「神様ストップ!借金はある神が払ってくれたからもう大丈夫です」

 

ギルドへ走り出そうとした女神の背中に待ったがかかる。

くるりと首だけ振り向いたヘスティアの目は「ホントかい?」とでも言いたげな怪訝な目をしている。

 

「ホントホント。僕の魔法(ペルソナ)と引き換えにだったけど」

 

ヘスティアは盛大にため息をつき壁に垂れかかってへたり込んだ。

余程慌てていたのか、先より顔がやつれて見える。

 

「それならそうと言っておくれよ……。無駄に焦ってとんでもないことしそうになったじゃないか」

 

「僕が話す前に神様が止めたんじゃないですか」

 

「そうだっけ?」

 

「そうですよ」

 

なぁんだそっかぁとヘスティアはふうと安堵に胸を撫で下ろす。

よっこらせと立ち上がり、そのまま何事も無かったように再び椅子に腰掛けた。

 

「……で、それ以外の対価は要求されてないんだろうね?」

 

「大丈夫です。僕もペルソナについて全てを話したわけじゃないですし」

 

「うん、なら良し。でも一言くらいはその神にボクからもお礼を言わないとね。その神の名前は?」

 

「ロキ」

 

ぴしり。

ヘスティアの身体が石化光線でも浴びせられたように固まった。

 

「い ま な ん て ?」

 

「ロキ」

 

なおも現実を直視しようとしないヘスティアにネムレスは畳み掛ける。

 

「ロキ。神ロキが僕の魔法の情報と引き換えに借金を全部肩代わりしてくれた」

 

 

直後、ヘスティアの怒声とも慟哭ともつかない叫び声が治療院に響き渡り、戦場の聖女がすっ飛んできたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

COOPERATION【ヘスティア】

 

『女教皇』

【■■□□□□□□□□】 RANK2

 

 

 

 




「ロキがボクを陥れるために仕組んだ罠だ!」

「二億も借金背負ってるボクが更に借りを課させるというのはおかしいじゃないか!!!」



アンケートは800いったら締め切ります。

(気が早いかもしれないけど)オリオンの矢を引き抜くのは?

  • ベル
  • ネムレス

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