エリンの里滞在2日目。朝早くからエル・プラドーの元へと来ていた。彼とは半年振りに会う。何か変化があると思っていたが大して変わっていない。変わったことと言えば、流暢に話していることだろうか。これに関してはかなり驚いてしまった。最初に言葉を交わした時は少し棒読みだったのに、この半年で人と同じ様に話せるようになるとは……ちょっと聞いてみるか。
「この半年で流暢に話せるようになったけどどうしてだ?」
『そなたの力が強いからだろう。試しの時よりも力が向上している。内に秘めた異能に関しても』
「異能……?」
異能って確か産まれた時から持っている特殊な能力だったか。少なくとも身近にはいない。エル・プラドーは俺がその異能を持っていると言ったが初耳だ。持っていることすら今まで知らなかった。どんな異能なのだろう。気になるが異能が発動した感覚は一度もない。子供の頃から今まで大した変化もだ。
「その異能とやらは日に日に力が増しているのか?」
『あぁ。輝きが増している。そなたの心に宿った光が』
「と言われても……そういえば昨日ローゼリアも言ってたな。どうしようもない時は俺の光の剣と心に頼るって。その光の心ってなんだ?」
エル・プラドーに訪ねると、彼は俺の心臓辺りを注視する。1分程経つとエル・プラドーは小さく頷き言った。
『今はまだ言えない。だが、そなたや仲間が窮地に陥った際に覚醒するだろう」
「窮地……な。そうなった時はまず君に頼るよ。それに旅を再開したらレイヤと合流するしルーチェも加わる。大きな壁が立ち塞がってもみんなで乗り越えるさ」
『うむ。頼りにするといい。我もそなたの事を頼りにしている』
「おぅ。それじゃまた明日来るよ」
エル・プラドーと別れ里りアトリエに入る。ローゼリアの話ではここでルーチェに魔術を教えると言っていたが……。
「誰もいない……気配すらしないのだが」
アトリエには誰にもいない。外に出ているのかと考えたが修行初日からそれは……いや、ローゼリアの性格を考えるとあり得そうだぞ。俺の時も修行の一環と言ってえげつない魔獣や理不尽な枷を掛けての手合わせもあったし……。探しに行くか。
アトリエを出て向かったのは転移石。それに触れて外界に繋がる空間に転移。この場所から帝都やミストリア大森林、他の場所にも転移できる転移石がある。それと魔女を鍛える迷宮もあるらしいがそちらには行った事がない。まずはそっちから行くべきか。しかし、この場所には魔物が沢山いる。稀に幻獣なども出て来るらしいが……。
「この場合両方か。まずは周囲を探って……とはいかないか」
背後から感じる強い霊圧。振り返った先にいたのは植物の球根に触手が生えた大きな幻獣。毒やら痺れやらを付与してくる厄介な奴だな。では討伐するとしよう。
「来いガランシャール」
ガランシャールを顕現させ左手で掴む。いつものように構えて闘気を放つと、幻獣が触手で左右から同時に叩きつけてくる。一歩踏み出し横なぎに一撃。触手を斬り落としそのまま斬撃を放つ。
「光覇斬」
斬撃が幻獣を真っ二つに切り裂くが幻獣は消えない。どうやら耐えたようで周囲の霊力を吸収し回復。傷も完全に癒えてしまう。ふむ、久しぶりに手応えの有る奴だな。
「なら少し本気を出そう。我が光凰剣の進化をここに」
剣をゆっくりと上げ周囲から霊力を集め光に変換し剣に集約。時間にして1秒ほど。幻獣からすればほんの一瞬だろう。ぶっつけ本番でやってみたが変換と集約の速度を上げれば高威力の斬撃を常に維持できそうだ。
「終わりだ。奥義・光凰神剣」
剣を振り下ろし光を放つ。光凰剣より遥に威力の高い斬撃が幻獣を飲み込み塵と化す。少しやり過ぎたか。もう少し加減を出来るようにならないとな。
「さて。2人を探すか」
周囲を索敵。気配を飛ばして探ると、思ったより近くから戦闘の気配を感じてその場所へと向かう。そこは少し開けた場所で、ローゼリアが見守る中ルーチェが小型の魔物と戦っていた。いきなり実戦とはよくやるよ。ある程度基礎は教えているとは思うが……。
「いきなり実戦は早いだろ」
「ん?あ奴なら問題ない。基礎を教えたら30分程で覚えた。見た時から気になっておったが中々の才じゃぞ」
嬉しそうに話すローゼリア。そういえば以前言ってたがエリンの里も才能がある人物しか見つけられないって言ってたか。後は騎神の起動者とその関係者。色々と知りたい所だがローゼリアが話す訳が無いので自分で調べるか。
