シリカとエスカノールの出会いをどうしようと悩んだ結果、一昔前のラブコメ風の出合いになってしまった(後悔はない(´ε` ))
最初、私は不安だった。怖くて怖くて仕方なかった。けど、その不安は直ぐに消えた。とても大きくて強くて、けどとても優しい人。
エスカノールに会えたからだ。
―――☀エスカノール視点☀―――
虹色の光の輪をくぐり抜けて、キャラメイキングを済ませると、俺は完全なる
「ふむ…仮想
周囲の視線を感じるが、気にすることなく息を深く吸い込んでみる。途端に感じる空気の旨味。少々違和感を感じるが、それは些細な物で、風に含まれた花の香りが鼻をくすぐり、肌で空気を感じることができた。
中世のヨーロッパの様な伝統を感じる町並みと、それに息づく営みによる喧騒。噴水が奏でる水の音、その全てがリアルに感じる。
エスカノールに生まれた日以来の衝撃と感動を受けた。
ここでなら、間違いなくエスカノールとして輝ける。そう確信するに十分な圧倒的クオリティである。
「さてと、得物を探すがてら、観光でもするか」
さて、エスカノールといえば
―――☀一時間後☀―――
「あって良かったが、これでは少々物足りんな」
正午前ということなので、一人称【我】モードに変えた俺はようやく見つけた片手斧を肩に担いで、ぶらりと街中を歩いていた。
SAOには全部で百を超える武器が用意されている。その総数は図り知れず、プレイヤーは自分にあった武器を見つけ、広大なフィールドに旅立つわけなのだが…。片手斧があるかどうかは正直言って賭けの要素が強かった。
β版と正規版が若干異なるのは世の常だとしても、PVや仕様書には一切載ってなく、もしやと不安だったのだが、あって助かった。買った斧《ワンハンドアックス》を改めた見やるが、何というか、やはり―。
「無骨で細い見た目だな。……我とは少々不釣り合いだな」
アバターの体格に対して、どうも武器が頼りない。
このゲームは、従来のMMO同様キャラクリが出来るが、SAOはそのキャラクリの段階で今までのゲームとは大幅に異なっていた。
瞳の色、髪の色、髪型、顔の形、全てが自由に作れるのだ。身長はもちろん、筋肉量まで選べるとは恐れ入った。
当然、俺は
改めて思うが俺って本当にエスカノールに転生したんだな。
まあ、話は逸れたがプレイヤー名は当然【Escanor】。〈七つの大罪〉―〈
身長を変えた
まあ要するに、今は戦闘に慣れるにはこれ以上ないコンディションだ。
「軽く運動でもしてくるか」
そう思い、街の外に通じる門に向かい歩き出したのだが、考えてごとをしながら、しかもこの身長にあまり慣れていない状態だったのが影響して―、
「きゃっ! ――ッ、すいません!!」
プレイヤーにぶつかってしまうのはある意味当然で、ぶつかった相手が、
「おっと、すまない」
昼間のエスカノールは、確かに傲慢であるが、他者を思いやる気持ちは決して忘れないし、ぶつかってしまったのはこちらなので謝ろうと下を見たのだが。
―――☀???視点☀―――
あわ、あわわわ。ど、どうしよう。
私の名前は
それなのに、どうしてこんなことに。何で見るからに危ないおじさんとぶつかっちゃったの!?
