厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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二章おわり。
いっぱい感想もらえてうれしかった!!!!!!


リクルート・リダイレクト <ごじつだん>
アクター・アフター 2


「…………なァ、ロリ」

「なんだ、ろくでなし」

「あの女―――ララだっけ。あいつ、今何してんだ?」

「家の外で私たちの会話が終わるのを待っている」

「いれてやれよ」

「入ってきたらさ、お前はいつもの皮を被るんだろ?」

「そりゃ、な。素を見せるにはまだちょっと早いだろ」

「その前に、いろいろお前と会話をしておきたくてな」

 

 ロリは、ぽつりとそう呟くように言った。随分とまあシリアスな表情である。俺はそれを見て、む、と少しだけ唸り、姿勢を正した。

 どうやら真面目な感じのことを言う気らしい。

 俺はロリの口元を眺めながら、一体何を言うつもりなのかと僅かに緊張して―――

 

 

「―――あの女がこの部屋に住んだら、お前とえっちなことがし辛くなるのだが、どう思う?」

 

 

 ……前言撤回。

 俺はいつにもない真面目な顔で言うロリに向けて、盛大な溜息をぶつけた。

 

「エロいこと、しなきゃいいじゃねえか……」

「それは困る。ああ、いや。私が困るんじゃないぞ。お前が困るんだ。年頃の男が私のような可愛くてちっちゃい女の子に誘惑されたら、色々堪らんだろう。私はな、お前の為を思って言ってあげているわけだぜ」

「だぜ、じゃねえよ。そんな血走った目で言われても困るわ。……だいたい、どう思うってなんだよ。どうにもならないじゃねえか」

「この際、あの女には家の外で暮らしてもらうことにしようか」

「鬼かよ! めちゃくちゃ可哀想じゃねえか!」

 

 ロリはとんでもないことを言いだしていた。流石に酷すぎない?

 

「しかし、あの女はどうも好かんな」

「どーしてだよ。可哀想なお嬢様だな、とは思ったけど。別に嫌いになる要素なんてどこにもなかったけどな」

「ふん。装っているのが気に入らないのだ」

「装ってる?」

「猫を被っていると言い換えてもいい」

 

 猫を被る。大人しく見せてるけど、実は腹黒いみてえなことか?

 てか、装ってるってんなら俺もそうなんだけど。ロリにアピールするみたく、俺は自分の顔を何度も指差して見せたら、ロリは少し笑ってみせた。「お前は、別だ」

 

「別?」

「お前は面白い。まったく強くもないくせに、主人公などと嘯き、無駄に周りに威圧感をばら撒き続けている」

「俺は本当に主人公だぞ」

「……その強情さにはちょっと引くが、まあ、いい。要するに、お前とあの女は別なのだ」

「そんなに腹黒いのか」

「ああ。外面こそは良家のお嬢様のような素振りを見せているが、内面は小物だ。私に対する悪口と、いかにしてこの環境から抜け出すかしか考えておらん。そして―――その癖、表面的には強者に媚び諂い、弱者を虐げる類の人間だ」

「人間誰しもそういう部分はあるんじゃねえの」

「……まあ、お前もいずれわかるだろう。しかし、あの女。どうやらお前には悪感情を持っていないようだ。良かったな」

 

 と。

 ロリはにやにやと厭らしい笑みを浮かべながら言った。

 

「あ? そりゃまた、どうして」

「私があの女を助けてやるように言ったのはお前だ、と吹聴したからだろうな。心を読んでもお前に対する悪口は一つもない」

「そりゃまたありがたいこって」

「代わりに、どうやらお前が自分に惚れていると勘違いしているみたいだがな」

「…………はあ?」

「自分のことを好きになったから助けてくれたのだと考えているらしい。お前に対して悪感情を持ってはいないが、どう利用してやろうかと企んでいるぞ。くく。手でも繋いで篭絡してやろうか、だと! 性知識は見た目通りお嬢様らしいな」

「……………………」

 

 前言撤回。

 外で震えているあのお嬢様も、まあ、中々強からしい。だいぶ自意識過剰な感じだけども。

 どーして俺が惚れてるなんて話になるのか、まったく―――

 

「―――そうだよな。お前が惚れてるのは私だもんな」

「……ちげーよ。てか、俺の心を読むな」

「これは最近の趣味のようなものだ。許せ」

「簡単に言いやがって……。で、そろそろあの女入れてもいいんじゃねえの」

「む。結局エロ問題はどうするのだ」

「……あの女がいない時でいいだろ」

「お。結局お前もするつもりなんだな! このへんたい!」

「お前にだけは言われたくねーよ! ……ていうか、ちょっと思ったけど。あの女―――ララって、この家に住んで何をするんだ?」

 

