北条の野望 ~織田信奈の野望 The if story~   作:tanuu

25 / 123
今回からまた北条視点に戻ります。
キャラの姿やイメージにクロスオーバー要素があるので一応タグを追加しました。


第23話 忍

小田原は大混乱だという。それもそのはず、隣国は甲斐で政変が起こり、国主武田陸奥守信虎が娘の武田勝千代改め武田晴信によって追放されたと言うのだ。

 

父親と子供が争うという例は戦国の世でとてつもなく珍しい訳ではないが、それでも突然起これば他国も国内も動揺はする。そして、大抵は悪名を背負うものだ。親子の対立と言えば、斎藤道三と息子の義龍の対立や伊達天文の乱、最上義光も父親と仲が悪かったと聞く。今回は無血クーデターなのが救いだろうか。大方の争いでは敗れた方は死んでいる。

 

武田のこれからの方針が読めない以上、小田原が混乱するのは仕方のないことだった。未来知識がある自分だからこそ動揺せずにいられるのだから。もし、武田晴信が関東に野心を見せたら?義妹同盟を結んだ今川と共に攻めてきたら?そういう想定は容易にできる。直接的に手を下して来なくても、上杉や古河公方等の関東諸将と組まれたら厄介だ。史実では信濃、具体的には諏訪・高遠へ進出するのだが、この世界ではどうなるかわからない。

 

そして、今回の件を受けて思ったが、諜報網が欲しい。確かに、北条家には戦国トップクラスの忍集団の風魔がいる。しかし、彼らは北条幻庵と当主氏康様の直属部隊だ。こちらに情報が回ってくるのはどうしても遅くなる。

 

だが、それでは困るのだ。ここは対上杉のいわば最前線基地。それが万が一起こった不足の事態に際して、情報を知りませんでしたではお話にならない。それに、今後ここが最前線として機能していくうちに自由に使える忍が欲しいとなるのは必定だった。個人的にも、越後や甲斐信濃、北関東などの情勢は知りたかった。小田原に引きこもる前にここら辺で足止めするためにも、諜報要員は必要だ。

 

しかし、小田原から風魔の人員を割いて貰うのも厳しいだろう。それとなく打診してみたが、人数をフルで使用していると言われた。氏康様の護衛役にも人員をかなり使っている。一人でも良いから欲しいんだがなぁ。こちらだけに特別に戦力を回せるほど余裕があるわけでも無いようだ。風魔も大概ブラックだな。

 

 

 

 

こうなっては仕方ない。雇うか、忍。一応この城の人事権は私にあるのだ。流石に小田原には報告するけれど。問題はどこから呼び寄せるかという事だ。おそらく今後の侵入先は高度な防諜能力を持つ武田や長尾等になるだろう。その際にキチンと任務を果たせそうな人材は…そもそも忍は表舞台に出てこないからな…。

 

だが一応一つだけ心当たりがあるのでそれに賭けるとした。彼もしくは彼女ならば十分に役目を果たしてくれるだろう。仕えてくれるかは"神のみぞ知る"だが。風魔よりの情報で所在地だけは掴んでいる。

 

 

 

 

 

 

「貴殿には伝令を頼みたい」

 

呼んだ若武者にそう告げる。

 

「承りました。して、それがしは何処へ参れば良いのでしょうか」

 

「信濃は戸隠に行って、この文の宛名に書かれた人物に会い、文を渡してきて欲しいのです。くれぐれも、無礼な態度をとらぬようにして、丁寧な対応を心がけて下さい」

 

「はっ。して、このご仁はどのようなお方で?」

 

「忍です。それも腕利きの」

 

「なるほど忍…わかり申した。早速出立致します」

 

「頼みました」

 

さて、手紙は送ったから後は向こうから何かしらのアクションがあるまで待つとするか。それまで遊んでいるわけにもいかない。さぁ、早速今日の仕事に取り掛かろうか。

 

 

 

 

 

 

 

使者を送って二週間近く過ぎた。ここに来てから一月が経過しようとしている。これまで当然遊んでいた訳ではなく、城下の商人等と会合を開いたり周辺の元々いた小領主たちと会ったりもしていた。

 

河越城主の支配領域は広い。前線基地という危険を伴う事のリターンとも言うべきか、管理区域の面積はそこそこの広さを誇っている。所沢や飯能の辺りも一部支配地域であるということからも、それが伺える。

 

