厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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パロウキアル・プリンセス <ごじつだん>
アフター・アクター 3


「本日はとても助かりましたわ、ハーロック様!!」

「…………あーそうだな。俺、頑張ったよな。滅茶苦茶頑張ったよな?」

「ええ! 私はなんか途中で身体中に激痛が走って気絶しちゃって、よく覚えてないですけど、ハーロック様が頑張ったのは確かですわ!」

 

 帰り道。

 俺はそんな、中身のない会話をしながら帰路に就いていた。

 今日は色々あった。あの模擬戦の後も、メイリに「威圧感で観客が死んじゃったらどう責任取るの?」と至極真っ当なキレ方をされたり、ユーゴシュタイナーに何故か握手を求められたり。様々なことがあった。アレクラマスランキング1位とかいう間違いなく強いであろう教師に睨まれながら停学7日を言い渡された時は死ぬかと思った。その後「今回の件は一つ貸しにさせてもらう」という謎の宣言をされたりしたが、まあ、よくわからんから考えないことにした。

 で、停学をその場で喰らったから、俺とお嬢様は残りの授業に出るわけでもなくそのまま学園を抜け出して、今に至る。

 

 

 なんにしても、である。

 俺は模擬戦に勝利した、ということは、間違いないのだ。

 

「模擬戦、何があったか途中からわからないんですけど、ハーロック様勝ったんですよね?」

「ああ。楽勝だよ。言ったろ? あの学園に俺に敵う奴はいないんだよ」

「魔法も使えないのにそんな自信が持てるなんて、ハーロック様流石ですわ!」

「……あれ。あれー? 今俺馬鹿にされてる?」

 

 ハイテンションなお嬢様の言葉はどう聞いてみても俺を馬鹿にしているようにしか思えなかったが、許してやる。そんなことがどーでもよくなるくらい気分が良かった。面倒な宿題を一つ片づけたような、そんな爽快感が胸に溢れている。

 

「……あーでも。私、明日からどうしましょう?」

「なにがだよ」

 

 お嬢様は少し、不安げな顔になりながら俺の方を見てきた。彼女が何を考えているのか。問いを返したが、まあ、勘の悪い俺にもだいたいは理解できた。模擬戦が終わって、俺が勝ったってことは、お嬢様も勝者の一員ってわけだ。でも、模擬戦に勝利したからとはいっても、お嬢様があのクラスで偉そうにしていたという事実が変わるわけじゃない。だから、明日からの学園生活が不安になっているに違いない。

 その対策は、一応、俺も考えてやっている。今回の模擬戦はまあまあお嬢様にも負担をかけた。元々お嬢様の蒔いた種なのだから、自業自得じゃねえのって感じだけど、今日の俺はそんなことを気にしないくらい温かい心の持ち主なのである。

 

「模擬戦にハーロック様は勝ったんですわよね?」

「ああ、そうだな」

「ということは、私が勝ったようなものですね?」

「ああ、そうだな」

「ということは、私のクラスの猿どもをぎったんぎったんにしたってことですから、明日からあのクラスは私の配下に収まったってことになるんですの?」

「なるわけねーだろ。どういう脳味噌してんの?」

 

 全然の俺の考えは当たっていなかった。

 俺はお嬢様のとんでもない思考にドン引きしてしまった。一気に冷めたわ。こ、こいつ、まさかまた今日みたいな模擬戦を再開しようと思っているんじゃねーだろうな。俺は背筋が少し寒くなったが、俺の冷たい視線を受けて、お嬢様はあわあわと両手を否定するように振った。

 

「じょ、冗談ですわ、勿論。もうハーロック様のお手を煩わせる気はございません。あのクラスに私が明日行ったら、模擬戦の途中に気絶したヤツみたいな感じで舐められちゃいそうで……。もしそんな態度を取られたら私のそれ相応の態度で応戦してやりたくなっちゃうのですわ」

「そうか……なっちゃうのかぁ……」

 

