転生先では幼なじみ達の笑みを失いたくない   作:キメら

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前回のやつが短時間でめっちゃお気に入り登録減ったのと自分で読み返して気に入らなかったので消して書き直しました
申し訳ないです


第23Q 重なる不運

「木吉PG(ポイントガード)……!?」

 

 どれほど場数を踏んだ選手や監督でも、これは予測出来ないだろう。相手のC(センター)が司令塔を務めることなんてことは特に。

 とんでもない奇策だが、当の本人は不敵な笑みを浮かべてドリブルをしている。まるでいつもこうやってプレーしてるように。

 

「さあ、楽しんでこーぜ」

 

 帝光守備はマンツーマン。自分と同じポジションの選手をマークする基本的(オーソドックス)なディフェンス。個の力で相手に負けることが少ない帝光は基本的にマンツーマンディフェンスを主体としてヘルプも最低限、それぞれが守り切れば問題がないというスタンスだ。

 ただし、一つだけ例外があるが……

 

 トップで木吉と安達さん、Cの2人により1on1。滅多に、というか初めて見る光景だ。

 安達さんは中学生ながら190センチの巨体、しかしそれでいてガードやフォワードのスピードに負けないフットワークを持っている。スクリーンに対する守り方としてスイッチディフェンスがあり、マーケを交換してギャップを作らせないメリットと引き換えにスピードや高さのミスマッチを突かれて崩されるデメリットがある。

 それを意に介さず守れる安達さんなら、ディフェンスは問題ない。気になるのは木吉の攻撃スタイル。どのように攻撃してくるのか、全く読めない。

 

(……まさかこれを読んでたわけじゃないよな、虹村さん)

 

 木吉がドリブルと反対の手を挙げ、握り拳を作る。それに反応した相手選手の一人が安達さんにスクリーンを掛けに行く。

 

PG(ポイントガード)がCにスクリーンをかけるか……!」

 

 真田コーチも驚く中、木吉が仕掛ける。

 

「スクリーンあるぞ! そのまま、アンダーでいい!」

 

 スクリーナーのマークマンの西園さんが背後から指示を飛ばし、安達さんもそれに倣う。スクリーンを交わす方法として、スクリーナーとリングの間を通り、インサイドを重点的に守るアンダーで回避。

 

 木吉PGの弱点はアウトサイド、スリーポイントがないこと。マークを維持したまま木吉をフリーにさせる時間があるが、スクリーナーには西園さんが、他のオフボールでマークを外そうとしてる3人も質的優位があってズレが生まれない。高い位置で一人では何も出来ない。点が取れないオフェンスに怖さは感じない。

 

「……ふぅ」

 

 一度跨いだスリーポイントラインの外側に再び下がり、しっかりとボールの縫い目を指に合わせ、多少のぎこちなさを伴って放たれたボールはバックボードに当たってリングに吸い込まれた。

 

「決めたぁ!!」

「最初の攻撃でCがスリー!?」

 

 会場の熱は更に上がる、思いもよらない出来事(イレギュラー)は場を盛り上げ、相手の士気を下げることもある。

 

「……どう思う? 紫原」

「どうって……どーみてもまぐれでしょ。打ち方も慣れてない感じだし」

 

 全くもってこちらにダメージはない。これが幾度と相手の攻撃を弾き返し、苦し紛れに放ったシュートが入ったのなら多少精神的に()()が、誘導させたシュートを決められただけ。

 何も動じることはない。さつきのデータでもそれは実証済みだ。今のが今大会初のスリーだしな。

 

「青峰!」

 

 赤司の素早いリスタートで一気に相手フロントコートにまでボールを投げ込み、大輝がボールを受ける。辛うじてマークが2人付くが、ジャブステップとクロスオーバーで置き去り、容易くレイアップを沈める。昭栄はリードを数秒で失った。

 

「まだまだ、取り返していくぞ!」

 

 先程と同じく、小さい選手が行う“インバートスクリーン”でズレを狙う。今度は西園さんが前に出て、牽制を入れる。少し木吉が下がった隙に再び安達さんがマークに付き直す。

 

「マグレだとしても同じようにはやられてくれないか……、なら!」

 

 ドライブを仕掛ける、だがコースを塞いだ安達さんは正面からフィジカルで対抗、互いに後退、スペースを生む。

 再び、木吉がスリーを狙う。今度はノンプレッシャーではないが、飛ばずに腕を伸ばして最低限のチェックには行く。

 

「これなら、入らねえだろ」

 