前領主、上杉家は土地開発にはあまり熱心で無かったようで、余らせている土地は一定数存在する。こちらとしてはとっとと開墾したいのだが、余剰人員が少ない現状ではそれは厳しい。何処かから持ってきたいが難しいだろう。

 

農業改革をしたくても、搾取が続き困窮していた農民に改革は早急すぎるだろう。お気軽に内政チート…等とは当然いかないのである。とは言え、やれることはやらなくてはいけない。取り敢えず、現状の確認からやるとしよう。自分の目で見てこそ、気付ける事があるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは城主様が自らいらっしゃるとは。大したおもてなしも出来ませんで、申し訳ございません」

 

「気にするな。はじめより、そのような目的で参ったのではない。皆にも、気にせず作業を続けるよう言ってくれ。邪魔しては意味が無いからな」

 

「はっ、そう仰せであれば、そのように」

 

季節は春。農作業の始まりの時期である。この時代の田んぼは大きさが不揃いだ。重機が無いのだから、現代のようにピシッと四角い水田になるわけがないのは重々承知している。それに、今の形を変えるには手間がかかりすぎる。仕方ない。せめて、新しく開墾するのなら綺麗な形にしよう。その方が検知や作業も楽だろう。

 

「村長。何か困った事はないか」

 

「おかげさまで特にはございません。女子供も飢えることなく元気に過ごしております」

 

「そうか。それは良かった」

 

そこで、ふと直ぐに何とか実行出来そうな改革を思い出した。

 

「田に流す水を水路から汲み上げる作業はどのように行っている?」

 

「水でございますか?それはまぁ、人力で色々と…」

 

「ふむ。では、それが楽になれば作業も捗るか」

 

「まぁ、そうでございましょうなぁ」

 

村長は生返事である。そんなものあったらとっくにやっとるがなと言いたげだ。城下の職人に作って貰うとしよう。まずは図面を何とか書かねばならないが。

 

「村長。汲み上げる道具を近日中に持ってくる。この村で試してもよいか」

 

「構いませぬが…」

 

疑われているのは仕方ない。まだまだ信頼してもらうには実績が足りない。ここから少しずつ積み重ねていくしかないだろう。

 

「あぁ、そうそう。隣のそのまた隣の村の者から聞いたのですが…その…」

 

「何だ。はっきり言ってくれ」

 

「恐れながら申し上げると、野盗が出たようでございます」

 

「野盗、か」

 

それで"恐れながら"か。野盗が出るということは、領主の取り締まりが緩いということに他ならない。場合によっては領主への政治批判ともとられる可能性がある。故に、恐る恐る言ったのだろう。しかし、これは盲点だった。至急対策に乗り出さねば。

 

「事実ならば一大事だ。早急に対策を打つ。何か情報があれば報せてくれ」

 

「は、はい。わかりました」

 

まずは情報収集から。根城を見つけて一網打尽にしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城に戻り次第、手の空いている者を何人か召集して、根城の調査に向かわせた。この広い領内から見つけられるだろうか。北条家の領内ならともかく、他家の領地だと厄介だ。上杉が雇った連中だという可能性もある。私掠船みたいな公認盗賊だったら困るのだが。

 

流石に一日での発見は不可能だったようで、夜になって皆戻ってきた。少なくとも城の近くにはそれらしき場所は無かったという事だ。人数を増やすことを考えた方が良いかもしれない。

 

 

 

夜更けに城内の自室にて、チリリと首筋に何かが焼きつくような感覚を覚えた。これは戦場で感じるもの。殺気。ただ、本気の殺気では無いな。気配は後ろから。不気味なのは事実だ。放置は出来ない。振り向きざまに太刀を抜き放つ。

 

「何奴っ!」

 

放った太刀の刃は殺気を放つ何者かの手にあるクナイで止められた。金属の擦れる音が響く。太刀の勢いから生じた風で灯火が消える。窓から差し込む月明かりが刺客の顔を照らす。

 

金色の目に黒い髪。黒と赤、それも血のように濃い赤を基調とした服に身を包み、長い髪は赤いリボンで一つに括られている。その美しい姿とは裏腹に表情と手にあるものは物騒だ。服や武器から察するに普通の武将ではなく忍に相違ないだろう。

 

「私の気配に気付き、攻撃してくるとはおやりになる」

 

「よく言う。殺す気など無かった癖に」

 

「そこまで見抜いて、それでも太刀を抜いたのか」

 

「そのような舐めた真似をされるのはいささか癪だ。武士らしからぬ思考の我が身ではあるが、誇りを失くした訳ではない。…それで貴様は誰だ。答えぬとあらば、残念だが斬らねばならぬ。」

