北条の野望 ~織田信奈の野望 The if story~   作:tanuu

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部隊編成とかは細かいのは見逃して下さい。そもそも、原作がわりとその辺ガバい気がしたので…。


第4話 花倉の乱・前

現在、馬に乗り、行軍中である。場所は現代の富士市の辺り。もう少し行けば、駿府へ到着するだろう。

 

富士川以東は現在北条領である。この地、所謂駿東郡には、かの北条早雲の居城だったという興国寺城もある。駿東は戦略的にも要地であり、ここを押さえれば、甲斐や駿西への出兵も可能である。余談だが、駿河と遠江の境は大井川である。天竜川や富士川では無い。史実においてはここはまだ今川領のはずだが、どうもこの世界では第一次河東騒乱の前に既に北条領のようだ。恐らくだが、早雲公が伊豆や相模と同様に今川からの切り離し政策を行ったのだろう。

 

馬というのは慣れないと腰がヤバい。訓練はしたけれど、こんな長時間の行軍は初めてだ。まぁ、徒歩よりはマシだと思いたい。あんな重い装備をつけて行軍とかしたら流石に体力が尽きる。今は軽い装備だから良いけれど。

 

戦国時代の馬は現代の競走馬みたいなサラブレッドとかじゃなく、ポニーみたいな物だという学説を聴いていたが、全然違う。普通に大きい馬だ。武田とかはこれをたくさん使ってるのか……。三増峠が大丈夫かと不安を覚える。あれは北条の敗戦なのだし、対策が必要だ。

 

今回の編成は1500人。通常の戦闘ではこれが大体一つの集団だと言う話を聴いたことがある。ただ、私の読んだ本は戦国末期なので、鉄砲組がいるが、当然今はいない。伝来してるのと量産かつ保持してるのとは違う。昔の主武器は弓とか鉄砲とか刀ではなく、もっぱら槍と石である。石といって侮ってはいけない。石だって当たれば痛いし普通に死ぬこともある。

 

それに、昔の戦は現代の戦争とは違い、殺さずとも戦闘不能に追い込めれば割とOKである。殺す必要があるのは、一部の指揮官だけ。そうは言っても殺される確率の方が高いが。そういう意味でもやはり、戦争とは狂気だ。

 

 今回は主力の騎馬部隊もいるし、かつ北条家きっての精鋭部隊なのでそう苦戦はしないだろう。それに、太原雪斎の事だ。我々は端か後方だろう。北条に戦功を材料に大きい顔をされたくは無いだろうからな。

 だが、それでは困る。ここでは多少なりとも、我々が武功をあげなくては。今川良真と福島正成には悪いが、踏み台になってもらおう。そして、ここで駿東問題にこちらの有利となる状態を作りたい。後々ここは火種となる。そのときの戦いを少しでも楽にするために、布石は打ちたい。

 

「いやいや、初陣だというのに堂々たる姿。良いですぞ。某など、初陣では小便漏らして震えておりましたわ」

 

不意に間宮康俊が話し掛けてきた。

 

「いやいや、私などまだまだ。間宮殿と比べれば月とすっぽんでございます」

 

「ガハハハ、そう謙遜なさるな。若い男武者は少ない。こんな爺ばかりよ。この先もよしなに頼む」

 

「なんの、まだまだお若いではありませぬか。こちらこそ、伝え聞いたる武勇をこの目で見られると思うと、感動でございます」

 

「ハハハハ。そうか。そうか」

 

「ところで、間宮殿は敵将、福島越前守と会ったことがあるとか」

 

「おお、そうよ。武田信虎との戦の援軍に行った時に共に戦ったのぅ」

 

「いかなる人でしたか、越前守は」

 

「ふーむ、良くは知らぬが横柄さはあったな。しかし、実力は真のものぞ。将としても、武人としてもな。侮れる相手ではない。今までの相手が悪すぎたが、並みの将ならまず勝てん。今川最強の名を自他共に名乗っておったその力は伊達ではない」

 

「なるほど。易々と勝たせてはくれないようですね」

 

敵将を知るものに話を聞くのは大切なことだ。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。その言葉通りだ。今回の戦、一筋縄ではいかないかもしれない。

 

「なーに、そう暗い顔をなさるな。此度は姫様も、お主のような若武者もおる。多米の娘も、大道寺の娘も、お主も死なせはせん。この間宮豊前守が必ずや小田原に連れ帰ってみせるわ!ハハハハ」

 

我々を不安にさせないためにこのように明るく振る舞っているのだろう。もちろん、経験からくる自信もあるのだろうけれど。少なくとも、この人はいい人だ。

 

「おお!見えて参ったぞ。あれが駿府よ。いや、戦の前というのに相変わらず賑わっとるな」

 

指の指された方には街とそこを行き交う人が見える。あれが駿府。今川の本拠地である。

 

 

 

 

 

 