 一度崩されてからフォームを作ったため、左右のバランスが悪い。打ち辛さから力みが入ってしまい、更にシュートが入る確率は減る。

 そして、木吉PGの弱点がここにある。()()()()()()()()()、ショットが外れれば間違いなくこちら側にボールが渡る。仮に他の選手で競り合うにしても、身体能力の高い大輝と西園さんならこの面子(メンツ)相手に負けることは無い。

 

 

「いや、()()()()()()()!」

 

 既に足がコートから離れ、リリースするはずだったボールを手から離す直前で手首の力のみで捻り、スクリーナーからシューターに役割を変えた味方PGにパス。

 

「しまっ……!」

 

 リバウンドに備え、距離を開けていた西園さんが慌ててチェックに行くが届かず、昭栄にこの日2本目のスリーを許す。

 

「やられた……! これが」

 

()()()()()()

 

 バスケットボールは片手で持つための設計にはなっていない。パスやシュートの際に押し出す行為には握力は要らず、両手で持ってコントロールすることがほとんど。滑り止めなども付いていない。海外の選手であれば手の大きさから強引に掴むことが可能だが、日本人でそれを出来る人間はあまりいない。

 

 だが、中学生にしてそれを可能にする木吉の握力と手の大きさ。これは生まれ持った天性のものだ。同年代で真似できる選手は日本中を探してもまず居ない。

 それを更に引き立てるのが、身長に似つかわしくない視野の広さとパスセンス、フィールドの状況把握力。これらを組み合わせることで自身のシュートを狙いながら瞬時に味方を見つけてパスを出し、チャンスを演出する。逆もまた然り、パスコースを探しながら瞬時に自身で得点が可能。その判断を行える時間が彼の特性ゆえに極めて長く、相手の行動を見てから自身の行動選択を行う。

 

 予測不可能、()()()()()()()()()()()()

 彼だけじゃんけんで相手の手を見てから自分の手を出している(後出しを許されている)ようなものだ。

 読み合いに引き込まれた時点でこちらの負けが確定する。

 

「ン──……クソがっ」

 

 先程と同じく素早いリスタートを行うが、警戒を強めたか、既に全員が守備に戻り陣形を作っている。

 

「……あー、そゆことか」

 

 木吉PGの最大の利点は得点パターンの豊富さ。

 ポジションから解放されるのはなにも木吉だけでは無い。他の4人はCが居なくなったことで生まれたゴール下のスペースにも躊躇うことなく飛び込むことが出来、多様な展開が可能になる。好きに動き回る相手を追いかけるのは体力を思う以上に持っていく。

 得点が停滞したり、得点が必ず欲しい場面になれば本業であるCとして木吉に1on1をさせるもよし、先程のようなインバートスクリーンを使ってかく乱させるもよし、とにかく型が豊富。

 

 そして、もう一つの利点は守備にある。

 自身と相手のゴール下を行き来するCの走る量は思いの外多い。自身がゴール下を決めてから再び自身のゴール下まで戻り、守備の中核を担う。

 だが、トップでゲームメイクを組み立てる木吉はパスを出した後、余裕を持って自陣に戻ることが出来、最後尾で相手の攻撃に対する効果的な指示を飛ばすことが可能。Cがゴール下にいち早く戻ることでアーリーオフェンスによるがら空きのゴール下は生まれない。守備を整えつつ、2つのポジションを担う木吉の体力消費を最低限に抑えながら、現帝光の最大の武器である速い攻撃を封じつつ自分たちの強みを押し出せることによって流れを掌握にかかる。

 

「よし、一本守るぞ!」

「おう!!」

 

 決勝の固さ、帝光と対峙するプレッシャーは昭栄から消え、彼らの眼には自信が宿っている。

 それでも元々の質の差は確かに存在する。速攻が適わないと見るや、赤司は敢えてスローペースで個々の攻撃で強引に相手の守備を攻略にかかる。何度か緑間へのセットプレーを除けば、ほとんどを西園さんと大輝のアイソレーションに任せるも、これが幸をそうし、早々に突き放したい昭栄の思惑とは異なり帝光がワンゴール差で粘る展開が続く。

 

「監督、何か指示を。今の淡白な攻撃ではいずれ限界が来ます!」

「いや、このままでいく」

「しかし……」

「それよりも、守備だ。紫原、第2Qから行くぞ」

「え〜……()()?」

「いいから行け!」

 

 この試合で1番負担が多いのはいつもより攻撃の回数が多い2人じゃなく、安達さんだ。慣れないアウトサイドの守備を強いられながらいつものように黒子役に徹し、汚れ仕事を完璧にこなす。

 故に、既に肩で息をし始めてる。そして、脚が止まる。

 その隙を見逃さず、木吉がインサイドに侵入。ヘルプに入った緑間のブロックを“後出しの権利”で交わし、味方のレイアップをお膳立てする。

 

