英雄伝説 光の剣神   作:八葉と黒神の剣聖

20 / 29
第20話

 ≪緋≫と≪紫紺≫からの戦いから1週間。俺達は2年振りにレグラムへと帰って来たのだが……。

 

「お帰りなさいヴィクトリア様」

「あぁ……ただいまルーチェ」

 

 出迎えたルーチェの笑みの向こうにどす黒い何かが見える。これは相当怒ってる。隣にいるシリウスも一歩下がったところで引いてるし。

 

「その……元気そうで良かった」

 

 いつものように頭を優しく撫でる。いつもならこれで大丈夫だが今回はそうはいかなかった。

 

「今回は簡単には許しませんよ」

「……うん。説教はまた後で聞くよ。取り合えずリアンヌと話をしてくる。レイのも伝えて置いてくれ」

「りょーかい。ま、ルーチェの事は任せておけよ」

 

 頼もしい一言を聞いてからローゼリアと共にローエングリン城に。その途中だろか。視界が黒く染まり、頭に声が響く。

 

 

ーキエロ。メザワリナヒカリメ。

 

 

「っぅ!」

 

 何か思念の様な物が襲ってくる。思わずその場で膝を付いてしまい、額から血が流れてくる。

 

「ヴィクトリア?どうかしたか?」

「いや……大丈夫だ」

 

 気付かれないように血を拭う。とても強い悪意に満ちた思念。どこかで感じたことがあるような気がする。一体どこだったか。

 

「お帰りなさいヴィクトリア。ロゼ」

「ただいまじゃリアンヌ」

「……」

「ヴィクトリア?」

 

 気になって仕方が無い。なんせ今まで感じたことが無い事だ。誰かに恨まれたり等は……ない筈。だとするとさっきの悪意に満ちた思念の正体は何だろう。

 

「どうかしましたかヴィクトリア?」

「……あ。済まない。少し考え事をな。取り合えず報告だ」

 

 切り替えてこの二年の事を報告。その上でこれからの事を考えるが、先程の思念が頭から離れない。

 

「では暫くはレグラムで待機ですね」

「あぁ。ルーチェ達とゆっくりさせてもらう。ヴィクトリアもそれでよいな?」

「……構わない。その辺りは任せる。済まないが少し里に行ってくる」

「……そうか。早めに帰ってこい」

「あぁ」

 

 転移術を唱えて里に移動。そのままエル・プラドーの元へと足を運び声を掛ける。

 

「久しぶりだなエル・プラドー。少しいいか?」

『どうした我が友』

「うむ。どうしたものか……少し話しづらい事でな。ロゼ達には話さないでもらえるか?」

『承知した。私とそなたの秘密話だな』

「頼む。実はーーー」

 

 先ほど襲ってきた悪意の事を話す。エル・プラドーは何も言わずに聞いてくれた。こういう時にローゼリア達に話す事が出来ればいいのだが……男として情けない。

 

「と言った事情だ」

『そうか……(ふむ。やはり干渉してきたか。早々に私の呪いを除去したのが切っ掛けだろうが……話すべきか。呪いとイシュメルガの悪意について)』

「本当に情けないな。支えてくれる人が近くにいるのに俺は頼れない。最低な男だよ。ある意味ではローゼリア達を信頼してない証だ」

『……(ヴィクトリアの悪い所が出ているな。1人で抱え込む悪い癖が)』

「どうしたらいいと思う?」

『ふむ……』

 

 エル・プラドーは俺の顔を見つめてくる。暫く視線を合わせた後に後ろに視線を向ける。そこで背後に誰かがいる事に気付き振り返る。背後にいたのは大切な人(ローゼリア)だった。

 

「どうかしたか?」

「リアンヌに背中を押されての。しかし珍しいな。エル・プラドーに相談とは」

「彼より自分にして欲しいって言ってるよな?」

「分かっておるではないか」

 

 さーてどうしようか。素直に話すべきか否か。そもそもローゼリアが知っているはずがない……とは言い切れないのが悔しい。この秘密主義は絶対何か知ってる。

 

「ルーチェの反抗期。どう接しようか考えてる」

「今回ばかりはお互い様じゃろ」

「だな。シリウスがいてくれて助かったよ」

 

 上手く誤魔化す。あぁ、これが俺の短所か。分かっていても変える事が出来ない。

 

「だから大丈夫だ。気にするな」

「分かった。折角だしこのまま散歩でもするか。気が晴れるぞ」

「え?」

 

 ローゼリアが右腕に抱き付きそのまま回廊へと転移。ズルズルと引きずられて向かったのは一本の幻想的な樹。高さは15アージュ程だろうか。

 

「これは……霊力を吸って成長しているのか」

「そうじゃ。ルーチェが植えた物での。僅か3年でここまで成長しよった」

 

 それは凄いな。それにしては成長し過ぎな気がする。大丈夫だと思いたいが何かあればローゼリアが何とかするだろう。

 

「ちなみにこの樹に込められた霊力は使用可能じゃぞ。いざとなれば騎神に使う……というか定期的に使わんと周りに影響が出る」

「おいおい……」

 

