厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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リクルート・リダイレクト 破

 

「アレクラマスに遭ったんだろ?」

 

 帰宅後。

 ロリはぽつりとそう零した。彼女の言葉は「会う」ではなく「遭う」と言っているようで、なにか、化物に遭遇した時のような、ヘンな神妙さがあった。

 

「やっぱり見てたのかよ」

「今日は妙に寝つきが悪くてな。昨日の散歩が原因かな」

「普通、動いたら寝つきが良くなるもんじゃねえのかよ」

 

 不健康なヤツ、と軽口を飛ばしたが、無視される。

 

「あの男のランキングに選ばれたらしいじゃないか」

「らしいな。有名なのかよ、それ」

「ああ。魔法使いならば誰でも知っている」

「マジかよ。俺、知らねえぞ」

「お前は魔法使いじゃない。……それにしても、お前が26位か。く、くく。傑作だな」

 

 おかしそうに笑うロリは大変失礼だったが、まあ、言いたいことはわかる。

 今現在、俺は魔法が使えない。そのことを知っているのは恐らくこの世界でこのロリだけだし、いずれ魔法を使いこなすかっけー主人公だと理解しているのは、この世界で俺だけだろう。

 そんな、未覚醒の俺が勘違いでかの有名なランキングに名を連ねているのだ。

 

「でも、俺は思ったより低い気がしたぜ? 魔法学園でまあまあビビられてるのに、そんな中で26位ってのは上には上がいるのかって」

「……お前、勘違いしてないか?」

「あ?」

「アレクラマスのランキングは魔法学園のランキングではない。()()()()()()()()()()()使()()()()()()ランキングだ。そして、殆どの魔法使いをあの男は理解している」

「……じゃあ、なんだ。全世界の魔法使いの中で、俺は26番目に強いわけかよ」

「ああそうだ。……まあ、あのランキングの制度は甚だ疑問だがな。お前に負けたあの女は、繰り下がるわけでもなくランキング圏外になったのだろう。所詮はあの男が気分でつけているものだ」

「知り合いみたいに話すじゃねえか」

「旧くからの知人だ」

「げ」

 

 こいつの昔馴染だと? ぜってーマトモな奴じゃねえじゃねえか。俺は背筋に寒いものが走るのを感じた。たぶん元のゲームでもだいぶ有名なキャラクターだったのだろう。どういう役回りのキャラなんだ? 俺は少し考えてみたが、皆目見当もつかなかった。

 ……だが、まあ。このロリはヒロインである。ヒロインってことは味方である。味方のキャラの昔馴染ってことは、敵になることはないんじゃないだろうか(適当)

 

「ちなみにだけど、お前の昔馴染ってことは、あいつも見た目通りの年齢してねえのかよ」

「うむ。あいつはそこそこに年寄りだ」

「……ちなみに、お前は何歳だよ」

「レディに歳を聞くとは、失礼な」

「一万歳くらい?」

「し―――失礼な! そんなしわくちゃの年増と一緒にするなど―――!」

「じゃあその半分くらい?」

「……………………」

「え、えー……。黙っちゃうなよ。高すぎる年齢言って少しずつ下げてく途中だったんだけど。お前マジでそんなに生きてんの?」

「……レディに歳を聞くとは、失礼な」

 

 色々詰問していると、ロリ(ババア)はちょっと涙目になって、それしか言わないBOTになった。年齢の話はどーやらNGらしい。あんまりからかうとまた人体実験されるかもしれないので、一旦自重する。

 

「……ていうか。お前、何してんだ。私の下僕を探してくるんじゃなかったのか」

「あ」

 

 そんなこともあったな。

 今になった思い出した。そういやそんな会話してたな。けど、そんなの一朝一夕で見つかるわけねえだろ。

 そう思っていると、ロリにぎろりと睨まれた。まるで思考を読んだみたいだ。……比喩表現じゃないのがこのロリの恐ろしいところである。

 

「……はぁ。まあ、お前に期待した私がアホだった。状況も変わったし、お前に一任するのはやめる」

「状況が変わった?」

「アレクラマスに遭ったんだろ。てことは、あの男は私に接触しようとしているのだろう」

「どういうことだよ」

「あの男は私に会いたがっている。姿を隠していた私を、昨日の散歩で発見したんだろ。で、一旦、ランキングの話をするのを口実に、一緒にいたお前に、今日会いに来た」

「隠していた、って。会いたくなかったのかよ」

「まあ、そうだな。あの男と会話するのは、七面倒だ。だがまあ、見つかってしまったものは仕方ない。直接あの男と会うことになるのだろう」

「直接会う、って」

「私はこの家から出るつもりがない。直接会うには、ここにあの男が来るしかない」

「……押しかけてくるってのか」

「間違いないだろうな。恐らく、今日中にも」

 

