厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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詠唱を考えるのに一番時間をつかいました

感想くれるひとだいすき
誤字報告してくれるひともだいすき
誤字おおすぎてごめんね<(_ _)>


リクルート・リダイレクト 結

Fogo! paixão! Almeida grita! (烽火・熱情・アルメイダの悲鳴)

「炎か」

 

 少女―――ヴラスチスラヴァ・チーシュコヴァーは、ドラル・ルチアの詠唱内容をすぐに看破した。

 速い詠唱だった。悪くない。そう胸中で思う。

 炎を放出する魔法。これは、基本的に、どの魔法使いでも自然に使えるものであり、その内容も大して異ならない。ただ、詠唱だけが、異なる。

 

Meu sangue e minha carne são um castigo de fogo(この血肉は恐ろしき火刑台を想像させ)

 

 詠唱が異なることによって何が変わるかと言えば、付加的な性質である。炎を放出する、という内容は確定している。ただ、その炎が無限に相手を追い続けるだとか、単純に威力がとびきり高いだとか。同じ炎魔法においても、使用者が違えば、必ず何かが異なることとなる。

 その付加するものが大きくなればなるほど、詠唱の()()()が重要になる。詠唱とは自己を陶酔させる呪文であり、集中させる真言であり、錯覚させる洗脳でもある。よりなんらかの効能を得るためには、詠唱の内容を濃密にするか、単純に長くする必要がある。前者が上手い魔法使いで、後者が下手な魔法使いだ。彼は前者なのだろう。彼女は、自然とそう思えた。

 

Minha alma é o combustível do fogo(この魂はその炎の燃料となりて)

 Meu corpo produz chamas(この身体はその炎の発射台とし)

 

 魔力が高まっていく。

 詠唱の掉尾(ちょうび)が近づいてきているのが感じられた。間もなく、発射される。必要最低限に押された韻。各所に散りばめられた史実、文化の引用。それらを分析して、どのような魔法なのかを少女は既に理解できていた。

 げ、と少し顔を歪める。見縊っていた。思ったよりも規模が大きく、面倒な魔法だ。

 この男を挑発したのもよくなかったか? 

 今からで対処が間に合うか?

 少女は様々なことを考えなくてはならなかった。考えているうちに、視界の隅に、ハキム・ハーロックという男が映った。高まる魔力と、今にも発射されようとする魔法を目前にしても、彼は顔色一つ変えずにドラル・ルチアの方を見つめていた。おかしくなる。あの男め。今、本当は何を考えているのだろうか? 怖くて怖くて仕方がないんじゃないだろうか? 可愛い奴め。少しだけ、思考が乱れた。

 

Dedica esta chama a Almeida(この炎はアルメイダの慰めに捧げよう)―――!」

 

 そして―――詠唱が完了する。

 結びの句以外のすべての詠唱が完了したようだった。

 少女の思考はまだ、まとまっていない。

 

消崩咒咒(リジェクト)―――ッ!」

 

 ずん、という鈍い音が響き渡ると、同時に。

 緑色の炎が、数十発放たれた。

 威力が優れているわけではない。が、代わりに、攻撃範囲が異常だった。数秒程度の詠唱で、恐れるべき数の魔炎が少女の視界いっぱいに放たれた。

 避けられない。殆どの魔法使いにおいて、これだけの範囲攻撃を避けることはできない。少女―――ヴラスチスラヴァ・チーシュコヴァーにおいても、それは同様だった。

 彼女は発射されて、その魔炎が自らに近づいてきているのを感じて。

 

 ―――そういえば。

 

 魔炎目掛けて、小さな左掌を向けて、笑った。

 

 ―――あの男が、一昨日の模擬戦で、相手の魔弾に対してこのようなことをしていたな。

 

 魔炎が近づいてくる。その小さな掌の何倍、何十倍以上の範囲である。それらを包み込むように、少女は掌を少しずつ閉じていき。

 

「ふん」

 

 一瞬だった。

 少女が掌を閉じた瞬間、炎は一瞬で鎮火した。

 

「馬鹿な―――」

「馬鹿は貴様だ。面倒な魔法を撃ちやがって。範囲も馬鹿みたいにデカい癖に、魔法で迎撃しようものなら、その魔力を吸収して威力を増大させるカラクリとは。何たる面倒な代物か。恥を知れ恥を。炎魔法使いならばな、ヘンなカラクリに頼らずに、一撃で仕留める気概を持て」