 舐められたままじゃいられない。ゴロツキみたいな思考回路である。もしかしたらお嬢様はあのクラスに相応しい人間だったのかもしれない。俺はそんなことを思いながらも、少し安心した。まあ、一応。俺に迷惑をかけたという自覚は持ってくれているらしかった。そーいう風に考えてくれるなら、もう模擬戦に巻き込まれるなんてことはない。ということはあの学園で俺が模擬戦を行うのもこれが最後になる。なるはずだ。なるよね? 俺は謎の不安に襲われたが、気にしないことにする。

 

「その件については、俺が手を打っといたよ」

「え……?」

「ユーゴシュタイナーの野郎と、あのクラスの担任と会話して、特例措置でお前をこっちのクラスに移してもらうことになったってわけ。……ま、まあ。なんだ。お前もそこそこ頑張っただろ、今日。こっちのクラスに来た方がお前も楽なんじゃねえの、って思って。面倒な手続きは俺が済ましといてやったよ」

 

 まあまあ面倒だったんだぜ、と俺は愚痴を吐くように言ってみる。

 

 模擬戦の最中に、ユーゴシュタイナーが言っていたことから思いついたのである。「俺が勝ったらこっちのクラス来いよ」と気軽に言う彼のことを、模擬戦の最中に深く思考する時間はなかったが、模擬戦が終わってから思い出した。

 模擬戦後、「は。なかなかいい拳だったじゃねえか」と意味不明なことを言い、「折角だから折れた方の腕に握手してくれ」と骨がバラバラに折れているはずの右腕を謎パワーで持ち上げて俺の方に向けてきた彼に、今後の人生でこいつにだけは関わらないようにしようと俺は内心で誓いながらも、いつもの無表情のままお願いをしたのである。「俺が勝ったのだから、なにか対価を寄越せ」と。「まあ、なんだっていいが、そこの女を貰い受けることにしようか」と。

 そんな顛末があって、お嬢様は、晴れてうちのクラスの一員になった。色々心配はある。主にメイリ。たぶんお嬢様とはとんもなく相性が悪いに違いない。彼女をどれだけ刺激せずにお嬢様が学園生活を行うことができるのか。それが今後一番の問題になっていくだろう。

 

 

 

 俺はそう思っていると、お嬢様はぼんやりとした顔で俺のことを見つめており、やがて、その瞳は潤み始めていった。な、なんだ。どーして泣くんだ。「あのクラスで猿どもをぎったんぎったんにしてやりたかったのに!」とか言ってキレたら流石の俺もキレるぞ。そんなことになったら教育してやらんといかん。ロリに頼んで性格を矯正してもらう必要すらあるかもしれない。俺が物騒なことを妄想していると、お嬢様はいよいよ泣き始めた。

 

「ば、ばーろっぐざま゛ぁーっ! 私、私とってもうれじぃですわ……ッ!!」

「な、なんだよ。何言ってるか聞き取りづらいから涙ふけよ」

「ぐ、ぐすん。す、すみません……。私、人から優しくされた経験があんまりないのですわ……。だ、だから、その、うれしいです……」

 

 泣きながらそう漏らすお嬢様。それを見て、俺も少し笑ってしまった。

 なんだよ、そういうことかよ。感動して泣いたのか。そんな感動されるようなことはやってねえし、大袈裟じゃねえか。俺はそう思ったが、指摘するのはやめた。お嬢様にも事情がある。あのロリが言うにはなかなか悲惨なことがあって今の境遇にあるらしい。だから、卑屈な笑みを見せたりもするし、必要以上に人に媚びたりもするし、自分より下だと思う奴にクソ偉そうな態度をとったりする。

 