 

「当ててみろ。知恵者を名乗るならな」

 

ふむ…。外見からは忍ということしかわからない。となればその他の要素から見抜くしかないだろう。

 

「刺客…にしては殺す気がないのはおかしいな」

 

「さてどうかな?風魔の手の者でお前を監視していたかもしれないぞ。事実、私は風魔の技を使える。或いは場合によっては殺せ、と北条氏康に命令されていたかもしれない」

 

「それはない」

 

「ほぅ?なぜそう言いきれる」

 

「あのお方は敵にはともかく味方には決してそのような事はなさらない。それは、家中の誰もが知っていることだ。我が主を愚弄するのはやめて貰おう」

 

「……良い信頼関係だな」

 

「それはどうも。そして今のでわかった。お前は風魔ではないな。技を使えるということは、もしや、私の招いた…」

 

ふぅ、とため息を吐き出し、女忍は武器をしまう。

 

「いかにも。私が貴殿、河越城主一条兼音殿に招かれた忍、加藤段蔵だ」

 

やっぱり。加藤段蔵には風魔の元で忍術を習ったという説がある。しかしとなると、先程のやり取りは試されていたと考えるのが自然か。こちらも武器を収める。

 

「これはこれは遠路遥々ようこそ。随分なご挨拶でしたが。それと、貴女に会ったはずの使者はまだ帰ってこないのですが」

 

「途中で追い越した。試したのは悪かったと思っている。が、忍と言えど未熟な主に仕えるのは嫌なのでな。一つやらせてもらった」

 

「まぁ、それは良いでしょう。こちらが招いた身だ。ご足労いただいたのだからそれくらいは見逃すというものです」

 

「ふん。そうか。では、問おう。貴殿が私を雇う訳は何か」

 

「我が主のため。ひいては、主の望む関東静謐のため」

 

「はっ!どうだかな。侍は口だけは達者な者が多い。そのように貴殿と同じ事を言いながら反故にした者を私は多く知っている。静謐を謳いながら人を殺す」

 

「自らも人を殺す忍でありながらそれを言うのか?」

 

「矛盾している事は受け入れよう。だが私はそれでもこの乱世を憎んでいる。殺さねば生きられぬ世の中を。それを終わらせられない、侍たちを」

 

彼女は鋭い眼差しでこちらを睨んでいる。お前もそうだろう?と言うように。彼女の話しは確かに矛盾している。だが、その気持ちも理解できる気がした。誰かを守るためには誰かを殺さなくてはいけない。今の世界はそんな不条理に満ちている。平和を作るためには多くの屍を作らなくてはならない。その事実に対する憎しみや怒りは全うなものだと感じた。

 

「死にたくなくて、戦っていた。風魔の技にも手を出した。いつしか戸隠忍の頭目になった。殺しの果てに平和があると信じていた。だがどうだ。結局何一つ変わりはしない。今日も何処かで戦だ。平和は、泰平は訪れる気配などない。何もすべてを救えとは言わない。だからせめて、戸隠にだけでも何者にも理不尽な死を与えられぬ隠れ里を作ろうと思った。その為にまた殺した。私は、そんな自分が、大嫌いだ。それでも止められない。私は理想のために生きると決めたのだ。両親を目の前で殺された、あの日から」

 

そこで彼女は一旦言葉を切る。

 

「貴殿に、北条家に作れるのか。私の望む泰平を」

 

その覚悟の籠った目にこちらも覚悟で返す。生憎と、ここで引き下がる訳にはいかない。これは彼女の問いに答えると共に、自分達のあり方を見直す場だ。

 

「掌よりこぼれ落ちる水を無くすことは出来ないでしょうが、少なくともその水を減らすために努め成し遂げる事が出来るのは日ノ本広しと言えど、ここだけでしょう。それは自信をもって言えます。税は安く、民は安らぎを得ている。民に寄り添い、共に生きる。それが北条の、私のあり方です。我々の目指す世界と貴女の目指す理想が完璧に同じかはわかりません。ですが、我々は流した血の果てに望む世界があると信じています。日ノ本全ての民を救えなくても、せめて関東の民は救える世界があると。信じろとは言いません。言葉で言うより、見てもらった方が早いでしょう?」

 

「…………承知した。見極めさせてもらう。北条の、貴殿のあり方を。」

 

「それでは早速一つお願いが」

 

「…貴殿、相当にあれだな」

 

