恋姫†無双 周回人生独立ルート   作:空念

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第四十二話

 盧植らが捕縛され、愛紗ら劉備軍の主力が楊燕に蹴散らされ、勝敗は完全に決してしまった。劉備、御使いは江夏に立てこもって最後まで抵抗したものの、陥落。御使いは最後まで付き従った彼女らと運命を共にし、燃え盛る城内の中で、焔に飲まれて消えていった。

 

 こうして、御使いとの戦争はあっけなく終わりを告げた、それは同時に、楊燕の前世から続く宿縁に終止符を打った瞬間でもあった。

 楊燕の元々の行動原理は、いかに御使いに対抗して自身の平穏を得るかという事であった。まだまだ戦乱は続くものの、ひとまずは家族との平穏を得られそうで、ホッと一息ついたことだろう。御使いの存在が消えたことにより、楊燕の戦いは一旦終わりを迎えるのであった。

 

 

*****

 

 

 盧植は今までを悔やんでいた。

 この乱世であるから、弟子たちが争う事になるのは仕方が無い。だが、その弟子たちが揃いも揃って間違いを犯し、しかもそれを正すことが出来なかったのだ。劉備たちが立てこもった城内で焔の中に飲まれたと聞いた時、彼女は自分の役目が終わったと感じていた。

 乱を鎮圧し、平穏な世が戻れば、漢王朝での役目を辞し、故郷でまた私塾を再開しようと思っていた。だが、弟子たちの末路を目の当たりにすると、自分の指導が正しかったのかどうかが分からなくなっていた。結局、残った主な弟子は劉封のみ。一体、自分は何を残せたのだろうか、と。

 そんな調子だから、荊州での戦が終わってしばらく経っても、盧植は塞ぎ込んだままでいた。もはや、日々の生活に張り合いすらない。そんな様子の彼女に、一人の人間が訪れる。

 

「……アナタ、生きてたのですか!」

 訪れてきた廖化を目の当たりにした盧植は、ひどく驚く。当たり前である。とうの昔に暗殺された筈の丁原が、目の前でピンピンしているのだから。

 夢ではないか、と盧植は我が目を疑った。だが、何度見直しても廖化は、いや、丁原は目の前にいた。彼の姿をはっきりと認識した瞬間、盧植の目には、見る見るうちに涙があふれてくる。

「アナタっ! 生きてたのなら、生きてたで……」

 あとは、言葉にならなかった。彼女は廖化の胸に飛び込むと、言葉にならない声で、想いの丈をぶちまけた。その勢いは、武で鍛えた筈の廖化が、思わず一歩下がってしまうほどだった。

「お! おおっ……」

 盧植の剣幕にびっくりしていた廖化だが、やがて彼はそっと盧植を抱きしめる。

 分野は違えど同じ弟子を持つ立場として語らい、同じ四将として共に戦い、そして深く愛し合った。そんな二人が、再会を果たした瞬間だった。特に盧植の方は廖化に対して、戦乱さえ無ければずっと二人で生きていくのだ、とまで思い定めた相手である。感情を抑えろという方が無理な話であった。

「んっ……アナタ……アナタっ」

 想い人を失った寂しさ、ずっと顔を見せなかった怒り。一度として彼を想わない日は無く、辛い時には必ず心の中で語りかけていた。だが、その時は応えてくれなかったのに、今になって現れて……。感情剥き出しにして全てぶちまける。だが、ごちゃごちゃになった感情が過ぎ去れば、後に残ったのは強い恋慕の情。盧植は普段の彼女からは考えられない様子で、廖化の胸に顔を埋め、泣き笑いの表情で甘え始める。

「アナタぁ……寂しかったのぉ、逢いたかったのぉ……」

(……風鈴って、見た目は確かに童顔だが、言動もこんなに幼かったっけ?)

 そう思いながらも、久々に逢う恋人との再会に、廖化もまた感動していた。

「……風鈴、ただいま」

 

「……そうか、辛かったな」

 盧植の話を聞いた廖化は、彼女の頭を優しく撫でる。ちなみに、二人もと抱き合ったままである。

「だが、よく頑張った。弟子を最後まで見捨てなかった。俺ならば、そこまで出来ない」

「でも、私は間違いを正せなかった……」

「風鈴がこれ以上気に病む事ではない。劉備たちも立派な大人だ。あとは当人たちの問題だろうよ。それに……」

 それに、と廖化は言葉を続ける。

「……風鈴は自分の事を師匠失格と言うが、俺は充分師匠やってると思うぞ。風鈴ほど弟子思いの奴は、なかなか居ない」

「……ふぇぇ」

 廖化の言葉に、盧植は泣き出してしまう。ずっと悩んでいた事だけに、廖化の言葉で感極まってしまったのだ。

「だがまあ、そんなに気に病むのなら……劉封だっけ? 残った奴の面倒は見てやれ」

「うん、そうする」

「風鈴も辛かったろうが、今一番辛いのは、あいつだろう。何せ、あいつにとっての姉弟子も、かつての恋人も、自らの手で死に追いやったのだ。何も思わぬ筈が無い」

 

 

✳✳✳✳✳

 

 

 今回の荊州攻めで一番功があったのは、間違いなく劉封である。彼は先陣として怒涛の勢いで御使いを追い詰めたのだから。彼は復讐という目的を果たしたのだ。

 だが、劉封の心はちっとも晴れなかった。御使いを葬ったとはいえ、直接斬った訳ではない。御使いが燃え盛る焔の中に身を投じるという結果に終わり、逃げられたような感覚だった。

 それとは対照に、かつての恋人を劉封は斬った。御使いを追い詰めた時、劉封の前に立ちはだかり、抵抗したのだ。

 斬らなければ、こちらが斬られていた。御使いを守ろうと必死な剣に対し、手加減など出来なかった。だが、かつての恋人を斬った時、劉封は自分の中で何かが失われたのを感じていた。とにかく、御使いは葬った。だが、かつての恋人はもう二度と現れず、そして姉弟子たちも御使いの後を追って焔の中に飛び込んだ。手を下したのは全て自分。最悪の形で全て終わったのだ。

 復讐を糧に生きてきた劉封。しかし、それを果たした今、残ったのは何とも言えない後味の悪さだけ。

 今にして思えば、俺はあの時に死ぬべきだったかも知れない。一体この後どうすればいいのだろうか。劉封は一人、曇った空を見上げる。

「……俺は、どうやって生きればいい?」

 劉封のその呟きに、答える者は無かった。

 




次回は董卓のその後

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