厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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リクルート・リダイレクト
リクルート・リダイレクト 序


「手下がもう一人必要だぜ」

 

 その言葉は、唐突で、全く脈絡のないものだった。

 発したのは少女。クソロリ。この女が急に意味のわからない言葉を言うのはいつも通りではあった。手下が欲しい、と。まあ、見ての通りとんでもない奴だし、そういう気分になることもあるのかもしれない。

 が、気になることがあった。

 

「もう一人ってなんだよ、もう一人って。現在進行形で手下が誰かいるみたいな言い方じゃないか。まさかとは思うけど、それ、俺のことじゃないのか?」

「まさかとは思うが、お前以外のことだと思ったのかよ?」

 

 きょとんとした顔で言うロリに、俺は何も言い返す気がなくなった。

 まあ、確かに? 今の俺はこいつの手下みたいになっているのかもしれない。身体を改造してもらったり(半ば強制的に)今日の戦闘の手助けをしてもらったり(完全に強制的に!)したわけだから。

 いずれわからせてやる、といつものように考えておく。

 

「まあ、それはいいとして。手下なんて簡単に見つかるものじゃねえだろ」

「いや。別に見つけるのは難しくない」

「どういうことだよ」

「私が魔法を教えてやる、と一言いえば、手下どころか下僕になりたい奴が集まってくるだろう」

「……まあ、たぶん。それ、冗談じゃねえんだよな」

「当り前だ」

「じゃあ、好きに呼びかければいいじゃねえか」

「手下にもな、格というものがある。私の趣味嗜好に合わない奴も駄目だ」

「勝手なこと言いやがって」

「まあ、私が一人ひとり面接をすればいい話なのだが……それは、その、な。わかるだろ」

「面倒くさいわけだ」

「そう! 流石は私の一番の手下だ」

 

 誰が手下やねん。

 俺は心の中でそう呟きながらも、考える。まあ、だが、俺もロリの考えには同意である。

 なにしろ、こう、なんというか。普段通りに喋れる相手が、ここ数年このロリしかいないのである。魔法学園であのキャラを突き通すために、俺は色々大切なものを失っていっている気がする。その、心の平穏というか、なんというか。そういうものを取り戻すためにも、俺は、もう一人くらい素を見せられる人間が欲しいのである。

 願わくば、同年代の男。

 例えるならばあのローウェルのような。

 ……もうあいつをここに連れてきちゃえばよくね。そんな適当な考えが一瞬頭の中を過ぎったが、振り払う。あいつ連れてきたらハッピーセットのいらないおもちゃのようにあのちっこい魔法使いもついてきそうだった。それは困る。あいつに素を見せたら舐められそうだし、なにより、2Pカラーみたいな感じでこのロリと見分けがつかなくなりそう。

 

「誰か候補でもいるか」

「いねーよ。てか、条件は何なんだ。お前の趣味嗜好に合って、格があればいい―――って。抽象的過ぎんだろ」

「ふむ……まあ、そうだな。じゃあ、条件は一つだけだ」

 

 なんだよ、と俺が顎をしゃくって問いかけると、ロリはにやりと笑った。

 

「強ければ、誰でもいい。私が認める程度のな」

「……そんなヤツ、いるのかよ」

「難しい条件じゃないぞ。今日お前が戦った、メイリ、だっけ。あいつならば歓迎だ。私には遠く及ばんが、認めてはいる」

「……さっき、そいつが家に来たことを考えたけどよ。俺が舐められる未来しか見えなかったんだよ」

「だろうな。まあ、人選はお前に任せる」

 

 欠伸をしながら、そうロリは言った。……って、おいおい。待てよ。

 

「人選は任せる、って。まるで俺が選ぶような口ぶりじゃねえか」

「そういう風に言っただろ。お前に一任する」

「……あのな、どーして俺がそんな面倒なことをしねえといけねえんだ」

「お前が私の手下だからだ」

「ストレートに言いやがったなてめえ!」

「まあ、だが。お前も一人くらい手下が欲しかっただろ?」

「…………」

 