「ここで4点差来たぁ!!」

「残り15秒だ! 守れるか!?」

 

 25-29。ここの失点がなければこのまま残り時間を目一杯使って最低でも2点ビハインドで抑えられたはず。

 この差は大きい、ここで点を決めないと後々に響く。

 

「……パスコースが」

 

 だが、ここに来て昭栄が守備の強みを存分に発揮してくる。フルで抑えることは難しいが、この10秒程度ならボールに触らせないこともできると言わんばかりの気迫のディフェンス。西園さんと大輝のマークが外れない。

 最後の手段の安達さんもゴール下でポジションを取れない。緑間も張り付かれている。

 

(俺が行くしかないか……!)

 

 赤司が間合いを取った。

 自分で仕掛けるつもりか……。

 と、その時

 

 

「赤司! 安達(ヒロ)に出せ!」

 

 西園さんの指示した先にはウイングの位置にまで上がって来た安達さんがボールを要求している。

 外のシュートはないはず……。

 

(……だが、木吉さんもマークを外している。とりあえず預けて、立て直して打つことくらいは出来るか)

 

 赤司は少し躊躇うが、上手くマークの手を掻い潜ってパスを預ける。そのまま走り込み、ハンドオフでボールを受け取ろうとするが、不意に安達さんは赤司を無視してリングに身体を向ける。

 

「なっ……!」

 

 視線の先には────西園さん(キャプテン)

 安達さんと目を合わせた途端にリングに走り込んだ。それに合わせてパスを放る。

 

「……!? アリウープか!?」

「させないっ!」

 

 低いパスに合わせて手を伸ばし、木吉がパスカットを狙うが

 

(ダメだ! ()()!!)

 

 高さではなく、スピードで上を行き、西園さんがこの試合初のダンクを左手で力強く叩き込む。

 

「っしやああああああ!」

 

 雄叫びを上げる西園さんの声で掻き消されたが、審判を見るとファールを宣告している。ブロックのために木吉の伸ばした手が顔に当たっている、と判断した。

 つまり……

 

『ディフェンス! バスケットカウント、ワンスロー!』

 

 2点はカウントされ、27-29。更にボーナスのフリースローが与えられ、これを決めれば一気に1点差。

 今のパスは赤司の場所からだと取られていたはず。それを察して、近い距離から西園さんのスピードを活かした速いダンクを成立させた。

 

「助かりました、安達さん」

「…………」

「相変わらず喋らねえな……」

「でも、ガッツポーズは初めて見たのだよ」

「コイツ、新人戦で好きな女の子にガッツポーズがダサいって言われてたから封印してたんだよ。声も苦手って言われたから話すことも減ってな」

「辛辣すぎる……」

 

 ……何はともあれ、残り3秒でフリースローをゲット。

 1点差で終えれるのは大きいが……()()()()()()()()()()()()

 

 審判が笛を吹き、ボールが西園さんに渡る。

 3回ボールをつき、リングを見て放ったシュートは

 ────チェストパスのように狙いすましたリングの左側に鋭く弾かれた

 

「なっ!?」

 

 咄嗟のことに昭栄のリバウンダー2人の反応が遅れる。そのボールに、待ってましたと言わんばかりに安達さんが飛びつき、しっかりと両手で掴む。空中でそのままの体勢から振り返りざまに出されたラストパスは左コーナーで待機していた緑間の手に。

 

「しまった……!」

 

 息を一つ吐き脱力する程の余裕と冷静さによって、一切の力みなく放たれたボールはいつものように高く美しい弾道を描き、ブザーと同時にリングに吸い込まれた。

 

「うわあああ! ブザービーター!!」

「今の狙ったのか!?」

「5点プレーなんて初めて見たぞ……!」

 

 30-29、逆転に成功して第2Qを迎えることが出来る。

 精神的にかなりデカい。さっきまでの展開を考えると、この結果がどれだけ心に余裕を作ってくれることか。

 全て、安達さんのおかg

 

「ヒロ!?」

 

 歓喜も束の間、観客や選手を含め、会場は静寂に包まれる。

 西園さんや緑間は、倒れ込み、足首を抑えて苦悶の表情を浮かべる安達さんの元に駆け付けていた。

 

「……最悪だ」

 

 

 

 

 ────不幸は重なるというが、考えられる中で最悪の展開の一つが起こってしまった

 

 帝光は残り時間を、エースと大黒柱の2人を欠いて戦うことを余儀なくされることとなる

 

 

 




次回の更新は8月8日辺りを予定してます。
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