「しかし魔術ってのはあまり分からないな。魔女の過去は知ったけど原理が分からん。霊力を利用している事は分かるが」
「その魔術を正面から粉砕したのは何処のどいつじゃ?危うく
「良く言うよ。あの終極魔法は死ぬかと思ったわ」
騎神の試しの前でローゼリアと手合わせした時の話し。軽い運動のつもりだったが、互いに熱くなってしまい気付けば周辺が悲惨な状態になっていた。まぁ……彼女の終極魔法は正面から粉砕してやったが。
「妾の魔術を正面から粉砕する奴はヌシが初めてじゃ。次やるときは妾がヌシの剣を粉砕するから覚悟しておけ」
「やれるものならやって見ろ……と、どうやら終わったみたいだな」
話をしている間にもルーチェが魔物を倒す。周囲を見渡し魔物がいないのを確認してからルーチェは近づいてくる。
「討伐出来ましたロゼ様」
「うむ。中々じゃったぞ。ヴィクトリアも褒めておった」
「本当ですかお父さん?」
「うん。まだまだ甘い所はあるが上出来だ……て(やっぱりお父さん呼びか)」
この事に関してはあまり言わないで欲しい。ローゼリアと話しあった結果だ。彼女が養母で俺が養父。別に嫌では無いし保護したからには責任を持たないといけないのだが……これはレグラムに帰ったら親父に色々言われるな。
「えと、お父さんはどうしてこちらに?」
「あぁ。そろそろ昼時だから呼びに来たんだ。休むのも鍛錬の1つだからな」
「そうじゃの。後は自主的にこなすがいい」
「はい!ではまた明日お願いします」
礼儀正しくお辞儀をするルーチェ。ローゼリアが少しこそばゆそうにしているのを見届けてから里へと戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ……見回りはこれぐらいでいいか」
里周辺の見回りを行っていた夜。ミストリア大森林に違和感を感じ足を運んでいた。幸いにも特に何もなく一安心。森も静かなので良かった。しかし……流石に11月ともなると寒いな。いつもは白亜の甲冑を身に纏っているが今は整備中。分厚いコートを羽織っているが少し寒い。
「ま、それもまたいい。夜空も綺麗だしな」
空には星が輝いている。決して陰ることの無い輝き。まるでエル・プラドーみたいだな。輝いていると言えば俺の心も輝いているとローゼリアとエル・プラドーが言ってた。それが俺の異能であると。うん……気にはなるがあまり考えないようにしよう。沼に嵌まる事になるだろうし。
「帰るか。ミネルヴァもいないし今日は手紙が来ないのだろう」
ローゼリアから譲り受けたフクロウの使い魔・ミネルヴァ(命名リアンヌ)。近くにいれば感じ取れるのだが、気配が無いという事はリアンヌかレイヤの所か。元気だといいが……。
「ま、あの2人なら大丈夫だろう。レイヤが面倒事に巻き込まれていないといいが……あのボクっ娘なら大丈夫か。お家の追っても二度と来ないし。うん、その辺も考えないとな」
本当にやる事多いな。レイヤの事もそうだが多すぎる。一つ一つ片付けて行くか。先はまだまだ長い訳だし。その辺の相談も改めてローゼリアにしよう。特にレイヤの件は念入りに。
「しかし……結構冷えるな。早めに帰って熱いお茶でも入れるか」
駆け足で里へ戻る。屋敷に入りお茶を淹れるために台所へ向かおうとすると、アトリエの電気が付いている事に気付く。中からローゼリアの気配と魔力を感じる。
「まだ起きてるのか。ついでに淹れるか」
俺とローゼリアの分のお茶を淹れてアトリエに入る。中ではローゼリアが本を読みながら魔術の開発をしている。気付かれないように湯飲みを置き、壁にもたれてお茶を飲んで見ていると、ローゼリアは本を閉じ軽く息を吐いて言った。
「まだ起きておったのか」
「それは君もだろ?徹夜すると体に悪いぞ」
「要らぬ心配だ。ヌシこそ休んでおけ……ふわぁ……」
大きな欠伸をするローゼリア。疲れているのはどっちだと言いたくなってくる。私生活もそうだが放って置くと絶対に倒れるのが見えている。誰かが歯止めをかける必要があるのだが……言っても聞かないだろうな。
「あまり無理をするなよ。いくら不死だからって倒れる時は倒れるからな」
「分かっておる。区切りをつけて休むから気にするな」
「……そうか。冷えるから風邪ひくなよ。お休み」
「お休みヴィクト。良い夢を期待しておる」
「……あぁ(珍しいな。愛称で呼ぶなんて)」
珍しいと感じつつ、屋敷内にある俺の部屋へと戻って行った。
エル・プラドーとの会話。里での話はここまでです。どこかで騎神に乗せないと……
では次の話で。