普通の大学生エルフなんですが、ギャグ要員しかいない異世界に転移したせいでしんどいです   作:べあべあ

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第6話 のろけ話は聞くより、したいタイプです

 ガゴッ! ガゴッ! パフゥー! ガゴッ! やんややんや!

 

 壁を壊す音、そしてふざけた音。

 どうしたってギャグにしかならない世界らしい。早く帰りたい。こんな世界に長居してしまったら、私もギャグキャラと化すかもしれない。恐ろしい。

 

「エルフ様っ! 大変です」

「なんすか」

「合いの手のレパトリーが無くなりました」

「少なくないすか」

「慣れてないもので。――っく」

 

 何で悔しがってんの。宝くじを微差で外したくらいの悔しそうな顔するくらいなら、事前にレパトリー増やしておけばよかったのに。いや、そんなの無くていいんだけどさ。ていうか私が冷め顔アピールしてることに気付いてほしいんだけど。Wピースもいる?

 

「では突入します」

「どうぞ」

「え」

 

 有名なギャグだぞ。

 ギャグ要員のくせにギャグが分からないとは何事か。

 

「――っあ! これは失礼しました」

「はい」

「今すぐレッドカーペットを持ってきます」

「いらないです」

 

 ていうかガレキが散らばってるし、カーペット引けないよね。今から清掃作業するの? 

 さすがに待ってられない。

 

「もう行きましょうか」

「いえっさ!」

 

 悟りの道が開けそう。そうなったら本格的に宗教の開祖になりそう。……慈愛と美の神とかにしてもらおうかな。

 

 

 

 非文明的アクションで空けられた通路をくぐり抜けると、

 

 ぱふぅ! ぱふぅ!  ドンドンドン! やんややんや!

 

 盛大な音が鳴りました。

 

「――ちょっと」

「はい」

「せっかく裏口使ってるのに、こんな盛大に音を鳴らしたら意味ないじゃないですか」

「しかし、エルフ様の入場に無音というのはいささか」

 

 こんな賑やかな防犯ブザーがあってたまるか。

 急いで戻って、耳を澄まして警戒する。

 人が駆けつけてるような音はしてないので、どうやらセーフのよう。

 

「とにかくバレないようにお願いします」

「承知しました」

 

 気は取り直せないまま、また通路をくぐり抜ける。

 

 ぱふぅ。ドンドン。ゃんゃゃんゃ。

 

「ちょっと」

「はい」

「音を小さくするんじゃなくて、鳴らさないようにしてほしいんですけど」

「申し訳ありません」

「じゃあやり直しますよ」

「はい」

 

 そして、また通路をくぐり抜ける。

 すると、

 

「何やつ!」

 

 人がいました。

 

「騒がしいにも程がある! 何時だと思っているんだ!!」

 

 ですよね。なんかごめんなさい。

 でも私悪くないんです。悪いのはみんなの頭なんです。

 達観してるうちに、どんどん集まって来た。

 

「神聖な教会に忍び込む、――いや裏口から堂々と侵入するとはなんと愚かな奴らか!」

「分かる。すごく分かる」

「は?」

 

 えらい感じのおっさんなんて、嘘くさい戯言しか吐かないと思ったけど、今回に限ってはすごく分かる。分かり味がすごい。

 

「あ、エルフなんですけど」

「――馬鹿な。そんな訳がない」

「なんでですか」

「もし本物であれば、もっと盛大な入場音だったはず」

「なんでよ」

 

 ほら訳が分からないこと言うから、周りの人たちが「っく!」ってすごく悔しそうな顔でうつむいちゃったじゃん。

 

「それに本物であれば夜を感じさせないほどの光を発してるはずだ」

「めっちゃ迷惑じゃん。夜歩けないじゃん」

「それほど凄いと言っておるのだ。まったく近頃の娘はこれだから……」

「近頃のおっさんはモノを知らないくせに偉ぶるんです?」

「なんだと。私ほどモノを知ってる者はおらんぞ」

 

 ムッとした表情になった。もしかしたらプライド的なところに触れてしまったのかもしれない。

 

「森羅万象とは、すなわちエルフ様。つまり、世界一のエルフ信者である私はこの世界の誰よりも知を愛し恵みを受けている」

 

 世界一の信者さんは、目の前のエルフに気づかないようです。ここですよー。ここに世界一の存在いますよー。

 

「それにエルフ様人形も作ったし、エルフ様団子も作った。どうだ、これでも私が無知だとでも?」

 

 無知っていうか無恥だよね。むちむちだよね。

 とかなんとか思ってると、ギャグ要員の人たち騒ぎだした。

 

「無知かどうかは関係ない! ――しかしお前が無恥であることは事実だ」

「そうだそうだ」

「お前たちはエルフ様を冒とくした!」

 

 無知と無恥。やばい。この人たちと同じセンスなのかもしれない。ちょっと良い表現だと思った自分が恥ずかしい。

 

「――言いがかりは止めてもらおうか。いくら温厚な私でも、そのようなことを言われると我慢ならない」

 

 ムッとしてた顔が、さらにムッとした。こわい。

 

「では答えてもらおうか」

「さっさと言え。質問次第では分かっているだろうな」

「ふん。その威勢も今のうちだ。お前たちの犯した罪をこちらは握っているのだ」

「だからさっさと言え」

 

 ここまで自信満々だと、本当に後ろめたいことなさそうに思えてきた。

 

「……お前たちは、あろうことかエルフ様の偽物を用意した。それが罪だ。死罪に値する重罪である」

「いったい何を言っているのだ?」

「昼間の広場で我々は見た」

「……ああ、あれか」

「言い逃れできまい」

「する必要もないな」

「まさか本物と言い張るのか!?」

「いいや、まさかそれでは本当に偽物を用意したことになる」

「ならばあれは何だったのだ」

「あれはコスプレだ」

 

 こすぷれ?

