恋姫†無双 周回人生独立ルート   作:空念

42 / 43
第四十一話

「雪蓮様、例の件どうします?」

「例の件? ああ~、劉備陣営との同盟の事ね」

 部下に尋ねられ、孫策は応える。

「確かに、私たちに利が無い訳ではないのよね。でも……」

 止めといた方がいいわね、と孫策は結論を出す。

 劉備陣営から同盟の話が来たのは、少し前の事であった。曹操の圧力に耐えきれなくなったのだろう、劉備陣営の方からそのような話が舞い込んできたのだ。

 状況的に見れば、劉備陣営にとって打てる手はそれしか無かったであろう。離反者が相次いだ今、曹操の南下を止める事は不可能であり、また荊州も楊燕陣営が迫っており、もはや劉備の逃げる場所は失われていた。

 孫策にとって、劉備との同盟は利が無い訳でもなかった。幼帝を手中に収めた曹操や、漢王室に連なる者が居る楊燕陣営と違い、孫策陣営には擁するものが全くないのだから。劉備から御使いを取り上げ、その血を孫家に入れてしまえば、無理矢理ではあるが一応は天下を手中に収める理由にもなる。しかし……。

「……御使いを取り込んだら、取り返しのつかない事になる気がするの。ただの勘だけどね」

「雪蓮さまの勘は、よく当たりますからな」

 

 

*****

 

 

 ついに始まった、楊燕の荊州攻略戦。予想以上の速さで迫る楊燕軍に対し、管理者にも見放された劉備陣営には、もはや打てる手は残されていなかった。

 保有していた豫州を曹操に攻められ荊州に逃げたところで楊燕の進撃を受け、完全に追い詰められていた。朱里や雛里が何とか策を弄すも、そもそも兵の士気が極端に低く、反対に極端に士気が高い楊燕軍が相手では、勝負にすらならなかった。

 そんな中、劉備軍の中でも一つだけ、統制された部隊が存在した。

 

「いよいよ、最後の戦いになりそうね」

 迫る敵軍を目の前に、盧植は呟く。彼女は何とか弟子たちを正しい道に戻そうと、最後の最後まで奮闘したが、状況を改善するには至らなかったのだ。

 前方では劉の旗が並ぶ。劉備の旗印ではない。敵軍の劉封の旗だった。楊燕軍の中で最も士気が高く、味方をも置いてきぼりにする勢いで怒涛の攻めを見せてきた軍だった。盧植にとって、最後の戦いで対峙する軍が、まさか最後の弟子である劉封とは、これも運命の皮肉か。そして、その隣には廖の旗もあり、どう考えても形成逆転は不可能な布陣である。

 漢を立て直す事もが出来ず、その過程で想い人に先立たれた。弟子たちを導く事も出来ず、今まさに滅びに向かっている。こんな愚かな師だが、もう一人の愛弟子が引導を渡してくれるなら、それもまた悪くない。そのような思いを胸に、盧植は前線へと向かっていった。

 

 盧植の軍は、統制が取れていた。主の指示を理解し、よく動き、よく戦った。どれだけ劣勢に立たされても、決して乱れず、味方が斃れれば隣の兵が、その兵が斃れればさらにその隣の兵が、穴埋めをするように奮戦した。

 しかし、それ以上に劉封の部隊は強かった。状況に合わせて陣を組み替え、しかも乱れを見せない。単純な兵力勝負になってくると、圧倒的に不利なのは盧植である。彼女の軍は見る見るうちに数を減らし、残るは盧植を含む数十人のみ。

(よく、ここまで立派に育ったものだわ)

 最後の弟子の采配を目の当たりにして、盧植は目尻に涙を見せる。姉弟子二人がまるで駄目だっただけに、余計に劉封の活躍ぶりが際立っていた。戦ううちに、むしろ彼の手で引導を渡して欲しいとさえ、盧植は思っていた。

(師匠失格だけど、最期にあの子の成長が見られて、思い残す事は無いわね)

 ついに囲まれる、盧植の本隊。彼女は死を覚悟する。そんな彼女の前に、進み出て来たのは、劉封本人だった。

「風鈴先生っ!」

 盧植に、劉封が呼びかける。

「あなたの采配、見事だった。立派になって先生嬉しいわ」

 さあ斬りなさい、と剣を構える盧植。だが、劉封には盧植を斬る事はどうしても出来ない。

「風鈴先生、投降して下さい」

「それは出来ないわ。責任の一端は、御使いを諌められなかった私にもあるもの。それでも戦ってくれた兵たちを差し置いて、私だけが生きながらえるなんて出来ないわ」

 そう言うと、剣を振りかざして劉封に襲いかかる盧植。だが、そもそもの腕前が違いすぎる。そもそも、盧植は軍師タイプの人間であり、武の方はからっきし駄目だったのだ。

 劉封の一撃を受け、崩れ落ちる盧植。だが、血は流れていない。劉封が峰打ちで仕留めた為だ。

「……風鈴先生、申し訳ありません。俺にはどうしても斬れない」

 以前、先生は仰った。先生にとって、弟子は子どものような存在だと。劉封にとっても、盧植は母親と同義だった。だから、子どもが親を斬れる筈が無い。それに、劉封が斬りたいのは御使いであって、盧植ではない。

 峰打ちで意識を失って崩れ落ちる盧植の体を、劉封は強く抱き留めて支え続けた。

 

 

「どうやら、ボクたちもここまでみたいね」

 盧植の遊軍として戦っていた賈駆であったが、ついに盧植が捕縛されたのを知ると、武装解除して投降を決意する。

「もう、詠ちゃんだけに苦労はさせない」

 そして、その側には董卓。様々な紆余曲折があったが、賈駆が苦労してようやく連れ出したのだ。

 御使いの本性を知ったとき、董卓は酷くショックを受けて寝込んでしまった。だが、賈駆だけに責任を背負わせられない、と出てきたのだ。ここまで馬鹿だったのだから、呂布の言葉を聞かずに見放されたのは当然である。だが、いつまでも目を背けてはいけない。自分でしたことの償いは、きちんとするつもりだった。たとえ、捕まった先で死を言い渡されようとも。

 




董卓が目を覚ましたいきさつは、後ほど書きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。