 心を読んだみたいな言葉だった。まあ、こいつのことだ。本当に心を読んでいるのかもしれねえ。俺が欲しいのは手下じゃなくて話し相手なんだけども。

 

「……どうやって俺が勧誘するんだよ」

「だから、それ含めて、一任する。魔法学園には優秀な奴がいっぱいいるんだろ? 選り取り見取りなわけだ」

「友達どころか、知り合いもいねえんだぜ」

「でも、恐れられてはいるだろ」

「それでどうにかなるもんかよ」

「どうにかなるさ」

 

 投げやりなような、確信しているような。いつものような捉えどころのないロリの言葉に、俺は一瞬、固まる。

 畳みかけるようにロリは「よし決まりだ!」と叫び、「夜の散歩は中々に楽しいものだなっ」と子供のような無邪気な顔を俺に向けてきた。子供のようなというか、子供そのものか。実年齢と性根と中身以外はすべて子供だ。

 ……それ、外見だけじゃね。俺は訝しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ハキム・ハーロックさん」

 

 登校中。

 昨日の夜の散歩の所為で寝不足の俺は、目を軽く擦りながら歩いていると、背後から声をかけられた。

 

 ……だいぶビビった。たぶん、外見には出てないだろうけど、内心は心臓がバクバクいっている。何気なく振り返ると、彫りの深い色黒の、ガタイの良い男がいた。見たこともない顔である。が、まあ、胸元に差した特徴的な校章から、魔法学園の人間なんだろうとは思う。

 ……学園外で話しかけてくるんじゃねーよ。うっかり仮面が剥がれちゃったら致命的じゃねーか。そんなことを考えながら義手を握り締め、威圧感を与えてやったが、不思議なことに男は眉一つ動かさなかった。

 

「アレクラマス・ランキングを、更新しました」

「………………なに」

「貴方はルーカス・ディ・メイリの26位を受継いでもらいます」

 

 何言ってんだこいつ。

 と、普段の俺ならば言っただろう。あー滅茶苦茶言いてえ。キャラ的に言えねえんだよなー。

 26位ってなんだよ。更新とか、受継ぐってどういうことだよ。急に話しかけてきてんじゃねえよ。言いたいこと尽くしだった。けど言えねえ。てか、こういう時どういうリアクションすればいいんだ? このまま黙っていれば俺のキャラって保てるの? 「ほお……」とか反応してやった方がいいの?

 何もかもが不明だったので、とりあえず。一番気になることを聞くことにした。

 

「アレクラマス・ランキングとは、なんだ」

「私の名前はアレクラマスといいます」

「それで」

「その私が作ったランキングが、アレクラマス・ランキング」

 

 まっっっったく要領を得ない言葉だった。こいつが作ったランキングだとして、何のランキングなんだ。なんで急にそんなことを話しかけてきてんだ。そんなことを聞いてみたかったが、これ以上疑問を投げるのはキャラ的に微妙かなーと思ったので、黙ってみる。

 

「貴方にはこれを受け取る権利があります」

「………………」

「それを持ち歩くことで、私の見立てで26番目に強い人間だと、他の人間から理解されるでしょう」

 

 ……なんでこいつは機械に自動翻訳させたみたいな喋り方をしてやがるんだ?

 俺はだいぶ疑問に思ったが、ようやく、このランキングが何か見えてきた。強さのランキングなのね。俺が一昨日あの魔法使いを倒したから、そのランキングで入れ替わったって理屈だ。成る程。

 まあたぶん、あの魔法学園におけるランキングなのだろう。全生徒の中で26位。それは明確な過大評価だったのではあるが、俺は少しだけ不満だった。そんなもんなのか。ビビられ方からしてもう少し上にいる気がしてたんだけど、流石は魔法学園。上には上の化け物がいるらしい。

 

「不満そうです?」

「………………」

「このランキングは、100位まで定められており、その順位に含まれる人間との決闘においてのみ、入れ替わるようになっています。貴方がより上の順位を望むならば、26位よりも上の人間と決闘をすることで、可能になるでしょう」