 

 無駄に焦らせやがって、と苛立たしげに少女は言った。

 この程度の魔法ならば、余裕で対処できる。一人ならば。問題は、後ろにいる、物知り顔で佇む愉快な男と、役に立たなそうな女だ。避けるわけにはいかない。避けることはできない。最悪、後者は死んでもいい。下僕などはどうにでもなる。が、前者は別だ。これからの計画のためにも、今死んでもらっては困るし―――なにより。中々気に入っているヤツだ。こんなところで死なせるのは、勿体ない。

 

「魔法抜きで、あの炎を消したっていうんですの……!」

 

 後ろから女の声が聞こえた。その、9位だ。少女はげんなりする。何を見ていたのだ。何を持ってこいつを9位に任命したのだ。アレクラマスに対しても、だいぶ、腹が立った。

 まったく。ハーロックを見習え。今眼前で起きていることがなにも理解できていないというのに。恐らく小便を漏らしそうなほど動揺しているというのに。顔色を一つ変えず、それどころか私の芸当を見て、鷹揚に頷いている始末だった。何もわかっていない癖にだ! くく、と少女は小さく笑った。

 

「違う。魔法を行使している」

「お。流石は18位」

「だが―――いつだ。貴様に詠唱を行う時間はなかったはずだ」

「ふん。まあ、18位ではそこまでか。―――おい、ハーロック。答えを解説する気はあるか?」

「知らん」

「お?」少女は少しだけ悪戯心が湧いた。「お前もわからんのか?」

「ふん。詰まらん解説などをする義理などない、と言ったのだ。戯け」

 

 戯けだとよ! 少女は笑いたくなったが、自重する。久しぶりに、ここまで愉快な気分になった。

 上機嫌のまま、口を開く。

 

「お前の魔法を見てから、詠唱など行使していない」

「無詠唱だと…………ッ」

「戯け。無詠唱であれ程の魔法を使うことなど不可能だ。何故気づかん―――簡単な話だ。私は、お前の魔法が行使される前に、詠唱を完了させていた」

「…………どういう、ことだ」

「難しい話ではない。詠唱とは、個々人によって異なるものだ。故、下らぬ言葉に魔法的な意味を持たせることによって、詠唱とすることもできる。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この、今貴様と行っているくだらない会話も、詠唱の一部だ。それ故、私の周りにはいつでも自在に行使することができる魔法がストックされている。……これでも、考えさせられたんだぜ? 貴様が面倒な魔法を使おうとするものだから、ストックされている魔法の中のどれで防ぐべきか、迷った」

 

 どれどれ、と。

 少女は虚空を眺めながら、なにかを選ぶように少し思案し。

 再び、左掌を開く。

 

 ―――ずん、という鈍い音が響き渡った。

 

「な――――――ッ」

 

 緑糸の炎が、数十発。

 先ほどドラル・ルチアが放った魔弾。それと寸分違わず同じものが、少女の掌から生成された。当然、詠唱の素振りなどは見られない。息を吐くような自然さで、それが放たれた。

 ドラル・ルチアは素早く察した。この魔法が、複製魔法であること。()()()()()()()()()()()()()()()()。見様見真似で炎魔法を放ってこうはならないはずだ。が、ここまでの精度の複製など、一朝一夕でできるはずがない―――やはり、この女。

 複製魔法をストックしているとでもいうのか。しかし、そもそもストックとはなんだ。魔法をため込んでおけるのならばすべての魔法使いが事前に詠唱など済ませてしまっている。詠唱は、魔法の行使をする瞬間にするもののはず。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まさか―――

 まさかこの女の詠唱は、自身が想定するよりもはるかに高度で、高性能なものだとでもいうのか。

 

 そこで、ドラル・ルチアは思考をやめた。この炎に対する対応をせねばならなかった。数十発―――正確に言えば、五十三発の魔炎。すべてが魔法耐性を持っており、攻撃魔法を吸収する性質も持っている。

 ならば、避けるしかない。

 

Minha chama me empurra para cima(我が魔炎は我を高みへと導く)

 消崩咒咒(リジェクト)―――ッ!」

 

 時間がなかった。

 簡易詠唱を足元に放つ。足元で爆発音が響き渡り、身体がふわりと浮き上がる。自身の魔法の欠点は、自身が一番よくわかっている。五十三の魔炎。四方八方に飛ぶそれらは、すべての範囲を攻撃できているわけではない。