 悲惨な境遇があるから何をやってもいいわけじゃない。迷惑をかけられる側からしたら知ったこっちゃない話である。今回迷惑を受けたのは俺と、元クラスメイトだ。クラスメイトがお嬢様にどんなことを今思っているかは知らないが、俺はこんなわんわん泣くとこが見れたんだし、まあいいかと思うようになった。お嬢様にも、たぶんいいとこはあるのである。クズだとは思ってるけども、褒められて泣いちゃうような純粋な面もあるわけだ。そーいう面があることがわかったんだし、彼女と俺はこれから一緒に暮らすわけで、いいとこを一つ発見できたんだから今回の模擬戦も悪くなかったかもしれないな、とまで思った。もう模擬戦をやるのはごめんだけど。

 

 まあ、なんにしても。

 こんなのも悪くねえよな、と。いつものように考えてみた。

 

「まあ、なんにせよ、だ。模擬戦が気分よく終われて何よりだ」

「そ、そうですわね……! ……あ。ハーロック様、お腹、すいてません?」

「……あー。そういやそうだ。昼休みの模擬戦やったから何も食ってねえな」

「ですよね。私もペコペコで。何か食べていきますか?」

「いいや、面倒だ。家に帰って食うよ」

「しかし―――あの方、今起きられていますかね?」

「…………あの方、って。ロリか。寝てるかもな。衣食住はあいつに任せっきりだからなァ……」

「あ。で、でしたら……! 私が作って差し上げましょうか!?」

「お嬢様が?」

 

 できそうな見た目してねえけど。俺は内心そう思い、そのまま正直に言ってみると、お嬢様は引き攣った笑みを浮かべた。「は、はい……料理はあまり得意じゃありませんの」「だよな」「でも―――折角模擬戦を頑張ってくださいましたし、なにかお礼をさせていただきたいのですわ」お嬢様は、引き攣った笑みで、不自然な様子だったが、媚びた感じじゃなかった。それが妙に物珍しく、俺は少しだけ見惚れてしまった。

 少しはお嬢様も、俺のことを信用してくれたに違いない。最初は俺のことを自分に惚れている馬鹿だと思っていたらしいが、もうそんな誤解は解けたのだろう。人ってのは変わってく生き物である。お嬢様が今心を開きかけているのは、もしかしたら俺だけなのかもしれない。それがロリだとか、学園の奴らだとかにも心を開いて、彼女の笑みがより自然になっていったらいいな、なんて、妙にしんみりとしたことを、考えてみる。

 そもそも、ロリとお嬢様の前だけでしか素を出さない俺が言えた話じゃねーな。

 そんな、いつもの俺と違ってしんみりとしたことを考えてしまったから、それを吹き飛ばす様に、俺は口を開く。

 

「なあ、お嬢様よお」

「はい、なんですの」

「飯、作るのはいいけど。量は加減しろよな。お嬢様だってよ、少しは瘦せた方がいいんじゃねえの」

「あ、あ―――っ!? そういえば模擬戦の時に太ってるって言いましたよね! あの訂正がまだですわ! 謝ってくださいまし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******************************************

 

 ―――と。

 そこまでは、なんか、いい話風だったのである。

 

「ときに、ハーロック様」

「なんだ」

「今日の模擬戦でわかりました。ハーロック様って魔法が使えないのに滅茶苦茶強いですわよね」

「あーそうだな。今日の模擬戦は相手が悪かった。あんな馬鹿じゃなきゃもっと楽に勝ててたぜ」

「ええ、ええ。でしたら、私にいい考えがございますの」

 

 そういうお嬢様の表情は、さっきと同じで媚びた感じじゃなかった。じゃなかったけども、なんか、悪辣な感じで、どこか小者臭満載だった。な、なんだろう。この不安な印象は。なんかこのままお嬢様に喋らせたら面倒なことになる気がする。するが、まあ、途中で話を遮るわけにもいかない。謎の心配に襲われながらも、俺は一旦お嬢様の言葉を待ってみる。

 

