厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる 作:アトミック
朝起きたら身体が軽かった。ので、俺は大変背筋が寒くなった。何をした? そうロリビッチを問い詰めてもみたが、まあ、当然、答えてはくれなかった。こわい。ひょっとしたら俺はどんどん人間をこれからやめていくのかもしれない。このエロゲの主人公もそんな恐怖に怯えながら頑張り続けたのだろう。大変感情移入できる。今現在、俺もそんな目に遭っているだけに。
「くれてやるよ」と、ロリビッチは言った。そうして、なにかを放り投げてくる。俺は何も考えずに受け取って、その物体を見た。四角い、なにかの部品のようなものだった。よくわからない。
「なんだよ、これ」
「
「お前が俺に説明をする気がないことは、わかった」
「要するに、これが魔力を吸収して放出するための装置だ。既に、私の魔力を吸収させておいた」
「お! 成る程、つまり、これを使えば他の奴らに魔法をぶつけることができるわけだ」
「いや、それはできないなぁ」
「え?」
ロリビッチは悪辣な笑みを浮かべた。いつもの顔である。もう見慣れたわ。
「これは、魔力を吸収して放出するだけの装置だ。魔法を行使できるわけではない。そこまで万能な装置というわけではない」
「な、なんだそれ。全然使えねーじゃんか!」
「む。ばかめ。ある程度の
目をきらきらとさせて言うロリビッチだったが、到底そんな気分にはなれなかった。
装置を見てみる。軽量型というだけあって、全然重くなく、ポケットに易々と入りそうなサイズだった。よく見てみると二つボタンがあった。これがスイッチみたいなものなのか? 俺は何も考えずに左のボタンを押そうとして―――ロリに指を掴まれて止められたので、悶絶した。い、痛ぁ。このロリビッチ、自分の力わかってんのかよ!
「なにすんだ!」
「そっちは吸収のボタンだ。放出は右のボタンだ」
「……それを言うために、俺の指を掴んでまで止める必要あった?」
ロリビッチは俺の言葉に「あーあー」と耳に指を突っ込んで聞こえないフリをした。こ、このガキ……! そろそろ俺は怒るべきなのかもしれない。馬鹿みたいな誤魔化し方しやがって。
にしても、このロリにしちゃ不自然だな、と少し思った。なんか、指を掴む瞬間とか。割かしマジな顔になっていたのだ。まるで左のボタンを押したら爆発するかのような真剣さで、俺は一気にこの装置を使う気がなくなった。……まあ、たぶん。勝つために使わないといけなくなるんだろーけど。
「……で、昨日俺の身体に何したんだ?」
「答えない、と言っただろ」
「どーいうことだよ。昨日の夜したり顔で『対抗策は、ある』とか言ってたじゃんか。教えてくれるんじゃなかったのかよ」
「……ふむ。では、一つだけ言っておいてやるが―――今のお前は、無敵になった」
「はあ?」
無敵? と俺は阿呆みたいな顔で聞き返す。ああ、とロリビッチは得意げな顔で頷いた。
「どんな攻撃を喰らおうが、顔色一つ変わらん。まさに全知全能。最強の存在になったのだ」
おめでとう、と。
ロリビッチは、胡散臭い顔でぱちぱちと拍手をし始めた。
「…………それ、冗談か何かか?」
「む。本気だぞ」
「じゃあなんだ。俺が今からお前と喧嘩でもしたら、勝てんのかよ」
「それは無理だなぁ」
「それのどこが無敵なんだよ」
「細かいヤツだな、お前。ダサいぞ」
全然細かくない話だった。
ロリビッチは、そこで手をひらひらと振って話を遮った。話すのはここまでだ、ヒントは出したからあとは自分で考えろ、と挑発するようで、実際、少女は俺の方をからかうような細い瞳で見つめていた。……こ、この、メスガキ……! まーじで俺のことを舐めているらしい。
俺はにやにや笑うロリビッチに、いつかわからせてやらなければならない、と憤慨していると。
「それにしても、あのメイリという女」
「なんだよ」
「よくよく見てみたら、私に顔が似てないか?」
唐突に。
ロリビッチは、少し思案するような表情でそう言った。
「……金髪で、背が低くて、目の色が赤ってことは似てるな」
言ってしまえばそれだけだ。どーせ何も関係ないだろ(適当)俺の勘はよく外れるのだが、まあ、流石に気のせいのはずだ。大体、この世界に金髪で赤目の女なんて何人いるんだ? 多分大勢いるだろ。