 数日前にロリが手下が欲しい、と言っていた。

 よく考えてみたら、彼女がどうして手下なんかを急に欲しがったのかを、俺はまったく知っちゃいなかった。いや、まあどうせ碌なことじゃねえんだろ、と思って聞くのを控えていたというべきか。今更になって気になってきたので、何気なく聞いてみる。

 

「計画の為だ」

「あ? 何の計画だよ」

「気になるのか」

「俺にわかる話なら、まあ、気になる」

「それなら教えてはやれんな。そもそも、魔法使いにしか分からん話だ。お前に話すことは、恐らく一生ないのだろう」

「……ふん。ロリ、言っとくがな、俺は後一年くらいしたら魔法の力に目覚めて、巨悪と戦う完璧な主人公になるんだ。そん時になったらよ、その計画を聞いてやるよ。あとついでに、巨悪からお前を守ってやる」

「く……くく。妄言もここまで行くと面白いな、ばーかぁ」

 

 果たしてその巨悪とはなんなんだろうな、とロリは笑いながら言った。確かにそうである。俺はまだこのゲームのラスボスが誰なのかわかっちゃいない。たぶん会ってもいない。俺の今までやってきたゲームは基本的に誰が悪いヤツなのかはっきりしていたので、大変不満である。なんともまあユーザーに優しくないゲームなのだろう。

 んじゃもうお嬢様を中に入れていいだろ? と俺が同意を求めるようにロリの方を見ると、彼女はそこで何かを思い出したように手を叩いた。

 

「そうだった」

「なんだよ。ほっとくとあのお嬢様逃げ出しちまうぞ」

「私が魔眼で監視しているから大丈夫だ」

「……魔眼ってなんだよ、とか、聞かない方がいい感じ?」

「どうせ言っても理解できんから無駄だ」

「……で、何が言いたかったんだ」

「外のあの女―――ララのことだがな、魔法学園に入学させることにしたぞ」

「はあ?」

 

 素っ頓狂な声が出た。随分とまあ唐突な話である。

 

「入る資格あるのかよ。言っとくがな、あそこの学園は魔法の適性がある奴しかいないようなとこだぜ。半端な魔法使いが入ったら怪我じゃ済まねえぞ」

「…………その台詞をお前が言っても説得力がないんだが、まあ、いいや。もう決まったことだ。ついさっき話をつけておいたから、明日からすぐ通えるぞ」

「……そんな簡単に話ってつけれるもんなの?」

「私の名前と、あのクソランキングの9位という実績があれば容易だ。ついでに、学園側にはお前の関係者だと伝えておいた」

「あっそ。同じクラスなのか?」

「確か違ったはずだ」

 

 それだったらたぶん、顔を合わせることもないだろう。

 向こうは向こうで、こっちはこっちだ。特に問題が起きることもなさそう(適当)

 

「で、あいつが魔法学園に入るのもその計画の為ってか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

「曖昧なこと言いやがって」

「お前がいない間にあの女と二人っきりで家にいても退屈だからな」

「……それが本音かよ。まあ、仲良くはできなそうだけどさ」

「それと、恐らく。あの女は魔法学園で何か問題を起こすだろう。前のお前みたくな。それを遠目に見るのは中々面白そうに思ったのだ」

「……不吉なこと言いやがって。そう何度も起きるわけねーだろ」

 

 だいたい、どーやって起きるっていうんだ。

 普通に魔法学園に入学するだけなんだろ? 今日のあの雰囲気を見るに、ララは学園内でも気弱そうな感じで振る舞い、舐められることはあるのかもしれないが、なんだかんだそれだけだろう。彼女自身が辞めたくなるかもしれないし、実習等でまあまあ大きな怪我を負ったりする危険性はあるが、問題を起こすようには思えなかった。

 

「ふん。お前はあの女の心を読めぬからそう思うのだ」

「普通の人間は読めないのが当たり前なんですけど」

「あの女はな、良家のお嬢様に生まれて、没落している。そして、自身の魔法特性を生かしてギリギリ生き延びている。その過程でどのようなことがあったのか、どのような目に遭ったのかをこの場で語る気はないが、恐ろしいほど性根は曲がってしまっているようだ」

「だから、問題を起こすって?」

「ああ。面白くなりそうだろ?」

「ちっとも面白くなりそうにねえよ……」

 

 俺はげんなりとなった。話を聞いても、そんな問題が起きるかはわからない。わからないのだが、この女がここまで断言するように言うと、嫌な気分になる。もしそんなこと起こっても俺は巻き込まれねえよな? 巻き込まれる気しかしないが、俺は二、三度首を振って否定する。巻き込まれてたまるか!

 なんとか学園では無関係を装って生きねばならない。あ、でも。このロリがもう学園側に俺との関係者だって伝えちゃったんだっけ。ほんっとに余計なことをするヤツである。……まあ、だとしても他の一般生徒に露見することはない。ないはず。ないよね?

