北条の野望 ~織田信奈の野望 The if story~   作:tanuu

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史実で氏康の頃に居なかった人がいたり、逆にもういい年なのにまだ若かったり、赤ちゃんだった人が大人なのは見逃して下さい。ほら、伊達政宗がもう既にいたりする世界なので…ね?


第2話 小田原城

寺の人々に見送られてからテクテクと歩くこと数十分。山が多かった景色が一気に開ける。鼻には海の香りが入り込む。

 

目の前には大きな城下町が広がっていた。その中心にはこれまた大規模な城郭が広がっている。あれが北条五代の本拠地。武田信玄や上杉謙信など名ただる名将も攻めあぐねた難攻不落の巨城だ。今はまだ豊臣秀吉来襲に備えて造られたとされる全長9キロの総構はないものの、その片鱗は見てとれる。

 

多くの船や人の姿が小さく見える。あそこが新しい居場所になると考えるとワクワクしてきた。今まで訳分からない事ばかりで混乱してたけど、いつまでも悩んでも仕方ない。

 

では、早速行くとしよう。スタスタと歩を軽やかに進めた。

 

街の中は活気で溢れていた。多くの人が行き来している。乱世では無いかのようなこの光景に、北条家の善政を見てとれる。

 

しかし、広い…。城は街のど真ん中にあるし、見えるのだが、全然たどり着けない。人が多すぎる…。

 

押し潰されそうになったりしつつも何とか城門近くまでこれた。まぁ、城門まで来れたからと言って入れる訳ではない。当然詰所があり、番兵に止められる。逆に止められなかったらヤバイ。

 

「止まれ!ここから先は家中の者でなければ通せぬ!」

 

「名と用向きを告げよ!」

 

「私は一条兼音。北条氏康様がこちらへ来るように仰せられ参った次第。こちらがその事をお書き下さった書状なり」

 

懐から先ほどもらった紙を出して渡す。しばらく目を通している。

 

「よし。確認出来た。通るが良い」

 

「ありがとうございます」

 

ただ一つ問題がある。

 

「どうした?入らぬのか?」

 

「あの…私は何処に行けば良いのでしょうか?」

 

「知らぬのに来たのか?うーむ我らもここを離れられぬし、どうしたものか…」

 

「どうした」

 

番兵たちと一緒に悩んでいると涼やかな声が響いた。目をやれば、馬上にこれまた本日二人目の美少女。何だこの城は。六条院(光源氏の邸宅。妻たちが住んでいた。)か何かか?

 

まぁ想像するに多分彼女も北条の武将なのだろう。

 

「あ、これはこれは元忠様。お帰りですか」

 

「ああ。それよりも何かあったか?そこの男は誰だ」

 

「はい、何でも氏康様に呼ばれたとか…。直筆らしき書状もありましたし、通しはしたのですがどこへ行けば良いのか分からないとのことで…」

 

状況説明をしてくれてる間に、この女性の身元の割り出しに入る。見た目は黒髪で長い一つ結び。いかにも武人といった雰囲気の知性のある感じだ。見た目はあてにならないけれど。先ほどの番兵の言葉から推察するに、元忠…多米(多目)元忠か?北条氏康、氏政の代の宿将だ。今はまだそこまでの地位は無いかもしれないが。

 

「そうか。ならば、私が連れていこう。丁度この後姫様のところへ向かうつもりだったからな」

 

「そうですか。おーい、お主。元忠様が案内してくれるそうだ。付いて行け」

 

「はい。承知しました。よろしくお願いします」

 

「こっちだ。遅れるなよ」

 

馬は預けるようだ。スッタスッタ歩いていってしまうので、何とか着いていく。

 

「お前は何をしに来た」

 

「仕官をしに参りました」

 

「…そうか。死なぬように励め」

 

「はっ」

 

会話する気はあまり無さそうだ。もっともそれが初対面の相手だからなのかは分からないけれど。

 

