お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。 作:雨宮照
「でも、目的地が分からないんじゃ出発のしようがないな……」
「そうですね……まったく動けません!」
あの蕩けるようなキスのあと。
わたしたちは、何をしたらいいのか見当がつかず困っていました。
本来案内をする役だった菫ちゃんは二階でのびています。
そうなると、頼れるのは神様だけということに……。
……はっ!
そうですよ、これは神様の試練です!
つまり、神様がチャンスを与えてくれることも然り!
ってことは、これを口実にお兄ちゃんを攻め落とせと神様は言うわけですね!
これを神のお告げと受け取ったわたしは、早速行動に移します。
わたしは思い立ったが吉日妹なのです!
略して「キチイモ」です!
……なんかやばそうなのでやっぱりやめましょう。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
突然大きめの声で呼びかけたわたしに、お兄ちゃんが不思議そうにします。
そんなかわいいお兄ちゃんに向けて、わたしは正面から言い放ちました。
「お兄ちゃん、ホテルに行きましょう」
「俺ちょっとトイレに行ってこようかな」
あああああああああああああああ!
完璧にスルーされました!
いつものことだとはいえ、ここまで無視されてしまうと傷つきますよ⁉
鬼畜な塩対応に傷ついていると、お兄ちゃんは本当にトイレに行ってしまいます。
……むむう。
玄関に一人になって、少しずつ寂しさがこみ上げてきます。
こんなときは、お兄ちゃんで妄想しましょう。
先ほど塩対応だったお兄ちゃん。
あれが、もっとドSな対応になったら……。
『お兄ちゃん、ホテルに行きましょう』
『は? 行くわけないだろ』
『そんなこと言わずに行って下さいよー!』
『……チッ……うるせえな、そんなとこ行かねえって言ってんだろ』
『ひ、酷いですお兄ちゃん……せっかく恋人になったのに……』
『…………ホテルまで、待てるわけないだろ』
『…………えっ』
『我慢できないって言ってんだよ! おら、脱げ!』
『きゃああ、お兄ちゃんのエッチ――――――――!』
でへ、でへ、でへへへへへへへ。
あのかわいいマスクのお兄ちゃんとドSのギャップ萌えです。
想像したら、よだれが出てきちゃいました!
……幸せです。
いつもお兄ちゃんが学校から帰ってくるまで妄想していた成果が出ていますね。
いつでも想像上のお兄ちゃんを作り出すことができます。
……でも、やっぱり本物の素晴らしさには勝てません。
VR映像と本物の体験くらいの明確な差がそこにはあって……。
「若菜、ただいま……って、うわぁぁっ」
トイレから帰ってきた本物のお兄ちゃんに、わたしは思わず抱き着いてしまいました。
お兄ちゃんは驚きつつも、わたしの髪を梳くように優しくなでてくれます。
と、わたしは撫でられながらある疑問が浮かびました。
「お兄ちゃん、一つ聞いてもいいですか?」
「……ホテルのことじゃなければなんでもいいぞ」
言ってくれるお兄ちゃんに、質問します。
「トイレから出て、手は洗いましたか?」
「うん、洗ったよ」
「ガッデム!」
わたしをなでてくれていたお兄ちゃんの手は、洗った直後の綺麗な手でした。
ちょっとくらい汚れていてもよかったのに!
残念がるわたしに、お兄ちゃんが困惑しています。
だからわたしは、この場を収めるため。
そして、自分の気持ちを抑えるために行動を起こします。
思い立ったが吉日妹、発進です!
「んちゅ……れろっ……れろれろっ……」
「……なにしてんの⁉」
突然お兄ちゃんの手を舐め出したわたしに、驚くお兄ちゃん。
そんな彼に、わたしは上目遣いで教えてあげます。
「…………おいしいですよ?」
「……………………」
お兄ちゃんはそのあとすぐにもう一度手を洗いに行ってしまいました。
なにがいけなかったんでしょう?
まあ、わたしにはきっと関係のないことですよね!
気を取り直して、冒険に出発する気持ちを整えます。
すると。
「……あれ?」
なにやら、音が聞こえてきました。
ヒューッと、指笛のような気持ちのいい音。
それが、段々と大きくなってきます。
そして、その音はどんどんと近づいてきて――
我が家の屋根を突き破って、わたしの目の前に落ちました。