今川館の前に着くと、黒衣の僧形の男が出迎えてくれた。あの人が太原雪斎だろう。鋭い眼光、叡知を感じる雰囲気。戦国軍師の中でも五本の指に入る名将の貫禄だった。

 

「よくぞ参られた。此度は参陣感謝致します。某は太原 崇孚。義元様の宰相でございます」

 

「私は北条左京大夫氏綱が名代、北条新九郎氏康でございます。1500の兵と共に助力せんと参りました」

 

ややこしい話だが、この時の今川は共通認識として、北条を下に見ている。元々早雲が今川の下にいたからだと思うが、これも後々問題になる。反対に北条は今川を対等な相手として見ているから厄介だ。

 

「ありがたきかな。ささ、中へ。間も無く評定が始まります。後ろの方々も」

 

我々もお呼びのようだ。中へ入るとしよう。

 

 

 

中には多くの将がいる。誰が誰かは分からないが、恐らくこの中のどこかにこの後有名になる名将たちがいるだろう。

 

主は割と上座にいるが、我々は末席だ。仕方ない。

 

「それでは、お揃いになった事ですし、始めさせて頂きます」

 

雪斎の合図に一斉に頭を下げる。

 

「まずは、主、義元様よりのお言葉です」

 

上座の一番上。当主の座る席に堂々と現れたのは十二単に長い黒髪の少女。よく分からない龍の髪飾りをつけて扇を持っている。典型的な平安貴族風の格好だ。

 

「よく来ましたわね。わ・た・く・しが今川家の正当なる当主、今川義元ですわよ!おーほほほほ」

 

 ……帰って良いだろうか。ここまでどこかに帰りたくなったのは初めてだ。これの為に戦いたくは無いですね。元忠も盛昌も顔が死んでる。いい人の間宮康俊も微妙な表情。氏康様はこめかみに青筋が出てる。

 

 これは死ぬほど気性が合わないタイプみたいだ。御愁傷様である。というか、これと本当に三国同盟結べるのだろうか。海道一の弓取りとか言われてるけど、弓どころか刀も持てなそうだが。

 

「それでは雪斎さん、後はよきにはからえですわ~」

 

「はっ」

 

 今川の人たちは慣れているのか、無表情。諦めてるのかもしれないけど。動揺してるのは我々と……もう一組いる。あれはどこの家だろうか。

 

「此度の戦では北条左京大夫殿の名代、氏康殿以下の武将の方々と武田陸奥守(信虎)殿の名代、信繁殿以下の武将の方々が参陣下さりました。代表し、御礼申し上げます」

 

あれは武田家の人たちか。代表の信繁は……信玄の妹か。信玄(今は晴信)と信繁は姉妹らしい。普通、こういう時は武勲を作るためにも跡継ぎを行かせるものでは……と思ったがそこで気づく。信玄と信虎は仲が悪い。そうしている間にもどんどん話は進んでいく。

 

「それでは手筈通りに」

 

布陣を見ると、まずはメイン目標として、方上城を落とすらしい。その前に小城の制圧はあるが。

 

 盤面だけ見ると義元側は後手に回っている。福島は既に花倉、方上の両城を占領。対して今川館は平城かつ無防備。戦闘用の造りをしていないので、すぐ突破されるだろう。しかし、味方の数ではこちらの方が多い。電撃戦で叩くようだ。幸い、方上城の近くはこちら側の岡部一族の地盤。勝てないことは無いだろう。

 

「お待ち下さい」

 

ここで手筈通りに主は異を唱える。

 

「我ら北条は何処に布陣すればよろしいか」

 

「ふむ…北条殿は後軍にて不測の事態に備えて頂きたく」

 

「これは崇孚殿とは思えぬ言い様。我ら北条が福島に劣るとでも?」

 

「いえいえ、そうは申しておりませぬ。ただ、御身に万が一のことがありましたら左京大夫殿に申し訳が立ちませぬ。北条が参陣したというだけで、敵は恐れをなしましょう」

 

流石に簡単には許してはくれないか。

 

「武門の家に産まれたからは戦場にて果てるは本望!福島越前ごときに関東にて戦い抜きたる我らが精鋭1500は破れはしません。わが祖父早雲の受けたる恩を我らは忘れてなどおりませぬ。今こそ報恩の時。元より逆賊福島に鉄槌を下したく思い馳せ参じましたのです!」

 

「うむむ、左様までに仰られるなら……花倉城を囲む際には、戦列に加わって頂きたく。恐らく福島越前は決戦を挑むでしょう。その報恩の志の慰めになるはずです」

 

「ありがたきかな。必ずや福島越前の首を献上致しましょう」

 

 ふぅ、という顔になる氏康様。キャラじゃない事をやらせてしまったが、これで無事爪痕は残せそうだ。太原雪斎が一瞬だけ苦々しい顔になったのを見逃してはいない。こちらの読みは当たっていたな。そちらの良いように使われてたまるか。

