グリードとノイズとシンフォギア   作:キングタケノコ

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現行1 グリードとノイズと再始動

 今や日本一メジャーと言って差し支えのないアイドルユニット「ツヴァイウィング」のライブの開始まで一時間をきった。

 このライブは『認定特異災害』ノイズに対抗しうる唯一の戦力である、特異災害対策機動部二課による完全聖遺物の起動実験でもあった。

 二課の司令を務める風鳴弦十郎は二人の装者への激励を終え、舞台裏を歩いていた。

 彼の足が何かを蹴飛ばした感覚があった。

 「メダル…?」

 金縁の緑のメダルが転がっていく。弦十郎はメダルをつまみ上げ、足を止めると少し観察する。

 「これは…クワガタ…?」

 メダルには両面に同じ模様があった。どうやらクワガタのようだ。抽象的なクワガタは古代の壁画にでもありそうな具合だ。

 (落とし物か?小道具という可能性も…。ともかく運営の方に届けねばな)

 緑のメダルを胸ポケットにしまい、歩きだした。

 

 

 

 「ねえ翼。これが何か分かるか?」

 ツヴァイウィングの片翼、天羽奏が懐からニ枚のメダルを取り出す。金縁、そしてそれぞれ赤と黄のメダルだった。

 「これ…どうしたの?」

 「よくわかんないんだけどさ、いつの間にかポケットに入ってたんだよね」

 「実は…」

 翼が懐へ手を潜らせる。取り出された物はまたもメダルだった。翼の物もやはり金縁、しかし模様と色が違った。一枚は赤で奏のものとも似ていた。しかしもう一枚は青。描かれている模様も全く違った。

 「これは、タコかな?」

 「うん、そうみたい。奏のは猫?」

 「うーん、猫よりはトラって気がするな。こっちの赤いのも微妙に違うんだね」

 「本当だ。同じ鳥かと思った」

 「でもこれ、何だろうね」

 「わからない。でも、なんだかとても温かい。まるで不死鳥が抱きしめているみたいだ」

 「あはは。それは縁起がいいや。誰のかわからないけど、それならもう少しだけ借りておこうかな」

 

 

 

 

 「フォニックゲインの上昇、想定範囲内。順調です」

 「成功みたいね」

 「……」

 「どうかした?」

 「ん!ああ、すまない。このまま観察を続けてくれ」

 ライブが始まり、会場は盛り上がりを見せていく。そんな中、風鳴弦十郎は緑のメダルが気になって仕方がなかった。

 (どうもこれはただのメダルとは異なる気を感じる…聖遺物では無いだろうが…)

 ポケットの中でなんとなく手遊びしていると、つい誤ってメダルを床へ落としてしまった。メダルは結構なスピードで転がっていく。

 弦十郎はメダルを拾おうと、モニターに背を向けた。

 『コンサート会場内にノイズ出現!一般人に被害が出ています!』

 「何だとぉっ!?」

 慌てて振り向くと、モニターでは人類を殺す災害が猛威を振るう。ノイズは触れた人間とともに炭化していく。被害はまたたく間に拡大していった。

 「避難誘導を急げ!」

 観客たちは我先にと逃げ出そうとするも、その無秩序がさらなる被害を誘発する。

 

 

 

 

 