 げ、と心の中で声が漏れる。

 どーいうカンケイだよ。アレクラマスと、このロリは。そこまでしてくるって、過去に何があったんだ? 色々わからないことはあったが、俺の中で一番面倒だったことは、この家の中でも()()仮面を被らなければならない、ということだった。ここでくらいダラダラさせてくれよー……。

 

「……あの男が何を求めてくるのかはわからんが、まあ、付き合ってやるつもりだ。その見返りとしてランキング上位の下僕を紹介してもらうとしよう」

「……あいつが紹介するっていえば、丸く収まるもんなのか? その紹介されるやつが嫌がったりしたら……」

「知らん。私が決めたことだ。他の人間に拒否権などあるはずがないし、それでも拒否してくるのならば、その身体に教え込んでやるしかない」

 

 いつも通りの自己中心的で暴君なことをいうロリだった。大変な目に遭うんだろーなー、と俺はどこか他人事な感じで考えていると、ロリは少し笑いながら「言っておくが、その下僕の教育係はお前だからな?」なんてとんでもないことを言いやがった。い、いやいや。そんなランキング上位の奴に俺が適うわけねーじゃん。そんなのの教育なんてできるわけねーし、そもそも俺が何を教育するってんだ。不平不満の籠った目でロリを睨み返してみたが、けらけら笑いながら「ばーかぁ」と一蹴された。

 そろそろ、俺は待遇改善とか求めてもいいのかもしれない。あれだ。デモだ。昔日本でも大勢で集まってやってた奴だ。でも俺の味方って俺しかいねえわ。そしてデモの相手はこの暴君ロリ。一瞬で押し倒されていやらしい目に遭うことが想像できた。ぴえん。

 

 

 

 からんからん、と気の抜けた音がした。その音が鳴るのは久しぶりで、俺とロリは顔を見合わせた。

 知らない人間が来た際に鳴る音である。

 アレクラマスが来た、とぼんやりと声がした。ロリが言ったものかもしれないし、或いは、茫然とした俺自身が言ったのかもしれなかった。が、お互いに、来客した人間がどこか不吉を思わせる、あの黒色人種の男だと理解していた。

 

「お前、さっさと仮面を被っておけよ」

「わかってる。……迎えに行かなくていいのか」

「あいつは、勝手に上がってくるだろう」

「侵入者には魔法の防衛策があるんじゃないのか」

「あの程度の魔法ならば、アレクラマスならば簡単に超えられる。私が本気を出せばあんな奴、半殺しにして追い返すことなど容易いが……まあ、そこまでするほどではない」

 

 そらそうである。そもそもどーして半殺しにしようとする発想になるんだ?

 俺はこのロリに今更ながらだいぶビビったが、気持ちを切り替える。こいつにビビってる場合じゃない。いつあの男が来てもおかしくないのである。俺は小さく呼吸をして、気分を落ち着かせる。

 

「来るぞ」

 

 ロリがぼんやりとそう呟くのと同時に、がらがら、と乱暴に扉が開いた。

 アレクラマスだ。俺は動揺を胸の中で押し殺した。男の視線は俺ではなく、真っ直ぐロリを射抜くように見つめている。今朝会った時と同様に無表情ではあったが、ロリを見つめるその視線には、さまざまな思いが込められているように見えた。

 ……どーいうカンケイなんだよ、こいつら。俺は肩をすくめたくなったし、無邪気に質問してみたかった。でもできない。そーいうキャラじゃないから。この男がいなくなるまでは、俺はこの面倒くさい態度を取り続けねばならないのである。

 

「随分と乱暴だな、アレクラマス」

「私も、同じことを考えています。随分な歓迎でした」

「魔法の防衛策のことを言っているのか? あれくらい簡単に回避できるだろう」

「必死でした。到底、簡単ではございません」

 

 いつものように、機械みたいな言い回しで男は喋る。俺はそれをぼんやりと眺めていた。

 

「それで、何用だ。私の顔を見に来た、なんて言わないよな」

「貴女の顔を見に来ました」

「くく。冗談も言えるようになったわけか。まったく面白くないぞ」

「それは残念です」

 

 そう言って、アレクラマスは黙り込んだ。もしかしたら本気でこのロリの顔を見に来ただけなのかもしれなかった。ロリコンなのかもしれない。そう思うと俺は少しだけこの男から距離を取りたくなったが、まあ、なんか雰囲気的にそーいう感じじゃない。

 アレクラマスもロリも何も喋らない。数秒。数十秒と沈黙が訪れる。

 すると、ちらり、とロリから視線が飛んできた。

 同時に頭の中でも声がする。「何か喋れ」と。「要件をこの男に説明しろ」と。

 要件ってなんだよ。……ああ。あの、下僕が欲しいとかいうヤツか。どーして俺がわざわざ説明しないといけないんだ? 文句を言ってやりたくなったが、残念ながら、今の状況で文句を言えるほど俺は強くない。仕方なく、強者の仮面を被ったまま、口を開く。

