お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。   作:雨宮照

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他者の評価と自己評価。

「だったら、大丈夫です」

「大丈夫って……」

 彼の答え、決意を聞いたわたしは優しく。

 そして強く、客観的に見た彼の評価を教えてあげることにしました。

「だって貴方は、こんなに頑張っているじゃないですか」

「俺が、頑張ってる……?」

「はい! こうしてこけしを広めるために行動したり、こけしの未来を真剣に考えたり」

「でも、それだって結果が出てるわけじゃないし、それに卑怯な手を使って……」

 両手を横にだらっと垂らして、自信なさげに俯く彼。

 確かに、彼がやったことは一見努力もせずに結果だけを得ようとするいけない行為です。

 しかし、それはこけしを想ってのこと。だったら、努力の一環ですよ!

「……あなたの鉄のこけし、見せてもらいました」

 わたしは続けます。

「職人としての確かな腕と、伝統と自分らしさを重ね合わせる発想力。とっても、素晴らしいと思いました。正直、今すごく貴方の他のこけしも見てみたくなっています」

 鉄を使ってこれだけの作品を作れる職人が、本来の木でこけしを彫ったら。

 入り口は新しさへの興味かもしれませんが、出口には王道が広がっています。

「現に、ここに心を動かされた人間、若者が一人いるんです! それを生んだのは、間違いなく貴方の努力です! だから、大丈夫だと言っているんです!」

「……俺のこけしが、心に刺さったっていうのか……?」

「そうです! だから、貴方は大丈夫! 信じたことを続けて、時に新しいことにチャレンジして。そうして努力を続ける限り、絶対に心動かされる人間が出てきます! だって、貴方は頑張っているんですから!」

 

 わたしが柄にもなく言い切ると、沈黙が空間に蓋をしました。

 その間にお兄ちゃんがオトシストさんの縄をほどいて、自由の身にします。

 しかし、オトシストさんは膝をついたまま動きません。

 正座のような体勢で自分の掌を見つめてじっとしています。

 そして、しばらくすると顔を上げて。

「…………ありがとう」

 と、小さく呟いてみせたのでした。

 

 それから彼は大会からの辞退を宣言し。

 そして私たちに神殿への地図を残すと、東北の自宅へと帰って行きました。

 ……いえ、その前に病院に行ったんでしたっけ。

 大会のバトルに関係する怪我は神の力で治るようですが、あれは関係ない趣味の拷問で負った火傷ですからね……。

 まあ、兎にも角にもこれでわたしたちは仙人の居場所を特定することが出来ました!

 それに、オトシストさんとの一件が終わったということは!

 ついに、わたしはお兄ちゃんからのご褒美をもらえますー!

 

「さあ、お兄ちゃん! このわたしをお好きなように――!」

 

 わたしは小さな両手を広げて目を瞑り、お兄ちゃんを待ち構えます。

 普段わたしは猛攻を仕掛けていますが、攻められるのは珍しいこと。

 ……とっても、ドキドキします。

 しかし、待てど暮らせどお兄ちゃんが近づいてくる様子は微塵もなく。

 唇を尖らせたわたしは、痺れを切らして閉じていた目を開けます。

 するとそこにお兄ちゃんの姿はなく、存在していたのはわたしのリュックサックで。

 

「若菜―? 早くしないと置いてくよー?」

 

 玄関でお兄ちゃんは、ちゃっかり出かける用意を済ませていました。

 もう! 楽しみにしてたのに!

 しかし、後から聞くとお兄ちゃんが言っていた「終わったら」はすべてが終わったあとのことを指していたようで――

 

 それならば、逃げるものでもないしいいかと、わたしは我慢するのでした。

 ……まあ、わたしからはいっぱいキスさせてもらいましたけどねっ!

 


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