厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる 作:アトミック
リジェクト・リバイバル 起
俺が教室に入ったら、急に静かになった。はてさて、一体何があったというのだろう。俺は何もしていないというのになぁ―――なんて、馬鹿みたいなことは思わない。どう考えても、俺の所為である。こんなに周りから視線を向けられまくって、そんな勘違いができるなんて、ちょっと頭がおかしい奴だ。言うまでもない話だが、俺は正常である。主人公が、頭のおかしい奴であっていいわけがない。
まあ、俺の外見が原因なのだろう。目つきは悪いし。皮膚はちょっとツギハギみたいになってるとこあるし。あとは―――俺の義手と、義足。
あのロリが言っていた。それは特殊な魔法で作られたもので、普通の足や腕と遜色ない造りになっているから、確実にバレることはないと。ただ、ちょっと筋力が半端ないことになっていることと、半径数十メートルくらいに嫌なオーラを常に放出し続けている不具合があるらしい。どういう造りをしたらそんな不具合が出んの? 間違いなく、これが主の原因であるに違いない。
まあ、だが、悪くない。
寧ろ助けられていると言える。
周りから勘違いをされているのだ、俺は。とんでもないくらい強いヤツだと。まあ実際身体半分の身体能力はとんでもないことになっていて、喧嘩ならそう簡単に負ける気はしていない。していないが、それはあくまで魔法なしのステゴロの話で、魔法ありならまあまあ苦戦すると思う。なにせ、全力で逃げ打ちされたら、俺は頑張って距離を詰めて殴る以外の戦闘方法がないからだ。
それがあら驚き。俺が魔法を使えるとしたら? 相手もおいそれとそんな手段を取らなくなる。滅茶苦茶強いのだとしたら? 相手はそもそも俺に喧嘩を売ってこなくなる。出る杭はそこそこ打たれるが、出過ぎるとまったく打たれなくなるもんである。
……まあ、騙してるわけじゃない。実際問題、俺は後一年ちょっとで覚醒する。そーいうことになっているのだ。あくまで噂の先行投資をしているようなものである。元手は返ってくる。くるはずだ。
「……と、いうわけで」
そんなことを考えている間、授業は淡々と進行していた。
魔法学園といっても、まあ、ずっと魔法を打ち続けているわけではない。つまらない座学みたいなものはどこにいってもあるのである。
……にしても、授業の内容が難しすぎる。
俺が馬鹿ってわけじゃない。たぶん。やる気がないわけでもない。
わかんないとことかは家に持ち帰ってロリに聞いたりしているのだ。それでもわからない。それだけ言うとまるで俺が馬鹿みたいだが、そーいうことじゃない。難しすぎるのである。
魔法の威力を高める。魔法をより素早く行使する。それらには様々な知識がいるらしい。詠唱とか、術式とか。なんか格好いいことを言ってるだけに見えるが、あれはどーやら様々な歴史だの文学だの数式だのが組まれた美しいものらしい。そのための座学であり、俺以外の魔法を使える奴―――正確には俺とローウェル以外にだが―――には、とてもとても大切なものらしい。
まあ、将来的には俺も魔法を使うときがくる。
そん時にかっけー感じで魔法を使うため、俺も勉強しなければならないことではある。
……ただ。
この世界にきて数年程度しか経っていない俺には、歴史だの、文学だの。一般的に常識とされている知識がまったくないのである。
現代日本でいう織田信長とか、豊臣秀吉とか、徳川家康だとか。そういった感じの人だってわからない。この世界の一般常識が抜け落ちたように欠けているのである。
ちなみに、数学的要素は日本とまったく同じだった。まあ、元々は日本で作られたエロゲだからな。そこまでは変わっていないのだろう。余談だが、俺は数学ができない。よって、これもまったくわからない。
「………………」
そんなわけで。
このクソ難しい授業を、眠たくなるのを堪えながら、何とか俺は受け続けていた。
ちらりと後ろを窺う。気まぐれみたいなもんである。ローウェルという男は、果たしてどのような態度で授業を受けているのだろうか。そんな風に考えて、見て、ぎょっとした。あ、あいつ。滅茶苦茶楽しそうに授業受けてやがる―――!