「はい?まぁ、それは良いとして、野盗が領内に出るとの報告を受けました。根城を一網打尽にしたいのですが、肝心の場所が不明です。探してきて頂きたい」

 

「了解。数刻後に戻る」

 

そう言って彼女は音もなく消えた。相変わらずこの世界の忍は物理法則をガン無視している。何はともあれ、問題だった野盗は対処できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明け方に戻ってきた彼女から報告を聞く。何でも、城から馬で二時間ほどの所にある古城跡に根城があるらしい。巧妙に擬態していて、分かりにくくなっていたそうだ。しかし、場所が特定できれば話は早い。城の武士を四十人ほど引き連れ、朝方に出立する。

 

道を駆け、少しずつ目的地に近付く。段蔵も姿は見えないが付いてきているようだ。

 

「申し上げます!前方の村が襲われている模様。おそらく例の野盗かと!」

 

先に偵察に行かせた者からの報告にざわめく。

 

「わかった。直ちに救援に向かう。続けっ!」

 

「「「はっ!」」」

 

全員騎馬で構成してきたのが幸いした。あっという間に襲われているという村に着く。抵抗を選んだらしいこの村からは争う声が聞こえる。

 

「遠慮はいらない。全員抜刀。敵を殲滅せよ!」

 

「「「「応っ!」」」」

 

野盗が掛け声に気付く。侍の登場にやや狼狽えているようだ。

 

「狼狽えるな!俺は元上杉家足軽大将だ!恐れるな、北条の武士ごとき一捻りだ。俺より強いのは頭だけよ!」

 

叫びながら統率をとっている男がこの襲撃の主犯だろう。話の中身からするに野盗全体のリーダーでは無いようだが。

しかし、舐められたものだ。よろしい。その北条の武士の武威、しかと見せてやろう。狙いやすい的だ。弓を構える。

 

一射。我ながら見事に命中し、男は地に倒れ伏した。途端に恐慌状態になる野盗たち。こうなってしまえば歴戦の武士たちには敵わない。次々討ち取られていった。私も弓による遠距離射撃で援護する。

 

その時だった。突如として聞こえた悲鳴に振り返れば、女性が襲われかけている。人質を取ろうとしたのだろう。そこへ彼女の子供らしき少年が、野盗の前に立ち塞がる。男は焦りと苛立ちから今にも太刀を振り下ろそうとしている。

 

慌てて馬から飛び降り全速力で駆け寄る。間に合えっ!刀を抜きそれで相手の刀を抑え、片膝をつきながら何とか防いだ。

 

ギリギリ間に合ったようだ。雄叫びをあげながら再度襲い掛かる男。が、次の瞬間首元に無数のクナイが刺さり、声をあげる暇もなく絶命した。どうやら段蔵が始末してくれたようだ。助太刀感謝の念を送る。

 

「あ、ありがとうございました!この子を助けて頂き、なんと感謝申し上げればよいか…」

 

女性が子供を抱き締めながらそう言う。勇敢な少年は気が抜けたようで放心している。

 

「気にするな。むしろ、あのような輩、もっと早く退治すべきだったのだ」

 

それでもペコペコお辞儀をする女性に苦笑しながら、やっと意識が帰って来た少年に声をかける。

 

「素晴らしい勇気だった。武士もかくやという気迫だったぞ。そのあり方を損なわぬようにな」

 

私の言葉に、彼は少年らしい笑みを返した。

 

 

 

 

 

「被害はどうか」

 

「軽微でございます。問題ありません」

 

「よし、このような者達を放置するわけにはいかん!早急に片をつけるぞ!」

 

「「「応っ!」」」

 

村の被害の確認や後始末をした後、再び馬に乗り、村人に見送られながら先を急いだ。とっとと始末してやる。覚悟を決めるがいい。

 

 

 

 

「ここか、確かに一目見ただけでは気付かぬな…」

 

誰も欠けること無くここまで来た。このまま一気に落としてやる。色々とゴタゴタしていたら既に日も暮れてしまった。まだほのかに明るいがそれも時間の問題だろう。丁度いいので夜襲をかけて混乱した所を叩くつもりだった。が、ここで思わぬ展開となる。

 

「私が敵をこちらへ来させよう」

 

突然現れそんなことを言う段蔵に、皆が驚く。

 

「このお方は一体…?」

 

「こちらへ来させるとは…?」

 

北条は風魔の影響で忍への偏見はない。段蔵はそれにやや戸惑ったようだった。

 

「私の招いた忍だ。それでこちらへ来させるとは?」

 

