お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。 作:雨宮照
「なに! すごい音がしたけどなに!」
直後、お兄ちゃんがすごい勢いで駆け付けます。
あれだけの音と振動が伝われば、驚くのも無理はありません。
わたしだって、今まさに驚いて声が出ないんです。
だから、お兄ちゃんには目で判断してもらうほかないのですが……。
お兄ちゃんが、それにゆっくりと近づきます。
言うまでもなく、頭上から落下した物体にです。
そして、それを拾い上げてひとこと。
「……なんでうちに鉄のこけしが落ちてくるんだああああああ!」
「知りませんよぉぉぉぉ!」
あっ、声が復活しました。
――十分後。
「緊急兄妹会議を開かせてもらう。俺は司会を務める兄の美月だ」
「そしてわたしが書記の若菜です!」
「……いや書いてないで発言してよ」
こけしをテーブルの中央に置いて、兄妹で向かい合います。
議題は、もちろんこのこけしが何を意味するのか。
普通に考えたら飛行機からの落下物などだと考えるのが筋ですが……。
今は、仙人の試練に関係すると考えるのが妥当でしょう。
お兄ちゃんが、こけしをくまなく調べます。
「ええっと、ボタンや仕掛けは特になさそうだな……ただのこけしなんじゃないのか?」
「いいえ、そんなはずがありません! だって鉄のこけしですよ? 木製じゃないんですよ?」
「……材質の違いになんの問題が……」
顔をしかめるお兄ちゃん。
しかし、わたしは試練関係だと主張して、もう少し調べてみることにします。
とりあえず、お兄ちゃんのように手に取って触ってみましょう。
ええと、確かにボタンはなさそうですね……。
それに、鍵穴や爪を引っかけるところもありません。
むむう……本当にただのこけしなんでしょうか?
でも、空から降ってきて……こけしで……
「……あ!」
「どうした、なにか分かったのか!」
ピンと来て大声を上げたわたしに、壊れた屋根を見ていたお兄ちゃんが駆け寄ります。
ふっふっふ、これはお兄ちゃんにいいところを見せるチャンスです!
わたしはこけしを掲げると、したり顔で推理を展開しました。
「お兄ちゃん。こけしの名前の由来を知っていますか?」
「ええと……確か芥子坊主っていう髪型から来ているとか……」
「よく知っていますね、さすがお兄ちゃんです」
急な質問にもさらりと答えるお兄ちゃん。
やっぱりお兄ちゃんは博識で素敵です。
歩く百科事典の異名は伊達じゃないですね!
……いや、今わたしが適当に名付けたんですけどね。
そんな異名お兄ちゃんにはないです。
お兄ちゃんにある異名は「牛歩戦術」くらいでしょうか。
マラソン大会の時に毎回タイムオーバーで完走できないのでつけられていました。
……あ、これだとお兄ちゃんが情けない感じになっちゃってますよね?
た、確かに昔は遅かったですけど、今は速くなったんですよ!
……その話、聞きます?
あれは、わたしが中学一年生、お兄ちゃんが二年生のころでした。
わたしがお兄ちゃんのことをお友達に話していたら、馬鹿にしてくる女の子がいたんです。
「あんなお兄ちゃんより、若菜には私の方がふさわしい!」とかいって……。
それで、かっとなってわたし、言っちゃったんです。
お兄ちゃんは勉強でも一番がとれて、運動でも誰にも負けないって。
そしたら、その女の子が勝負しろっていうんです。
期末テストとマラソン大会、両方その子のお兄ちゃんに勝てなければ、若菜ちゃんは私がもらうーって。
わたし、頭に血が上っていたので、売り言葉に買い言葉で勝手に引き受けちゃって……。
そのことを後日、お兄ちゃんに謝りに行ったんです。
そうしたら、お兄ちゃんなんていったと思います?
「若菜のために、嘘じゃなくしてやるよ」って、そういったんです。
きゃ――――――――――――!
お兄ちゃんかっこよすぎます―――――――――!
それから、毎日彼は特訓しました。
わたしのためだけに毎朝早起きをして、ジョギングをして。
結果は、負けちゃったんですけどね。
それでも、現実的な範囲でお兄ちゃんは成長を果たしました。
なんと、その年のマラソンを完走することができたんです!
そしたら、相手の女の子も、お兄ちゃんのやる気とわたしを想う気持ちに納得してくれて。
お兄ちゃんは、わたしを守り抜いてくれたんですー!
えへへ、えへへへへへ……
「えへへへへへへ……」
「……うん、そろそろ帰ってこようか」
……そういえば、推理の途中でした!