とんでもない奴である。魔法使えないのに。なんとも哀れ。俺は心の中で合掌した。基本的に、魔法なんてものは使えなかったら一生使えないものであるらしい。
……ふと、背後に鋭い視線を感じたが、たぶん気のせいだ。うん。そういうことにした。
視線が合った気がした。
アルリ・ローウェルはふとそう思った。少し離れた席の、威圧感を放ち続ける青年。ハキム・ハーロック。この学園で最も悪名高く、最も恐れられている男。彼が今、自分の方を見ているような、そんな気がした。
―――気のせいだろうか。
一瞬、目が合った気がした。彼の不遜な鋭い瞳が自分を捉えて、少し笑ったような。
馬鹿にされたのだろうか、と思う。真面目に授業を聞いていた。魔法が使えないというのに。いずれ使えるようになるはずだ、とローウェルは盲目的に信じていた。だから、この魔法学園に通っているし、授業も真剣に聞いているのだが―――それがおかしかったのだろうか。
事実、彼は一部の人間から馬鹿にされている。
だから、そう思っても不思議ではない。
(……いや。さっきの目は違った)
が。
ローウェルは内心、首を振っていた。あの男。ハーロックという男は、そのようなことを考える人間ではない。魔法が使えない人間を見下しているのかもしれないが、わざわざ授業中に振り返って、こちらを意味もなく蔑むような無意味な行為をする人間ではない。そう、彼は確信していた。
ハーロックという男は、傍若無人であるが、無意味な行為をしない。
彼ほどの人間ならば退屈に感じるであろうこの授業も、外見上は真剣に受けているように見えた。意味があることだから、なのだろう。
ならば、自分の方を向いてきた意味とは、なんだろうか。
ローウェルはふと考えてみた。
無意味な行為をしない彼が、こちらを振り返る理由。
それは、自分が意味のある人間だからなのかもしれない―――
なんともまあ、思い込みが激しいことだ。ローウェルは内心、苦笑した。だが、その思い込みが間違っていることだ、とは思わない。本当にそうなのかもしれない。
自分がこのような魔法の授業に必死について行こうとしているから、呆れた。お前ならばもっと先に進めるだろうに、と。そんな空想じみたことを考えてしまった。あり得るかな。メイリに聞いてみたら怒るかもしれないな。「あんたみたいなのがハーロックに敵うわけないんだから、大人しく隅っこで震えてなさいよねっ」なんて言って。彼女の悪口というか軽口というかは、とても強烈で、それでいてどこか爽快感を覚えさせるような歯切れの良さがあった。言われてもそう傷つかないのである。
今日ハーロックと目が合ったことを彼女に話してみても面白いかもしれないな……と、彼は考えて、慌てて授業に思考を戻す。そんな空想じみたことを考えるのは、放課後でもいいだろう。今は今できることを素直に行うべきだ。いずれ、魔法が使えるようになるその時の為に。
放課後である。
すべての授業は終わった。俺は身体中が倦怠感に包まれるのを感じてげっそりとなり、同時にこの詰まらない授業を最後まで聞き届けた開放感が胸いっぱいに溢れてきたが、顔には出さない。もしもそんな仕草をしてしまったら、親近感とか持たれちゃうかもしれない。下手にそういう感情を持たれると、舐められるのである。
俺はいつもの無表情を顔に張り付けたまま、立ち上がる。それだけの仕草で周りの人間が身体をびくんと震わせた。これだよこれ。こういうのでいいわけ。これくらい勘違いしてくれたら楽である。いい感じに主人公ムーブできてるんじゃねえの? 主人公ムーブがわかんねえけど。
俺はそう考えながら、内心で二、三度頷いていると。
「…………ちょっと待って、あんた」
何やら後ろから声がした。
最初、俺に向けたものだとは思わなかった。なにしろ「あんた」である。まあ、俺に向けてはないだろ。そんな風に呼ばれる程親しい間柄の人間はいないし、喧嘩するような間柄の奴もいない。だから、俺は無視して帰ろうとして―――待ちなさいよ、ともう一度言葉が飛んできたので、止まった。
俺じゃねえよな?