 

 そんなことを考えながらもんもんとしていると、外から遠慮がちな「すみません……」の声が聞こえてきた。それと同時に、扉を叩く「こんこん」という音も聞こえる。お嬢様だ。俺はロリの方を呆れた目で見つめると、彼女は素知らぬ顔でそっぽを向いた。こいつほんと性格わりー。俺はふう、と息を吐いて、姿勢をさささっと正した。「入っていい」と、仰々しく宣言するように言ってみる。

 

「し、失礼いたしますわ……!」

 

 胸を搔き抱くような仕草をしながら、ララは家に入ってきた。エロい。流石エロゲーである。

 きょろきょろと周りを見渡して、何故か嬉しそうな顔になる。なんだ? 俺が言うのもなんだけど、特に何も特筆すべきことのない部屋だと思うんだけども。

 

「随分と広いお部屋ですわね……!」

 

 ララは、十四畳くらいの部屋に入って、感動したようにそう呟いた。全然お嬢様っぽくない言葉である。

 

「き、今日から、私もここで暮らすということで宜しくて?」

「ああ」

 

 そうだよな、と同意を求めるようにロリの方を見ると、彼女も「うむ」と小さく頷いた。

 

「私はどこで寝ればいいんですの」

「そこらへんに布団を敷いて寝ろ。ベッドは私たちが使うからな」

「布団を下さいますのね。ありがとうございますわ」

「……中々下僕根性が刷り込まれてる奴じゃないか。おい、お前も見習ったらどうだ?」

 

 見習うわけねーだろ。お前は俺をなんだと思ってんねん。

 

「あ、あの。ハーロック、さん? 様?」

「……どっちでもいい。好きなように呼べ」

 

 布団を敷き終わったララが、おっかなびっくりとした様子で話しかけてきた。何を考えているのだろう。俺は様々な想像をしたが、たぶんそのどれもが当たっていないのだろうな、と思った。

 

「ハーロック様、私を助け出してくださいまして、ありがとうございます」

「いや、俺は―――」

「本当にありがとうございますわ!」

 

 言うや否や、彼女は俺の右掌を両の掌で掴んできて、大きく頭を下げた。

 どんだけ感謝してんねん。ま、まあ。されて嫌な気持ちはしない。そもそも俺が助けたわけじゃねーけども。そんな風に考えて、俺はあれ、と思った。

 頭を下げるララ。小さく見える表情。その口元が、僅かに、歪んでいるように見えて―――

 

『―――あの女は、お前が自分に惚れていると勘違いしているみたいだがな』

 

 瞬間。

 ―――俺は、つい先ほどロリが言っていたことを思い出す。

 

 

 ……はあ、と溜息を吐いた。

 ロリの方を見ると彼女は意地の悪い笑みを浮かべていた。あいつは人の心を読める。だから、このお嬢様が何を考えているのかわかっちゃうのだろう。心が読めない俺にもだいたいの想像はできた。手を握って、自分に惚れている男を篭絡させようとしているのか? なんとも難儀というか、なんというか。

 

 性悪な表情を隠そうともせず、全面に出しているロリ。

 内面で何かを企む、性根が曲がったお嬢様。

 

 どっちもマトモな女じゃない。

 ロリの方がずっと性格は悪そうな気はしてるけど、このお嬢様だってどうかはわからない。俺を誘惑だの篭絡だの企んでくれるだけならば勝手にしてくれって話だけども、なんか、それで終わらなそうな気がぷんぷんとしてきた。何しろ俺は主人公なのだ。主人公とは、どんな物語だろうが苦境に立たされ続けるものである。そして、その苦境を跳ね除ける。それこそが主人公。すなわち、俺だ。

 ……主人公にしては、仲間が随分と色物というか。主人公パーティーに相応しくない気もするが。

 まあ、それはご愛敬というものだろう。

 

 ロリの言葉に影響されたわけじゃないが、明日からの魔法学園にて何かが起こるのかもしれない。それをどう切り抜けていくのか。俺にはそんなことわからない。わかるはずもないし、考える気もない。こういうのは、大抵、勢いなのだ。流れと勢いでどうにか凌いでいくしかない。本当に困ったら、そん時に考えればいいのである。

 

 俺はお嬢様に手を握られながら。

 ロリの悪意ある笑みを向けられながら。

 

 まあ、こんなのも悪くねえよな?

 俺は、虚空に向けて、そう誰かに問いかけてみる。




この話の主人公=ハーロックさん(偽主人公兼改造人間A。頭がおかしいヤツが周りにいすぎて相対的にマトモになってる。馬鹿)
この話のヒロイン=ロリビッチ(ラスボス系吸血鬼。現時点での好感度は……?)
この話のヒロイン2=ララシャンス(自意識過剰系小物お嬢様。ハーロックが自分のことを好きで、ロリと同格くらい強くて、ロリの仲を引き裂けばここから脱出できると思っている。全部間違ってる。馬鹿)

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