セ界と世カイ   作:痲歌論

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11話。
抱えていた闇。抱えていた悲しみ。


ダブルリベンジ

鎖が引っかかっている壁が倒れた。

俺とジグマは下敷きになった。徐々に圧迫され、息が苦しくなるなか、奥から足音が聞こえる。

姿を表した人影の正体は、五十嵐摩帆。死を司る2つの力を引き継ぐ者。

鎖を引っ張り手に取りパーカーのポケットに鎖を入れる摩帆。

「あんたたち、摩帆の心に付け入ってなんのつもり? 

あんたたちが収められることじゃないよ。それに、見られたくないから…」

 

最後の言葉をボソッと言ったことを俺は逃さなかった。

どういうことだ……? そう俺は問う。

すると、摩帆は鎌を思いきり握り、涙を少し溢していた。

「……ないでしょ。」

 

ジグマは聞こえなかった部分を聞こうとする。圧迫されているため、息は荒く、そろそろ限界が来ていた。

呼吸がうまくできない……このままじゃ下敷きになってなにも出来ずに死ぬだけかよぉ…。そんなこと琳多が許すわけねぇ!ぜってーにジグマとともに脱出してやらぁ!!! 

ジグマは聞こえなかった部分を聞くと摩帆は怖い顔をして俺たちを睨んだ。

そして怒鳴り声のような、すすり泣くような声が響いた。

様々な感情が入り混じってる。もしかして、摩帆の心の声か!? 確かこいつは心を読むのを力を使わずに読み取ることができたな。それだったら、俺が心を読んでやる。

「なぁ摩帆。今から合戦と行こうじゃねぇか。」

 

倒れた状態で手と足に思いきり力を入れ、壁の一部を破壊し立ち上がった。

ジグマも同様に壊し、翼を広げ高く飛んでいく。見えなくなるくらいに飛んで行った。

「ハッ、これで一対一だな。正々堂々やりあおうじゃねぇか!!」

 

俺が一歩目を切ると地面がいきなり崩れ、片足が抜けなくなった。

前髪で顔がよく見えない…、一体何を企んでやがる摩帆……。

俺の目の前まで来ると笑顔で

「しっかり殺してあげるね。」

 

早く、足を抜け!! なんで抜けねぇんだ!? 

俺は埋もれてる足を激しく動かすが、地面はみじんも崩れない。というかさらに固まってる気がする。

前を見ると、摩帆が鎌を高く振りかぶっていた。このあと確実に俺に振ってくる……。なら、俺のお得意でぇ!! 

摩帆は予想通り思いきり振ってきた。摩帆が振ると同時に俺は今までのなかで一番強いアッパーを繰り出した。

鎌と俺の拳が当たるとき俺は恐怖をなぜか感じた。ほんとに鎌に勝てるのかって。アズラーイールの鎌に勝てるのかわからねぇ。でも、一発やってみねぇとな!! 

俺はいつのまにか恐怖を自信に変えていた。

そして、俺の拳と鎌が接触した。最初はちくっとしたが、意外と負けなかった。お互い引かず、消耗戦となった。

ここで集中力が切れたほうが負けだ。もし俺の方が先に切れたら、俺の拳は真っ二つに切られ、そこで俺は死ぬ。

もし俺が勝ったら、鎌を吹き飛ばし、追い詰める。これで確実に……

「ほんとに追い込める思ってんの? 真斗。」

 

摩帆の発言で心が揺らいだ。ほんとに、ほんとに勝てんのか? 

そんな確証はないはずだ。普通に考えてわかる。たった1本の人の手と、よく研がれた鎌。そんなもんどちらが勝つかなんてやらなくても分かる。

死ぬのが怖い、そう感じる。すべての感覚が危機感を覚えた。

そこで、俺の集中は切れた。

俺の手は切られ、右手が使えなくなった。幸い、真っ二つにはならなかったが、出血量はかなり多い。

ったく、ジグマのやつおせーな……一体なにやってんだよ。

 

俺には武器がない。でも、摩帆には武器がある。

昔から武器を持たないものは武器をもつものに反抗できない。勝てないから反抗できない。

俺はそんな歴史が嫌いだ。参勤交代もそうだ。江戸から様々な場所に武士たちを移動させ武器を握らせなかった。

武器がないから反抗しない。そんなこと俺が塗り替えてやらぁ!!

地面に埋もれていた片足を強引に取り、走って摩帆に接近する。

「ラウンド2といこうか!!」

 

足を踏み込み、左手で力いっぱい摩帆に狙いを定め、思いきり殴る。

顔に一発直撃したとき、俺は確信した。今のは確実に鼻を折ったってな。

殴られた摩帆は足で踏ん張るもかなりの距離に飛んでいった。

でも、やっぱり俺の早とちりだ。確実に顔面に当たったわけじゃねぇ。摩帆は俺の拳が当たる瞬間に手でギリギリ守ったのだろう。なかなかしぶといやつだ。

「あんた、摩帆に勝てると思ってんの?遺伝子改造されたくせに。」

 

「なっ、なぜそれを……そのことは琳多にしか……」

 

なぜかかなり離れてるのに摩帆の声が目の前にいるような感覚で聞こえた。

そして、謎だった。俺が遺伝子を改造されたことを知ってるのは俺を含めて二人しかいないはずなのに。

「なぜ知ってるんだ、摩帆。」

 