 

 わざわざ俺の疑問を説明してくれた。戦わないと入れ替わらないらしい。まあ、メイリみたいな滅茶苦茶強い奴と戦ったのは初めてだった。だから、元々俺はそのランキングに入っていなかったのだろう。

 俺は数字の26を模ったキーホルダーのようなものをアレクラマスから受け取り、ポケットに入れた。「なるべく他人から見える場所に置いた方が、よいです」と余計な助言が飛んでくる。無視。そのまま、振り返ることなく歩き出す。

 ……後ろからの視線が痛かった。なんだよ、あいつ。不気味っていうか、無機質っていうか。機械みたいな男だった。俺みたいなパチモンと違って、たぶん、アレクラマスは外面を作ることなくあんな感じなのだろう。羨ましい。俺もあんな風な精神状態になれたらもっといいのだろう。

 そう思ったら、心中で『改造してやろうか?』と声が聞こえた気がした。こ、こわ。まさかあのクソロリ。今この瞬間も自宅から監視してやがるのか。ま、まさかね。幻聴だよね? 俺はそう現実逃避をしようとしたが、『現実だぞ』という声がまた聞こえてきたので、絶望した。まーじであいつ。俺のプライバシーはどこにいったんですかね?

 

 

 

 教室に入ると、いつも以上に雰囲気が固く、重いものになった気がした。一昨日の戦闘のことが知れ渡っているのだ。こうやって、より俺は皆から敬遠されていくのだろう。しめしめ。あの戦闘は博打のようなものだったが、これだけの結果が得られれば、長期的には得に違いない。

 これで俺の魔法が使えないことは誰にもバレないはず―――そう思いながら席につくと、「ねえ」と声が飛んできた。まあ、俺に対してではないだろう。俺のそんな気安げに話しかけてくる人間なんているはずがないのである。なので、我関せずという感じでそっぽを向いていたら、「こっちを向きなさいよ」なんてより言われないような言葉が飛んできたので、固まった。固まりながら、これに似たようなことが最近あったなァ、なんて、思い返してみる。あの時の声も、こんな感じだったような―――

 

「……なに、無視? あんた、いいご身分ね。一回模擬戦で勝ったからって調子に乗ってるわけ。負けは認めてあげるけれど、私にはいつだって再戦を申し込む権利があるのよ」

「………………」

 

 ルーカス・ディ・メイリ。

 一昨日の模擬戦でビビれらせてやったはずの、女。

 そんな彼女が、ちょっと怒った表情で、まったくビビることなく俺の目の前に立っていた。

 

 ……どーなってんだ。俺の予想ではこいつはだいぶ委縮して俺とはもう口も利かなくなる予定だったんだけども。全然そうはなっていない様子だった。

 俺はぼんやりと彼女の方を見る。そんな風にしていると、徐々に彼女の顔はより赤くなっていき、怒りのボルテージが上昇しているようだった。な、なんでだ。あ。そうか。俺、何も喋ってないから、今も無視が継続してる感じなんだ。

 

 な、何か喋んねえと。言い訳とか、そういうの。俺は焦って口を開いた。「気づかなかった」と、とりあえず言って、なんで気づかなかったのか理由を適当に考える。「小さくて、見えなかったのだ」と言い、あ、これ多分ミスったな、と瞬時に後悔する。

 

「……へえ。へえー。なに、挑発してるんだ。舐めてるわけね。お前なんか敵じゃないんだよ、眼中にないんだよ、てか物理的に見えないんだよこのクソチビ―――って言いたいわけね。おーけー。オーケーよ。

 ―――ぶっ潰してやるわーっ!」

「や、やめろ! やめろメイリ! 一旦落ち着けーっ!」

 

 校章を投げようとするメイリを後ろから抱き着くような形でローウェルが止めた。た、助かった。さりげなく今だいぶやばい事態だったんじゃねえの。俺は心の底から彼に感謝した。てか俺、とんでもない失言してんじゃねーよ。