 

「あ、あの!それでしたら武田も最前線の戦列に加えて下さいませんか?福島には幾度となく煮え湯を飲まされて参りました。ここで退くわけにはいきません!」

 

武田信繁が立ち上がり参陣を願う。おお、雪斎の目が笑ってない。怖い。

 

「分かりました。武田の方々には石脇城の攻略をお願いしたい」

 

「必ずや」

 

武田にも同じような事をさせてしまったのは予想外だったがまぁ、概ね予定通りだ。後は兵を損なわずに花倉城の戦いに参加するのみ。三河やそれより西への援軍要請とかはシャットアウトされてるはずだから、孤立無援。朝比奈が街道を抑えているのが大きい。彼らに勝機は乏しいだろう。

 

 

 

 

 

 

凄まじい勢いの電撃戦で方上城は陥落した。岡部一族や朝比奈一族の猛攻により戦闘開始から僅か二時間で降伏した。

 

見ているだけだったが、凄いスピードなのは伝わった。流石は岡部元信や朝比奈泰朝を擁する家だ。他の将も名将揃いである。石脇城もすぐに陥落した。武田の攻勢に敵うことはなく、結局城を明け渡した。城将は切腹し、兵の助命を乞うたらしい。こちらも電撃的である。石脇城は僅かな城兵を残し、武田の兵もこちらに集まった。

 

 今川家の本隊も遊んでいた訳ではなく、久能城を陥落させた。ここは福島氏の本拠地。ここが落ちたことでいよいよ退路の無くなった福島正成は玄広恵探の本拠地花倉城へ落ち延びる。再起を図ろうとした彼らを追い、いよいよ明日は花倉城攻めである。この間僅か一週間。速すぎる。ドイツ軍もかくやだ。

 

 そして、正真正銘初めての戦いだ。北条は陣形の右翼の方に配置された。何としてでも生きて帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 夜、武田の姫と遭遇した。あまりに突然でビックリしたが、どうやら夜風にあたりに来ていた所に同じ目的で来た私と偶然鉢合わせしたらしい。

 

「えーと、お名前は何でしたっけ…北条の…確かえー…」

 

「あー大丈夫です。武田様ほどのお方が覚えておられぬのも無理はありません。私は、北条氏康様が臣下、一条兼音と申します」

 

「あ、そうそう。一条さんでした。私の妹にも、同じ姓を持つ子がいます」

 

「信龍殿ですか?」

 

「よくご存じですね。その通りです」

 

「少し小耳に挟みまして、偶然」

 

「……一条さんは、戦は初めてでしょうか」

 

「はい」

 

「私も、そうなんです。武芸の鍛練はしてきましたが、実戦は初めてで…。本当はこの戦も姉上が出るべきなんです。でも、父上は軟弱な姉上には務まらないと、私を……。一体私はどうしたら……。このままでは姉上との関係も壊れてしまうのではと苦しくて、たまらないんです。……あ、今のは無しで!その忘れてください。こんな事他の家の人に言ったら怒られてしまいます」

 

「ご安心下さい。私の胸のうちに留めておきます。それと…差し出がましいかもしれませんが、大丈夫だと思いますよ」

 

「え?」

 

「今の武田様がご自身のままであられたなら、いつかまたお姉さまと元の関係に戻ることも出来ましょう。それまでの辛抱です。心を強くもって、寄り添ってあげれば、必ずその思いは届くものです」

 

私は知っている。間も無く武田信虎は追放される。信繁は信玄に従い、共に父親を追いやった。その後も不仲になったという話は聞かないので、ずっと仲良くやれていたのだろう。

 

「そう、ですね。ありがとうございます」

 

「いえ、礼には及びません。この身が武田様のお役に立てたのなら幸いです」

 

「そんな、謙遜しなくても。もう少し頑張ってみようと思えました。それと、私のことは信繁で良いです。武田様とは呼ばれ慣れていなくて。…あぁ、そろそろ戻らなくては。それでは、またいつか。それと、先程の話はくれぐれも内密に」

 

「ええ、承知しておりますとも。またいつかお会いできる事を楽しみにしております。願わくば、良き間柄として」

 

「ご武運を祈っていますよ」

 

「っ!……信繁様もお気を付けて」

 

去り行く彼女を見送る。最後の笑顔に一瞬だけ言葉がつまった。あんな優しい顔の少女もいつか…。

 

そう、私は知っていた。武田信繁は第四次川中島の戦いで、上杉軍によって、その命を……。その残酷な運命から目をそらしたくて、唇を噛み締めた。血の味が逃れられない残酷な乱世の宿業を告げていた。その運命に少しくらいは抗いたかった。




信繁ってこんなキャラで合ってたかな…。その辺は二次創作だからで押し通ります。ごめんなさい。私の世界ではこうなんだ!

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