そう言ったが、ロリはまだ「ふむ……」とか言いながら顎に手を当てていた。
「なんだよ。あれか。昔、子供でも産んだことがあるのかよ」
「孕んだことはないが、口から卵を吐き出したことはあるな」
「…………お前ってどういう生物なの? 大魔王かなんか?」
とんでもない発言に思わず突っ込みを入れたが、無視された。
さて。
そんなわけで、登校時間である。
いつものように俺は教室に入り、いつものように威圧感をばら撒く。その結果、いつも通りの怯えた反応が返ってきたわけだが―――まあ、今日は例外があるらしかった。正確には昨日の放課後からか、と真面目に考えてみる。
「約束、忘れていないわよね」
メイリ、という少女である。あー今からでもなかったことになんねーかなー。小さくそう思ったが、口には出さない。不思議と俺の表情筋もまったく変わらなかった。
「無論。今日の放課後で問題ないか」
いつものように格式ばった話し方で返す。
このキャラ設定はミスったかもしれない、ってたまに考えます。でもまあ、こっちの方が雰囲気出るだろ? 心なしか俺の視線を受けてメイリも若干気圧された感じになってる気がする。
「問題ないわ。私の校章は?」
「先ほど、教諭に提出した。既に、放課後の訓練室使用許諾を得ている」
「気が早いじゃない。なに。私と戦いたいわけ」
真逆です。この女がビビってそんなのなかったことにしてくんないかなとか考えてます。
まー無理だよな。正直それは諦めている。俺もこっちの世界にきて数年経ったし、この魔法学園にきて半年以上過ごした。だからこの世界のことはだいぶ判ったし、魔法使いっていうヤツらのことも、まあ、それなりに理解できた自信がある。プライドが高いんだよな、こいつら。
一度発した言葉は取り消さないし、謝らない。メイリも多分そういう人種なんだろう。見るからにプライドが高そうな顔してるしな。気持ちはわかる。日本にいた時の俺もそんな感じだった。見栄っ張りで、自己中心的なのだ。
だから諦めてはいたのだが―――やっぱ戦いたくねえなあ、とは思ってしまう。
「私、さ」
「なんだ」
「あんたのことがさ、だいぶ嫌いだったの」
「そうか」
「どうして、って聞かないわけ」
「聞いてほしいんだったら、聞いてやるが」
「そういうとこも含めて、嫌い。自分は何もかも見通してますよ、って顔で。この学園で一番強いです、みたいな雰囲気でさ。誰も彼もあんたの実力なんてわかりっこないのに。白黒はっきりさせてやりたいって思うのが普通でしょ。それなのに、誰もそんなことしないから、それにも腹が立って―――!」
「難儀な性格だな。俺が強いことなど、戦わずともわかるだろう」
「だから、その態度が―――!」
むかつくらしい。
正論だったので、俺は、黙ることにした。そもそも俺はこの少女と口喧嘩をするのではない。口喧嘩だったら負ける気がしないが、魔法で戦わねばならないのである。こんな朝から無駄なエネルギーを使うのも馬鹿らしいな、と思って、俺は溜息を吐いた。
敢えて目立つことによって、誰からも触れられない存在になろうとしていた。
その所為で、こういうどこに沸点があるかわからない短気な少女を呼び寄せてしまったのだろう。クラスにヤンキーがいたら大抵の奴は逆らわないもんだが、たまにこういう腕自慢のヤツとか極端にまじめなヤツとかが関わってこようとしてくるのだ。そーいう意味では、今のこの状況は日本でもよく見た光景だ、と言えるのかもしれない。
俺は、今更になって完全に諦めた。俺には戦うしかないらしい。腹をくくった、と言ってもいい。あのロリビッチが言うには、今の俺は無敵らしい。それを信用することなんて全くできないが、心の頼りにするくらいは良いだろう。あと、今俺のポケットに入っているよくわからない装置もある。正式名称はもう忘れた。まあ、名前なんてなんでもいい。この手材料でどうにかするしかないのである。
精々頑張れよ、と声がした。ロリビッチが言ったような感じがした。幻聴かもしれないし、本当に何らかの魔法で届けてきたのかもしれない。なんでもありって怖えな、と今更になって考えてみる。
確かにまあ、精々頑張るしかないのだろう。
俺はそう思い、いつものように強者の仮面を被って、口を開いた。
「精々、放課後まで力を溜めておけよ」
「―――ええ、そうね。放課後が、楽しみだわ」