ゆっくりと俺に歩みだす摩帆。首を少し落とし、不気味な雰囲気が漂っていた。

一歩一歩、歩くごとにぶつかり合う鎖。地面に先端が擦れて音を響かせる鎌。

摩帆が近づくごとに記憶が流れてくる。そう、摩帆の過去が。過去の記憶が俺の頭を高速で流れる。

俺は、気づくとその記憶に浸っていた。まるで、自分の過去を思い出すように。

 

 

 

 

摩帆の持つ力、サリエルの力のせいで彼女の人生は崩れ去った。

サリエルは神に忠実な天使なのだが、キリスト教徒間では堕天使だと考えられている。

大天使サリエルがなぜそう考えられた理由は神から指令された役目と[邪視]にある。

サリエルは邪視の元祖と目されている。邪視とは一瞥で相手に害を与えることが出来るもので見ただけで身動きを封じたり、死に至らせるほどの強大な魔力である。

そのためか、この天使の名が書かれた護符は邪視から逃れる効力があるとされる。その力の強さは時の教皇が、邪視の対策の為に護符を発布したと言われている程である。そういった言い伝えがあるためか、彼の邪視を奉り、その力を手に入れようとしていた者も居たと言われている。

摩帆はこの力のせいで他人と自分が嫌いになった。

幼いころ、摩帆はまだ力を安定して使うことが出来ず、様々の人を知らぬ間に死に追いやっていた。

友達や見知らぬ人、大事に人まで自分の力で失っていった。家族も何もかも。すべてを自分で壊した。

そのことに気づいたのは両親を失ったことだ。ある日、今まで目を合わせてくれなかった両親と目があった。

そのとき、摩帆は初めて目が合うことが出来たのでとても喜んでいた。でも、そんなことも束の間そのあとすぐに両親が苦しみだし、その場で即死した。

そこで気づいたんだ、摩帆は。今まで周りの人が死んでいったのは、偶然じゃない。奇跡でも何でもない。

自分が大量殺人をしていたのだ。その事実に気づいた摩帆はその場で発狂した。

自分で居場所を壊した、自分で殺した。様々な感情が入り混じり、精神状態は崩壊した。

それから何年かが経ち、自立することができた摩帆は琳多たちのいる学校へ入学した。

そして、俺とジグマがいる場所。ここは摩帆が大量殺人をしたと気づいたときにできた空間だ。

この空間に入ったものだけがわかる摩帆の過去。そしてここは闘技場の下に直後出来た空間だ。

恐らく、そのとき上に人はいただろう。俺が強引に片足を取った時、そこから人の手らしきものが出てきたんだ。

多分だけど、今までで摩帆は千人以上は殺してる……。

 

そのとき、俺は摩帆と目が合った時の効果が体中から感じた。 多分、摩帆が俺の目の前にきたときの効果だろう。さすがに幼少期のころからはしっかりコントロールできてるようだが、やはりお互いに危険だ。

受ける側は死ぬ。逆に発動する側は自分の身を削って使うことになる。

俺がここで耐えても結果は共倒れになってしまう。ジグマ……来いよ……。こいよぉぉぉぉ!!!!

風を切る音が上から聞こえてくる。これは……。ジグマだ!!

「ジグ…………マ?」

 

上から降ってきたのはボロボロになって翼を広げず、ただ落ちているジグマだった。

そして、ジグマの落下先には摩帆がいた。ボロボロになったジグマは見事に摩帆に当たった。

摩帆はジグマの下敷きになり、ジグマの落下の衝撃によるダメージは軽減された。

落ちてからしばらく経った後、ジグマが立ち上がって上を指した。

「な、なぁ真斗………あれ、る、ルシファーだ……。」

 

「は!?ルシファー!?あの堕天使の長でサタンの別名と言われるルシファーか!?」

 

ジグマはうなずき話を続ける。

「でも、唯一幸いだったのは俺が会ったのが末裔ってことだ。」

 

不意に、俺は上を向いた。すると真っ黒な塊のようなものが俺たちに寄ってきた。

突風が吹き、真っ黒な塊が吹き飛ぶとオレンジ色の髪の毛の少女が現れた。

その姿を見たジグマは舌打ちをし、その少女は話す。

「アタシはルキフェル。ルシファーの力を引き継いでるんだ。」

 

ほんとに引き継いでんのかよ。サリエルとアズラーイールの力を引き継いでるやつと、ルシファーの力を引き継いでるやつが来るなんて…。

この状況、あいつなら……。

考えている途中、上からいきなり大きな衝撃が俺の全身を走った。

そのまま押しつぶされ、地面に這いつくばった。

俺の頭を踏む人間が、俺に対して喋った。

「よぉ、名も知らない者。俺はケルベロスの力を引き継いでる者だ。仲良くやろうぜ。」

 

と、言ったあと俺の頭を思い切り踏みつけた。

意識が朦朧としてるなか、目だけで俺を踏んだやつを追った。

そいつは、暗い色の服を来ており、肌が出ている部分は犬のような毛で覆われていた。両肩には犬の顔がひとつずつあった。

そして、そいつは振り返って俺を睨んだ。

そいつの顔は、人間のような、犬のような顔だった。

そして、ケルベロスは一言吐いた。

「遺伝子改造の真斗。お前は新として必ず殺す。」

 




12話。
七つの四つ。

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