そうパニックになっていると、おじさんは朗らかに笑うとしゃがんで私と視線を合わせた。
「はっはっはっ、怒っていないぞ、小娘よ。ふむ、ぶつかって済まなかったな。考え事をしていたので気付かなかった」
む!今バカにしたこの人は! ぶつかってきたのに何て態度なの! 筋肉ムキムキのおじさんに謝られて、気を大きくした私は文句を言おうと口を開きかけたが―。
「我の名はエスカノール。詫びと言っては何だが、我と一緒な行動するのはどうだ? 我は強い。最強と共に行動できる栄誉に俗する事を許可する」
そのあまりな言い様に怒りとかが吹き飛んでしまった。
「あは、はははは。凄い自信ですね。分かりました。あたしはシリカ、一緒に遊ばせてもらいますね」
この人と遊べれば、これからも楽しく遊べそう。そう思った私は二つ返事でOKする。ムキムキのおっさんと、いたいけな少女である私が並んでプレイする絵面を想像するとビミョーだけど、協力プレイはネットゲームの醍醐味だもんね。犯罪的な絵面であることに私は無視を決め込んだ。
―――☀三人称視点☀―――
「エスカノールさんって、βテストプレイヤー何ですか?」
恐る恐るシリカはエスカノールに聞いた。シリカが思わずそう聞いてしまうのも無理はない。
今二人のレベルは4と非常に高いのだが、その殆どがエスカノールの功績なのだから。
何の捻りもない通常三連撃の、卓越した技量による連続クリティカルの鏖殺。
スキルなしに、斧を面を用いて宙に巻き上げた(本人曰く大道芸)上での、身動きの取れない空中でのスキル使用による虐殺。
一対多数での圧倒的無双。出てくる神業プレイのオンパレードに、シリカが思わずβテストプレイヤーかと疑ってしまうのはある意味当然だろう。
特に、斧を逆さまに持ち、持ち手の部分を、突撃してくる猪型のエネミー《フレンジーボア》の咥内に突き刺した時は、正気を疑った。そしてそれをあろうことか蹴飛ばして、しかも当然の様にクリティカル判定の右ストレート(ファウストパンチなるエスカノールオリジナル格闘技)で止めを刺したのは流石としか言い様がない。
本来その為に存在するエネミーが可愛そうに思えてきてしまう。
しかもその上で適度に弱めた状態で、シリカに譲り経験を積ませたり、シリカの選んだ武器、短剣の戦い方までレクチャーする余裕まで見せるのだから、シリカはもうエスカノールが最強だと言ったことを認める他なかった。
そんなシリカの内心など露知らず、シリカの疑問にエスカノールは首を横に振り答えた。
「いえいえ。私はβテストプレイヤーではありませんよ。さっきのは純粋に私のプレイヤースキルによるものです」
正午前のあの傲慢な口調が変わり、少し高慢なだけにランクダウンした口調でエスカノールは喋る。正午などとうに過ぎ今はもう午後で、何なら直に夕方になる時間帯だ。
初めはシリカに怪しがられたが、ニュートラル云々の言い訳を真摯に伝え理解してもらってる。中二病扱いだけは勘弁だったが理解してもらって何よりである。
「さて。名残惜しいですが、もう直夕暮れです。私の体の都合上今日はここまでで良いですか?」
夕方になっては、脳の活動も低下しコンディションだだ下がりだ。
エスカノールは申し訳なさそうに、シリカに言った。シリカもログアウトすべき時間なので名残惜しいが、仕方ない。
「あたしも今日はここまでです。…あのエスカノールさん、フレンド登録しませんか? エスカノールさんとまた一緒にプレイしたいです」
短い時間だったがエスカノールと一緒にプレイするのはとても楽しかったと感じたシリカはフレンド登録を提案する。エスカノールとしても断る理由はない。
「はっはっはっ。分かりました。登録しましょう。私もシリカさんと遊ぶのはとても楽しかったですしね」
朗らかに笑みを浮かべると、エスカノールはフレンド認証をシリカに送った。シリカはそれを早速承認する。
「さて、と。では私はここで落ちます。また今度」
そう言うとエスカノールは、指二本揃え指を振り下ろす。モーションコマンドが認証され、システムウィンドウを開けると、エスカノールは一番下にあるロクアウトボタンを押す為にスクロールしたのだが、何とログアウトのボタンが無かった。これはつまり。
「おや、ログアウト出来ませんね。バグ…とは考えにくい……何かのイベントか?」
エスカノールは、その端正な顔を歪ませると、周りを見渡す。ナーヴギアの、ゲームプレイ時に全身に行き渡る筈の神経信号を脊髄付近でカットするという性質上、ログアウト手段がないという事は、ゲーム内の自発的ログアウト手段の喪失を意味する。
まさかリリース初日で、ログアウトが出来ないなどという致命的な事態が発生すると思えないし、何より茅場晶彦という天才が、こんな致命的な欠陥を見落とすとは考えにくいからだ。したがって何らかのイベントである可能性が高いとエスカノールは踏んだのだ。
