ルーチェの修業が始まり半年。彼女の成長速度は俺達の予想を上回り、気付けば幻獣クラスを1人で倒せるようになっていた。流石に俺やローゼリアから一本取るまでには至っていないが一人前と言っても過言ではない。本当に6歳なのかと疑いたくなるが……その辺りは言わない方が良いだろう。リアンヌも幼少期の頃から才能を開花していたし。
そんな訳でルーチェはローゼリアの最後の試練も難なく突破。彼女から杖も授かる。ルーチェは『私には木の棒で十分です』と全力で杖を受け取ろうとしなかったが、ローゼリアが囁いた一言で素直に受け取った。何を言ったのか気になったが放って置こう。
そして次の日に旅を再開することになり、ローゼリアから赤い宝石が付いた首飾りをお守り代わりに受け取って再開を約束し、
「さて……あのボクっ娘は何処にいる?」
「レイヤさん……でしたか。ローゼリア様から愉快な方と伺っています」
「愉快というより面倒事に巻き込まれる体質だな。リアンヌ並みの容姿に箱入り娘だったから巻き込まれるし首を突っ込む」
「確か貴族のご令嬢ですよね。お父さんと一緒に居る前提で外に出る事を許されたと。どうしてです?」
出来れば答えたくない。ルーチェにはまだ早い話だし俺としてもちょっとした黒歴史だ。初めて会って早々にあんな事を言われるとは予想もしていなかったしな。
「その辺りはまた今度だ。聞きたかったら本人に聞いてみろ。嬉しそうに話すさ」
「どうしてですか?」
「それは……」
と言いかけた時だった。
「だーれだ?」
「……」
いきなり視界が暗転し背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。加えて背中に体を押し付けながら耳元で囁いてくる。
「ふふ……誰か分かるかな?」
「……」
「ちょっと、反応してよ聞こえてる?」
「……ルーチェ」
「はいお父さん。一発殴ります」
「えぇ!?」
慌てて距離を取る誰か。余程殴られるのが嫌なのだろう。だったら初めからしなければいいのだが彼女に言っても意味がない。言った所で辞めないし。だが今回は良かった。お陰で探す手間がなくなったし、久しぶりの再会だし多めに見よう。
「久しぶりだなレイ」
振り返りながら名前を呼ぶ。赤色のショートヘアに銀色の瞳、彼女の名はレイヤ・ヘヴン。ある有名な貴族の一人娘。彼女については先ほどルーチェに話した通りだ。出会いについてはまた後程。
「久しぶりだね愛しの君。とても会いたかったよ」
「元気そうだな。相変らずみたいだけど」
「いいじゃないさ。君とボクの仲だろう?これでも控えたつもりさ」
右人差し指を唇に当て右目を閉じ微笑む。性格さえ良かったら普通にいい女なのだが……。家事も一通り出来るし、面倒見もいいし。その辺りの男ならすぐに落とせると思うのだが。
「また男前になったね。どうかな?そろそろボクと……」
「それはまた今度な。まさかと思わないが親父さんに変な事言ってないよな?」
「ん?近い内にいい報告出来るって言ったけど?」
「おい!」
何言ってんだこの女は!と思わず言いたくなるがぐっとこらえる。彼女との出会いを考えるとあまり強く言えないから上手く流そう。
「立ち話もあれだし近くの店に入ろう」
「いいよ。その子と話をしてみたいし」
「よし。行こうかルーチェ」
「……はい。(もしかしてこの人って……)」
(ん……?)