 メイリはローウェルに抱き着かれて、なんとか落ち着いた様子だった。こいつらずっと抱き合っててくんないかな。結婚とかしちゃって寿退社的なヤツになんない? なんないか。

 

「……で、何用だ」

 

 俺は恐る恐るメイリに声をかけた。こっちから声をかけないとなんかまた暴れる気がしたからだ。

 こいつはどーして俺に話しかけてなんてきたのだろう。もうあの模擬戦は終わったはずである。もしや本気でリベンジなんてことを考えていやがるのだろうか。勘弁してください。

 

「あんた、選ばれたんでしょ」

「……何に」

「アレクラマス・ランキング」

「――――――」

 

 そこでその名前が出てくるとは思わなかった。なに。なんなの? あのランキングって有名なの?

 わからないことづくしだったが、まあ、それを外見に出すわけにもいかない。いつもみたいに悟ったような顔をして、すべてを理解している雰囲気を出してみる。

 

「……あんた、その顔。なんかムカつく」

「………………」

 

 メイリには大変不評なようだった。無視。

 

「26位を返却してください、って封書が来たから。あの飾りごと送り返してやったけど。あんた、つけていないの」

「今朝、渡された」

 

 ポケットから取り出して見せてやると、メイリは眉を顰め、鋭い瞳をさらに鋭くしてこちらを見てきた。

 

「どうして見えるところにつけないのよ」

「必要性を感じない」

「それ、つけてるとわりと一目置かれるわよ。あと、よくわからないヤツから決闘を申し込まれたりしやすくなるわ」

「………………」

 

 ぜってーつけねえ。

 危ねえな。なに? 呪いのアイテムかなんかなの? そんなものどー考えたってつけたくないだろ。何を持ってこいつは身につけたがってんだ。戦闘狂かよ。

 

「つけないんだったら返してほしいわね、ホントに。それ、持ってるだけでここの学費が安くなるのよ」

「……そのような効果が、あるのか」

「なによ。訳知った顔で何も知らないわけ」

 

 しまった。

 なんかとんでもないことをメイリが言うもんだから、素直に返事をしてしまった。必要以上に、余裕な様子を意識する。

 

「知らん。学費など考えたこともない」

「なによ。ぶるじょあね。羨ましいことこの上ないわ」

 

 恨めしそうな顔でメイリに睨まれる。家が貧乏なのかもしれない。目線を自然に逸らしたら、数秒間、コンビニとドンキに無駄にたむろしてるヤンキーばりの視線が向けられて、さらに数秒してようやくつまらなそうに逸らされた。そのまま、ローウェルを引き連れて自分の席に戻っていく。こっわ。

 あいつは日本にいたらたぶん総理大臣になるか刑務所に入るかのどっちかだったのだろう。

 金の話と身長の話と模擬戦の話はどーやらしない方がよさそうだ。いつ導火線が爆発して、「決闘だ!」となるかわからなくてこわい。

 

 ちなみに俺は無一文である。金は全部ロリからいただいている立場である。……普段文句ばかり言っているが、もしかしなくても俺はあのロリにだいぶ助けられているのだろう。

 あいつに感謝とかしてみるべきなのかな、と考えてみる。いやいや。いやいやいや。馬鹿。普通、感謝されるような奴は人を改造とかしないし、手下とか人権の欠片もない呼び方で呼ばないものである。だから俺はあのロリに感謝なんてしない! 衣食住の面倒は見てもらうけど!

 

 




<登場人物情報>

この話の主人公=ハーロックさん(無一文。ロリからお金をもらうときは毎回「ありがとう」と言ってる)
この話のヒロイン=ロリビッチ(毎回お礼を言うハーロックを可哀想なものを見る目でみてる)
厨二ゲーの主人公=ローウェルさん(メイリとニコイチになるつつある)
厨二ゲーのヒロイン1=メイリ(ちっちゃくて短気)
厨二ゲーのヒロイン2=???(出番がほんとにない。かわいそう)
???=アレクラマス(なんかランキングをつくってるひと)

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