 

「子供がエルフ様ごっこ遊びをするだろう? あれを大人が真面目にやったパターンだよ。もちろん街の民はみんな知っている。そのうえでみんな拝んでいたのだ」

 

 こすぷれ?

 

「分かるだろう? この世界にエルフ様が訪れたという話を聞けば、子供の遊びだろうがなんだろうがエルフ様気分を味わいたくなる気分が」

「たしかに分かる」

 

 分かるな。

 

「それにああやって盛り上がっていれば、もしかしたらエルフ様がこの街に訪れるかもしれない。そしたら一目見れるかもしれない。この信仰が届くかもしれない。この想いは間違っているのか?」

「間違っていない」

 

 間違っててほしい。

 

「さて誤解は解けたわけだが、この壁とあらぬ嫌疑をかけた代償はどうしてくれる?」

「……壁は弁償しよう」

「嫌疑はどうする? そこが本命だぞ。この私のエルフ様の信仰を侮辱したに等しいのだから」

「たしかにそうかもしれない」

 

 そうかもしれなくない。

 

「しかし、こちらにも事情があったことを察してほしい」

「ほう? エルフ様に関係することというのなら、酌量の余地をやってもいい」

「ではやり直ししてもいいだろうか」

 

 おっさんが首を傾げた。私も傾げたい。

 やり直すって、そういうことだよね? 分からないふりしてたい。

 

「……先に言っておくが、気は確かに保っておくといい」

「ほう?」

 

 この状況で正体表すって、そこそこ地獄なんですけど。もう大体その後の反応とか分かるし。

 

 

 

 

 どこどこどこどこ!

 太鼓の音。

 フラッシュモブみたいに皆が踊りだす。

 

 ぱふ! ぱふぅー!

 ラッパの音。

 踊りが激しくなる。

 

 やんややんや!

 喝采。

 跳ね始める。

 

 なんか運動会でも似たようなのあったな。よく分からなかったけど、あれは何だったんだろう。運動会といえば、明らかに関係者じゃない人がいっぱいきてたな。めっちゃ見られた。写真も撮られた。その後、投げ網漁のように警察に一網打尽されてた。めっちゃ笑った。

 っと、現実逃避してる場合じゃなかった。

 いつのまにか私が中心になるように囲まれていた。

 劇とかだと真打登場みたいなやつ。劇では役を演じるのだろうけど、現実でも演じらなければいけないことになるとは思わなかった。黄門様のメンタルはさいつよだったんだなぁ。

 

「あ、どうもエルフです」

 

 フードを取る。

 

「え」

「どうも」

 

 目を白黒させるというのはこういうことをいうらしい。焦点があってなくて、眼球が激しく動いてる。

 

「ぁえ? ぁぇぇえぇぇぇ???」

「はい」

 

 これが動画だったら早送りするのに。

 

「ほほほほほ本物!?」

「そっすね」

「しょ、少々お待ちを!」

 

 返答する前に、猛スピードで走り去っていった。

 

「――エルフ様、大広間に移動しましょう」

「待つように言ってなかったっけ」

「はい。しかしエルフ様が待つにふさわしいところは大広間しかありません。あの者もそのつもりでしょう」

 

 そうかな?

 

「我らも準備がありますので、向かいましょう」

「向かうのは分かったけど、準備は無しね」

「っ!?」

 

 壊した通路をくぐり、教会の大広間へと向かう。

 あわただしく駆け回る教会の関係者っぽい人たちとちょいちょいすれ違う。「はわわわわ」とか言ってる。若い女の子はいいけど、渋いおっさんも言ってる。頬を赤らめないでほしい。視覚の暴力って言葉をプレゼントしたい。

 大広間につくと、既におっさんが待っていた。本当に大広間で当たりだったらしい。異世界の常識は異常識だ。

 

「ご足労申し訳ありません」

「いえ」

 

 おっさんの隣には、昼間エルフのコスプレしてた女の人がいた。こんなに美少女然とした人も珍しい。エルフのコスプレも似合ってたし。

 

「こちらは妻です」

「そうすか」

 

 顔が釣り合ってない。どうせ汚いコネでも使ったんだろう。

 で、これからどうなるの。まさかのろけ話が始まったり? その時は怒髪天を衝き破っちゃうよ。

 

「どうも妻です」

「はい」

 

 跪き、拝まれる。

 

「エルフ様に会うことが出来て感激極まっております」

 

 でしょうね。目が潤んでるもん。

 

「この人ともエルフ様のおかげで出会うことが出来ました」

 

 なんでよ。私そんな罪深いことしたわけ? こんな美少女をこんなおっさんとくっつける手伝いを知らずにしちゃったわけ? 土下座? ジャパニーズ土下座する???

 

「そもそも出会いは――」

 

 どうしよう。本当にのろけが始まった。政略結婚みたいなのだったらよかったのに、めっちゃ恋愛結婚らしいんだけど。私的には、純情ラブストーリーより昼ドラドロドロストーリーの方が好みなんですけど。しかも出会いのきっかけになったとかいうエルフ愛好会ってなに。会費とか要求していい? ウルトラ高額請求してやりたい。


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