 そんな危ない物を植えさせるなよ。全力で言いたいのだがルーチェも何か考えがあっての事だろう。しかしこの樹。随分霊力を溜め込んでいるな。

 

「少し貰うとかアリか?」

「まぁ。少しぐらいなら」

 

 ガランシャールを取り出し樹に向けると、ガランシャールと樹が淡く光る。そして樹から光が溢れ出てガランシャールに吸収され、刀身が黄金色に変化する。

 

「……なんか変わったな」

「……じゃの」

 

 2人揃って変化に驚くが樹に変化はない。ガランシャールに吸収された霊力は本の一部の様だ。それでも途轍もない力が宿っている訳だが。

 

「シリウス相手に試し斬りするか」

「その前にもう少し歩くぞ」

「お、おい」

 

 再び引っ張られる。今日のローゼリアはいつもより積極的な気がする。何だろう。少し懐かしいというか久しぶりの感覚だ。この感覚はローゼリアと旅をしていた時以来か。

 

「ふむ。この辺りでよいか」

「ん?」

 

 ローゼリアは草原に座り、自身の膝を2回叩く。俺はその場から逃げようと試みるが、ローゼリアは呪文を唱えてゆっくりと引き寄せてくる。

 

「ちょ!」

「こっちに来い!」

 

 そのまま何も出来ず強制的に膝枕をされる。この状況下でよくこんなことが出来る。彼女なりの気遣いなのかもしれないが、出来れば今は控えて欲しい。

 

「あまり気負うな。貯め過ぎは良くない」

「何も貯めてない。この二年が濃かったのは認めるが」

「ふふ。思ったよりヌシの名が広まっておったの。妾としてはとても嬉しい」

 

 嬉しそうに微笑むローゼリア。とても眩しい彼女の笑顔。喜んでいるのが良く分かる。彼女の言う通り、俺の剣を求めて接触してくる連中が多かった。大半が他の軍勢を打倒するために。

 

「所でヴィクトリアよ。妾は何時まで待てばよい?」

「待てばって……あぁ。えっと……」

 

 意味に気付いた俺は口ごもってしまう。その代わりに心臓の鼓動が早まっていく。さてどうするか。

 

「妾から色んな初めてを奪っておきながら証を示さんのか?」

「……いつになく積極的だな」

「悪いか?」

「いや……まぁ」

 

 答えにくい質問を。完璧に主導権を握られている。男としてどうするべきか。俺とローゼリアの生きる年数を考えると待たせすぎるのは良くないか。

 

「この戦争が終わったらでいいか?」

「……遅い。死んだらどうする?」

「死なない。誰が俺を殺す?例え≪緋≫が魔王に昇華しても負けない。俺は≪光の剣士≫闇には負けないさ」

 

 右腕を伸ばしローゼリアの頬に触れる。優しく撫でていると、彼女は瞼を閉じて顔を近づけてくる。俺は右腕を頭に回し顔を近づけて唇を重ねる。

 

「あれ?ちょっと甘い?」

「むっ。甘い物を食べたからか」

「甘い物ね……太るぞ」

「……ほぅ。女にそのような事を言うとはな。後で覚悟しておけ。簡単には寝かさん」

「明日に影響出ないように。起こさないからな」

 

 釘を刺してからもう一度唇を重ね、1時間程話をしてからアトリエへと戻るのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「今日も問題は無いか……」

 

 右薬指に嵌めている指輪に光を送る。特に異常はなく安堵の息を漏らすと、隣で寝ていたローゼリアが目を覚ます。

 

「んっ……どうした?」

「済まない。起こしたか」

 

 掛け布団で体を隠しながら状態を起こし、体を預けてくる。俺は優しく頭を撫でつつ指輪に異常が無いかを調べていたと説明。それを聞いたローゼリアは指輪に触れて霊力を流す。

 

「確かに問題は無さそうじゃの。せめて正体さえ分かればよいのだが」

「そうだな」

 

 この指輪の正体はまだ分かっていない。教会に聞けたらいいのだが、色々と事情があるらしく聞けずじまい。危険な物では無い事だけでも分かっているからいいか。

 

「しかし、おヌシは色んな存在に好かれるの。妾を含めアーティファクトに騎神。一体何に惹かれているのやら」

「本当だよ。こんな剣しか取り柄の無い男の何処に惹かれたか」

「それ以外にも良い所はあるじゃろうが!」

「おっと!」

 

 体に抱き着き寝かしてくるローゼリア。互いの体が密着し、体温と感触を強く感じ、心臓が強く高鳴る。それはローゼリアも同じなのか、数分前より頬が赤く体が熱かった。

 

「さっきより熱くないか?」

「まだ足りんのかもな?体は正直と言うじゃろう?」

「流石に無理。あれだけ霊力……等吸い取ったら十分だろう」

 

 優しく頬を撫でて唇を重ねる。少しずつだが今の関係にも慣れてきている。色々と他にもやる事はあるが、それはこの戦いが終わってから。その為にも……。

 

(この帝国の闇を黄金の光で照らしてみせる。それが俺のやるべきことだ)

 

 心の中で誓い、改めて覚悟を決めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。