「…まさかな」
ログアウト不能という事実に、とある仮説が浮かんだがエスカノールは首を振って否定する。バカバカしい考えだったからだ。
しかし、事実はエスカノールの思惑と異なり、何処までも冷淡である意味残酷だ。
リンゴーン、リンゴーンと重い鐘の音が鳴り響く。何やら、きな臭い雰囲気を感じ取ったエスカノールは、シリカに声を掛けようと不振り返えるが。その瞬間、二人は青白い光に包まれ、気が付いたらはじまりの街の中央部へと飛ばされていた。
「これは何やら異常事態のようですね。どうやら全てのプレイヤーがここに集められていると見るべきか」
昼間とは異なり、はじまりの街は、千ではきかないたくさんのプレイヤーでごった返していた。青白い光が消える度に、プレイヤーが増え、ますます喧騒な空気へと変わっていく。通常ならイベントかな何かかとゲーマーたちは心沸き立つ物なのだが、如何せんログアウトボタンがない故に、不安や苛立ちといった負の感情が場の過半数以上を占めていた。
ログアウトする手段が失われ、今頃運営は問い合わせが殺到してるだろうな、と現実逃避しつつ周囲を見渡していた。
「シリカさんは何処でしょうか? ……恐らく近くにいるでしょうが」
ついさっきまで一緒に遊んでいて、また遊ぶ約束をしていただけに、ひどく気掛かりで心配だったのだが、どうやらそれは杞憂に終わったみたいだ。
「あ、いた! エスカノールさん!!」
2メートルを軽く超える大男などそうそう居るもんじゃない。人混みの中でもよく目立っていた為に、シリカはすぐエスカノールを見つける事が出来たのだ。
「おや、シリカさん。良かった。ちょうど私から探しに行こうかと思っていたところです」
「エスカノールさんのその見た目なら人混みの中でも一発で分かりますって」
「はっはっはっ。確かにそうですね」
再会に喜ぶ二人であったが、二人の顔はすぐに暗くなる。シリカは、浮かない顔のままエスカノールに問い掛ける。
「エスカノールさん、どう思います?」
「ふむ…。状況を見るに現在ログインしている全てのプレイヤーがここに集められている様ですが。……何が何やら私にもさっぱりです。ログアウトが出来ないのが気になります。最初はイベントか、と考えたのですが、どうやら違うみたいです」
「確かに……、一体なんの為にこんなにプレイヤーを集めんだろ。一斉ログアウトした方が早いのに」
「まぁ、何にせよ集めたのだから、これから説明があるんでしょう」
エスカノールはそう言うと、空を仰いだ。このSAOの舞台である浮遊城アインクラッドは全100層で構成されていて、プレイヤーたちは各層のボスを撃破し一層ずつ上がっていく仕様となっている。ここはじまりの街は――第1層の中心、上を見上げても当然、2層の底しか見えないが、層と層の間からは、青空や太陽、そして夜には星までみえるらしい。
現実世界と同期した時間の流れを持つこのゲームは今、夕日を描いている。燃える様に真っ赤な夕日は本来ならばプレイヤー達に感動を与えるのだろうが、負の感情に囚われている状態では、不安を感じさせる要素でしかない。
さて、どうしたものかと、エスカノールは頭を回転させた矢先に物事は大きく動いた。
天井にいきなり《Warning》《System Announcement》という文字が表示されたかと思うと、石や鉄で構成された天井の隙間から血のように赤くドロドロした液体が垂れ、ローブを被った人を形成した。悪趣味な演出過去に極まりである。正直見ていて気分がいいものではない。案の定広場のあちこちから小さな悲鳴が聞こえてきた。
悪趣味な登場を果たしたローブ姿の人影は、そんなプレイヤーたちの様子など気にも止めずに、たんたんと喋るった。曰く―
『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』
そしてそのローブは、ある意味
まず、一つは、ログアウト出来ないのはバグでなく、このゲーム本来の仕様であること。エスカノールの思い浮かべた最悪の仮説が見事的中したのである。
次に、プレイヤーは一切自発的にログアウトできないらしい。また、ナーヴギアの外部から停止・解除は一切認めず、それが試みられた場合、ナーヴギア内蔵の高出力マイクロウェーブで、電子レンジの要領で脳を焼き切る様だ。何と技術的に可能であるし、このことはマスコミ各社を通じて世界に通告済なのだが、不運にも通告を無視し現実で既に213名のプレイヤーが帰らぬ人となってしまったらしい。2時間の猶予を設けたので、プレイヤー諸君は順次病院に搬送されので、安心してプレイしてほしいとも言われた。無理な相談だ。
最後にこれが一番重要なのだが、