放課後まで我慢しててください。
今襲い掛かってこないでください。
って感じである。本心は。
そんな風に挑発じみた言葉を発し、メイリから目を切って自分の席に向かった。背中には彼女の視線が痛いくらい飛んできているが、すべて無視した。付き合ってられねーよー。
んじゃ、まあ。
放課後まで、なんかうまいこと勝つ方法がないか、考えてみることにした。
ルーカス・ディ・メイリという少女は、とても短気だった。幼い頃から今現在まで、その短慮さは変わらず、まるで生まれついて決められたようなものであった故、本人はほとんど諦めきっている。生来、自分はこういう気質なのだ、と。
そもそも、短気であることが必ずしも欠点であるとは言い切れないのだ。怒りとは、言い換えてみれば、精神的な高揚である。自らの感情に酔い、それに流されて魔法を行使することは、魔法使いによって必須事項と言ってもいい。流され過ぎてはならない、というのも事実ではあるが。
なんにしても、この精神的な未熟さは、武器になる。そう思うことによってメイリはこの短所を治そうとはしなかった。そのツケが来ているのかもしれないな、と今更になって、思う。
まさか、あの化け物と。
ハキム・ハーロックという男と模擬戦をする羽目になるとは。
メイリは自分が何故怒ったのかは、理解できている。
昨日の授業中である。ハーロックという男が突然振り返るように後ろを向いた。その視線の先にはローウェルがいる。彼が何を持ってそのようにしたのかは、確信が持てない。持てないが、予測はできた。馬鹿にしたのだ。こいつ、魔法が使えないのにどうして勉強なんてしてやがるんだ―――そんな、心の声が聞こえてくるような気がした。
その時点でカチンときて、彼に怒りの視線を送っても無視されて、放課後にローウェルから嬉しそうに「ハーロックの奴に見られた」と言われて、完全に冷静さを失った。そこから先はとんとん拍子で進んでいって、今に至る。
「ちょっと、早まったわね」
「ちょっとどころじゃないと思うけど」
すぐ隣。
不機嫌そうな、それでいてこちらを心配するような視線を送ってくるローウェルを見て、メイリははあ、と溜息を吐いた。相も変わらず、格好いい。好き。さまざまな想いが胸に押し寄せてくるが、一旦、それらの感情を頭の隅っこに追いやってみる。
幼馴染。友人。彼と自分はどのような関係なのだろうか、とふと考えてみて、その二つが真っ先に浮かんだ。そこからさらに先の関係にステップ・アップできていないのは、彼の鈍感さが原因か、私の天邪鬼が原因か。たぶん、どっちもなのだろう。
魔法使いであるというだけで迫害された折、唯一庇ってくれた。随分と昔の話ではあるが、恐らく、一生忘れることのない記憶となるだろう。その時からずっと彼のことが好きだった。だから、この学園に通うと馬鹿みたいなことを言い出しても止めなかった。一緒の学園に通いたい、という思いは多分にあったし、彼が迫害されるならば今度は自分が守る番だ、とも思ったのだ。
「……あんたね、ハーロックに対してどう思ってるのよ」
「凄い奴だ」
「……まあ、それはそうかもしれないけど。あんな見下されたみたいな視線を飛ばされたら、少しは怒ってもみなさいよ」
「あいつは俺を見下したわけじゃない、と思う」
「それはあんたが思ってるだけ。見下していたわよ」
「それも、メイリが思っているだけだろ?」
む、とメイリは口を閉じた。確かにその通りだ。だが、一緒にするな、とも思う。能天気なローウェルは人の悪意にとても鈍感だし、自分は魔法特性の関係上、人の感情にとても敏感である。あの時、ハーロックはローウェルを見下していたはずだ。確信ではないものの、彼よりも正鵠を射ている気がした。
「そんなつまらないことで模擬戦なんてして、怪我したらどうするのさ」
「怪我くらいはするかもしれないけど、覚悟の上よ。なに、あんた、心配してるわけ」
「そりゃ心配してるよ。メイリは大切なんだから」
「……ふうん。そう。そうなのね」
やばい。
舞い上がってしまいそうになったので、目を逸らした。最近のローウェルはやばい。昔なら「心配なんてしてない」なんて憎まれ口を叩いてきたものだというのに、最近はこうだ。妙に素直なのである。
「心配しちゃ、ダメだった?」
ダメじゃない! 寧ろもっと私のことを気にかけて! 構って!