「見ていろ。こうする」

 

その言葉と共にどこからともなく霧が出始める。それも、古城を囲むように。そして、何事かを唱えると手の平からガラスの破片のような物を吹き飛ばす。何が起こるのかと一同固唾を飲んで見る。

 

すると、突然轟音がなり、古城のど真ん中に背の丈十メートルはあろうかという巨大な鬼が現れた。勇敢な武士たちも一瞬唖然として、その後現実を認識して後ずさっている。逃げ出さないのは流石か。さしもの私も、驚きのあまり声も出ない。一体どういう技を用いればこうなるのだ。

 

「これが私の幻術だ。そら、来るぞ」

 

そう言われて見れば、古城からわらわらと野盗らしき者たちが裸に近い格好で武器も持たず飛び出してくる。そうだ、ここで呆けている訳にもいかない。

 

「全員引っ捕らえろ!」

 

ハッとした様子で皆が野盗を捕らえ、縛っていく。野盗退治は思わぬ形で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

「貴殿は幻術が恐ろしくないのか?これのせいで私は生き長らえたが、どんな大名にも信頼されなかった。危険視され恐れられた」

 

「驚きはしましたが、恐れるほどのものでもないですし、信頼しない要素とはなり得ないのでは?それは貴女の出会った大名たちの器が小さいだけのこと。気にしなくても良いと思いますが。私は使えるものは何でも使う主義なので」

 

「…何故、あの少年を助けた。城主ともあろうものが、己の身を危険にさらしてまで」

 

「何故って、そこに守るべき者がいて、それを助ける力を持っていたからですよ。それ以上でも、それ以下でもありません。言ったでしょう?これが私のあり方。ここにいる私の部下も、民のために命をかけている。それが北条のあり方です」

 

取り繕っても意味はないだろう。ならば本音で返すだけのこと。

 

「…………」

 

長い沈黙。その後に彼女はこう言った。

 

「わかった。信じよう。あの動きは打算で出来るものではない。貴殿の家臣の表情も、嘘偽り無いものだ。この関東に泰平をもたらす為に、私の力が必要だと言うならそれに応えよう。血塗られた道でも、貴殿たちならば必ず静謐をもたらせると信じて戦うと決めた。私の率いる忍衆が二十人程いる。いずれも手練れだ。彼らと共に、貴殿に仕えよう」

 

認めてくれたという事だろうか。それにほっとしつつ、答えを返す。

 

「必ず成し遂げよう。その為に力を貸してくれ。共にこの地に泰平を。北条に繁栄と栄光をもたらそう」

 

「承知いたしました、我が主。私は鳶加藤こと加藤段蔵。貴殿を主とし、いかなる命令にも従いましょう」

 

そう言いながら、彼女は頭を垂れた。

 

かくして、史実ではその幻術により上杉謙信にも武田信玄にも危険視され信玄によって討たれた忍、加藤段蔵が河越城の家臣団に加わる。これがいかなる影響をもたらすか、それはまだこの先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、家臣に丁寧語はお止めになった方がよろしいかと。主たるもの、威厳は必要です」

 

「そういうものですか…いやものか。わかった。そうしよう」

 

元々この時代の者でなかったための遠慮か、今までは家臣に対しては丁寧語、同僚と主筋には敬語、敵と民には普通にという話し方をしてきた。流石に民に丁寧語は武士としていかがなものかという話をこの世界に来たばかりの頃に言われたからだ。

 

が、確かに家臣に必要以上に丁寧にするのはかえって逆効果かもしれない。その助言はもっともだ。今度からそうしよう。

 

「これからそうするとしよう」

 

「ええ、その方が仕え甲斐があるというもの」

 

そう言いながら彼女は小さく笑った。




新たな仲間の加入です。これも夜戦への布石です。具体的にどうなるのかはお楽しみに。

原作主人公における蜂須賀五右衛門ポジションのキャラが欲しかったのです。

加藤段蔵のキャラデザはFate/Grand Orderの加藤段蔵です。あのキャラは個人的に好きなので、そうしました。リクエストもありましたし。ゲームやってる方はご存じかもしれませんが、あの世界だと段蔵はオートマタですがこの世界では普通の人間なので悪しからず。

ふと思ったんですが、この世界が進んだ先の未来に放映されてるであろう大河ドラマってどんな感じなんですかね。撮影現場の女優率がとんでもないことになってそう。

絶対北条家の大河ドラマとかある。葵三代ならぬ鱗三代みたいな感じで。そんな妄想です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。