HPの全損、すなわちゲームオーバーした場合、ナーヴギアが高出力マイクロウェーブで脳を焼き切り、ゲームからだけでなく現実からも永久退場を余儀なくされるそうだ。今後一切の蘇生手段は機能しないので、注意する様にと言われた。
つまり、だ。このSAOというゲームは、開発者自らの手によって〈デスゲーム〉へと変えられたのだ。
これでもまだ足りないのか、茅場はプレイヤーたちをさらなる絶望へと落とすべく、さらなる追い打ちをかける。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が完全にログアウトされることを保証しよう』
あまりに無理難題で無謀な条件に、プレイヤーの一人が叫び声を上げる。
「で、できるわきゃねぇだろうが!! ベータじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ!!」
そう。出来る訳がないのだ。しかし、ログアウトしたいならプレイヤーたちは100層攻略に望むしかない。だが、エネミーと戦うなら死亡するリスクがある。プレイヤーたちは2つのジレンマに雁字搦めになってしまう。
これは、何というか壮大なことに巻き込まれてしまったな。
エスカノールはそう思った。何せ一度死んだ身だ。未だ死んだことのない周りに比べると幾分か余裕がある。デスゲームとは如何にも非日常的だが、こちとらエスカノールという漫画キャラクターに転生した身であり、非日常にはある意味慣れている。
エスカノールはパニックになることなく、茅場が言う内容を吟味し、噛み砕き冷静に状況を把握していった。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
エスカノールは迷うことなくシステムウィンドウを開きアイテムストレージを確認する。するとそこには《手鏡》という見覚えのないアイテム名が表示されていた。名前をタッチし、オブジェクト化するとなんの変哲のないごく普通の手鏡が現れた。エスカノールは手に持つと覗き込むが、そこには当然エスカノールの顔が表示されていた。これが一体何なのか、そう思った瞬間、視界が眩い光に覆われた。
そして、光が収まり改めて鏡を覗くと、そこにはリアルでの自分の顔―若かりし頃のエスカノールになっていのだ。見事な髭は当然消えたし、身長も下がり201cmになってしまった。ようするにリアルの容姿、体型がまんま再現されたということだ。
どうゆうことだ、と首を傾げそうになるが思い出した。 ナーヴギア使用時に体を触ることで体格を記録する機能があり、それ故にこうまでもリアルに再現されたのだろうとエスカノールは考えた。そして、これはプレイヤーにこれが現実だと意識させるのにこれ以上ない程効果的な手段であるとエスカノールは思った。
現に美男美女集団だった広場は、阿鼻叫喚の地獄絵図とかしていた。普通の男女が鎧や武器を着ているだけの、どこのコスプレ会場と聞きたくなる様な有様だ。「お前、男だったのかよ!」という絶叫まで聞こえてくる始末だ。ネカマやネナベでやっていこうと考えていたプレイヤーにとってはさぞ地獄だろう、とエスカノールは心の中で憐れんだ。
そして、エスカノールはシリカを見やる。するとそこには、巨乳から貧乳に不名誉なジョブチェンジを果たし絶望するシリカの姿が居た。
「そんな、巨乳だったのに…巨乳だったのに」
恐らくあれは、願掛けの意味も兼ねていたのだろう。エスカノールは何処かいたたまれない気持ちになった。すると、そんかエスカノールの憐れみの視線に気付いたのか、シリカは視線を上げ、エスカノール見ると大きく驚いた顔をした。
「え、エスカノールさん!? リアルとあまり変わってないですね。リアルでもそんなに高身長でムキムキなんだ」
シリカの驚きに、エスカノールは小さく笑う。
「ええ。あの姿は私の成長した姿をイメージしモノですから。身長は多少盛りましたが、髭を生やしたらああなりますよ」
何せそうなるのは漫画が保証している。エスカノールは続けて言葉をシリカにかけた。
「ふむ…。シリカさんもあまり変わっていないですね。体型に関しては私も願望を入れていたのでお相子です。それにしても、シリカさん。随分と余裕ですね」
そんなエスカノールにシリカは頬を膨らませてリスの様に抗議する。
「ぶぅ。セクハラですよ! セクハラ。リアルでもイケメンで高身長でムキムキなエスカノールさんにはあたしの気持ちなんて分かんないですよー、だ。…エスカノールさんだって余裕そうですね」
「はっはっはっ。当然です。確かに予想外ではあるが、この程度のことに私は動じませんよ」
若干動揺していたが、そこは痩我慢でおくびにも出さない。エスカノールのロールプレイはこういう時には非常に便利だ。見る限り、非常に幼く見えるシリカに無用な心配を与えなくて済むのだから。