「着いたぞ。そこで待て。姫様。元忠、参りました」

 

「来たわね」

 

襖が開く。中には氏康様ともう一人知らない亜麻色の髪の穏やかな雰囲気の少女がお茶を飲んでいる。

 

「あら、一緒に来たのね。手間が省けて良いわね。元忠、盛昌、紹介するわ。私の三人目の直臣となる一条兼音よ。ほら、挨拶なさい」

 

促され、二人の方を向き頭を下げる。

 

「ご紹介にあずかりました一条兼音と申します。浅学非才の身かつ右も左も分かりませぬ。ご家中の事、ご指導ご鞭撻よろしくお願い致します」

 

そしてもう一度頭を下げる。

 

「多米元忠だ。よろしく」

 

「ちょっと、それだけじゃダメですよ…。私は大道寺盛昌です。普段は文官として主に台帳関連に携わっています。こっちの元忠さんは普段武器庫の管理をしてますよ。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

その様子を見て私の主は頷く。

 

「ま、見ての通り私の今の直臣はこれだけよ。他の家臣は皆、父の臣。今のうちから信のおける家臣が欲しかったのだけれど…。あまり見込みのある者がいなくて困っていたのよ。さて、あなたの処遇だけれど、盛昌の下で働きなさい。文官志望なのだし、その方が合っているでしょう?」

 

「ご配慮感謝します」

 

「それじゃあ私は父上に呼ばれているからもう行くわ。住まいはただの足軽より少し上の長屋に空きがあったからそこへ行きなさい。後は盛昌に聞いてちょうだい」

 

「承知しました」

 

氏康様が去った後、微妙な沈黙が続く。

 

「お前は、何か武芸は出来るのか?」

 

「弓は少々腕に覚えがありますが、それ以外は…」

 

「そうか。では、私が教えよう。盛昌、仕事はいつ終わる」

 

「昼下がりには、終わりに出来るけど」

 

「では、仕事終わりに来い」

 

「それは構わないのですが、よろしいのですか?そのような事をしていただいて」

 

「構わない。いざという時姫様を、守れないようでは話にならない。文官であろうとも、弓馬の道を怠けてはならない」

 

「もっともです。お言葉に甘えさせていただきます」

 

うん。というように頷いた元忠の顔はどこか満足そうだった。

 

「それでは、参りましょうか。城内と住まいまでの道を案内します。元忠さんは屋敷に戻りますか?」

 

「ああ」

 

「ありがとうございます。盛昌様」

 

「いえいえ。それと、様は結構ですよ。同輩となったのですから。それと、なるべく名で呼んで下さい。姓の同じ者が幾人か城内にいますので」

 

「分かりました盛昌殿」

 

その返事に満足した彼女はゆっくりと歩き始めたのだった。

 

 

 

 

つ、疲れた。

 

城中を歩き回って疲れた。今は用意された住まいで寝転んでいる。一応布団は一式あるようだ。城内の郭の一角にある少し大きめの長屋だ。現代で住んでた家よりは当然劣るが、住んで都にするしか無いだろう。

 

禄ことお給料はそんなに多くは無いものの、直臣の為足軽よりかは全然あるようだ。何の功績もないのでこれだが、功をあげれば増えるだろう。

 

案内されている最中、何人か武将クラスの人と遭遇した。中には北条一族の人や、重臣のおじ様方も多くいた。めちゃくちゃ緊張したのもあって、疲労がすごい。

 

明日からは早速仕事のようだし、しっかり寝なくちゃ。そう思いながら意識は暗転していった。

 

 

 

 

 

 

目覚めたら現代…!なんて事もなく、無事戦国時代二日目の朝を迎えた。

 

仕事自体は筆でやること以外はそんなに難しくはなかった。行書も書けるし、元々こういう事務作業は苦手じゃない。エクセルがあればもっと楽なんだけど…。無い物ねだりしても仕方ない。