そんな風に思いながら、窺うように後ろを見ると。
金髪ツインテ低身長の釣り目少女が、俺の方を睨めつけるように見ていた。
…………俺じゃん。完全に俺に対して言ってんじゃんか。
少女の後ろではローウェルが必死に彼女を止めようとしていた。「まずい」とか「落ち着け」とか言いながら。そうだよ。やめてくれよ。俺も内心同じことを思っていると、少女が裏拳でローウェルを吹き飛ばしていた。よ、よわー……。そりゃそうだよな。このクラスにいる奴皆強いもんな、あいつ以外。
「ちょっと、面貸しなさい」
「どういうことだ」
本当にどういうことだよ。何でいきなり喧嘩売られてるんだ。俺が何したってんだ。
色々言いたいことがあった。が、それを言う前に、釣り目の少女がこちらを威圧するように見てきた。
「あんたが、気に食わないの。それだけ」
……それを言われたら、何も言えない。
き、気に食わないって。まあ確かにそうだよな。こんな、クラス中に悪い空気を撒き散らす奴がいたらきついよな。俺だって日本にいた時、クラスに不良がいたらきつかった。なるべく関わらないようにしようと努力したものである。
ふと彼女の腕を見ると、微かに震えていた。一応、ビビってるらしい。よくもまあそんな怯えているのに強気な態度でこんなことを言えるものである。
「気に食わないなら、どうする」
「この学園で、意見が対立したら、することは一つでしょ」
「戦うのか」
「模擬戦、って言いなさいよ。物騒じゃない」
結局魔法の撃ち合いをするわけだから同じである。
心の中でそう突っ込みながらも、俺はだいぶ焦っていた。ま、まずい。魔法使えねんだって、俺。
この少女―――正直名前は知らない―――は、たぶん強いんだろう。この学園にいる時点でそれは間違いないし、俺に対して喧嘩を売ってきたのだから、その中でも強い部類に入るはずだ。たぶん、素直に戦ったら、勝てねえ。俺の拳が貫く前に、彼女の魔弾が俺を貫くことになるだろう。
ならば、この模擬戦をどうやって回避するか。
「やりたくない」というのは簡単である。しかし、逃げたと思われるのも癪であるし、そうすれば今まで築いてきたハキム・ハーロックという人物像に、傷が入ることになるだろう。舐められて、他の奴からも模擬戦を挑まれるかもしれない。その度にこうやって断っていたら、「あいつは強くないんじゃないか」とバレてしまうかもしれない。
……そもそも、このエロゲで主人公は模擬戦なんて行ったのか? 当然、冒頭までしかプレイしていない俺にはわからない。心の中の高橋に問いかけてみたが、彼もわからないようだった。そりゃそうか。今、まだゲームの時間に追いついていないんだよな。そもそもここで模擬戦を行ったとしても、そのことなんてゲームには出てこないのである。
……くそ。
俺は考えられるだけ考えた。結果、考えはまとまらなかった。こうなったら、やるしかない。土壇場に追い込まれたとき、荒っぽい選択肢を取りたくなるのが、俺だ。
「……明日の放課後ならば、問題はない」
「なによ。今日じゃ駄目なの。逃げるんじゃないでしょうね」
「逃げはしない。ただ、準備の期間がいるだろう」
「…………なにが」
「魔法の、だ。本調子でないお前を倒しても、無駄だろう。―――二度と挑んで来れぬよう、身体に教え込んでやる」
義手に力を込めた。みしり、と音がする。それと同時に周りへの威圧感が増大していくのが、放出している俺にも知覚できた。
……あのロリビッチ様様である。義手に力を入れれば、より嫌なオーラを放出できるとは聞いていたものの、実際行うのは初めてだった。タイミングも完璧だったらしく、最後の挑発と同時に、クラスの各所で顔を青くする者や、小さく悲鳴を上げる者が続出した。く、くくく。まるで悪役になった気分である。主人公なのに。
目の前の少女も、顔が青かった。当り前だ。他の人間と違って、彼女は至近距離でこれを浴びている。寧ろやり過ぎたかな、とこちらが不安になってくる程だった。失禁とかされたら、どうにもできねえぞ、俺。そんな馬鹿げた想像をふとしてみたが、意外や意外、少女はその勝気な瞳だけは崩さずに、俺の方に震える腕で何かを投げてきた。
何か、とは。
俺は一瞬どういうことかわからなかったが、投げられたものを見てすぐに理解した。そしてそれと同時に、本当に明日模擬戦しないといけないんだなぁ、と今更になって後悔が身体の中を走った。
模擬戦の規則として、その戦闘を仕掛けた側が、相手に自らの名前が刻まれた校章を投げて渡す必要がある。その校章と自分の校章を担当教師に提出することで、模擬戦が正式に確定する。
俺の肩に当たったその何かこそが、校章だった。
「ルーカス・ディ・メイリよ。ハキム・ハーロックに模擬戦を挑むわ。
―――その減らず口、後悔させてあげる!」
<登場人物情報>
この話の主人公=ハーロックさん(改造人間A。模擬戦を受け入れたがどうやって乗り切るか全然考えていない。馬鹿)
この話のヒロイン=ロリビッチ(吸血鬼系ラスボス。馬鹿じゃない)
厨二ゲーの主人公=ローウェルさん(すごくやさしい。馬鹿)
厨二ゲーのヒロイン1=メイリ(ツンデレ。メインヒロイン。パッケージにもでかでかと書かれている。なのにこの世界にきて数年が経った所為で、完全に忘れ去られている。馬鹿)
厨二ゲーのヒロイン2=???