お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。 作:雨宮照
それから約三十分後、インターフォンが鳴りました。
私は食器を洗っているため、出られません。
「すいませーん、お兄ちゃん出てくれますかー?」
呼びかけると、少し前に体力を回復したお兄ちゃんが自室から下りてきました。
「なんだろう、荷物かな?」
うちには来客を見られるカメラがないため、予めハンコを持って行くようです。
やがて玄関から音がして、お兄ちゃんがリビングに帰ってきます。
「お兄ちゃん、何の荷物でし――」
「お邪魔します~」
私がお兄ちゃんに問いかけると同時、部屋に入ってきたのは悪魔でした。
緑色と白を基調とした服装で、お嬢様感を醸し出す女。
彼女は、うちの隣に住んでいる幼なじみの菫さんです。
「な、なにしに来たんですか!」
私は望まぬ来客に、敵意をむき出しにします。
昔からよく知っている菫ちゃんですが、私はずっと敵視してきたんです。
お兄ちゃんの同級生でいつも一緒の彼女は、きっとお兄ちゃんのことが好きなんですから!
菫ちゃんはかわいいですし、少し天然であざといんです。
純情なお兄ちゃんは、そういう子にこそ騙されてしまいそうじゃないですか!
「あら若菜ちゃん、こんにちは~。今日はね、カレーを作りすぎちゃって……」
私の敵意なんて気付かずに、ゆっくりと近づいてくる菫ちゃん。
カレーを作りすぎて、お裾分けですか。
ベタなお隣さん作戦で、お兄ちゃんの気を引くつもりですね?
彼女の見え透いた魂胆に、思わずため息がもれます。
しかし、次の瞬間。
彼女が放った言葉は予想だにしていないセリフで――
「カレーを作りすぎちゃったから、ご飯をもらいに来たの~」
「……炊けばいいだろ」
これには思わず、優しいお兄ちゃんもツッコみます。
……むむう、菫ちゃんの天然具合を舐めてましたね……。
目の前の幼なじみは、予想をはるかに超えるおバカさんのようです。
「そっか!」と手を叩いて納得する彼女に、兄妹そろって呆れます。
彼女だけが、この部屋で上機嫌でした。
「……仙人のイベント?」
それからまた十分後。
私たち三人は、リビングのテーブルで向かい合っていました。
私とお兄ちゃんが横に並んでいて、菫ちゃんが向かいにいるカタチです。
話題は、仙人のイベントについて。
お兄ちゃんが、菫ちゃんに留守を頼んでいるところでした。
「……ああ。しばらく家を空けちゃうから、父さんや母さんになにかあったらよろしくな」
「……それはいいんだけど……」
快く引き受けてくれた彼女でしたが、なにか引っかかることがあるようです。
疑問はなんでも言うように、お兄ちゃんが促します。
すると、菫ちゃんは二つ言いたいことがあるようで、口を開きました。
「えっと、一つなんだけど……本当に、あのイベントに参加するの?」
「お前、イベントを知ってるのか⁉」
なんと、菫ちゃんは仙人のイベントを知っていたようです。
内容まではよく知らない私より、彼女の方が詳しいのかもしれません。
神妙な顔で菫ちゃんが続けます。
「……あのイベント、『仙人主催大神様杯』は……毎年死人も出る危険な大会よ」
『な、なんだって!』
菫ちゃんによると、大神様杯は会場に辿り着くだけでも非常に困難な大会だといいます。
毎年死人が出ているにも関わらず問題になっていないのは、全員が神の力で生き返っているから。それだけでも、仙人の力を本物だと考えるには十分です。
「結局生き返るとはいえ……わたし、心配だわぁ」
困り眉になった菫ちゃんが、私たちを止めます。
お兄ちゃんも「若菜、本当にやるのか?」なんて、弱腰になっています。
しかし、私は挑戦しなければいけないんです!
だって、他にお兄ちゃんをお姉ちゃんにする手段はありませんから!
私は、お姉ちゃんとの愛に生きるんです――――!
嫌がるお兄ちゃんにストローを見せて黙らせ、私は参加を表明します。
すると菫ちゃんは微笑み、告げてきました。
「はい、二人とも合格。参加資格が与えられたわぁ」
「……へ?」
「わたし、仙人に言われて二人の意欲を調べる係になったのよ~」
既に、予選は始まっていたみたいです。
参加を検討している人の知人を予選の審査員に任命し、説明も兼ねて意欲を確かめる。
……ついに、大会が身近になってきました。
「お兄ちゃん、頑張りましょうね!」
「あんまりお姉ちゃんにはなりたくないけど……やれるだけやってみるよ」
二人で、ハイタッチを交わします。
それから、感極まった私はお兄ちゃんに抱き着いて。
ぎゅーっと、その温もりを確かめます。
とってもあったかくて、力が湧いてきますね!