シリカは当然、そんなエスカノールの内心など知りようがなく、エスカノールなことをただ純粋に頼れる大人だなと尊敬していた。エスカノールという頼り甲斐のあり過ぎる人物が近くに居るのでシリカはそんなにパニックにならずに済んだのだ。
茅場はそんなプレイヤーたちの言動など気にも止めずに、再び口を開いた。
『諸君は、今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私はーSAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』
唐突の語り掛けにエスカノールは、神経を傾け、茅場の紡ぐ一言一言を聞き漏らすまいと耳を傾ける。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら......この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
その一言に、エスカノールは、内心渦巻いていた一つの疑問が解決したことを理解した。
理解したのだ。茅場の気持ちを。
憧れに対する止められない羨望を。
前世でエスカノールに生まれ変わりたいと求めて止まなかった様に、茅場もまたこの世界に強い憧れを抱いてたのだ、と。恐らく相当な努力を積み、そして、ゲームとしてその憧れを実現せしめたのだ。
たがら茅場は言ったのだろう。「これは、ゲームであっても遊びてはない」と。
茅場は自身の憧れであるこの世界を単なるゲームにしたくなくて、デスゲームへと変えたのだろう。プレイヤーたちに、ここがゲームではなく、命がかかった第二の現実だと意識してもらうために。この
『最後に忠告だが、――これはゲームであっても、遊びではない。......以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君のー検討を祈る』
この世界の創造主の最後の言葉に、会場は静まり返る。
そして次の瞬間、
―広場は爆発した。
「い、嫌……嫌ああああああああ!!」
「おい嘘だろ……こんなの嘘だろオイ!?」
「帰して! このあと大事な約束があるのに!!」
「ふざけんな! 出せ、ここから出せよぉおおおお!!」
堰を切ったようにありとあらゆる感情が爆発した。少しでもきっかけがあればすぐにでも暴動に繋がりそうな負の感情が渦巻いている。
エスカノールは、シリカの手を握ると、早急に広場を離れる決意をした。
「シリカさん、私から離れない様に」
力強くシリカよ手を握りしめると有無を言わせずに、その場から勢いよく立ち去った。シリカがどんな表情を浮かべてるのか、ろくに確認ぜすに。
人遠通りの少ない静かな、路地裏に着くとエスカノールは、握りしめていたシリカの手を離し、シリカと向き合った。
「さてさて。…シリカさん。状況把握は済んでいますね」
シリカの、不安に揺れつつも毅然とした目を見て、エスカノールは何処か安心した様に言った。どうやら、正しく状況を理解し、パニックを起こしていないな、と。そう感じたのだ。
「は、はい。大丈夫です」
怯えもあるが、シリカはしっかりと頷いた。それを見てエスカノールはさらに安心した。そして単刀直入に聞いた。すばり、
「宜しい。では、単刀直入にいきましょう。これからどうしますか?」
―、と。
シリカはそれに対し深く逡巡する。これかはどうするか、自分に何が出来るのか、を。エスカノールの深く全てをつぶさに観察している瞳に見つめられる中、シリカは只管に考え続ける。そして、
「エスカノールさんはどうするんですか?」
まずは、エスカノールにこれからどうするつもりなのかを聞くことにした。
「私はこれから、攻略に勤しむことにします。いつ来るか分からない助けを待つより、この私が攻略に勤しんだ方がよっぽど早い気がしますからね」
シリカが質問してくるだろうなと薄々感じていたエスカノールは慌てることなく自分の考えを述べた。確かかどうか怪しい助けを待つより、ゲームクリアを目指した方がよっぽど建設的だからだ。…エスカノールプレイ出来る千載一遇のチャンスだから、という自分本位な目的でもあるが。
それはともかくわエスカノールの行動予定を聞き、シリカは小さく頷くと決意の滲ませた表情で、エスカノールを正面から見つめた。
「なら、あたしもエスカノールさんについていきます。一緒にプレイするって約束しましたから」
その言葉に、エスカノールは身を細めた。その途端に途轍もない重圧がシリカを襲った。エスカノール自信はただ壁に寄りかかっているだけで、何もしていないが、それでも肉食獣よ如き雰囲気を醸し出していたのだ。
そして、エスカノールは言葉を紡ぎ初める。
「ほう。…言っておきますけど、この先このゲームはかなり荒れると思います。この様な極限状況では、ヒトの本性が露わになる。ここはゲームであり、現実ではなく、茅場の言ったゲームオーバー=死にも確証はありません。恐らくかなりの確率でPK、つまり殺人がこの先起こる筈です」
