お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。   作:雨宮照

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『第一章』
恋人になりたい。


「――お兄ちゃん、あなたのことがずっと好きでした!」

 

 言って、しまいました。

 幼いころからずっと隠してきた感情。

 伝えてはいけない想いを、口にしてしまいました。

 目の前では、愛しのお兄ちゃんが目を見開いています。

 驚くのも無理はありません。

 血の繋がった妹から愛の告白を受ければ、誰だってこうなります。

 お兄ちゃんが言葉を失ってしまったため、数秒の沈黙が訪れて。

 それから、彼は口を開きます。

 柔らかそうで、それでいて厚くない唇。

 その中からどんな言葉が紡がれようと、私は受け止めるつもりです!

 そう、覚悟をしていた私でしたが――

 

「――ごめんね、若菜。ちょっと、考えさせてほしいんだ」

 

 お兄ちゃんはすぐに否定することなく、保留してくれました。

 普通なら切り捨ててしまうはずですが、さすがお兄ちゃんです。

 これは、保留期間にどうやってお兄ちゃんをオトすかが鍵になってくるでしょう。

 なぜならこれから結論を出すまで、お兄ちゃんは私のことを意識し続けるからです。

 それならば、と私はすぐに準備に取り掛かろうとします。

 でも、その前に。

「わかりましたお兄ちゃん。検討してもらえること、とっても嬉しいです!」

 抑えきれない笑みで、お兄ちゃんに告げました。

 悩むお兄ちゃんでしたが、そんな姿もかっこよくて素敵です。

 私は告白の舞台、彼の部屋から退出するとすぐに隣の自室に入ります。

 そして、録音機材をセットして――

「若菜のことが好き、若菜のことが好き、若菜のことが…………」

 延々と、自分のことを好きになるよう音声を記録しました!

 これをお兄ちゃんの枕元に夜な夜な設置すれば勝ちも確定です!

 部屋で一人、ほくそ笑みました。

 しかし、お兄ちゃんには早いところ私と付き合ってもらわなくてはいけません。

 気持ち的にはいつまでも待てるのですが、そろそろ期限が……

 遅くとも、今週中には決めていただかないと応募できません。

 私は時間切れを危惧すると、より一層暗示を強化するように、音声を重ねて記録します。

『わわかかななののここととががすす…………』

 もう何と言ってるかは分かりにくいですが、きっと効果も二倍なはず!

 私は安心して息を吐き、お風呂場に移動しました。

 

   *

 

――翌日。

私は、ハンモックに揺られる夢を見て目を覚ましました。

すると、目の前には整ったお兄ちゃんの顔があります。

……あれ? まだ夢の中なんでしょうか?

幸せな光景を前にほっぺたをつねろうと指を出すと。

「おはよう、若菜。昨日の答えだけど……いいかな?」

 その指をお兄ちゃんが掴んで、囁きます。

 瞬間私はそれが夢ではないと分かり、瞬間湯沸かし器のように沸騰します。

 すぐに顔が真っ赤になってしまって恥ずかしい限りです。

 しかし、それに対してお兄ちゃんは何も言いません。

 緊張しているのでしょうか。

 よく見ると若干手先も震えています。

 ……かわいいお兄ちゃんです。

 寝起きの乱れた姿を晒すのは恥ずかしいですが、いいでしょう。

 私は、お兄ちゃんに告白の返事を聞くため、再び彼の部屋に向かいました。

 

「これ、座布団。使って」

 到着すると、お兄ちゃんは黄色い座布団を出してきてくれました。

 これは去年ゲームセンターで獲った景品で、彼はこれを枕にして昼寝をします。

 それを知っているから、私はその座布団をお尻には敷きません。

 顔にくっつけてクンクンと嗅ぎました。

「……え、ええと……」

 すると、それを見たお兄ちゃんが困惑しています。

 お兄ちゃんの甘い香りと、ほのかな温もり。

 きっと、起きてから悶々としてこの座布団を抱いていたのでしょう。

 私は向けられる視線も気にせず、匂いを堪能します。

 お兄ちゃんを見ると、しばらくは私がこうしていることを諦めたようでした。

「お、おーい。若菜、もういいかい?」

「まーだでーすよー」

 十分経って、お兄ちゃんが訊ねます。

 しかし、ごめんなさい。

 あと五分、あと五分だけお兄ちゃんの匂いをぉぉぉぉ!

 視線に感情をこめてお兄ちゃんを見つめます。

 すると、お兄ちゃんの興味はもう別のものに移りかけていて――

「ああっ、ごめんなさいごめんなさい! ちゃんと聞きます!」

「……よろしい」

 危ないところでした。

 いくらお兄ちゃんが好きだからといって、本人に嫌われたら元も子もありません。

 座布団を抱えて正座をすると、話を聞く体勢になります。

「足崩していいのに」

 優しいお兄ちゃんはいいますが、崩しません。

 今日は大事な場面ですし、お兄ちゃんの前ではしっかりした妹でいたいので!

 ……座布団はクンクンしましたけどね!

 

「……で、告白の返事なんだが……」

 早速、本題に入ります。

 真剣な表情のお兄ちゃんがかっこいいです。

 お互いの、唾を飲み込む音が部屋に響きます。

 なんという緊張感でしょう。

 私の小さい胸が張り裂けてしまいそうなくらいです。

「俺は、若菜と――」

 来ました!

 お兄ちゃんの、お返事です!

 結果は、肯定か否定か、マルかバツか――

 

「俺は、若菜と付き合いたい!」

 

 来ました――――――!

 告白大成功です!

 私の初恋が実った瞬間です!

 誰ですか初恋は実らないなんて言った人は!

 私とお兄ちゃんの愛に限ってそんな理論は通用しないんです!

 内心飛び上がりたくなるほど嬉しいですが、まだお兄ちゃんの前。

 私は、正座のまま静かに口角を上げます。

 すると、お兄ちゃんも目の前で照れくさそうに笑顔を浮かべてるじゃありませんか。

 やりました、若菜はお兄ちゃんと晴れて恋人同士になったんです!

「お兄ちゃん、ありがとうございます! 大好きですっ!」

「……俺も、大好きだよ……。て、照れるな……っ」

 恥ずかしそうに赤面するお兄ちゃん。

 なんてかわいいんでしょう。

 手もモジモジさせちゃって、ほんとに!

 舞い上がる私でしたが、いけません。

 喜んでいるだけじゃなくて、伝えなければいけないことがありました。

「……お兄ちゃん、一つ、いいですか……?」

「お、おう、いいぞ。なんでも言ってくれ。若菜は……俺の彼女、なんだし……」

 目を逸らして尻すぼみに小さくなっていく声。

 そんなかわいいお兄ちゃんに、私は甘えることにしました。

「じゃあ遠慮なく言いますね。私は――」

 息を通常より多く吸い込んで。

 たっぷり間を開けて、言います。

 

「――私は、お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたいですっ!」

 

 突如として言い放たれた私の言葉に、ポカンとするお兄ちゃん。

 今日は色んな表情が見られていい日ですね。

「若菜……ちょっといいか……?」

「いいですよ、なんでもいってください。私はお兄ちゃんの彼女ですから!」

 得意げに言う私に、彼は泣きそうな顔で言い放ちます。

「……ちょっと一人にしてくれ――――――――!」

 

 ――ちょっとだけ、キャパオーバーだったようです。

 


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