 上空。それも、発射された方向から見て左端。

 安全なポイントが用意されている。どう着地するかは、上空で考えればいい。一旦、この攻撃から逃れなければならない。彼は、上空に飛び上がりながらそう考え、

 

「成る程。貴様、やはりそこそこに強いな」

「――――――」

 

 上空。

 炎魔法の爆発力で急上昇しているドラル・ルチアの目前に、少女がいた。

 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら、何事かを呟くように言う。

 瞬間、ドラル・ルチアの両耳の鼓膜が破れた。

 

「が――――――ッ!?」

「自身の魔法を反射された時、複製された時。その対策に自身のみが知る安全な位置を用意してある。魔法使いとして当然のことながら、できていない者も大勢いる。うむ。久しぶりの良き戦闘―――良き魔法合わせであったぞ。私の勝ちだ。つまり―――貴様の身体をここからどう弄ぼうが、私の勝手というわけだ」

 

 少女は、ドラル・ルチアの頬を撫でるように、すぅっと指を這わせた。

 その、撫でた部分の肌が裂けていく。それは、障子を指で破るような手軽さと残酷さで、耐えきれず男は悲鳴を上げた。それで終わりではない。空いた片腕は指揮棒を振るような素振りを見せ、それと動きを合わせるかの如く、口から言葉を紡いだ。

 それは。

 この戦闘において、ヴラスチスラヴァ・チーシュコヴァーが初めて行った。

 誰の目にもわかる、詠唱だった。

 

Ελπίζω.(私は願う) Διάβολος, εξαφανιστεί(悪魔よ、消えてくれ)

 Το τέλος όλων(総じて終結とは) είναι σε απόγνωση(絶望の中にこそ存在する)

「な―――なにを、テメエ―――ッ!?」

「安心しろ。命は取らないでおいてやる。

 Απορρίπτω(リジェクト)

 ημιτελής(未完詠唱)―――Αθάνατη δολοφονία του(不死殺しの) Δαίμονας Βασιλιάς(食騎魔神)

 

 少女の背から、触手の如き無数の影が現れた。

 音もなかった。先ほどの炎とは比べ物にならない速度で、影はドラル・ルチアの元へ殺到し、為す術もなく、悲鳴を上げる暇もなく、彼はそれに囚われた。

 

「一部の詠唱は省略した。本来ならば確実に息が絶えるまで殺しつくす必殺魔法だが、召還したのは、あくまで魔神の影だけだ。精々腕と脚の二、三本。運が悪けば適当な臓器。その程度を喰って消えてくれるはずだろう。運が良かったな。この程度で済ませてやったんだ。二度と私に歯向かうんじゃないぞ」

 

 少女はそう言いながら、くく、と笑った。笑いながら、中々良い余興だった、と嘯く。

 

 

 

 

 

 

 ―――何が起こったのかよくわかんなかった。

 それが正直な感想である。どーなってんだ? どーいう展開だよ。

 あのチャラい男が滅茶苦茶な詠唱をして大量の緑色の炎を出したとこまでは見えた。ていうか、そこで俺はだいぶ焦っていた。よく考えたらこれロリがどうにかしなきゃ俺死なね? そんな、気づかなければいいことに気づいてしまった所為で、俺は半分くらい漏らしかけていた。あぶねえ。あぶねーよ。ここまで明確に目の前に死が迫ったのは初めてだった。

 そして、その炎をロリがどうやって対処したのかもよくわからん。気づいたらその炎を真似して撃ち返してたし。いつの間にかロリも男も消えてたし。何が起こったのか全然わかんなくてぼんやりしてたら上からロリが舞い降りてきてちょっとビビったし。その数分後にボロ雑巾みたいになった男が落ちてきてだいぶビビったし。こいつらなんだよ。スーパースターかよ。

 

「どうだ。勉強になったか?」

「…………なった」

 

 あまりにも動揺しすぎて、仮面を被ることも忘れ、素直に思ったことを言ってしまった。

 それを聞いて、ロリは一瞬驚いたような顔になり、くく、といつもの調子で上機嫌そうに笑った。「そうかそうか。勉強になったか。愛いやつめ」そんなよくわからないことを言いながら、ぽんぽんと頭を叩いてきた。払いのけてやりたい衝動に駆られたが、まあ、今回に限れば命の恩人である。よく考えたら前回―――すなわち一昨日の模擬戦―――の時も命を救われた気がするが。