 

「……アレクラマス。喋らないのならば、こちらから一つ要求がある」

「なんでしょうか」

「何を目的としてそこの女に会いに来たかは知らんが、それと引き換えに、人を紹介しろ」

「紹介ですか」

「ああ。お前の大層なランキングに入っている人間を、一人寄越せ。そこの女の目的のために、優秀な部下が必要だ」

「私は私の知識でランキングを管理しているだけで、人を管理しているのではありません。紹介はできても、部下になるとは限りませんが」

「それでいい。あとはこちらでどうにでもなる」

 

 どうにかするのはロリである。俺の知ったこっちゃない。

 数秒間、アレクラマスと向かい合った。その機械のような無表情を見つめていると、何故か妙に背筋が寒くなった。理由はわからないが、どうしてか、恐怖を感じる。それに我慢してじっと見つめ合っていると、向こうの方から「それは好都合ですね」と、よくわからない言葉が飛んできた。

 

「私は、あなた方に依頼をするつもりでやってきました」

「依頼だと」

「はい。今、アレクラマスランキング9位の少女が、危機に瀕しています。数十人の魔法使いに囲まれて、集中攻撃(リンチ)を受けています。戦闘経験のない少女のため、今はなんとか耐えていますが、恐らく、後一時間ほどで限界を迎え、地面に倒れ伏し、身体を嬲られることとなるでしょう」

「それを私に救え、とでも?」ロリが詰まらなそうな顔で、話に入ってきた。

「はい」

「その9位の女は、自分で危機を乗り切ることすらできないのか。そんな詰まらん奴を下僕にする気は起きんが―――どうしてその程度の奴がお前のランキングで9位なんだ」

「面白い魔法特性をしているため、特例で9位に繰り上げました」

「誰とも戦っていないのに、か?」

「誰とも戦っていないのに、です」

「ふん…………」

 

 少し思案するように、ロリは顎に手を当てた。その表情からして、たぶん、彼女は自分のことしか考えていないのだろう。その少女を救うことが、得か損か。面白いか面白くないか。……まあ、いつも通りだが、このクソロリの行動原理とはそういうものなのだ。

 

「興が乗った。お前の口車に乗ってやろう、アレクラマス」

「ありがとうございます」

「だが、その女を救った後、その女のすべては私がもらう。どのような素性の女で、どこに住んでいて、どのような家族構成をしているかも知らんが、それらはすべて過去のものとなる。私の下僕で、それ以上でも、それ以下でもない存在にする。異存はないな?」

「私は構いません。彼女がどう思うかはわかりませんが」

「お前が構わぬのならば問題ない。その女に拒否権などはないからだ」

「ご随意に」

 

 少し会釈するように頭を下げる男と、にやり、と意地の悪い笑みを浮かべる女。

 

 ……なにやら、とんとん拍子に話が決まったようだった。

 どういうことだ? 一回整理してみる。

 アレクラマスの依頼は、ランキング9位の少女を助けること。ロリはそれを引き受けると言ったから、たぶん、俺もついて行くことになるんだろう。

 で、その助けた少女を、助けたことを引き合いに出して。

 人権とかを完全に奪って、ロリはすべてを自分のものにするつもりらしかった。

 

 ……あれ。このロリって、色々クソだけどヒロインなんだよな?

 

 それで、この不吉感半端ない男もヒロインの友人ポジションなんだよな? まるで悪役みたいな一幕である。俺たちがこれでは悪の秘密結社みたいではないか。まさか。まさかね。俺は主人公なんだから、そんなことはあり得ないだろう。

 ちょっと考え方を変えてみよう。

 今から俺とロリは暴行を受けている少女を助けに行くのだ。

 それで、身寄りのない(←想像)少女を保護するのだ! うむ。実に主人公っぽい。

 

 ……もしその女の子が真っ当な子で、普通の家族があって、それをぶっ壊してロリが「下僕にする!」と宣言して、泣き叫ぶ少女を無理矢理に誘拐したらどうしよう、と最悪な想像が頭の中を過ぎった。ま、まあ、そんなことは起こらない。たぶん。起きたらどうしよう。知らね。俺、知らねえ! そんな重い展開、いくら主人公っていっても俺には受け止められねーわ!




この話の主人公=ハーロックさん(ロリがここからどうやってヒロインになるのかわかんない)
この話のヒロイン=ロリビッチ(ラスボス系吸血鬼。悪者)
厨二ゲーの中ボス=アレクラマス(なんかランキングをつくってるひと。悪者)

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