 少女は立ち尽くしていた。眼の前の光景はどこか現実離れしていて、目を離すことがかなわない。

 つい先程までは煌めくライトに照らされた観客たちが熱狂を演じていて、それなのに今では灰と瓦礫と銀のメダルだけが静かに散乱していた。

 そんなどうしようもない絶望の中に「歌」が聴こえた。

 二人の戦姫がノイズを斬り裂いていく。ノイズを貫いていく。間違いない、あれはツヴァイウィングだ。

 少女が惹かれたのか、あるいは彼女の懐に紛れた()()()()()()に導かれたのか。

 少女、立花響は無意識にツヴァイウィングのいるステージへと足を運んでいく。

 「何してる!早く逃げろ!」

 いち早く響に気づいた奏が駆け寄る。その間にもノイズは容赦なく攻めたてる。

 ノイズの群れが一斉に響を目指して特攻する。

 「このっ!」

 奏は彼女の槍を回転させ、ノイズをいなして響を庇う。しかし、無数のノイズを相手に守勢に回らされては長くは持たない。

 やがて奏の纏ったシンフォギアが限界を迎え、ヒビが入る。槍の欠片が飛ぶ。

 運の悪いことに、奏のガングニールの一欠片が呆然とする響の胸を穿った。

 「!?」

 傷は浅くない。もしこのまま放置してしまえば命はないだろう。奏はなんとかノイズの猛攻から逃げ出し、響を抱えて瓦礫の影へと避難する。

 この弾みで、奏の持っていた赤いメダルが転がり落ちた。

 『俺のメダルだ!』

 失神しているはずの響から声がした。見た目からは想像し難い男性的な声だった。

 見れば響のポケットから見覚えのあるメダルが覗いていた。メダルは意思を持っているかのように不可解な動きでポケットを飛び出すと奏の落としたメダルに接する。

 すると、ライブ会場に散らばっている銀のメダルの数枚がニ枚のメダルに引き寄せられた。

 「これは…?」

 銀のメダルは赤いメダルを中心に塊となり、何らかの形を作っていく。

 メダルの塊は人型になり、メダルとしての姿も失っていく。黒いミイラのような身体に鳥のレリーフを持った赤い頭。人のようで人でない何かが現れた。

 

 

 