「……別に。好きにしなさい」
当然、そのようなことは口に出さない。というか、出せない。メイリは顔が少し赤くなるのを隠すようにそっぽを向きながら、平然を装ってそう言った。たぶん、これが原因で、彼との関係が深まらないのだろう。
「でも、メイリはハーロックに勝てると思ってるの?」
「確信はできないわね。あの男が規格外なことくらい、あんたにもわかるでしょ?」
「そりゃ、わかるさ。メイリが滅茶苦茶強いこともわかってるけど、それでもハーロックの方が強いような気がしてる」
「ふうん。言うじゃない。まあ、確かに言いたいことはわかるけど、さ」
「じゃあ、戦って大丈夫なの?」
「知らないわよ。怪我してしばらくこっちには来れなくなるかもね」
「じゃあ」
「でも、やる前から負けることなんて考えたくないでしょ?」
「それは、そうかもしれないけど……」
「まあ、心配しなくてもいいわよ。私、模擬戦負けたことないし。そもそもハーロックのやつが戦ってるとこなんて、私見たことないし。案外、あいつも大したことないかもしれないわよ」
そんなわけがない、と思いながらも。メイリは肩をすくめてそう言った。もう模擬戦は始まろうとしている。あり得ない妄想に縋ってでも、自分の中から負けるイメージを消した方がいい。
魔法使い同士の戦闘とは、即ち精神面に於ける戦闘と言い換えられる。自分の方が強い、と最後まで信じ抜いた方が勝つのだ。
「あんたも心配するのはいいけどね、私が勝つって最後まで信じてなさいよ」
そう言って、メイリは立ち上がる。
もう時間だ。勝つイメージは十分に持てた。いつものように魔法を行使し、相手に何もさせることなく、勝つ。相手が誰であろうとも、やることなど何も変わらない。
そのまま歩き出す。振り返って、彼の心配そうな顔を見ると、色々切なくなって、戦意が失せる。だから、振り返らずにいたのだが、背中から「頑張れよ、メイリ」と言葉が飛んできたので、思わず振り返ってしまった。
そこには、心配の表情を消して、こちらのことを信じ切ったローウェルの視線が飛んできた。どうやら、本当に心配せずにこっちを信じているらしい。なんとも馬鹿で、糞真面目なことだ。ふん。好き。さまざまなことが頭の中を巡り、メイリは慌てて顔を背けた。もう振り返らない。振り返ったら、顔が赤くなっているのが、バレてしまう。
<登場人物情報>
この話の主人公=ハーロックさん(考えて秘策が浮かんだらしい。馬鹿)
この話のヒロイン=ロリビッチ(授業の様子が詰まんなくておねむ。馬鹿じゃない)
厨二ゲーの主人公=ローウェルさん(訓練所までの道がわかんなくて迷った。馬鹿)
厨二ゲーのヒロイン1=メイリ(歩きながらずっとにやにやしてたせいでクラスメイトからだいぶ引かれた。馬鹿)
厨二ゲーのヒロイン2=???