 

「あ―――あの男は、死んだんですの」

「あ?」

 

 倒れている半裸の少女が、震える声で聞いてきた。

 それに対して何故かロリは喧嘩腰である。なんだよ。どーしたんだ? こえーよ。向こうの女の子ビビり散らしてんじゃねえか。戦闘中もなんか苛立たしげな感じだったし、どうやらロリはその女の子のことをだいぶ嫌っているらしい。魔法の知識があまりないからなのだろうか。だとしたら俺はもっとすっからかんなわけなんだけどどーいうことなのだろうか。俺は能天気にそんなことを考えてみるが、外面には出さない。

 

「生きてる。死にかけだけどな」

「こ、殺してくださいまし」

「ああ?」

「あ―――あの男。あの男がいるから、今、私がこのような目に遭っているのですわ。ど、どうか。私を助けてくださったついでに、どうかあの男を―――」

「勘違いをしているようだぜ、このお嬢様。どうするハーロック。殺すか?」

「誰が殺すか。手下にするんだろう」

「……ああ、そうだった。まあ、そうだな。腐っても9位だ。妥協する他ないか。……だが、ハーロック。私は、上下関係というものは最初にはっきりさせておかねば気が済まぬ性質だ」

「…………だから?」

「止めるなよ」

 

 そんな、意味深なことを言って。

 ロリは大股で、少女の方に向けて歩き始めた。

 

「お前、名前は」

「わ、私は―――ララシャンスと、申します」

「長いな。これからお前のことはララと呼ぶ」

「は、はぁ……」

「そして、お前はこれから私の下僕となってもらう」

「は―――はぁ!?」

「文句があるか? あるならば早めに言っておけ。言った分その身体に教えてやる。どうだ?」

「あ、ありません! ありませんわ!」

「ほお。良い返事だ」

「あ、ありませんが、その代わりに―――あ、あの男を殺してください」

 

 媚びるような上目遣いで、ララシャンスは言った。それにしても、何度も何度も殺せとは。

 随分とまああの男は嫌われているらしかった。まあ、あいつ嫌われそうな感じだったもんな。俺も一緒にやってくには無理そうだった。

 しかし、あの男が殺されるのは困る。何が困るって、当たり前のことだが、そんな現場を見たくないのである。もし気分屋のロリが「そうだな、殺そう」となったら、なんとか宥め賺して、どーにかそんな残酷な展開にならないようやってみなければならない、と俺は考えていると。ぱちん、と乾いた音が響き渡った。

 その音の元は、少女。

 ロリが、ララシャンスの頬を平手打ちした音だった。

 

「あ、あ――――――ッ!? 痛、いたあああああああーッ!?」

「痛覚を百倍にした。本来ならば千倍にしているところだ。貴様、私に命令するつもりか?」

「そ、そんな、そんなことは」

「いいか、覚えておけ。私は、お前を助けるつもりなどなかった。向こうに立っているあの無表情の馬鹿が、助けてやれ、と煩いから、助けてやったんだ。お前が凌辱されようが、腕や足の二、三本なくなろうが、どうでもよかった。感謝するのならばあの男にしろ。私にそんな目を向けるのは筋違いだし、とても腹が立つ」

「わ、わかりました。わかりましたから、これを―――この魔法を解いてくださいッ! 身体が、身体が何もしなくても痛くて―――ッ!!」

「ほお。私に命令する気なのだな」

「そ、そんな…………っ」

「くく。嘘だ。いいだろう。解いてやる」

「は―――はあ、はぁ。あ、ありがとう、ございます……!」

「うむ。その感謝の気持ちを忘れるな。それと、自分が私の下僕になったということもな」

 

 ははは。

 はーっはっはっは!

 

 そんな、高笑いをするロリを見て、俺はだいぶ引いていた。

 

 あれ。

 もしかして、こいつ。

 ヒロインなんかじゃなくて、ラスボスの方が相応しい感じじゃねー……?




この話の主人公=ハーロックさん(なにがおきてるかまったくわかってない)
この話のヒロイン=ロリビッチ(ラスボス系吸血鬼。暴れられてすごく満足)
ランキング18位=ドラル・ルチア(まあまあ強かった。また出るかも)
この話のヒロイン2=ララシャンス(お嬢様みたいな見た目。実はそんなに性格が良くない)

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