と、二人でいちゃいちゃしていると。
「えっと、もう一つの言いたいことなんだけど……」
と、菫ちゃんが口を挟んできました。
もう、お兄ちゃんとせっかくいちゃいちゃしてたのに。
でも、さっきから二つ聞く約束をしていたので我慢します。
すると、次の瞬間彼女は首を傾げながら――
「二人の距離感が、いつもより少し近いかなあって……」
――と、兄妹でいちゃいちゃする私たちへの意見を言いました。
ふふっ、バレてしまいましたね!
少し悔しそうにする菫ちゃんに、私は勝ち誇ったように言います。
「それは、今朝私とお兄ちゃんがお付き合いすることになったからですね!」
「な、なんですって!」
私の返答に、衝撃を受けた様子の菫ちゃん。
みるみるうちに元気がなくなっていきます。
対する私はニヤニヤが止まりません!
長年のライバルに、勝利宣言が出来たのですから!
えへへ、お兄ちゃんはもう私のものですよ~。
さっきとは違って、私の方が上機嫌になってしまいました。
菫ちゃんは肩を落として泣きそうになり、お兄ちゃんは慌てています。
お兄ちゃんは慌てなくてもいいのに。
他の女のことは放っておいて、私を愛してくれればいいんです。
まあ、とにかく私の勝ちです。
今日は美味しくご飯が食べられそうですね!
そう、私が胸を張ったときでした。
私の体が、ふわりと宙に浮かび上がります。
「……え……」
いえ、違います。
浮かび上がったんじゃありません。
これは……持ち上げられているんです!
下を見ると、私を両手で持ち上げた菫ちゃんが全速力で二階に駆け上がっています。
「えっ、えっ!」
驚いている間に、菫ちゃんは私を抱えて私の部屋に辿り着きます。
――そして。
「こうなったら……美月くんより先に、若菜ちゃんを食べちゃうしかないわね!」
「なに言ってるんですかアンタ!」
菫ちゃんに、ベッドに押し倒される私。
段々と衣服を脱がされていきます。
「ほーら、若菜ちゃん。脱がせやすいように万歳して?」
「嫌ですー!」
ですが私は腕をぴったりと身体にくっつけ、脱がされないよう抵抗。
絶対に、脱がされてなるものですか!
私の身体はお兄ちゃんだけのものですっ!
そうして、格闘すること二分。
私のガードが突破できないことを悟った菫ちゃんが、額の汗をぬぐいます。
「ふぅ……なかなかやるわね」
「なんなんですか! この犯罪者!」
混乱しながらも、私は彼女に毒を吐きます。
すると、菫ちゃんはなぜか舌なめずりをして口角を吊り上げました。
「うふふ……こんなカタチで言うことになるとはね……」
「な、なんですか……」
怖がる私に、もう一歩近づく菫ちゃん。
その手は私のスカートを掴んでいて――
「わたしは、若菜ちゃんのことが好きだったのよ~!」
「な、なんですってぇ!」
告白と同時、スカートをまくり上げる菫ちゃん。
まさか、そんなことが……⁉
ずっとお兄ちゃんのことを好きだと思っていた菫ちゃんが、私のことを好きだったなんて!
私は驚きが勝って、抵抗することをやめてしまいました。
すると、その一瞬の隙をついて彼女は猛攻を仕掛けます!
私の下着を掴んで、一気に――!
「若菜ちゃ~ん、その中、お姉さんに見せ……ぐふぇっ!」
「菫ちゃん⁉」
下ろそうとしたところで、白目をむいて倒れてしまいました。
呆然としていると、彼女の後ろには手刀を構えたお兄ちゃんが立っています。
「お兄ちゃん!」
私は、満面の笑顔で助けてくれたヒーローの元へ駆け寄ります。
すると、なぜかお兄ちゃんは照れ臭そうに顔を背けました。
どうしたんでしょう。
不思議に思って、先ほどの彼の視線を目で追います。
すると――
私の、丸出しのパンツがそこにはありました。
「ば、バカぁっ!」
「ぐへぇ!」
咄嗟にビンタを喰らわせてしまう私。
お兄ちゃんは私を助けてくれたのに、なんということでしょう。
お兄ちゃんと菫ちゃん、この部屋に倒れているのが二人になってしまいました。
……でも、とにかくこれで私たちはイベントの応募を完了できました!
あとは、出発するのみです!