 「ここは…どこだ?」

 怪人はひどく戸惑っているようだった。

 「お前!一体誰だ!」

 奏は怪人に対して食い下がる。ノイズという問題を抱えた中、新たに現れた謎に対して悩んでいる時間はない。そんなことをしている間に怪我をした少女の死が近づいていく。

 頭よりも先に動いていたというのが正しいかもしれない。

 「お前こそ誰だ!ここはどこだ!」

 怪人が怒鳴る。この声か先の奏の声か、どちらに反応したかはわからないが、ノイズたちがこちらに気がついてしまったようだ。

 「わかった、説明は後でする!しばらく隠れていろ!」

 隠れろと言われて怪人をは鼻で笑う。

 「隠れろだと?お前に命令される筋合いはない!」

 怪人は腹を立てたか、スタスタと歩いていってしまう。そしてその頭になぜか飛んできたノイズが激突した。

 ノイズは炭となって崩壊し、怪人の頭から血の代わりにメダルが数枚こぼれ落ちた。

 怪人は慌ててメダルを拾い集める。

 奏はついに響を見つけてしまったノイズの対応に追われていたが、その様子はしっかりと目に入れていた。

 「そのメダルが必要なんだろ?あのノイズたちの居るところにたくさん落ちてるよ」

 言葉を投げかける。露骨な誘導だが、怪人は腹を立てつつも口車に乗ってしまう。それほどあのメダルが重要なのだろう。

 怪人はブツブツとぼやきながらノイズの群れに向かって走り出す。

 手始めに響たちを狙うノイズを殴る。しかし、その拳はノイズの身体を風を切るようにすり抜ける。

 「何だ…?」

 怪人、アンクを襲うノイズは衝突に合わせて崩れ去る。だというのにアンクが触ろうとすると目の前の謎の存在はすり抜けてしまう。

 アンクはよく目を凝らす。敵の攻撃の瞬間、そしてこちらが触れる瞬間、何が違う。何かが違う。具体的な違い、それはわからない。

 だが、触れられるときの状態は理解した。後は簡単だ。触れられるやつだけを触れられるときに倒せばいい。

 「そこだ!」

 破壊力を持った暴風が一体のノイズを滅する。

 同じ要領で確実にノイズを始末するアンクだが、アンクの攻撃できるノイズはそれでも極わずかだ。

 大型のノイズが産み出す新たなノイズに比べるとどうしても間に合わない。

 「クソ!あいつが邪魔だ!」

 「フン、ちまちまやっているからそういう事になるんだ」

 「お前っ!」

 緑の雷がノイズを突き抜ける。何体かは今の一撃で倒せたようだった。

 「ウヴァ!何していやがる!」

 「さあな。実のところ俺もよくわかっていないが…こいつらは気に食わねぇ。それだけだ」

 「珍しく気が合うな。それで?この数をどうするつもりだ」

 「当然、数には数だ」

 新たに現れたウヴァは体内からメダルを大量に取り出し、ニ枚に割る。二つに割れたセルメダルをウヴァが投げ捨てるとミイラのような怪物が現れ、ノイズに向かって歩き出す。

 「屑ヤミー…相変わらずだな」

 「役立つものは何だって使う。行くぞ」

 「ふん」

 小型ノイズの相手を屑ヤミーに押しつけ、二人は大型ノイズに標準を定める。敵意に気づいたのか大型ノイズもまた二人を向く。

 「セルメダルが心許ない。手早く済ますぞ」

 アンクは翼を広げて高く飛び上がる。そしてノイズたちの頭上を飛び回る。

 「そいつだ!」

 「おう!」

 アンクの指定したノイズを目掛けてウヴァが電流を流す。タイミングさえ合えば大型ノイズといえど倒すには充分な威力がある。

 大型ノイズの一体が灰になって崩壊する。

 「次だ!」 

 アンクがまたしても旋回を始めたところで、天から小さな剣の雨が降り注いだ。

 「!?」

 剣は大型ノイズ達の身を削り、やがては塵に還してしまう。

 「動くな!身柄を拘束する!」

 この場に剣を携えたただ一人、風鳴翼が二体のグリードを牽制した。

 

 

 

 

 

 

 「つまり、あなた達は金属生命体…ってことね?」

 桜井了子は頭を掻く。自分の知識の外からの存在に困惑と興奮を覚えていた。

 「無機物で構成された体組織によってノイズの炭素変換の影響を受けずに活動できる」

 「了子くん、これはもしかすると…」

 「ええ、彼らに位相差障壁を無効化する手段を持たせることができればシンフォギアに次ぐ第二の戦力とできるかもしれないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツヴァイウィングのライブの惨劇から二年。様々な社会的混乱を生みながらも、徐々にその影は薄れつつあった。

 身体的・精神的疲労を理由にアイドル活動を休止していた天羽奏も復帰を表明していた。世間は翼・奏両翼揃ったツヴァイウィングの復活に期待していた。

 そんなご時世に、あるツヴァイウィングファンの少女が憧れの彼女らの所属するリディアン音楽院に入学した。

 立花響は親友の小日向未来と歓談していた。

 「どうしたの?何だかとても嬉しそうじゃない」

 「ええ?わかっちゃう?ツヴァイウィングのコンサートが決定したんだ」

 「響は本当に二人が好きなんだね」

 「もちろん!だって命の恩人だよ?」

 「はいはい」

 幸せそうに白米を口へ運ぶ響、口元に米粒がついてしまうのもお構いなしだ。

 「どうしたんだろう?何だか騒がしいね」

 ざわざわと食堂が賑やかだ。普段とは違う盛り上がり方をしていて、姦しさの渦が移動する様子は台風のようだ。

 台風はやがて響の真後ろまでやってきた。台風の目が姿を表し、未来、そして響の目に入る。

 「奏さん!?」

 ばっと立ち上がる響。緊張からかそれきり固まってしまった。

 そんな不審な挙動をした響に、驚きつつも奏が気付く。

 「口元、お弁当が付いてるよ、どこにいくって言うのかな?」

 「へ?あ…」

 みるみるうちに響の顔が青ざめていく。放課後になっても響のショックは止むことはなかった。

 「もうダメだ〜…完璧変な子と思われたよ…」

 「間違って無いんだからいいんじゃないの?」

 響は未来が今日の授業をノートにまとめている様子を眺めている。

 「それ、まだ終わらない?」

 「うん。あ、そっか、今日は翼さんのCDの発売日だっけ。でも、今どきCD?」

 「うるさいなぁ、特典が違うんだよCDは」

 「だとしたら、売り切れちゃうんじゃない?」

 「うぇ!?」

 

 

 

 響は走っていた。翼の新しいCDを買うために。息継ぎをリズムに合わせて「CD♪CD♪」などと口ずさみながら走っていた。

 しかし、目指していた音楽ショップのある角に着いた頃、ある異変に気がついた。周囲に人がいない。

 路上には灰が積もっている。灰の中からは銀色のメダルが数枚ちらついている。

 数年前からのメダル混入については別として、この現象は初等教育の段階から教わっている。さらには、響にはこの現象に対して人一倍敏感にならざるを得ない過去がある。

 血の気が引き、冷や汗が湧き出る感覚があった。

 

 「ノイズ……!」

見てみたいのは

  • 800年前の王(オリジナル)
  • 王無し
  • 原作に近い王(難易度高)

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