 

キチンと仕事は出来ていたようで、しかもノルマを予定より早く終わらせられたので褒められた。少しだけ見やすく分かりやすい表の作り方(現代式)を提案したら驚かれたものの、他の部署とも相談してみるそうだ。

 

鍛練の方は鬼のように厳しかった。刀剣と槍を教えてくれるようだ。あと馬術も。ただ、教え方は凄く分かりやすくて、やりやすかった。曰く基礎代謝と筋肉はあるので後はそれを上手く使うだけらしい。筋は良いからすぐに覚えられるそうだ。肺活量も問題ないらしい。弓は教えることが無いので免除だ。

 

ありがとう弓道部。君のお陰で生きられます。全国大会まで行ったのだ。そこら辺の人には負けたくない。

 

兎に角このまま何とか習得して討ち死にする確率を減らしたい。

 

同時平行で情報収集も進めている。あまり進まないが。他国の事を知るのは特に大変だ。風魔とかを使えたら楽なんだろうけど、今は地道にやるしかない。

 

女中さんたちとはそこそこ仲良くなれたので、城内や家中の事は大分分かってきた。どうやら氏康様の直臣が少ないのは信のおける云々以前に譜代の家臣が少ないことが原因らしい。加えて、氏綱様が娘を慈しむ為、あまり戦場に出ないのでそんなに直臣がいる必要も無いのだと言う。

 

関東統一という夢をいつか背負うことになるのだ。今くらいは自由に、という親心もあるのだろう。親の心子知らずと言った雰囲気だが。

 

元忠殿や盛昌殿とも少しずつ親密になれている気がする。数少ない同僚だし、是非とも仲良くして頂きたい。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで年も明けた。ここに来てから数ヶ月が立つ。

 

この世界はどうやら年号通りには進んでいないようだ。出来事の時系列は守られているようだが、間隔は狭い気がする。もう鉄砲が伝来しているのもその証拠だ。

 

年号が役に立たなくても、時系列が分かるのならある程度は大丈夫だろう。次に北条が関係ある大きな事象は…花倉の乱、か。

 

今川の内乱。北条家は今川義元側で参戦する。今川家の情報はすぐ手に入った。今の当主、今川氏輝は先代今川氏親ほどの才は無いようだ。家中には不穏な動きがあるらしい。氏輝の死因は現代でも不明だが、多分暗殺だろう。

 

これはある種のチャンスだ。ここで何らかの爪痕を残せれば、出世の道も見えてくる。もう少し良い家で暮らしたいし、非常時の為に金も貯めたいし。武具も必要だろう。

 

何か良い策は無いものか…と頭を廻らせながら今日も仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしら。兼音の様子は?」

 

「悪くありません。むしろ良い」

 

「はい。城内での評判も悪くありません。人当たりは良く、仕事には真面目に取り組んでいます。頭もキレるようです。重臣の方も何人か目をかけておいでのようで。女中衆にも好意的に見られているようです」

 

「そう。それは良いわね。鍛練はどうかしら」

 

「弓は完璧です。剣も槍も大分形になってきました。筋はかなり良いです。いずれ一人前の武将になれましょう。やや攻撃時に甘さがあるのは気になりますけれど」

 

「それはおいおい直るでしょう。戦場に出れば、ね」

 

「はい。その通りかと」

 

「まぁ、良いわ。楽しく見守りましょう。幻庵のおばば曰く、北条を救う者らしいのだし。それに、英雄とは人材集めに注力するものでしょう?」

 

そう笑う氏康の声に二人の臣下は顔を見合わせるのだった。




順調に北条家中で居場所を掴んでいます。

次は物語に動きがあります。花倉の乱中心に数話進める予定です。この乱は原作における桶狭間ポジションかな?

テンポよく行きたいですね。なにしろ原作前ですし。まだ川越夜戦も起きてないのですから。ただ、描写するべき所は省かないようにしたいと思います。

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