ルーチェが少し不満そうな表情を浮かべている事に気付く。心配して聞くと、『大丈夫ですよ。ちょっと問いただしたい事があるだけで』と6歳とは思えない笑みで言った。この半年で色々と立派になったな。今では私生活がだらしないローゼリアを説教するぐらいだし……我ながら恐ろしい子を保護したな。
そんな事を思いながら近くの酒場に移動し、3人揃って紅茶を頼み一息付くと、隣に座っていたルーチェが真剣な顔でレイヤに聞いた。
「レイヤさんとお父さんはどういった関係ですか?」
「っ!?どうしたんだいきなり!?」
「おや?興味あるのかな?」
予想外の事を言い驚く俺に対してレイヤは嬉しそうに笑う。これは嫌な気配がする。あられも無い事やルーチェにはまだ早い事を言う可能性が高い。ここは慎重に……。
「俺とレイは親友だよ。決してルーチェが思っているような関係ではない」
「そんなことは無いさ。ボクを誘拐して貰ってくれたじゃないか」
「誘拐?貰った?どういうことですか?」
「それに関しては俺は悪くない!」
全力で批判。この事に関してとても長くなる。あのローゼリアですら心の底から呆れて無視しようと言ったほどだ。かといって当時の俺は色々と抱えていたレイヤを放置するわけにもいかず、彼女の言葉に乗ったのだが運の尽き。後から恐ろしい事になり悩みの種になるのだが。
「ルーチェ。あの件は俺も悪いし詳しく言わなかったレイも悪い。最初から話してくれていたらあんなことにはならなかったんだ」
「それは悪かったって謝ったじゃないか。流石のボクも悪いと感じているよ」
「その割には俺と親父さんの話をニヤニヤしながら見てたよな?」
「ふふ。中々愉快だったからね。でも結果的には良かったさ。こうして外に出られて君と一緒に居れる。後は口説くだけ」
出来れば辞めて欲しいのだが彼女は本気だ。どうしても自分の物にしたいらしく、隙あらばあの手この手で攻めて来る。それは一時期一緒に旅をしていた時も同じでローゼリアの目が無い時は距離感が殆ど無かった。一体俺のどこがいいのやら。
「所でロゼは元気?どこかで会いたいと思ってるけど」
「暫く寄る予定はないな。色々と頼まれてるし」
「はい。お母さんに各地に回って調査して欲しい事があると。まずはオスギリアス盆地ですね」
「盆地ってミルサンテの近くだよね。最近行ったよ。妙な空気が漂っていた。少し寒いというか何かでそうと言うか」
少し気になるな。オスギリアス盆地と言えば古代遺物が度々発掘される場所だ。ローゼリアと一度行った事があるが、その時も妙な箱を見つけてローゼリアが教会の知り合いに渡していたな。
「急いだ方がよさそうだな。すぐにでも行こう」
「ですね。レイヤさんもいいですか?」
「勿論。会計はボクがするから先に出てて」
「了解だ。ご馳走様」
会計をレイヤに任せて店を出ると、ルーチェが服の袖を掴んでくる。何かあったのか思っていると、彼女は何か言いたそうな目を向けてくる。これはまずいな。うん……。
「もう一度言うけどレイヤとは何もないよ?」
「そう見えません。レイヤさんはお父さんに惚れています。お父さんにはロゼ様がいるのに……」
ん?今可笑しい事を言わなかったな?俺の気のせいだよな?ローゼリアがどうこうと言っていた気がするが……気のせいだよね?
「もしかして浮気ですか?」
「は……?浮気?何で?」
「それは……私のお母さんはロゼ様でお父さんはヴィクトリア様。すなわちお二人は夫婦ですよね?」
「………は?」
いや……どうしてそうなる?確かに俺とローゼリアは仲が良いけどそんな関係ではない。父と母に関しても彼女と話し合って決めた事。もしかすると俺とローゼリアが仲良くしている所を見て勘違いしたのかもしれない。しかし……俺とロゼが夫婦ではない事を言うのはちょっと応えるが……きちんと言わないと。
「ルーチェ。俺とローゼリアは仲いいけどまだ夫婦ではないんだ。でも俺もお母さんもルーチェの事は本当の娘と思ってるよ」
「……あぅ」
優しく頭を撫でると、ルーチェはとても恥ずかしそうに照れて顔を隠す。我ながら恥ずかしい事をしているな。周りに人がいないのが幸いだ。それにしても本当に可愛いな。本当に奴隷だったのかと疑いたくなる。
「そういう事だから心配するな。レイヤの想いは嬉しいけど俺には重すぎる。それに……まだ結婚する気はないしね」
「ではいつかご結婚なさるのですか?」
「どうだろな。でも……」
いつかは所帯を持つ日が来るのだろう。それがいつになるかは分からないが今は置いておこう。少なくとも暫くは独り身だ。まだ考える必要もないだろうし。
「今はない。暫く自分のやりたい事をやって自分の剣を極めたい」
俺はまだ18歳。人生もまだまだこれからだ。剣を極めた先にある物を見たいし、エル・プラドーと共に帝国を見て周りたい。彼に選ばれた人間として誇れるようにならないといけない。
「そんな訳だから宜しく頼むよルーチェ」
「はい。ロゼ様以上に支えて見せます。編み出した光の魔術で」
「あぁ!それじゃあレイが来たら行こう」
レイヤが出て来るまでオスギリアス盆地までの道を確認し、彼女が出てきてからオスギリアス盆地に向かうのであった。
声のイメージ
ヴィクトリア 2代目ブライト艦長 (ガンダムUC)
ルーチェ シノンを少し高くした感じ (SAO)
レイヤ プロトマーリン (FGO)
あくまでもイメージです。