お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。   作:雨宮照

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『第二章』
快楽の共有。


「出発するっていっても……目的地とかは分かってるのか?」

 一度、お互いの部屋に戻って支度をして。

 リビングで最終確認をしていると、お兄ちゃんが訊ねました。

 彼の服装はTシャツにジャージのズボン。

 冒険に行くということで、動きやすい服装を選んだのでしょう。

 だから、一般的にはオシャレじゃない恰好になっているわけですが……。

 それが似合っちゃうのが、私のお兄ちゃんなんですよねえ!

 少し大きめのTシャツから覗く鎖骨や首筋は色気たっぷり。

 それに、シルエットはスラッとしていてモデルさんみたいです!

 足首だって細くて、その骨が少し浮き出る具合は性癖にぶっ刺さります!

 そんな風にお兄ちゃんの身体を眺めまわしていたからでしょうか。

 無意識に口をついて、私の心の中が空気に漏れだしてしまいます。

 

「はぁ、お兄ちゃんの鎖骨を舐めまわしたいです……」

「……うん、俺の話聞いてた?」

 

……はっ。

いけません、うっとりして別世界に行ってしまっていました。

慣れているのか、お兄ちゃんはさらりと受け流してもう一度質問してくれます。

ふむふむ。目的地……ですか。

確かに、準備をしておきながら目的地を言ってませんでしたね!

私は手元にあった地図を開いてお兄ちゃんに見せます。

 

「ほらお兄ちゃん、見てください。ここが目的地です!」

「どれどれ…………って、ええ⁉」

 

 なにやら、目を見開いて驚いた様子のお兄ちゃん。

 私は首をかしげると、お兄ちゃんの手を引いて歩き出します。

「どうしたんですかお兄ちゃん? ほら、行きますよ?」

 お兄ちゃんの温かい手を自分の指に絡めて、引っ張ります。

 しかし、なぜだかお兄ちゃんはついてきてくれません!

「ええっと……お兄ちゃん、どうして歩き出さないんですか?」

 痺れを切らした私は、お兄ちゃんが止まってしまった理由を聞きだします。

 するとお兄ちゃんは大きく息を吸い込んで――

 

「だってその地図の目的地、ラブホテルじゃないか――――!」

 

 私の罠を、見事叫んでみせました。

 ……むむう、バレなければドキドキできたのに……。

 でも、私の目標は姉になったお兄ちゃんといちゃいちゃすることです。

 こんなところで妥協は許されないんです!

 お兄ちゃんが罠にかからなかったのは残念でしたが、少し安心した部分もあります。

 私はお兄ちゃんに気付かれないよう、ホッと息を吐きました。

 ……では、いたずらも済んだことですし。

今度こそ本当の目的地をお兄ちゃんに伝えるべく、地図を広げます。

「お、どれどれ……今度はちゃんとした地図みたいだな」

 お兄ちゃんが後ろから覗き込んできました。

 息が首筋に当たって少しこそばゆいです。

 そんな彼に真実を伝えるべく、私は後ろを振り返ります。

 ――すると、お兄ちゃんの整った顔が目の前にあって。

 二重の大きな瞳や、きめ細やかな肌に驚いてしまいます。

 ……えっ、私はどうしてこの人の妹なんでしょう。

 ……私はどうして、この人の彼女なんでしょう。

 そんな疑問が湧いてくるほどに美しいです。

 対するお兄ちゃんも突然振り返った私の顔が近くにあることに驚いたようで。

 目を見開いて、硬直しています。

 数秒が経過したでしょうか。

 ドラマでよく見る、時がゆっくりに見えるカット。

 それが現実で起こり得るとは知りませんでした……。

 しかし、このままではマズいです。

 だって、映画やドラマではこの後すぐにお互いが目を逸らして気まずくなります。

 それはそれで甘酸っぱい青春の香りがしていいんですけど。

 でも、私は一歩先に進みたいんです!

 固まっていたお兄ちゃんの顔に赤みがさしてきます。

 頬が紅潮し始め、恥ずかしそうにします。

 そうして彼が顔を逸らす、その瞬間でした。

 ――私は、彼の唇にキスをしました。

 

見開かれていたお兄ちゃんの目が、もっと開かれます。

 恋人同士になってから、初めてのキスです。

 小さい頃には遊びで何度も行なったキス。

 しかし、今日からはその価値が違います。

 初めはチュッと一回。

 しかし、一度離した唇は磁石のように惹かれ合い。

 離れてはくっついて、離れてはくっついて。

 時には暫くくっつけたまま居てみたり。

 時には顔を離してお互いの目を見たり。

 そうして、数分間続けていたでしょうか。

 私の肩に手を置いたお兄ちゃんが、笑顔で聞いてきます。

 

「で、目的地はどこ?」

「実は知りません!」

 

 ニコニコと答えた私に、青筋を浮かべるお兄ちゃん。

 両手を広げてミナミコアリクイの威嚇のようなポーズを取ると……

「こら――!」

 と言いながら、私に抱き着いてきました。

 その大きさと、Tシャツ一枚のはずなのに感じる温もりが心地よくて。

 私は、その身体を思い切り抱き返しました。

 それはもうお互いに、痛いくらいに抱きしめ合って。

 脳がとろけるような快楽を共有し合いました。

 


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