そして何よりも真っ直ぐな目でシリカを見据え、エスカノールは、淡々と事実を告げる。
「それに何よりも…あなたでは私の足手まといになります」
突き放すような言葉、そして態度にシリカは思わず大粒の涙を浮かべそうになるが我慢した。シリカは知っているのだ。短い時間しか遊んでないが、エスカノールがその態度とは裏腹にとても優しい人物だということに。この突き放すような言動も、弱くて幼い自分のことを
シリカは毅然とした表情で、エスカノールを睨みつけた。
「確かに今は強くないですけど、足手まといになんてなりません!けど、あたしはエスカノールさんと前に進みたいです。一生懸命強くなってみせます!」
シリカの固い決意表明に、エスカノールは先程までの雰囲気を嘘のように霧散させると、シリカに向かって微笑んだ。
「分かりました。あなたのその愚かで無謀な勇気に免じて一緒に行動することを許しましょう」
シリカのその必死な想いに、エスカノールは、エスカノールとしてだけでなく本心からこの子と生き延びたいと強く思った。応えたくなった。少女の祈りに。会って間もない自分をこうまでも信頼し、信用して、ここまで言ってくれるシリカに、エスカノールの心は動かされのだ。マーリンの為に、働いた"エスカノール"もこんな気持ちだったなかな?とエスカノールは考える。
それに―。
「だから、今は泣いてください。シリカさん。あなたは強くてとても儚い。だから私は決めました」
そう言ってエスカノールは、シリカに歩み寄り、シリカのことを優しく力一杯抱き締めた。どんなに毅然に振る舞っていても、シリカはまだまだ子供で、多感な女の子なのだ。エスカノールに、自分の想いを告げていた時も、エスカノールたあの場から離れた時も、シリカが小さく震え恐怖と不安に抗っていたのに気付いていた。
だからエスカノールは、シリカの頭を優しく撫でる。
泣いていいのだと、態度で教える為に。
「私の、エスカノールという名に掛けて、あなたのことを守ります。誓います…あなたをリアルにきちんと送り返せるその日まで。シリカさんをありとあらゆる困難から守り共に歩む騎士となることを誓います」
「もうこれ以上、強くも心優しいあなたを泣かせません。安心してなさい。私は、私は最強のプレイヤー、エスカノール様なんですから。だから今はお泣きなさい。たくさん泣いて、共に歩みましょう。我がお姫様」
エスカノールの底抜けの優しさに、気付けばシリカは涙を零していた。
「ひくっひくっ。ふぇええええん」
エスカノールの優しさに、次々から次へと涙が溢れていく。恥も醜聞もなく、心の赴くままにシリカはたくさん泣いた。
たくさん泣いて、嗚咽してその度にエスカノールに優しく頭を撫でられて。
どうにか持ち直したシリカは、泣き晴らして真っ赤になった目で、エスカノールを、見上げると意地の悪い笑みを浮かべた。
「言質もらっちゃいましたよ?エスカノールさん♪私の騎士としてフレンドとして、これからよろしくね」
「はっはっはっ。これはいっぱい食わされたな」
エスカノールは大きく笑う。
底抜けに優しくて、強くて、頼りになって。そしてとてもステキな人で。シリカはエスカノールなことを太陽みたいに感じた。自分を優しく包み込んで、導いてくれる、母なる太陽に。
―これが、エスカノールのもう一つの異名。《太陽の騎士》の由来となる出来事だったことはここだけの余談である。
少々強引な気がしますが何とか描き終えました。
一応、説明しときますが、ここでのシリカちゃんは、エスカノールに触発されて強くなろうとします。
茅場晶彦の説明の時も、本当は怖くて怖くて仕方なかったのです。ですが、主人公のプレイを目の当たりにしていたことにより、心に余裕が出来ていました。誠実な態度も高感度が高く強制転移の段階ですでに高感度がカンスト気味だったんです。つまり、主人公は初対面の段階で攻略していたわけなんです。
その上、撫でぽをかました主人公とは一体((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル。シリカちゃんが小悪魔化したのもそのせいです。シリカたんって何か小悪魔っぽいもんね(困惑)
まあ、レーティング破りしている時点で、それなりに気の強いこの筈ですしね。
とにかく、決死てご都合主義ではないのであしからず。
そして最後に主人公はロリコンではありません
また次回お会いしましょう
※今回の捏造スキル
ファウストパンチ…勢いのいいパンチ。ノックバックがつく。リアルにて如何にしたら人が吹き飛ぶか追究し考案したオリジナル格闘技の一つ。SAO内にてどうしたらクリティカル判定が出るか研究し、それに合わせた為、もはやスキルの域に達している。