「そんな鬼強のハーロック様と、未来予知が使えるわたしが組めば、間違いなく最強でしょう。―――ハーロック様、今の縛られた生活から解放される気はございませんか?」

「…………」なんか、猛烈に嫌な予感がしてきた。「解放ってなんだよ?」

「あの忌々しき女―――我が家で今、惰眠を貪っているであろうクソチビ女ですわ。わ、私とハーロック様の二人がかりで、あの女を始末してしまいましょう。眠っている今がチャンスですわ。ハーロック様の左腕でボコボコにしてやりましょう」

「――――――――――」

『ほぉ……?』

 

 俺はさっとお嬢様から目を逸らした。同時に頭の中に妙に楽しそうなロリの声が響いてきたので、背筋がびくん! と震えた。

 ば、馬鹿。馬鹿すぎる。このお嬢様全然わかってねえ! 寧ろ今日の模擬戦で俺がヘンに活躍しちゃったから、勘違いが増してやがる。どー考えたらあの化物ロリに俺が敵うと思ってんだよ! いくら俺が主人公だとはいっても、流石に無理だ。いずれ俺の秘められた力が解放される時が来るんだろうが、まだその時ではないのである。

 冷や汗を流す俺に全く気付かず、お嬢様は楽しそうに声を発し続けていた。

 

「ふ、ふふふ……。あの小娘、寝ている間に私たちに襲い掛かられたらひとたまりもないですわ。ハーロック様の未来の為にも―――そして私の幸せな未来の為にも! あの小娘を討伐するときが来たのですわ!」

『く、くくく。中々面白いことを言ってるじゃないか。お? ハーロック、お前も私に挑んでみるか? 主人公の力を見せつける時が来たんじゃないのか?』

 

 んなわけねーだろ。俺は黙っとけとお嬢様にアイコンタクトを送ったが、彼女は俺の視線を受けてキョトンとした顔になり、少ししてはにかんで照れるように笑った。彼氏彼女みたいに見つめ合ってるわけじゃねーんだよ! 俺の言いたいことに気づけや!

 も、もしかして、このお嬢様、まだ俺が自分に惚れてるとか勘違いしてるわけじゃないよな? 俺はそんな怖い想像をした。してしまった。だとしたらとんでもない馬鹿である。否定できないのがこわい。

 

『いい、大丈夫だハーロック。そこのお嬢様もどうやら乱心らしい。部下の管理をするのも上司の役目だ。今日は中々いい見世物を見せてもらった礼として、殺さないでやる』

 

 ロリは妙に楽しそうだった。寝込みを襲ってやる、と意気込むお嬢様のことを、どんな風に思っているのだろう。昨日みたいに詰まらなそうな感じじゃなかったから、少しは評価が上がったのかもしれない。

 ……評価が上がったのかもしれないが、これからの顛末がどうなるのかは想像がついた。お嬢様は家に突入してロリに襲い掛かろうとするのだろうが、ロリは起きている。起きている彼女はいつものような嗜虐的な表情で笑い、お嬢様に「お仕置き」をするのだろう。その結果、お嬢様がどうなるのか。……まあ、ロリはそんな怒っていない様子だった。そんな、エロゲさながらのスプラッターな展開や、エログロな感じにはならないはずだ。たぶん。おそらく。

 俺は溜息を吐いた。数分前まではいい感じだったのに。俺とお嬢様でパーフェクトコミュニケーションができて、満足な停学期間を迎えられるはずだったのに。今からは大変悲しい光景を見ることになってしまうのだろう。俺は悪くねえ! 悪くねえはずだ!

 

 

 まあ、俺はなんだかんだ頑張ったし、今日は休んでもいいよな?

 俺は、虚空に向けて、そう誰かに問いかけてみる。

 

 




この話の主人公=ハーロックさん(偽主人公兼改造人間A。いい感じに話が締まらなくてげんなり。馬鹿)
この話のヒロイン=ロリビッチ(ラスボス系吸血鬼。この後お嬢様をいやらしい目に遭わせました)
この話のヒロイン2=ララシャンス(自意識過剰系小物お嬢様。いやらしい目に遭ったので当分は反旗を翻さなそう。馬鹿)

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